「ここが、沙綾の部屋なのね」
「ふむ。なんだか、落ち着くな」
「はえー……。あ、ホワイトアルバム!」
有咲、りみ、たえの順に、沙綾の部屋の感想を述べていた。部屋を見回され、感想を述べられるというのは久しぶりで、なんだかムズムズした。
だが、それ以上に、沙綾はポピパの皆を招くことが出来たのが嬉しかった。
……そういえば、香澄ちゃんがさっきから喋ってない。どうしたんだろう。
沙綾は、若干後ろに座っていた香澄を覗いて見た。
「……!」
……えっと、なんだか胸を張っていた。「私はもう来たことあるんだよ!」という自慢のようなものがひしひしと感じ取れる。あれは……うん。ドヤ顔だ。
「そういえば、かすみんは1回来てるんだよね」
ーー待ってました!
有咲からそう振られた香澄は、そう言わんばかり前へ乗り出した。なんだか、目がキラキラと輝きまくっている。
「うん! えっとねー……」
そう言って、香澄は"あの時"のことを語り出した。
泣きながら香澄ちゃんが現れたこと。香澄ちゃんと友達になれたこと。机上の上で語られた以上に壮大なストーリーへと、繋がって行ったこと。"STAR BEAT!~ホシノコドウ~"の歌詞を見て、色々溢れてしまい私まで泣いてしまったこと。香澄ちゃんの言葉で星を辿り、"Poppin’Party"というバンドをしたくなったこと。指を繋ぎ始まった全てを、もう離したくないと思ったこと……。
今はもう、懐かしい思い出のように思えた。
Poppin’Partyに入ってから、まだ1年経っていないものの、色々なことが楽しくってはるか昔の事のように感じた。なんでもない景色が色づいて、とてもキラキラで、ドキドキした、眩しい
……そんなニコニコとした表情の香澄ちゃんの話を聞いた後に、思い出したのは例の"転入"の事だった。
皆が一緒に、4人で学校に行っていたが、私だけ違っていた。平日練習する時間も、みんなとずれていた。なんだかそれがちょっとだけ穴が空いたようで。仲間はずれとまでは行かないものの、この先決定的な何かになってしまいそうで。
言うならば……そう。もっと、Poppin’Partyと一緒に居たかった。
個性的な仲間たちと、愉快で楽しいゴキゲンな物語をもっと深く歩みたかった。責任感に囚われていた自分を解き放ってくれた仲間と、もっともっと、もっと一緒に……!
彼女達の雑談をBGMに、沙綾は考えていた。自分の悩みの種だった事が、若干霧散していく感覚を覚えていた。
しかし、何故消えていくのかは、ハッキリとわからずにいた。
「沙綾ちゃんはどれにする?」
「え?」
「アイス、全員分買ってきたんだー。みんなで食べよう」
不意に、笑顔の香澄に声をかけられた。一人で考え込んでいた為、状況がさっぱり読み込めない沙綾はキョロキョロと面々を見回す。
円になって座っている中心にアイスが午後置かれており、それぞれフルーツのアイス、バニラのアイス、チョコミントのアイス……と言った感じで五種類並んでいる。
アイスに悩んでいる面々の様子も様々だった。アイスよりもチョココロネに手を出しかけているりみ。うーむ……と、アイスを見つめて悩んでいるたえ。手を出すりみを窘めている有咲。そして、笑顔でこちらを見つめる香澄。
いつも通りの光景だった。それ故に、
「あー……。香澄ちゃん達、先に選んでいいよ。 私、残ったのでいいから」
口に出したのは、いつも通りの遠慮の言葉。笑顔を作ったが、それは本心からの笑顔だったのだろうか。
自分がどうしたいかという本心と、反射的に出てくる言葉は、やっぱり違っている。
「えー。……沙綾ちゃん、もっと"欲張り"でもいいんだよ?」
香澄ちゃんに、引き込まれたような気がした。トクントクンという跳ねちゃうような鼓動が、遠い音楽が段々と聞こえてくる。
『もっと欲張りになっていい』。その言葉が、沙綾の中で畝り、絡み、浸透していく。
ー!何勘違いしていたんだろう。何を思い違いしていたんだろう。自分のせいで……だなんていう思いは、あの時捨ててきた筈ではなかったのか。
確かにあの時、すべてが始まったあの時に。私は、香澄ちゃんに撃ち抜かれ、何かが始まる予感がしたんじゃなかったのか。それなのに、一歩踏み出せないままだなんて勿体ない。
香澄の何気ない言葉から、沙綾は大事なことを思い出す。ガツンと頭を殴られたような衝撃で、悩んでいるままの自分から、一歩踏み出そうと思った。何事も、やってみなければ分からないのだから。
皆がアイスをどれにしようと悩む中、沙綾は口を開く。
「ねぇ……みんな。ちょっと話したいことがあって……」
影響され、何かをしたいと思ったのなら。"今"がそのタイミングなのだから。
☆
朝。心地良い太陽が、香澄を包み込む中。香澄はいつものコンビニへと歩いていた。
いつも通りの風景がそこにはあった。たえがまず先に待ち合わせ場所に来ていて、ちょっとするとりみと有咲が何かしら騒がしく現れる。香澄とたえがそこに混ざる形で、そのパーティは4人となる。平日のいつもの風景だった。
……だが、今日はどうやら違うようだ。4人は、学校に出発すること無く、その場でお話を続けている。
「それでねー……。あっ!」
香澄が誰かに気づく。ふわっとしたローズブラウンの髪の毛、それを黄色いシュシュで纏め、ポニーテールにしている彼女。大切なポピパの仲間。"3"が大好きな、Poppin’Partyの三刀流ドラマー!
近づいてくるその姿を見て、香澄は大きく手を振った。
「ーー沙綾ちゃん!」
空っぽの鞄をぶら下げて。沙綾は真っ直ぐに走り出した。