2013/07/19編集
※鉱山町マインツにて※
――七耀暦1204年鉱山町マインツ≪赤レンガ亭≫――
そこには一人の男性の姿があった。このあたりでは見たことのない風貌をしている男性だったため旅行者の類であることを示していた。ここに来る前アドルはクロスベル大聖堂で数少ない親友の墓参りをした後、フラフラとマインツに足を運んだのだった。
赤レンガ亭の料理に舌鼓をうち、一泊してから
昼過ぎから飲んでいたので少し酔いが入っていた。夕方ごろ、少し硬い表情の男女4人が赤レンガ亭に入ってきて、部屋を取って行った。その中の三人には見覚えがあった。
「ちょっと聞きたいんだけどおかみさん、さっき部屋を取って行った青年たちは何て言うか分かるかい?」
「ん?ああ、あれは特務支援課って言う新しく作られた警察の人たちだよ。マインツに魔獣が現れるんでその調査にやってきたんだろうさ」
「ふーん、クロスベルの様子を知りたいんだけど・・・何かある?」
「お前さんは旅行者かなんかかい?機関紙のクロスベル・タイムズがあるからそれを見てご覧よ」
「あんがとっ」
赤レンガ亭を切り盛りしている女性から、タイムズ紙を受け取り最近の動向を見ることにした。
「えーっと、なになに・・・・・・」
目を紙面に走らせていくと結構面白いことが書かれていた。
「ふむ。この
と、独り言を言いながら紙面を見ていると、そこにいる給仕の女性からジト眼で見られてしまった。少し話し声が大きかっただろうか・・・・・・。
「それにティオ・プラトー・・・。この子はまだ少女って感じがするけど何か事情があるのだろうか。最後のメンバーがランディ・オルランド・・・。ん?ランドルフ・・・じゃないのか?」
最後の男性の名前に少し引っかかるものを感じたが、会ってから時間が許せば話そうと思い違うタイムズ紙にも目を通した。
「警察が発足させたのは今のところただ遊撃士の真似事だが、これからどう成長するのか楽しみだとかぁ。ホント楽しみなことが起きそうだ」
外の景色が夕方から夜になって来ると、鉱山で働いていた屈強な男性らが仕事を終えて次々と赤レンガ亭に食事を取りに来た。
「おっ、兄ちゃん。ここらで見かけん奴だけど、旅行かなんかかい?」
「俺か?墓参りのついでにこっちまで足を向けたってわけだけど、いい感じの町じゃん!」
「良い事言ってくれるじゃねえか。これは俺の奢りだぜ。飲め飲め~!」
・・・こんな感じですぐに仲良くなり、あっという間に飲んべの集団が出来上がった。
深夜になってもアドルと一緒に飲んでいたのは、鉱山員のマルロとガンツと言う二人だったがそろそろ家に帰ろうとしていた。
「ひっく・・・それじゃあアドルさんよぉ。俺たちゃあ先に帰って寝るぜ。明日も皆のために働かないといかんきゃらなぁ~・・・・・・ヒック・・・」
「お~遅くまであんがと~な。気をつけて帰ってな~」
ベロンベロンになって帰っていく二人。それを見送るアドル。
「さてと・・・。事態が動くとすればこの後か?」
そう言うと懐から黒い錠剤を取り出す。これは共和国東方人街の裏世界で知られている『酔い抜き』の強化版で酔う成分を一瞬で分解し
「と、言うかこの薬の題名ってイケてないよな~。やっぱりか、支援課は何をしようとしている?そして遠くから微かに臭ってくる獣臭の正体は?裏口から見てみますか」
そこには野生?とは言い難い、特殊な訓練を受けた狼と戦闘している支援課メンバーがいた。ランディが閃光弾を投げつけ、怯んだ隙に鉱山員を助け出しそのまま戦闘・・・。
「荒削りとは言え、大した連係プレイやなぁ~。俺は裏でこの結末を覗くに留まったほうがよさそうだ」
そのあと“軍用犬”?なのだろうか、町はずれの運搬用トラックのもとに去って行った。そこには黒服の男性数名が支援課のメンバーに襲い掛かって行った。
あわよくば拘束も出来るかもと言ったところで、マフィアの思わぬ抵抗に合い今度は本当の狼の群れが出てきて、軍用犬やマフィアの動きを止めてしまった。
「へぇ、自分に被せられた汚名は自分らですすぐってところだろうか。っ、あの白い毛並みの狼俺に気付いた・・・?それに狼のせいで小高い丘の上にいた男性と幼女?にも気づかれたかもしれない。用心せねば・・・・・・」
気配を自然と一体化していたはずなのに、白い狼に気付かれ焦った時に男女二人にも察知されることになるとは・・・。
「面白いね・・・。平和ボケしている連中ではないってことなのか?まぁ、今すぐリベールには戻らなくてもここで目的を果たすために動きましょ」
支援課の人たちに気付かれないように、その場を立ち去り赤レンガ亭へと戻った。ほどなくしてロイドたちも少し疲れた様子になりながら同じところに戻ってきた。
「・・・悪ぃ、ロイド。先に戻ってくれないか?眠る前に少し酒を飲みたいんでね・・・」
「ん?そうか。少しなら大丈夫だと思う。遅くならないうちに戻ってくれるとありがたい」
アドルに気付いたランドルフが同僚に一言二言交わしてからこちらに、歩み寄ってきた。その様子を不思議そうに眺めるロイド、少し考えているのか首を傾げているエリィ、疲れたのかそのまま部屋に戻ろうとするティオがいた。
「・・・・・・」
「・・・久しぶり、でいいのか?」
「それで大丈夫さ。ランディ?」
「ハハ・・・。その名前で呼んでくれて少し助かるよ」
「変わったな。牙の無いオオカミみたいだ。警察やってるということは、猟兵団は抜けたのか?」
「・・・ああ、いい機会だからね。抜けたよ」
「そうか、お前が決めたことなら仕方がないが・・・。お前と闘ってないのに残念・・・・・・」
「俺は絶対ッ!!・・・・・・闘いたくない」
きっぱりと言い切ったランディ・・・。嫌われたのかと思って少し悲しみを込めて言葉を紡ぐ。
「・・・どして?」
「あんなの・・・あんな山を更地に変えるような連中と闘いたくないわっ!」
「そだっけ?まぁ、しばらくはこっちにいるから会った時はよろしくな」
「ああ、この再会に!」
「この再会に!乾杯!」
その後、軽く飲むことを一緒にしていたが思い出したエリィの乱入によって静かな場が乱された。
「思い出したわっ!」
「んぁ?何を・・・」
「私が15の時のことを覚えている?」
少し興奮した様子でアドルとランディのもとに走り寄ってきて話しかけてきた。
「・・・・・・」
「お、覚えていないのぉ・・・・・・?」
――グスッ・・・グスッ・・・――
少し意地悪してみようかと思ったけど、ジワーッと目に浮かんだ涙を見てすぐに止めた。
「勿論!覚えているよー。あの時は可愛い少女だったけど、今は美人さんになっちゃって・・・びっくりしたぞ?」
「えへへへ・・・・・・う、嬉しいなぁ~。美人さんだって」
少しタガが外れたようにくるくるとその場で回るエリィ。
「・・・一体何があったんだ?」
「まぁ過去に困ったことが起きてそれを俺が解決したって話だよ。はぁ~メンド・・・・・・」
「アドルも色々なこと経験してんだなぁ・・・・・・」
そんな風にしみじみと言われたって何も変わるわけじゃないのに。
「アドルさんはいつまでここにいるんですか?」
「探し人が見つかるまで。もしくは見当が付くまでだよ」
「そうなんだぁ。だ、だったらまた会った時は声かけてくださいね!約束ですよ♪」
「あ、ああ・・・・・・」
「俺もそろそろ寝るわ。今日は疲れたからなぁ・・・」
「おっ、お疲れさん」
「では、失礼します。アドルさん!」
どうしてエリィは機嫌が良いのだろうか?ランディとエリィが去った後に考えてみる。
「お酒に酔ったか?それとも危ない薬を・・・ま、まさかエリィに限ってありえん。駄目だ、全く分からない。クローゼに聞いたら分かるのかな。何か溜息をつかれそうな予感がするから止めとこ」
少し人間の感情には鈍感になっているアドルだった。鈍感でいることで自分を守っているのかそれとも鈍感なふりをしているのかそれは今のところ誰にも知られてはいけない問題だった。
ヒロイン候補募集中。この作品の中で、ロイドはティオと結ばれる予定ですのでそれ以外の女性陣の名前を書いてくださるとそれを反映するかもしれません。