転生者どもが夢の跡   作:32.56

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青臭い友情:肉体野郎の夢の跡1

「ルシウス?どうしたんっすか?早くいかないと間に合わないっすよ」

帝宮と太子宮の間にかかっている外廊下。

そこに二人の少年がいた。

 

次の授業に使う部屋までの時間などを必死に考える少年と、立ち止まり、一人の少女を見続ける少年。

「ルシウス!眺めてたって何にもならないじゃないっす、ほら、授業行くっすよ!」

 

声をかけている少年の名はアルトゥル・スノ・バリアウス。

赤みがかった茶色の髪に、少し日焼けした肌、金と呼ぶよりは原色に近い黄色の瞳が特徴のバリアウス侯爵家の次男で皇太子の友人兼お付きだ。

 

そして、立ち止まっている少年の名はルシウス・パキ・マウル・ジェーンドラム・ガルド。

銀に近い金色の髪と、白い肌に、緑色の瞳のガルド統一帝国、皇位継承権第一位、正真正銘の皇太子だ。

ルシウスは授業に向かわなければならないにも関わらずに少女を眺めるのに夢中になっていた。

 

少女の名はカレナ=サンディアス。

属国であるサンディアス王国領の王女であり、皇帝へ23番目に嫁いだ妃である。

艷やかな長い黒髪に、蕩けるような褐色の肌、突き刺さるように真っ赤な瞳。

 

彼は、一目見ただけで彼女に惹かれた。彼女を欲した。

結局この日、ルシウスはアルトゥルに引きずられ授業へ向かったが、思い浮かぶのはカレナの事ばかり。

彼は度重なる無視によって、不興を買ったかと気の弱い講師をひたすら恐怖させる事になった。

 

 

 

翌日のこと。

その日は休養日であり、アルトゥルに遊びへ誘われていた日だった。

しかし、一目惚れの衝撃は大きく、ルシウスは話すこともなくただぼーっとしていた。

 

「いいかげんにするっすよ!惚れた腫れたで何にも手につかなくなるガキじゃダメなんすから!」

アルトゥルが彼を嗜めるが、ルシウスはそれを気にも止めず返答する。

 

「しかし…彼女は本当に本当に美しいんだ。

 私の貧相な語彙では彼女をたたえる事が出来ない。」

「ベタ惚れじゃないっすか!?」

 

ツッコミながらも、アルトゥルは思考していた。

(これはまずいかもしれないっす。

 これが魅了魔術なら最悪、騎士や侍女は既に敵の手に落ちてるかもしれないっす。

 相談するなら魔術への防備の強いタカモトさまっすかね…)

 

「…そういえば、タカモト様に用事があったんす、一緒に行かないっすか?」

「いきなりだな…まぁわかった、行こう。」

 

アルトゥルは、カレナの話題を意図的に避け、怪しまれないように雑談をしつつ再び思考を巡らせていた。

すんなりいきすぎじゃないのか、術者がそれだけ魔術に自信があるんじゃないのか、タカモトも既に魅了されているのではないか。

考えれば考えるほど悪い方向に向かっている。

それを理解していた彼は、皇帝の守りを任されているタカモトが魅了されていれば皇帝が魅了されたも同然であり、降伏するしかない、と強引に思考を終わらせた。

 

しかしながらルシウスは完全にただの一目惚れであり、魔術など無しに魅了されているだけであり、アルトゥルの思考は完全な取り越し苦労である。

カレナちゃんは美少女だからね!仕方ないね!

 

そうこうしている内に宮廷魔術師であるタカモトへ貸し出されている部屋にたどり着いた二人。

ぼーっとしているルシウスへ少し話があるから待っていてくれと告げ、アルトゥルは部屋に入った。

 

4代目ユウナ・タカモト。

性別:女性、髪色:金、肌色:白、瞳色:灰色。

年齢は今年で52歳、見た目の全盛期はとうに過ぎても、魔術の全盛期は未だ更新中の女傑だ。

 

「スノ・バリアウスじゃないか。

 実験で危険な時もあるからちゃんとノックはしな。

 それで一体どうしたんだい?」

部屋へ入ってきたアルトゥルに気づき、何かを作っていたらしい手を止め、タカモトがそう告げる。

 

「緊急事態かもしれないんす、実はっすね…」

アルトゥルは、皇太子ルシウスの行動がおかしい、魔術がかかっていないか確認して欲しいとタカモトへ依頼する。

もう一度言うが行動がおかしいのはルシウスの素である。

 

その依頼を受諾したタカモトはルシウスを拘束し、精密検査を行った。

一時間半もの時間をかけた結果、タカモトは結果をアルトゥルとルシウスに語る。

 

「恋煩いだね、惚れるのは良いがあんた自分が皇太子だって忘れるんじゃないよ。」

「タカモト先生…その皇太子を長時間拘束しておいて言うことがそれですか…」

縛られたままのルシウスが、恨めしそうにタカモトへ語り掛ける。

 

それを受け流し、タカモトはいけしゃあしゃあと答える。

「皇太子のお目付け役のバリアウス侯爵家からの話だ、無下にして本当だったら困るだろう?

 それに、もし何かあっても怒られるのはスノ・バリアウスであってあたしじゃあないからね。」

 

それに対して文句を言おうとしたルシウスだったが、邪魔だから出て行けと、アルトゥルとともに追い出される。

 

「まぁ…、つまり本気で惚れてるって事っすね…」

アルトゥルがしみじみと呟く。

 

「…そうだ、お前が魅了されていると感じるほどに私は彼女に好意を抱いている。

 だが…彼女は父上の物だ。

 この感情は報われないものだろう。」

「ふーん、諦めるっすか?」

「ああ、そうだ。

 諦める。」

「わかったっす。

 とりあえず二つ言いたい事があるんで歯を食いしばってもらっていいっすか?」

「一体何ぐぁ!」

 

アルトゥルは、ルシウスへ一言警告すると、思いっきり右頬をぶん殴った!

「人は…物じゃないっすよ。」

 

床に転がり、痛みに悶えるルシウスへ冷たく語り掛ける。

「そんな考え方をする人間の感情なんて報われなくって当然っすね。」

 

ルシウスは、温度などないはずの視線に冷気を感じた。

それほどの感情がこもった視線だった。

 

「確かに…そうだ、私が間違っていた。」

罰を受けることを承知で殴ったアルトゥルの気持ちが、ルシウスにはよくわかった。

 

「こんな事だから、私には友人もできず、婚約者もできないのかもしれない。」

「もう一回殴られたいならそう言ってくれればいくらでもやるっすよ。」

アルトゥルが左手を構える。

 

さすがに二度殴られるのはごめんだと慌ててルシウスは否定する。

「まったく、俺が友達だと思われてないとか心外っすね。」

アルトゥルは不機嫌そうにつぶやいた。

 

ルシウスは自分の発言を振り返り、また慌てて否定する。

「ち、違う!これは言葉のあやであってお前を友達と思ってないわけじゃない、というか私が自分で作れないという話というか」

「大丈夫っすよ、わかってるっすから。

 だから、俺は友達として言うっす。

 その考え方矯正して、ルシウスがあの女の子を振り向かせるっすよ!」




・アルトゥルの喋り方
転生者によってもたらされた物。
ガルド統一帝国では正式な敬語の一種とされている。
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