銀の兄【修正版】※半分凍結中   作:泡泡

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会議終了と休憩

 

 午前中の会議もほぼ平和に終わり、今は後半に向けての休憩時間となった。そしてアドルはアリオスとキリカに呼ばれて一緒の部屋にいた。

 

 「ギルドを離れてそろそろ一年か・・・。新しい場所にはなれたのか?」

 

 「それなりには。ギルドに居た頃とは違ってたくさん働かされていますけれどね」

 

 「そうか・・・」

 

 アリオスとキリカが話している。そして傍にはなぜかアドルも加わって?いた。

 

 「・・・・・・シズクちゃんはお元気ですか?」

 

 「ああ、少々聞き分けが良すぎるがいつも(ほが)らかで居てくれる。最近、出会いにも恵まれてな。よく笑うようになった」

 

 「そうですか。それはいいことですね。・・・・・・サヤさんが亡くなくなられてもう5年になりますか。私が初めてお会いしたのは6年前でしたが・・・・・・」

 

 「6年前・・・・・・。そうだったな。当時、あてもなく大陸中をさすらっていたという君がこの街で偶然サヤと知り合い、遠慮する君をサヤの奴が強引に引っ張る形で我が家に泊まったんだったか。・・・そんな君と3年前にリベールのギルドで再会したときは驚かされたものだ」

 

 「ふふ、そうですね。本当に人の縁は不思議なものだと思わされます。…私はあの一宿一飯の温もりを生涯忘れません。結局、その恩を直接返すことは出来ませんでしたが・・・・・・」

 

 アリオスは立って窓から外を眺め、キリカは長めのソファに座ってアリオスと視線を合わせることなく会話していた。アドルは、そんな二人を暖かい目で見守るかのように壁に背中を預けて立っていた。

 

 「ところでア、アドルさんはどうしてこの会議に参加されているのです?」

 

 「ああ、それは私も思いました。最初、私とイアン先生だけだと聞いていましたし、私だけでは不十分だというわけですか・・・?」

 

 キリカが先に別の話題に切り替え、アリオスがそれに乗っかかるような形で話に入る。少し不機嫌になっているようだ。

 

 「ん?ああ、クローディア殿下に頼まれたんだよ。今回はどうやら殿下にも考えるところがあるみたいでな。それで急遽呼ばれたってワケ・・・・・・。ま、俺も呼ばれて良かったかもしれないが・・・」

 

 「そ、そうでしたか。それにしても私の影から出なくても良いのでは・・・?一瞬、ホラーかと思いましたし・・・・・・」

 

 「フム・・・・・・それについては私の趣味だと言っておこう」

 

 少し考えもしたが、アリオスの影から出るのはアドル自身の茶目っ気だった。

 

 「それにしても、私は泰斗流の頃からアドルさんを知っているので今でも敬語ですがアリオスさんはどうしてアドルさんに敬語なんですか?」

 

 「それはアドルさんのほうが単に強いと言うだけのこと。過去に摸擬戦を5戦行なったが、結果は私の惨敗・・・・・・。まだ届かないと知った時、どんなに落ち込んだことか・・・・・・」

 

 「そ、そうなんですか?アリオスさんより強いとか本当ですか?」

 

 「ああ、アリオスのやつシズクに慰められてやっと自分を取り戻したぐらいだからなぁ。アリオスの中で黒歴史になっているだろうよ」

 

 「そ、それを言わんでください。また落ち込みますよ・・・?」

 

 窓に片手をついて落ち込む様子は、少し前に流行ったサルの反省のポーズに似ていた。そしてその様子を見てケラケラ笑う原因を作った張本人と、その話を振ってオロオロするキリカと言う惨事が出来上がっていた。

 

 「あ、俺違うところに行こうっと・・・。キリカ、後はよろしく~」

 

 「あぁ・・・あぁ・・・・・・あァ・・・・・・・・・」

 

 目が虚ろになり、過去の出来事を思い出し始めたアリオスは欝っぽくなった。

 

 「に、逃げないでくださぁい~~。アドルさんひどいですぅ・・・」

 

 うしろから悲痛な声で呼び止めようとしているキリカの声がしていた。それにも答えずに足を早めてその部屋から廊下へと向かった。笑うだけ笑って場を乱したアドルは誰かが見たら顔を赤く染めるだけの微笑を浮かべていた。

 

 そして、アドルがいなくなった場所には何とか落ち込むアリオスを立ち直らせたキリカが思い出話に花を咲かせていた。キリカとジンの話。エステルとヨシュアの成長話など、そこには落ち込むアリオスなどいなかった。

 

 そして半分逃走した形になったアドルは次に不可解な現場を見ることになった。それは帝国の書記官レクターと我が(あるじ)クローディア殿下が内密の会話をしているところだった。どちらからも見ることが出来ない死角に行き、何事かと探りに入った。

 

 「(はは、どうやら俺はあんな別れ方をしておいてまた誰かを失う事に怯えているようだ。俺が強いなんて言っているヤツが見たらどう思うだろうか・・・・・・。しかし、昔やってきたことからは逃れられないなぁ)」

 

 アドルがこんなことを考えているなんて想像もしないだろう。そしてアドルとは別の場所には支援課もいた。たまたまそこに行き着いたようだが二人は気づいていないようだ。いや、レクターは気づいている・・・のか。とにかく会話が始まる。

 

 「・・・・・・そうですか、ルーシー先輩と」

 

 「ああ、この前レミフェリアに出張に行った時バッタリとな。なんとか逃げようとしたんだが、フン捕まっちまってな。何発殴られたと思う?」

 

 目を下方向へ向けたままレクターがクローゼの言葉に対して呟く。

 

 「・・・・・・一発も。代わりに、しがみつかれて泣かれてしまったんじゃないですか?」

 

 「む・・・」

 

 「ふふっ・・・・・・。ルーシー先輩の気持ちは私も少し分かりますから。多分、先輩が普段どれだけ危険なことをしているか気づいたんじゃないかと思います」

 

 「あー、女ってのは時々恐ろしくなるぐらいカンが鋭くなるからなァ。やりにくくて仕方がねぇぜ」

 

 「ふふ、自業自得ですね。・・・・・・懐かしいな。レオ先輩とも会っていないし、いずれは同窓会とかしたいですよね」

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 レクターはそれに対して無言を貫いた。

 

 「駄目ですよ、先輩?そこは『おお、ミシュラムあたりでパーッと豪勢にやるか!』って言ってくださらないと」

 

 「ハハ、一本取られたな。約束はできないが努力はしてみるさ。期待しないで待っててくれ」

 

 「分かりました。楽しみに待っています。・・・それでは、私はこれで。失礼します」

 

 「おお。ジークのやつにもよろしく言っておいてくれ」

 

 レクターがそう言ったのを最後にクローゼはその場から立ち去り、レクターだけが残る。

 

 「・・・・・・やれやれ、ホント成長してんなぁ。さすがは次期女王陛下。アンタらもそう思わないか?」

 

 「っ・・・・・・」

 

 「気づかれていたか」

 

 ロイドらがレクターの元に合流する。アドルはどうやら気づかれていない様子。そのまま出ていかないで聞くことにした。

 

 「すみません。立ち聞きするつもりは無かったのですが・・・・・・」

 

 「その、つい聞こえてしまって・・・」

 

 ロイド、エリィが言い訳する。

 

 「でも、エリィさんすごく興味津々でしたね」

 

 「ティ、ティオちゃん?」

 

 ティオのツッコミに本気であたふたするエリィ。

 

 「いや~、でも気になるぜ。一国のお姫様相手に随分お安くないじゃねぇの?」

 

 そしてランディは、持ち前の野次馬根性を出してレクターに問い尋ねた。

 

 「あー、学校の後輩ってだけだと。と言っても日曜学校じゃなくてジェニス王立学園ってとこだが」

 

 「ジェニス王立学園・・・・・・。たしかリベールにある有名な高等学校だったかな?」

 

 「ええ、たしかに留学生も大勢受け入れているけれど・・・・・・」

 

 「それじゃあ、国費で留学されていたんですか?」

 

 ワジ、エリィ、ノエルの順に口を開く。それに対してレクターはしれっと真顔で返す。

 

 「いや、ポケットマネーさ。ギリアスのオッサンのな」

 

 「!」

 

 「それじゃ、俺もこれで失礼させてもらうぜ。ああ、そういやアンタら狸どもに呼ばれているんだってな?どちらも一筋縄じゃいかないからせいぜい気をつけとけよ~」

 

 言うことだけ言うと、レクターは36Fの非常階段を降りて行く。クローゼとは逆の方向から・・・。

 

 「相変わらず怪しさてんこ盛りの人ですね~」

 

 「リベールの次期女王の先輩にあたる情報将校か・・・。フフ、ますます興味深いね」

 

 「いずれにせよ、彼が“鉄血宰相”の配下として動いているのは確かだ。何を狙っているのか・・・確認し見極める必要がありそうだな」

 

 そしてロイドたち支援課もそこから立ち去る。どうやら共和国の大統領と、帝国の宰相に呼ばれている様子だった。

 

 「・・・さすがにそこまで聞くことは出来ない・・・・・・か?勿体無い。それにしてもレクターとクローゼの関係か。もどかしいな、さすがに勘ぐりすぎだとは自分でも思っているが手放したくないところまで来ているのか」

 

 うんうん、唸っているアドルははたから見ても怪しさ100%だった。それは先ほどまでここにいたレクターより何倍も怪しかった。だから我に返った時、恥ずかしさで身悶えしたのは無理のないことだった。

 

 「さてと、誰かが仕掛けるとしたら後半の会議が始まってからだろう。俺は俺にしかできないことをやればいい。それと()()の出番がないことを祈ろう…かな。俺もテロリストとかの人格を破壊したくないしなァ・・・」

 

 懐から出したのは手袋にも見える禍々しい何か。漆黒に染まるそれはこの世のものとは思えないぐらいの魔具だった。

 

 「だが、安全を乱すような輩である場合は躊躇せずに用いよう」

 

 両手をギュッと握り、後半への決意を今一度固めたアドルだった。





 最後にちらっと出てきた魔具は“風の聖痕”を題材にしてます。和麻が使った黒い手袋?のような何かと思ってください。

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