ーー私達の"STAR BEAT"!
CiRCLEでの、私達のライブ。初めて実現したライブハウスでのライブは、香澄達にとってかけがえのない思い出となっていた。
"楽しい! 最高! もっと歌いたい!"
"もっと、もっと! 一番星のその向こう側へ!"
"やっぱり、ポピパこそ日本一のバンドだ!"
"もっともーっと! 5人の音楽を届けたい!"
"この情熱を、もっともっと共有したい!"
5人で曲を作って、5人で音を合わせて、5人で歌った5人の音楽。学校の人達だけじゃない、色々な人に聞いて貰えたことが嬉しくて。楽しくて。もっともっと、この瞬間が続けばいいなってーー!
「かすみん! 帰るよ!」
既に閉まっているライブハウス"CiRCLE"の入口で、ぽかんと立っている香澄の肩に優しい手の感覚があった。香澄が振り向くと、声の主は金色のツインテールを優しく揺らしながら、笑みを浮かべる。
「最高に楽しかったのは分かるし、私も楽しかったけど。そろそろ帰らないと、遅くなっちゃうよ?」
そう言いつつも、まだ頬は紅潮している。まだ非日常から抜け出せていない様子の有咲だった。
そんな有咲の後ろから、個性的な3人が笑顔を覗かせている。
「師匠、帰って飯にするぞ。腹が減っては戦はできぬと良く言うだろう?」
「ニンジャセンパイ、まだライブするっすか……?」
「あはは……。さすがに私も、ちょっと疲れちゃったかな」
三者三様の反応をしていた。
その中で特に1番激しくドラムを叩いていた沙綾は、笑顔の中にもその疲れが読み取れる程だった。
「沙綾、今日ハードスケジュールだったもんね。……お店手伝ってから、リハーサル、ライブだなんて、私には絶対無理だわ」
有咲が、本当に嫌そうに、無理そうな顔をしていた。
平日のCiRCLEでのライブは、その殆どが、夕方から始まるものばかりだった。
15時頃に学校が終わる全日制の香澄達は、そこそこ余裕があるものの、沙綾のみは定時制の為、他の4人とは色々と予定がズレてくる。
昼間は沙綾が家の手伝いをしているし、夜は学校だ。香澄達は学校に行っているし、予定が合わない。結構な無理をしているところもあるだろう。今日は、たまたま学校が無かったのでライブに参加出来ているが……。
「そうだよね。沙綾ちゃんだけ、ずっと動きっぱなしだもんね」
全員で帰路に着きながら、香澄は沙綾を労っていた。興奮も冷めたからか、何時もより重く感じるランダムスターだったけど、沙綾ちゃんはこれよりも疲れてるのかな……とか考えてしまう。
「大丈夫、大丈夫! 私がやりたいって言ったんだもん、これくらい平気だよ!」
元気を出そうとして、ガッツポーズまでする沙綾。皆で付けている星のキーホルダーが、それを強調する様にかしゃりと揺れた。
けど、香澄は考えてしまう。
ーーいつの日か、沙綾ちゃんとも夜遅くまで練習できる日が来るのだろうか……。
ーーいつの日か、沙綾と授業を受けて。沙綾ちゃんとご飯を食べて、休み時間にお喋り出来たりするのだろうか………
そんな、夢のようなことを考えてしまっている。考えても、実現できないことだと分かってはいるのに、考えてしまう。
「いつか、沙綾ちゃんも一緒に学校行けたらいいよね」
だから特に考えず、香澄は呟いた。
香澄の漏れた思いに、たえが反応する。
「学校って、全日制って事っすか?」
「うん。沙綾ちゃんも一緒に行けたら、色々楽しいかなーって。お店も、途中からだけど私達で手伝えると思うし」
「それもそうね。今の私達、練習位でしか5人揃わないし。もっと楽しくなると思うわ」
「ふむ。普段の学校から四六時中一緒に居ることができれば、バンドとしても一層深まるに違いない」
ワイワイと、そんな夢のようなことを言い合った。最初こそ笑いながら話を聞いていた沙綾だったが、次第に「体育を一緒にやってみたい」だとか。「中庭でお昼ご飯を、お喋りしながら話してみたい」だとか。キラキラと夢を語り出していた。
ーーそんな中、りみはふむふむと頷いている。何かを知っているような表情にも見えるし、何も考えていないようにも見えるその表情が気になり、有咲は聞いた。
「ちょっとあんた。何、さっきから頷いてるのよ」
「いや、ちょっと思い出した情報があってだな……。たまたま聞いた話なんだが」
りみが、前置いて話し始める。
香澄達は、期待も何もしていないその情報に、度肝を抜かれることになった。
「実は……。うちらの高校、どうやら"定時制から全日制に転入できる"らしい」
りみの言葉に反応する様に、木々が順々に揺れていく。やがて香澄達の間を通り去った後、沙綾は期待とか驚愕とか、色々入り混じった顔をしていた。