銀の兄【修正版】※半分凍結中   作:泡泡

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 この次の話から大幅に変更される予定です。


碧の軌跡~胎動・獣たちの謝肉祭~
変わりつつある日常


 

 「幻獣(げんじゅう)っすか?」

 

 「ああ、聞きなれないかもしれないがそうなんだよ。郊外で住民があまり立ち入ることがない所に、今まで見たことのない魔獣の(たぐい)が現れているんだよ。少し調査してくれるかな?」

 

 休暇後に仕事を探しに黒月(ヘイユエ)のところに行ったところ、ちょうど良くツァオから調査を頼まれたわけだ。

 

 「幻獣騒ぎが黒月にも上がっているんだったら、それより先に支援課が動いてそうだけれども・・・そこらへんはどうするんだい?また鉢合わせってことになったら面倒くさいことになりそうだよ・・・・・・」

 

 「フム・・・・・・それもそうだね。支援課で遭った分にはそちらに任せてしまって、君が遭遇したらしたで処置を取ってもらえるだろうか?」

 

 「それならば問題なさそうだな。手があいたときにでも調査してみます」

 

 「それでは失礼します・・・」と言って黒月を後にした。こちらが調査という形を取った仕事と言っても支援課とかち合わせになるのは避けたい。と言うか正直な話、ロイドなんかにもう会いたくないといったほうが正しいかもしれない。

 

 「ガイの弟、ロイド・バニングスは良い意味でも悪い意味でも熱い青年ゆえに、真っ当に生きていない俺としては反応するのが嫌になることもあるのさ」

 

 独り言を呟きながら行く先は、歓楽街に堂々と建てられているアルカンシェルだ。そこで起きるであろう用事は一つしかない。朝も会ったが少し(かど」が取れていて普通に話すことができた。

 

 

 ~朝・旧市街自室前~

 

 「「あ」」

 

 俺は部屋から出ると、そこに見知った気配が見なくてもあるのに気づいた。やはりリーシャだ。向こうも俺に気づいたらしく小走りでこちらに来る。まぁ、お隣さんだから歩きでも早歩きでもスキップでもすぐにたどり着くのだがな。

 

 「おはよ~。よく眠れた?」

 

 「お、おはようございます。兄さん。ええ、よく眠れました」

 

 俺たちが住んでいるマンションの人にだけは、二人の関係を『兄妹』であると言っている。まだ、口外しないで・・・とだけ付け加えて。みんな心良く応じてくれたのには感謝だ。だから、ここだけではリーシャも俺のことを「兄さん」と呼んでくれる。嬉しいの一言だ。

 

 「そっか。それはよかった。今日もアルカンシェルで特訓かい?」

 

 「ええ、もしお暇なようでしたら見学に来られてもいいんですよ?と言うか来ませんか?」

 

 「今日は仕事があるかどうか確かめる必要があるからな。・・・あぁ、でもちゃんと見に行くからそんな捨てられた子犬みたいな悲しそうな目をしないで・・・・・・」

 

 今までの反動かどうかは定かではないが、リーシャは、俺の中の|昔《作った)の記憶より甘えん坊になった兆候が見られる。今も見学に来ないかも・・・と思ったのか、目に涙をいっぱい蓄えているんだからかなり焦ったよ。

 

 「うんっ。おに~ちゃん!途中まで一緒に行こっ」

 

 「あっ。お、おい」

 

 リーシャは、俺の片腕に自分の腕を絡ませてギュッと抱きついてくる。ワザとなのか天然なのかどうか知る由もないが豊満な胸が当たって、平常心を保つのに苦労する。

 

 「(い、いかん。早くこの場を立ち去らないと。またマンションの人たちに茶化されても、対応が面倒なことになりかねん)」

 

 アドルの心配をよそにリーシャはウキウキ気分で、腕に抱きついたまま東通りへと足を進める。そう言えば忘れていたがリーシャは有名人だ。大きな理由としてアルカンシェルの二大主役の一人なワケで、動向全てに注意が向く。

 

 それが何を意味しているかというと「あのリーシャの横にいる男性は誰?」と言うように噂になるのが早いということだ。一応、兄妹とは言えないので住んでいるところのお隣さんとだけ説明をして事態は落ち着いたように見える。

 

 東通りで別れるつもりだった。俺は港湾区の黒月《ヘイユエ》へ行くし、リーシャは中央広場、裏通りを経由して歓楽街へと行く・・・が、ここで必殺の上目遣い+潤んだ瞳のアドルにとって特大コンボを喰らってアルカンシェルまで一緒に行くことになった。これは毎日の日課のように変わってない。

 

 「~~♪~~~~♪」

 

 元通りになった上機嫌のままのリーシャと一緒にアルカンシェルまで行くのはいい。良いんだが、アルカンシェルに到着して腕を離すのにも時間が少々掛かる。・・・・・・どうしてここまで兄大事になってしまったのか。

 

 最後は練習予定時間ギリギリになっても来ない事に、ピーンときたイリアが「ああ、やっぱり・・・」と出てきて強引にリーシャを引っ張って中に連れて行く。・・・ほとんど毎日コレの繰り返しだ。

 

 

 

 ~港湾区・黒月前~

 

 「さてと、約束だからアルカンシェルでも行きましょうか・・・・・・。その前に寄るところ寄ってから」

 

 裏通りに店を構えているイメルダ婆さんの店に顔を出す。

 

 「ひぇっひぇっひぇっ。おや、珍しい事もあるもんだね。何かお探しかい?」

 

 「ああ、久しぶりだね。可愛い子にプレゼントを贈ろうと思ってね。何か良いアクセサリーでも無いかな?」

 

 裏の仕事をやっている時に出会ったのがイメルダだ。蛇の道は蛇であるので、会う機会も多かったことを伝えておこう。

 

 「そうさな・・・・・・。これなんてどうだい?」

 

 「どれ・・・・・・。うん、いいんじゃないかな。これ、幾らだい?」

 

 「限定一作品だから高いよ?」

 

 「いいさ。幾らでも払うよ」

 

 顔を覗き込むように俺の真剣さを見てくる。客がちゃらんぽらん(何も考えていないアホ)だったら、値を吹っかけてきてそうでない場合は通常価格でご奉仕してくれる。

 

 「これさ」

 

 と、言って指を二本立てる。

 

 「20?200?」

 

 「200さ。後払いで結構だ。現金など持ち歩いていないだろ・・・・・・」

 

 「今日中に持ってくるよ。いつも良い品をありがとう」

 

 「いやいや、こちらも何かと助けてもらっているからね。そのお礼だよ」

 

 しゃがれた声を背にして店を後にする。今、包んでもらった品はリーシャへのプレゼント。リーシャにはまだ早いかもしれないがイヤリングを贈ることにした。そして商品だけを持ってアルカンシェルへと急いだ。待ち合わせをしたわけではないが、待ちわびて練習に手抜きが入る事のないためだ。

 

 「こんにちは、ようこそいらっしゃいました、アドルさん・・・・・・。ひょっとしてリーシャさんに会いに来ましたか?」

 

 「こんにちは、支配人。そうです、良くわかりましたね・・・・・・」

 

 「ええ、それはもう・・・。リーシャさんが朝練習を始める前からソワソワしだしておりましたゆえ。それに私どもとしましてもあなたからのお話は寝耳に水状態。とても嬉しく思っています」

 

 そう・・・・・・、口を滑らせたのかどうかは分からないが、イリアによって俺とリーシャが兄妹であることがバレたのだ。リーシャが怒っていないのでそれはそれでいいが。ここでも口止めをして劇団員以外に言わないように、特にイリアさんにはキツく口止めをした。

 

 「アハハ・・・。そ、そう?それで今は練習中ですか?」

 

 「そうですね・・・。今は舞台上で、リーシャさんとシュリさんが練習をしております。二階席にイリアさんがいらっしゃいますので、見学される際にはそちらでご覧下さい」

 

 「了解ですよ。そっと見学しますわ」

 

 気さくに(いつものように)、支配人との会話を終えて二階席へと移動する。そして階段を上がった先の扉を開けるとそこにはイリアがいた。いつものちゃらんぽらんな雰囲気を出さないで、演技中の真剣な表情で舞台上を眺めていた。

 

 「あぁ、兄君(あにぎみ)かい?」

 

 「こんにちは。・・・・・・その呼び方だけど、どうにかならない?どうもむずがゆくて・・・」

 

 どうしてこうなった?・・・・・・そうそう、ロイドのことをイリアは弟君(おとうとくん)なんて呼んでいるからって俺のことは兄君って呼ぶことにしたって言ってたっけな。

 

 「んふっふっふー・・・・・・。これは決定事項よ。異論は認めないわ。それよりも妹を見に来たの?」

 

 「この人は・・・。ま、まぁいいですけど。ええ、そうです。リーシャの様子を見に来ました。一緒にいるのはシュリ・・・でしたか」

 

 「ええ、あなたから見てシュリはどう見える?」

 

 「素人意見ですが・・・・・・、誰かを模倣しているように見えるね。自分の演技ではなく認められたいとの一心で真似ているように見える・・・・・・かな」

 

 「へぇ・・・・・・・・・」

 

 俺の答えを聞いたっきり、イリアは舞台上から目を離さなかった。舞台を見る前にこちらを見ていた目は、驚きと嬉しそうな目をしていたので見当違いの答えではなかったようだ。アドルにとっては鮮明に舞台上で二人が話しているのが聞こえてくる。

 

 「はぁはぁ・・・・・・・・・、はぁはぁ・・・・・・。なあ、劇団長今のは完璧だったよな?これならイリアさんも認めてくれるよな?」

 

 「ふむ、勿論及第点ではあるんだが・・・・・・」

 

 支配人の言い方は何か物の挟まったような言い方だ。

 

 

 「ハ、またそれかよ・・・。なぁリーシャ姉、リーシャ姉はどう思う?オレは間違った動きはしちゃいなかっただろ?」

 

 「うん、そうね。ねぇ、シュリちゃん。次はもう少し感情みたいなものを、込められないかな。『こうありたい』って思える自分をイメージすると言うか。うまく説明はできないんだけど・・・・・・」 

 

 「『こうありたい』って思う自分・・・・・・?ぐ、具体的にどうすりゃいいんだ?」

 

 リーシャからのアドバイスは的確に問題点を付いていたようだ。しかし、シュリの問題解決にはならなかったようだ。感情表現と『こうありたい』と思う自分の表現を指摘されても右往左往しているからだ。

 

 しかし今いる二階席から舞台の上の声まで相当な距離が離れているがその声が聞こえるなんて、アドル自身、人間をやめているのだろう。隣にいるイリアは、その場の雰囲気で何となくこうなっているだろうな・・・、と思いつつ自分も最高の演技ができるようにイメージトレーニングをしていた。

 

 「俺は舞台袖に行くよ。苦手な連中が来たっぽいからな・・・・・・」

 

 ロイド・バニングスら支援課のメンバーが近くに来たような気配を察知し、来た方向とは逆の扉を通って階下に行き、一階の舞台袖に向かった。歩いていると劇団員から挨拶をされるが、リーシャに気づかれては演技指導に支障をきたすかもしれない。

 

 それでアドルは、指を口に当てて騒がないで欲しいとジェスチャーをしてやっと静かに目的地までたどり着いた。

 

 「さてさて、悩める(偽妹)はどんな反応を示すだろうか?」 

 





 イメルダ店で買ったアクセサリーの金額ですが念のため、200ミラではありません。200万ミラです。片耳100万ミラで両耳200万ミラです。ふっかけすぎでしょうか?それより限定一品ってどんなのを想像しますか?

 今のところアドルはリーシャに真実を告げる事はしません。綻びが生じてくると自分で気づく暗示を掛けられていますのでどこかで気づきます。

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