会議内容はスルーで・・・。話の始まりはアドルの元に入ってくる一本の無線から始まります。
『ちょっとよろしいか?』
『どうした、ユリア・・・?』
共和国と帝国で、クロスベルに関して熱い議論が繰り広げられていたので一歩引いた立場を保っているとユリアから念話が入ってきた。
『ええ、無視できない情報が飛び込んできました。タングラムとベルガード両門付近に、設置されていたレーダー施設が破壊されました。このレーダーは自治州領空に侵入する不審な飛行船を補足するために設置された対空レーダーとなっております。開催される前から噂になっていたテロリストと思われます』
『フム・・・。分かった、こちらはすぐにクローディア殿下の元に行ける距離にある。そちらも戦闘の用意を始めろ』
『っ、了解です。お気をつけて』
慌てた様子で念話を伝えてきたユリアなので、信憑性はかなり高いと思われた。
『お聞きになりましたね?』
『・・・ええ。あなたにお任せいたします』
『Yes, Your Highness』
『もうっ、そんなに堅苦しくなくてもよろしいのに・・・・・・』
『ケジメです。終わったらまた昔のように呼びますので・・・』
こちらからの一方的な切り方と堅苦しい口調に、クローディアは後ろに控えているアドルに振り返って頬をぷうっと膨らませて沈黙の抗議を行なった。それに対して、アドルはクスッと微笑してすぐに真剣な面持ちに戻った。
そうこうしているうちにアドルの探知アーツにも引っかかった。身震いするような気持ちの悪い感覚が鋭くなっていく。
そして・・・・・・。アリオスの一声が聞こえてきた。
「方々、下がられよ!!」
見ると強化された窓ガラスに、二機の飛空艇が掃射する機銃が止まることなく当たり蜘蛛の巣状のひび割れを起こしていた。
「殿下、ご無事ですか?」
隣の部屋から会議場にユリアたち他の近衛騎士らも飛び込んでくる。
「ええ、私は無事ですが・・・・・・」
「今のはラインフォルト社の高速艇か・・・?」
「ああ、間違いないだろう」
ミュラーの問いに
「もう一隻はヴェルヌ社の軍用ガンシップですね」
「ええ、連中に奪われたとは報告にありましたが・・・・・・」
キリカと共和国将校が話す。
そのまま二隻の飛空艇は屋上の方に消えていく。どうやらヘリポートに着陸したようだ。
『ふむ、聞こえているようだな。会議に出席されている方々。我々は“帝国解放戦線”である』
『・・・同じくカルバートの
「帝国と共和国で活動しているテロリスト集団・・・?」
『この
『ロックスミス大統領。貴方にはここで消えていただく!忌まわしき東方人に侵食されたカルバートの伝統を守るためにはそのぐらいの荒療治が必要なのだッ!』
“忌まわしき”・・・その言葉を聞いた時、
「なんだとっ」
詰所にいたダドリーの怒声が聞こえてきて我に返る。その時にユリア、キリカ、クローディアと目があったので“大丈夫だ”と言わんばかりに握りこぶしを胸の前で軽く叩きアピールした。その仕草に安心したのか、三人の女性らはハッと気づいてそれぞれの別方向を向いた。
話を戻そう。タワーの制御を奪われたため、非常階段を上ってこようとする警備隊が足止めを喰らいエレベーターも使えないようになった。つまりテロリスト側の有利に立ち、我々のほうが不利になったわけだ。
「どうしますか、姫殿下?」
「・・・アドルさん。あなたにはこれを打破する事ができますか?」
少し考えてから質問をぶつけてきた。
「ええ、必要とあらばどんなことでも致します」
少し離れたところから爆発音や、機械の動作音が聞こえてくる。どうやら用意周到にこちらに向かってくるようだ。無人兵器や、グレネードのような危険なものまで・・・。ともすると命さえ脅かされるかもしれない。この場にはリベールの三人しか残っていなかった。支援課が到着し、ダドリーやアリオスが打開するために動いているようだ。
「・・・・・・」
「で、殿下。どうなされました?」
沈黙がここにだけあった。それで心配したユリアがクローディアの様子を伺った。
「貴方はどこまで許されていますか?」
「質問に質問を返すようですが、それはどんな意味ですか?」
「アリシア女王からどのぐらいの権限を与えられていますか?」
「なるほど・・・・・・」
考えも鋭いところを付いてくるようになった。次期女王候補と言われても、おかしくないぐらいまで成長しているクローディアに目頭が熱くなっていた。
「尋問や、その他出来る限りのことを行なって情報を吐かせることまでです。殿下は嫌われるかもしれませんが、生死は問わない行為も私に許されております」
「っ・・・。そ、そう・・・・・・ですか。それならばアリシア女王に言われたことを、そのまま行なってしまいなさい。この会議を乱した罪は重いものと私は考えます」
躊躇しながらも冷酷な命令を下すクローディア。ユリアの目が一瞬、大きく開かれたがそれもわずかな時間だけすぐに無表情に戻した。
「Yes, Your Highness 承知いたしました。ではユリアはこのまま殿下の護衛に当たれ。私は別行動にてテロリストに鉄槌を下す」
「yes my load 了解です。さっ、こちらへどうぞ」
アリオス、ユリア、ミュラーらが活躍したおかげでテロリストは一時撤退をしたと思われたが、エレベーターが地下へ移動しているようだ。どうやら飛行艇に載せている爆弾を作動させるものと思われるのでそれを阻止するためレクター、キリカが向かう。
ロイドらはダドリー、アリオスと共に地下へ逃走しているテロリストらを追跡する様子。
「アドルさんは行かないの?」
不安そうに見つめる我が主、クローディア・フォン・アウスレーゼ姫殿下。
「ええ、私は爆弾解除に向かったユリアが戻ってくるまで貴女を守ります」
「そうですか。それなら安心ですね」
「油断は禁物ですが、大船に乗った気分でお任せ下さい」
不安な表情から一転して、ホッと緊張が溶けたようだった。そしてしばらくしてからユリアらが屋上のほうから戻ってきた。どうやら無事帰ることができたようだ。
「こちらは終わりました。アドルさんはアドルさんの仕事を行なって下さい」
「・・・そうだね。では、姫殿下とユリア?・・・・・・暫しのお別れですね」
「っ・・・・・・。そ、そうですね」
「こちらはお任せ下さい」
クローディアに背中を向けてエレベーターのほうに向かう。エレベーターは利用しないがここで普通の人から見て不可解な行動をとるわけにはいかない。
「あ、あのっ・・・・・・」
ギュッと服の端を強めに掴まれた。声だけで分かっていたので、止まるだけにしておいたが背中越しに抱きつかれた。
「姫殿下・・・・・・、如何なされた?」
俺の声は上ずっているだろうか。想い慕う気持ちは口調に表れていないだろうか・・・・・・。
「どうか・・・どうか。無事に帰ってきてくださいね。それだけが私の望みですっ」
背中から、前のほうに回されたクローディアの手に力が段々とこもっていく。
「Yes, Your・・・「違うっ」えっ?」
混同しないようにお決まりの文句を言おうとしたところ、それを阻止された。
「どうか一度だけ貴方の普段の返事を聞かせて・・・・・・?」
「・・・ああ、分かった。クローゼ、ユリア。俺は必ずお前の元に戻る。これでよろしいか?」
「っ。うんうんっ・・・。きっと、きっとですよ?」
返事に満足したのかゆっくりと回されていた手から力が抜けてくる。そのまま俺は一度も向き直らないままエレベーターホールへと足を向けた。
「やはりこれを使わないとね。俺が作った魔具・虚無を。どうなろうと知ったこっちゃねぇ。忌まわしきの言葉だけで片付けようとするヤツらと、クローディアやユリアを危険な目に遭わせようとしたヤツの命なんかもうどうでもいいわ・・・・・・」
そして俺は左手を自分の顔に当て、一言呟く。“具現”・・・と。すると顔の表面には狐を模したお面で顔が覆われていた。この苦肉の策は、支援課に顔バレしないための策であり万が一、魔具を使うときに嫌悪されないようにと願って造った物だった。
Yes, Your Highness=イエス・ユアハイネス。王族などに対する了解の意。
yes my load=イエス・マイロード。上官に対する了解の意。
“具現”=両手サイズの無機物を創造