ミシュラムでの話となります
休暇
「ふぃー・・・・・・。どうしてこんな事に。絶対裏あるよなぁ。ベルのヤツ何考えているんだか」
俺は朝早く、特別に用意された水上バスでミシュラムへと向かっていた。事の始まりはこんな具合だった。会議は思わぬ展開で幕を閉じた。それは新市長がクロスベルの独立を提唱してしたのだ。そして荒れに荒れた会議だったが、首脳も無事にそれぞれの国に帰ることができた。
だったら、アドルの護衛は終了したのだからリベールに帰還しなきゃならないとも思った。しかしそれも思い出す必要がある。それは、クローディアとユリアがアルセイユでリベールに戻ろうとしていた時の直前だった。
「さて、アドルさん帰りましょうか?」
「了解です」
「お待ちください」
見るとタラップの外側にマリアベル嬢が立っていた。それで離陸を一時中断して話を聞くことになったのだが、護衛やその他の仕事で疲れた体を癒すためにミシュラムに保養に来ないか・・・、と言うものだった。その時のクローディアには、こめかみに青筋が現れていたが快く?俺を送り出してくれた。
『早く帰ってきなさいよ。無事に帰ってこないと許さないんだから・・・・・・』
これが遠くなるアルセイユから念話で聞こえてきた言葉だった。そして俺の横には嬉しそうにしているベルがいるが、どうも作り笑顔のような気がして気が安らがなかった。
「ベル・・・。お前は何を考えている?そしてお前の親父も何を考えているか読めん」
「・・・ただあなたにも休息が必要と考えただけのことですわ。それと、あなたにはとっておきのところで手伝って頂きたいのです」
ミシュラムに着くと2,3人泊まれそうな部屋に俺一人だけ使用させるみたいだった。しかし、都合のよい話には必ず裏があるのが鉄板。みっしぃランドで働くことになった。そして俺がいるのは将来を視るところ。最近、恐ろしいぐらいに近い将来を当てていることをどこかから聞きつけたのだろう。それを使わない手はないと言う訳でここにきた。
「ま、いいのかなぁ。顔をベールで隠しているし一応、声にもボイスチェンジャーを当てているから特定はできないだろう。それにしても誰かと遊べないだろうか」
ウロウロとしているわけにはいかないので、ただひたすら待つこと数時間。目の前には絶世の美女らが二人いた。
「ここね~。良く当たる占いってのは。リーシャここに来て」
「イ、イリアさん・・・」
どうしていきなり知り合いが来るのだろうか・・・・・・。ベルにドッキリでも仕掛けられているのではないかと思いつつも仕事を開始した。
「いらっしゃいませ、どんなことを聞きたいですか?」
「ここの売りって何?」
「それは近い将来の出来事を告げると言うものです。それは良くも悪くも正直に伝えますので、それが嫌な場合もあります。その場合は告げる前にここを立ち去ってください」
「別に構わないわよ。どんな悪い運命だって払いのけてやるんだから・・・」
イリアはそう言って挑んできた。そのほうが俺もやりやすい。・・・とは言ったもののイリアには特大の苦難が待ち受けていることを
「・・・・・・では告げる。まずはイリア・プラティエのほうからだが、この先見たこともないほどの苦難が待ち受けているだろう。そしてそれはあなたの仕事を奪いかねない出来事である。それを回避するにはある一組の男女の助けを使わなければならない」
俺はしゃがれた声を出して告げた。それに驚いた表情を浮かべているのはリーシャ。イリアは動じていない様子だった。
「ふぅ~ん。そ・れ・で・・・?」
「それでって事はないでしょ!イリアさん・・・!っ、あなたも変なこと言わないでよ」
「おやおや、だから先に言ったではありませんか。どうしますか?とね」
「くっ・・・・・・」
「それでもう片方のほうはどうされますか?」
イスを立って去ろうとしているリーシャに問い尋ねる。
「リーシャ、私は大丈夫だからあなたも聞いてみなさい」
渋々といった具合にイスに再度腰掛ける。
「では告げる。近い将来、あなたのことを想っている・・・そんな人と出会うであろう。しかし・・・その人のことが読めない。すまない、こんなあやふやな予言で・・・・・・」
「・・・・・・」
「ちょ、ちょっとリーシャ?大丈夫。熱を出したように赤く染まっているけれど・・・(ニヤニヤ)」
「いっ、いえ何でもないです。・・・少し胡散臭いとは思いますけれど、これが本当だったら嬉しいですね。一番・・・ですか、誰でしょうか?」
「確かなことは言えませんが、どうやらあなたも探しているように向こうも探している様子。どこで会うかは分かりませんが衝撃的な出会いをするぐらいでしょうか・・・・・・」
「あっ、ありがとうございます。私はこれで失礼します。イリアさん、またあとで~」
リーシャはそのまま駆け出してすぐにいなくなった。そしてそこにはイリアと俺が残った。
「へぇ、リーシャもあんな風に笑うんだね・・・・・・」
「おや、イリアさんどうかされたんですか?」
微笑ましくリーシャを見送るイリアの顔を見ながら呟いた。
「あのさ、間違っていたらごめんだけど・・・・・・」
「ええ、何でしょうか?」
この展開はまずいと直感的に思った。そしてそれは現実のものとなる。
「あなたさぁ、リーシャの兄・・・でしょ?」
「・・・・・・面白い考え方ですね。どうしてそのように思われるのですか?」
動揺を隠して声に強調を付けないように喋った。
「女のカンよ、カン。それとあなたがリーシャを見つめる様子が赤の他人を見るのではなく、本当に心から気遣う家族と同じ愛を感じたからよ。で、どうなの?」
「・・・参りましたね。どうしてそこから分かるんでしょうか。実を言うと私も最近、リーシャの存在を確信するようになりましてね。それで理由をつけてクロスベルに滞在しているんです」
「へぇ、そっか。それでちゃんと会うんでしょ?まさかこのまま去ったりしないよね?」
「ええ、それはしないつもりです。どんな形であれ、リーシャがここにいたことは間違いのないことですし、俺も逢って話したいですからね。それでも最近の状況が悪化し続けているので、いつになるか分からないですから」
「あんたってイイ男よねぇ」
バシバシと音が出るぐらい平手を使って背中を叩かれる。少し力が入っていたがそれは照れ隠しかもしれない。
「さっき言った事は忘れないでくださいね。イリアさんにはほとんど避けられない悲劇が待ち受けているんですから。回避することもできますが確率数パーセントと言ったところでしょうか。なによりも軽微にするほうが確率は高いでしょう。その時になったら近くにおりますので・・・・・・」
「私はそんなに深刻に思ってないのよ。どうしてあなたがそこまで思うのか分からないわ」
そう言いながらアドルの元を去っていくイリアだった。
「・・・・・・それは、ね。イリアさんのおかげでリーシャがスクスク成長しているからですよ。小さい頃は泣き虫で笑うことが少なかったリーシャだったのに、儚げに笑う表情でも顔に変化が現れていることに驚いているんです。だからかなぁ・・・。それでも厳密に言えば兄・・・ではないんですよ。兄であれば良かったですが・・・・・・」
イリアが気づいたのはこれからに繋げるため少しカンを鋭くさせてみました。これから数話でインターミッションを終えると思います。次話は夜中の語らいでしょうか。ロイドの見せ場をアドルが取ります。
次回:月夜の真実