あと10個くらい性癖に目覚めたダクネス 作:エロスはせがわ
『私をパーティに加えて貰えないだろうか?』
そう声を掛けられたのは、昨日の晩。
ジャイアントトードにモグモグされ、粘液まみれになったアクア達が風呂に行ったので、ひとり酒場で時間をつぶしてた時のことだ。
『パーティに加える……。くわえる……。
なぁ、貴方はこの“くわえる”という言葉をどう思う?
加える、くわえる、
私はこの言葉に、そこはかとなくエロスを感じるのだ』
その綺麗な女性……白銀の鎧を身にまとう金髪のクルセイダーは、出会って5秒も経たない内に、そう同意を求めてきた。
まだ自分の名前さえ、名乗らない内に。
『言葉という物は素晴らしい……。本当に素敵だよ。
よい言葉というのは、耳にした瞬間、フワッと頭の中にイメージが浮かんでくるものだ。
この“くわえる”という言葉に、さっきから私のイマジネーションがビンビン来ているよ。
……いや、むしろここは命令系で「くわえろ!」とした方が、更に……』
目を瞑り、両手を胸にあてて、まるで自らの夢を語る清らかな少女のような顔で、その女はワケの分からない事を言った。
『くわえろ! くわえろッ!
――――さぁくわえろ! くわえろダクネス! くわエロ!
あぁすまない……まだ自己紹介も済まさない内に悪いのだが、少し
なにやらもう、辛抱たまらないんだ』
その女性は「えへへ♪」と柔らかな笑みを浮かべてから、スカートの前をモジモジと押えつつ、いそいそと背を向けた。
『ちなみにだが、さっき出た“ビンビン”という言葉も、とても趣があると思うよ?
また後で、貴方の意見を聞かせてくれ』
そして、その綺麗な女性がちょこちょこ内股でトイレに行った隙に、俺はギルドの酒場を後にし、ダッシュで寝床に帰った。
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昨日の事は、アクアにもめぐみんにも話していない。
というか、あれは自分の中でも“なかった事”として処理している。
あの綺麗なクルセイダーは何者なのか? いったい彼女は何を言っていたのか?
そんな事はもう考えたりしない。記憶の彼方だ。
「スキルを習得するには、まずは誰かに教えてもらう必要があるのです。
使い方を教えて貰えば、冒険者カードにスキル名が表示されますから。
それをポチッとですね」
お昼時。冒険者たちの活気で賑わうギルドの酒場。
向こうの方で皆に宴会芸を披露するアクアの声が響く中、俺はめぐみんと共に昼食をとりつつ、スキル取得についての説明を受けている。
「カズマもぜひ爆裂魔法を覚えましょうよ!
いっしょに爆裂道を歩もうではありませんか! ぬんっ!」
フンスフンスと鼻息の荒いロリっ子の言葉を、そっけなくいなしつつ、俺はカウンター席でシュワシュワを飲みながら、今後のスキル取得について想いを馳せる。
俺はまだ駆け出しの冒険者で、スキルポイントだって3しか貯まっていない。
限りあるポイントを、アクアの宴会芸スキルのような無駄なことに使うワケにもいかないし、先を見据えてじっくり吟味する必要があるだろう。
なにか手軽に習得出来て、使い勝手の良い、そんなお得なスキルはないもんだろうか?
そんな実に元ニートらしい思考に、ウンウン頭を悩ませていた。
「――――駄目だよダクネス! そんな恰好で外に出たらぁ!」
深い思考に沈んでいた意識を引き戻す、突然の叫び声。
それが響いてきたのは、ギルド酒場の入り口からだった。
「まって! 止まってよダクネスっ! あたしたち捕まちゃうよぉ!」
泣き叫ぶように懇願する、女の子の声。「お、なんだなんだ」とざわつく冒険者達の声。
それにふと視線を向ければ、向こうから凄まじい勢いでこちらに迫って来る
「――――ふごふご! ふごふごふご!」 (私を仲間に加えてくれ! くわえてくれ!)
そこに居たのは、目隠しをし、口にギャグボールを咥え、全身を亀甲縛りにし、恐らく股間の辺りからであろう〈ぶぅいぃぃ~ん!〉という謎の音を響かせる、昨日の女だった。
「ふごふご! ふごごごご!」(やっと見つけたぞカズマ殿! さぁ私をパーティに!)
よく見ると、その女性は
正確には亀甲縛りの縄もあるし、胸にはハート型のニップレスを張っているのだが……しかし限りなく全裸に近い恰好。
その姿は物凄く肌色の度合いが強く、美しくなびく金髪の髪と、透き通るような白い肌のコントラストが印象的だ。
まぁギャグボールを咥えてるのでフゴフゴ言ってるし、目隠し&亀甲縛り&犬の首輪という出で立ちなので、とても絵画で描かれるような美しさとは程遠いが。
「ちょ……! なんですかあのモンスターは!? 単騎で攻め入って来たんですか?!」
「ふごふご! ふごふご!」(仲間にしてくれ! 仲間にしてくれ!)
めぐみんは目をひん剥き、大きく後ろに仰け反る。
亀甲縛りという事で、腕も足も縛られているその女は、もうキョンシーみたいにピョンピョン飛びながら近づいて来ているので、めぐみんがモンスターと間違えちゃったのも無理はない。
というか目隠しをしてるのに、なぜこちらを認識出来るんだろう? なぜ正確にこちらに迫って来るんだろう?
謎の執念を感じ、怖くなる。
「やばいぞめぐみん! とりあえず逃げるぞ!!」
「は、はいぃ!」
俺はめぐみんの手をひっつかみ、今もピョンピョン跳ねながら迫って来る亀甲縛りの女に背を向けて、テーブルを押しのけながら走る。
「――――ふごごーう!」(逃がすかぁーー!!)
その時! 俺の右腕に何かが絡みつき、後ろに引っ張られる!
思わず俺は足を止めてしまい、なんとか転ばないように態勢を立て直すのがやっとの状態となる。
「こ……これって、手錠か?!」
よく見れば、いま俺の右手には、刑事ドラマなんかでよく見るような、銀色の手錠がはめられていた。
そこから長いロープが伸びていて、その先はあの女の首輪へと続いている。
恐らくだが、あの女がこれを投げつけ、見事に俺を召し取って見せたのだろう。……目隠しをし、手も後ろで縛られているのに、いったいどうやったのかは知らないが。
「ふごふごふご! ふごごご!」(ああ! 私はいま犬のように繋がれている! なんという屈辱だろう!)
恐らくは、俺が思わずロープを引っ張ったせいだろう。その女は亀甲縛りのまま床に倒れ、そのまま打ち上げられた魚のようにビタンビタンと暴れ始める。
ギャグボールのせいで、発する言葉はもう人語になっていないし、まるで拘束具のような革製の目隠しが、彼女は本当に人間では無いんじゃないか? という雰囲気を醸し出していた。
コイツはほぼ全裸で、その肉付きの良い身体がもうプルンプルンしているから、これは本来とてつもなくエロイ光景だったハズだ。
しかし今、俺達はまさに混乱の渦中にいて、この女の凄まじい異常性に目をひん剥いている最中なので、そんな事を考えている余裕はない。
逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ――――その言葉だけが頭に鳴り響いている。
「お、おい! なんだよこれ!? 外れねぇぞ!」
「ふごごご! ふーごふごふご♪」(ふははは! その手錠はもう一生外れんぞ!)
手錠を外すべくガチャガチャと奮闘する俺。対して嬉しそうにフゴフゴ言いながら、床でビタンビタン跳ねている謎の女。
「ふご! ふっごふご!」(さぁ、無駄な抵抗はやめろ! 私をパーティに入れるのだ!)
やがて、どうやっても手錠が外れない事を悟った俺は、もうめぐみんと一緒にガクガク怯えながら、おっかなビックリその女の方へと近寄る。
なんか傍に来た途端、女の身体……つか恐らくは股間のあたりから響くブゥイィ~ン! という機械的な振動音が、煩いくらいに聞えてきた。
ここは異世界なんだし、きっと何かのマジックアイテムなんだろうな(思考放棄)
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「改めて自己紹介しよう。
私の名はダクネス。聖騎士クルセイダーを生業としている」
「――――嘘つけよッ!!」
どんな聖騎士だよ。神様もビックリだよ。
思わずそうツッコミを入れてしまうが、このダクネスという女の冒険者カードを見る限り、それは間違いないようだった。
あれからこちらに駆けつけて、いま一緒にテーブルに着いているアクア曰く「カードは偽造出来ないようになっている」との事。
普段のふざけたコイツならいざ知らず、真面目な時のコイツの言う事だから、間違いはないんだろうが……。
「う、嘘ではない! これでも女神エリスに仕える、れっきとしたクルセイダーなのだ!
一日に3度はお祈りをするし、ここに来る前には教会にも行ってきたのだぞ!」
「その恰好でか? ブイーンって音させながらか?」
冷静に突っ込むが、ダクネスは「その通りだ」と誇らしげに頷くばかり。
その様にめぐみんを始めとし、女神であるアクア、友人であるハズのクリスさんまでもが恐れおののいている。
お前それ、【性騎士 狂セイダー】の間違いなんじゃないのか。
ちなみにだが、現在のダクネスは、目隠しとギャグボールを外している。こうして最低限の会話は出来る状態になって、席に着いている。
まぁ未だに亀甲縛りのままだし、全裸に近いニップレス&前張りの姿なんだが、人間という物は本当に偉いもので、もう15分もしたらこの光景にも慣れてきた。
人類の持つ適応能力という物には、感服するばかりだ。
「さぁカズマ、質問があれば遠慮なく訊いてくれ。
せっかくの機会だ、なんでも言ってくれて構わないぞ」
「その堂々とした態度はどこからくる? お前いま、縄しか身に纏ってないのに」
「なんせ私たちは、これから仲間……いや“主従”となるのだ。
この首輪と手錠によって繋がれているのだから。……ぽっ♡」
どうやらこの女は、都合の悪いことは全て聞き流す、というスキルを習得しているらしい。
流石は頑強さがウリの前衛職。ビクともしない。いったい何ポイント使って覚えたんだろう。
「ああ、それと私の呼び名だがな?
ダクネスやララティーナではなく、気兼ねなく“メス豚”と呼んでくれて構わないぞ。
お前と私の仲じゃないか」
「…………」
まるで歯磨き粉のCMみたいに〈ニカッ☆〉と白い歯を見せながら、ダクネスが笑う。
きっと目を瞑って聞けば、それはまごう事なき淑女の声に聞こえることだろう。ダクネスの声は、そんな清らかさを感じさせる美しい声なのだ。喋ってる内容はともかく。
「じゃあえっと……この手錠の外し方は?」
「あっはっは! おかしなことを言うんだなぁ、ご主人さまは♪」
――――それは一生外れないし、たとえ外れたとしても、
まるで聖女のような笑みで恐ろしい事を言うダクネス。
ハート型のニップレスを張ったおっぱいをプルプルし、〈ブゥイィ~ン!〉という音をBGMにして。
首元にある犬の首輪の存在感が、今も俺に無言の圧力をかけている。「私はお前の物だ」と。
「そ……それじゃあさ? なんでお前、そんな恰好なんだよ?
昨日はちゃんと鎧とか着てたじゃんか」
「そうだな、クルセイダーとしての恰好で挨拶をした。
だが昨日、お前はいつの間にか帰ってしまっていただろう?
もしかして私は、何か無礼をしてしまったか? と思ったのだ。
ゆえに今日は、お前に礼を尽くす為、
「それがお前の正装なのか……。
じゃあさ、なんでお前は
そんなミノムシみたいな恰好してるのに」
「私の父が、ここの領主でな」(キッパリ)
とんでもない説得力の言葉を、ニコニコと言ってのけた。
さぞ彼女のお父さんは、多大なご苦労をなさっているのだろうが、それと同時に、これは彼自身の責任でもある。
親として、娘をちゃんと育てられなかったことを、猛省して頂きたいと思う。
「そ……そっか。じゃあ次の質問だ」
「ああ、どんどん来るといい」
「その首輪や、亀甲縛りなんかを見る限り、お前はいわゆるドMってヤツなんだろうが……。
何でそんな風になっちまったんだ? 小さい頃なんかあったか?」
「ドM……? 失礼な! 私はそういうのでは無い!」
いったいどの口で言うんだ――――
さっきまでお前、ギャグボール咥えてフゴフゴしてたじゃねーか。俺にロープで引っ張られた時、すげぇ嬉しそうにしてたじゃねーか。
行儀よく座ってはいるが、お前いまも亀甲縛りじゃねーか。
「まぁお前の言うことも、分からんでもない……。
私はこんな格好だし、そのような目で見られてしまう事も、あるにはある。
とても残念なことだが、そう思ってしまうのも仕方ないよ」
「…………」
「そもそも、本来人間には、Sの性質とMの性質、その両方が備わっていると聞く。
比率は人それぞれだが、この世に生きる誰もがSであり、またMであるんだよ。
カズマ、ここまでは良いか?」
「お、おう」
まるで幼子に言い聞かせるように、あたかも自分が優秀な教師であるかのように、ダクネスは自信満々に語る。
「ならばだ? きっと私もSであり、またMでもあるのだろう。
先ほどは否定したが、お前の感じた意見も、あながち間違いとは言えないのだ」
「…………」
「ようは“比率”の問題なんだ。それが7対3なのか、はたまた6対4なのか。
そんな微々たる差、ちょっとした違いによって、呼び方が変わるというだけの話なのだ」
両手を大きく開き、民衆の前に立って演説してるみたいに、とても良い顔のダクネス。
「だから、私という人間もな?
あえてどちらかで言うのなら……
「――――ドMじゃねーかッ!! しかも“ド”が付いてんじゃねーか!!!!」
あれだけ能書きを垂れておきながら、結局はそこに行き着いた。なにこの無駄な時間。
お前のその意地、いったい何なんだよ。いったいどう思われたいんだよ。
おいお前、いっぺん隣を見てみろよ? クリスさん泣いちまってるじゃねーか。
何度も毛布をかけてやろうとしてるのに、お前が頑なにそれを拒むもんだから、クリスさんもうエグエグしちゃってるよ。
ダクネスは「それでは忠誠を示せない!」だの、「犬が服など着るか!」と言い、その揺るぎない変態としての矜持を持って、まったく身体を隠そうとしないのだ。
そのフンスと言わんばかりの心意気に反応するように、頭に付けた犬耳カチューシャがピクピクと動き、どうやって付けてるのかは想像したくもないが、お尻にある尻尾がパタパタと嬉しそうに揺れている。
こいつは本気で、俺の犬になるつもりなのだ。
そんな謎の信念よりも、まずクリスさんの涙を止めたれよ。お前の友達だろうが。
「あの……すいませんカズマ、ちょっといいですか?」
ここで今まで沈黙していためぐみんが、俺の服の裾をクイクイと引っ張る。
「えっと、いまダクネスさんのカードを拝見してるのですが……。
なんかこれ、ちょっとおかしいと思うんデス」
「ん? 確かカードっていうのは、偽造は出来ないようになってるんだろ?
どこがおかしいんだよ」
「えっとですね……よく見て下さいカズマ」
めぐみんが恐る恐るといったように、俺の前にダクネスのカードを差し出す。
「なんかこのカードって、
ほらここ! 本当ならここは、覚えたスキルが表示される欄なのに……」
めぐみんが指さした場所に書かれていた文字は、“露出狂”。
本来この項目は、魔法名であったり、なにかしらのスキル名が書かれているハズの場所だった。
「それだけじゃないデス!
クンカー、下着ドロ、盗撮、自慰中毒、ショタコン、オヤジ好き……。
あとここに筋肉フェチとか、デブ専とかも書かれてるんですヨ!」
カードから目を放し、思わずダクネスの方を見る。
彼女は今も平然と……いや照れ臭そうに「えへへ♪」と微笑んでいる。どことなく得意げな顔で。
「おかしいですよコレ! 本来カードには、個人の趣味趣向なんて表示されないです!
そんなのプライバシーの侵害じゃないですか!」
「そうだよ! まぁ趣味趣向というより、ぜんぶ性癖だけども!
これって自分だけじゃなくて、ギルドの人達にも見せなくちゃなんない物だろ?!
こんなの書かれたら、たまったモンじゃねえよ!」
ショタコンなのに、オヤジ好き。あと筋肉フェチなのにデブ専……そんなツッコミ所は多々あるのだが、とにかく目の前の理不尽に対して声を上げていく俺達。
もしかしてダクネスって、なんかイジめられてたりすんのか?! 領主の娘(で変態)だからって、やって良いことと悪いことがあるだろ!
「いや、それは大丈夫なんだよカズマ、めぐみん。
ここに書かれているのは全部、
だがこのダクネスの言葉により、テーブル席に座っている俺達全員の顔が、ピキンと強張った。
「露出狂も、クンカーも、下着泥棒も、全て私が持っているスキルなんだ。
過去にポイントを使って習得した物だぞ」
「「!?!?」」
女神であるアクア、この世界の住人であるめぐみんさえも知らなかったスキル――――
それが今、まるでバーゲンセールのように、ダクネスのカードに羅列されている。
「特にショタコンとオヤジ好きなど、相反する物を取得するのには、骨が折れたよ。
確か必要量で言えば、20ポイントくらいかかったんじゃないかな?」
「なんでそんなもの取得するのですか!! せっかく貯めたポイントを!
20ポイントあれば、大概のスキルは覚えられるのに! もったいないですヨ!」
「えっ」
思わず激高するめぐみんだが、それを受けたダクネスは、まさに「えっ」って感じの顔。
まるで心外だとでも言わんばかりに、キョトンとしている。
「もったいない……? いやだって、色んな性癖があった方が
好きな物や、出来ることが増えれば、私の性処理ライフに彩りが……」
「――――そんな彩りいりませんっ!
ダクネスはクルセイダーなんだから、ちゃんと剣のスキルとかを覚えて下さいっ!」
めぐみんの言うことは至極真っ当なのだが、それにダクネスが納得している様子はまったく無い。
むしろ「この娘はいったい何を言っているんだ?」とでも言わんばかりの、とても無垢な顔をしている。
「いやでも、必要だろう?
クエストは日によって、あったりなかったりする。行けない日もあるだろう。
しかし性処理というのは、もう毎日する物なんだし……」
「毎日はしませんっ! それは貴方だけですっ!
ちょっと我慢すれば、週一回くらいでヘーキじゃないですか!」
「あっはっは! めぐみんはアークウィザードで、真面目そうな印象があったのだが、なかなか面白い冗談を言うではないか♪
もし性処理が週一で平気な人間がいるのなら、ぜひ顔を見てみたいものだ。
そんなヤツはもう、人とは呼べないぞ♡」
「貴方の人間性、いったいどうなってるんですカ?!
何をもって人間を定義してるのですか!!」
めぐみんとダクネスの議論は良い。でもなんか話の途中で“聞き捨てならない発言”があったように思うんだが……それは今は見逃がしてやろうと思う。
まぁ後でおもいっきり、めぐみんをイジるけど。
「ちなみにだが、私が特に覚えて良かったな~と思うのは、自慰中毒のスキルだよ。
是非めぐみんも覚えると良い」
「お゛っ、覚えませんよっ! なんですかそのスキルはぁ!」
「このスキルのおかげで、私は
いつ何時、どこにいても、『ふんっ!』と股に力を込めるだけで絶頂できるんだ。
――――すなわち、普段の戦闘中や、いまこの場でもイクことが出来る、という事だ。
こんなにも便利なスキルを、私は他に知らないよ――――」
「なにをしみじみと言ってるんですかっ!!
孫に囲まれて幸せを噛みしめるお爺さんみたいなテンションで言わないで下さいっ!!
それ自慰行為の話ですからね?!」
「あ、良かったらめぐみんにも、教えておこうか?
見ていてくれ、いま実際にやってみせるからな――――ふんぬっ!!!!
……ふう♪ どうだめぐみん、君のカードに“自慰中毒”が表示されてるハズだが」
「変なの教えないで下さいッ!!
どーするんですかぁ! これからクエストとか受ける時っ!?
私このカード、受付の人に見せなきゃいけないんですヨ?!」
「ちなみに覚えるのは良いのだが、使い過ぎには注意するんだぞ?
これを覚えたての時、私はオ〇ニーのしすぎで、
「 ふんがぁぁぁぁーーーーーーっっ!!!! 」
もう言葉を返すことも出来ず、めぐみんは頭を抱えて奇声を上げるばかり。
めぐみんもたいがいブッ飛んだ性格だが、このダクネスには敵わないようだ。変人同士、コイツとの会話を任せることが出来るかと少し期待したが、儚い願いだった。
「でもダクネスさ? 別に性癖ばっか増やさなくても、良かったんじゃないか?
お前には元々ドMっていう、バカでかい性癖があるじゃないか。
度し難くて、ほんと救いようのないヤツがさ」
「いやなに。以前試しにひとつ覚えてみたら、もう集めずにはいられなくなってな。
せっかく変態を志しているのだ。どうせならテッペン目指していこうと思ってるぞ」
たまにお菓子のオモチャを集めたり、パンについてるシールを集めている者達がいるが、いやはや収集癖という物は侮れんな。
ダクネスは「うふふ♪」と朗らかに言うが、もしオモチャとかシールとか集めている人たちが聞いたら、コイツはおもいっきりブン殴られるだろう。
まぁそんな事をボケっと考え、俺がそろそろ「もう全部どうでもいいや……」みたいな思考になりかけた頃……。
突然この場にギルドのお姉さんの声。そしてサイレンのよう鳴らされる鐘の音が響いた。
『――――緊急クエスト! 緊急クエストです!
冒険者の皆さんは、大至急集合して下さい!!』
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「ふふっ! 今年もこの季節がやってきたのねっ!
マヨネーズもってこぉーい!」
腕を振り上げ、よっしゃーとばかりに雄たけびを上げるアクア。
いま俺たち冒険者は町の入り口に勢ぞろいし、こちらに向かって飛んでくる幾千ものキャベツたちを待ち構えていた。
「良い機会だ、カズマ。
私のクルセイダーとしての実力、ここで確かめてくれ――――」
こいつ亀甲縛りでピョンピョン跳ねながら何いってんだ?
そんな事を思うも、もうツッコム気力すらない。
いま俺の右手にある手錠は、ダクネスの首輪と紐でつながっている。
これがある限り、俺はコイツとは離れることが出来ないし、きっとこのクエストの後は、なし崩し的にダクネスがパーティに加わることになるんだろう。
もう確信めいた予感をもって、そう断言出来てしまう。ゆえにコイツの実力を見ようが見まいが、結果は変わらないのだ。
それにしても、こいつ両手両足を縛られた状態、しかも目隠しやギャグボールまで装備してて、ホントに戦えるのか?
クルセイダーは前衛職で、パーティの盾になるのが役目だと言うが、俺達の盾はなんて汚いんだろう。もう涙が零れてしまいそうだ。
「ふむ、キャベツ……キャベツか……。
私ならキャベツという言葉だけで、半日はエロ妄想が出来るぞ」
そんなワケの分からない事をフゴフゴ言いながら、ダクネスは空から来襲してくるキャベツ達に向かって、亀甲縛りのままピョンピョンと移動していった。
……本当は他のファンタジー小説みたく、「勇壮な聖騎士は、解き放たれた矢のごとく駆けだして行った」とか書きたいんだが、ホントにこのミノムシ女ときたら、ピョンピョン飛び跳ねてんだから仕方がない。
「ぐっ!? ぐあっ!! ……アン♡
い、いかん! キャベツが身体にぶつかる度に、力んでイッてしまうッ!!
ナスや人参というのはよく聞くが、こうしてキャベツにイカされる女というのは、私が世界初なんじゃないだろうか?!
あぁカズマ! かじゅまぁ~! お前はどう思う~!?」
亀甲縛りで棒立ちの女に、がんがんキャベツがぶつけられる。
そのワケのわからん光景を、俺はアホのように見つめ続けた。
関係のない話だが、この日から俺は、女性に対して“ちょっとした恐怖心”を抱くようになる。
ニート童貞の男が抱く、女の子への淡い憧れは、木っ端みじんに打ち砕かれた。
そしてこの1年後、まさかめぐみんではなく、
この時の俺には、知る由もなかった――――