リーシャ視点です。
「はぁ・・・・・・はぁはぁ・・・」
私がこんなに急いでいるのはわけがあった。それは、公演中に一族にしか伝わらない技を使った男性が現れたからだった。支配人に聞くと、その人は市長の護衛に来た男性だという事しか分からなかったので、少し勇気がいる行為だったが直接会う事に決めた。
プレ公演が終わってすぐにでも確かめたかったけど、それは無理だった。見に来てくれた人たちへの挨拶と言う仕事が残っていたからだ。イリアさんと、一緒になって挨拶をしていたが何度も心ここにあらずで心配をされた。私の表情ってそんなに表に出るのかなぁ・・・・・・。
「そんな顔でお客さんの前に出ちゃダ~メ。ちゃんと原因があるんでしょ?だったらその原因を早く無くしちゃいなさい。それが済むまで戻ってきたらダメだからね?」
イリアさんの提案により、一時的にその場を後にすることが出来た。イリアさん、ありがとう。それでも、その男性を待たせているのには変わりなかった。早く、早く行かなきゃ・・・。
そしてその男性がいるであろう部屋の前に着いた。でもそこには支配人が申し訳なさそうな表情を浮かべていたので『あぁ、ここにあの人はいないんだろうな』と、すぐに思った。予想通り、部屋には誰もいなかった。あったのはテーブルの上に置かれた一つのメモだけ・・・。
――本当に申し訳ない。あなたと会えなくてすごく残念だ。だが、用事が出来てしまったので帰るしかない。また会えるのを楽しみにしている。 アドル――
そのメモをギュッと握り締めてそのまま数分間立ち尽くしていた。
我に返りふと、ツァオから仕事が入っているのではないだろうかと思い
着いて早々、ツァオが何やら不思議な様子で考え込んでいたので声をかけることにした。
『ツァオらしくない。弱気な表情だな』
「おや
少し自分の
「・・・っ、そんなことはどうでもいい。私に仕事は無いのか?」
返ってきた返事は意外なものだった。それは・・・。
「ええ、今日あなたに頼もうと思っていた仕事はありませんよ。来てもらってなんですが、帰ってもらって結構です」
もしかして・・・さっき微かに感じた気配の持ち主と何か関係があるのかな。ちょっと聞いてみよう。
「・・・・・・そうか。で、先ほどツァオと話をしていた人は誰だ?」
「気になりますか?あの人は最近、黒月に協力している≪狂喜≫と名乗る人ですよ。まぁ、本当の名前なんてわかりませんが…。そう言えば共和国東方人街の出身と聞いていますよ。
そ、そう言えばあの人も公演中に
「っ・・・・・・」
声にはならない声が出たのかもしれない。
「おやぁ?様子が優れないようですが帰って休んだほうが良いのではないですか?」
これ以上ここにいたら、自分の心の奥底にあるものを吐き出してしまうかもしれない。ここは言う通り退散したほうがよさそうだ。
「そ、そうする。邪魔したな」
予め用意してあった護符を手に取り外部へと出るための、門を造って外に出る。
「ふぅ少し暑くなっていたみたいだ。もう一度アルカンシェルに立ち寄って今日は家に帰ろうかな?」
アルカンシェルに立ち寄ると、私のことを心配したお客さんから柑橘系の差し入れがあったみたいでそれをもらった。すると箱一杯にくれたみたいなので、おすそ分けで同じマンションの住民のみんなに分けることにした。
「これであとはここの人だけだなぁ。確か少し前に引っ越してきた人でまだ会ったことがないんだよなー。夜だしいるよね?」
――コン、コン、コンッ――
「いないのかな。物音一つもしない・・・。あ、そうだメモ置いておこう。えーっと・・・よしっ、こんなもんでいいよね」
今日は色々な事がありました。プレ公演だけでもすごい経験だったのに、兄さん?って思う人に二度もすれ違って・・・・・・フフッ、疲れたけど近くに兄さんがいるみたいで少し安心した・・・のかな。
「おやすみ・・・どこにいるか分からないお兄さん。でも・・・・・・いつかは会いたいなぁ」