あと10個くらい性癖に目覚めたダクネス 作:エロスはせがわ
「――――てめぇ何してんだ! パンツ返しやがれ!!」
クリスさんに“スティール”のスキルを伝授してもらい、奇しくも彼女のパンツを剥ぎ取るというミラクルを起こした、その後。
「お、お前ッ……!
そんなモン盗って、いったいどうすんだ!」
「ふごご! ふごふご!」(ふははは! 召し取ったり!)
いま俺は、“下着泥棒”という謎スキルを発動したダクネスによってパンツを盗まれ、必死にコイツを追いかけている最中だ。
先ほどまで持ってたクリスさんのではない、俺自身のパンツだ。
「待てよ! 亀甲縛りのまま、ピョンピョン逃げるんじゃねぇ!
つかなんでそんな速いの?!」
「ふごふご! ふごごご!」(返さん! 返さんぞ! これは死んでも離さん!)
椅子やテーブルを押しのけながら、酒場を縦横無尽に飛び回るダクネス。
上級職であるクルセイダーの身体能力。それを遺憾なく発揮し、バネのように跳ねる。
「なんでそんな必死なんだよ! 何がお前をそうさせんだ! ……パンツか!」
「ふごふご! ふごっふ!」(違うぞカズマ! 私はただ、これを洗濯してやろうと!)
「穿いてるヤツ洗濯すんなよ! スキルで剥ぎ取ってまで!」
「ふごご! ふごごご!」(ついでにちょっと、出汁を取るだけだ! 見逃してくれカズマ!)
「出汁ってなんだよッ?! いったいなに作るつもりだテメェ!」
「ふごふごふご! ふごぉー!」(そんなの
「あっためんでいい!!」
ちなみにダクネスがフゴフゴしてるのは、ギャグボールではなく、俺のパンツを咥えているからだ。
こいつは両腕を縛っているし、口で持つしか無いんだろうが、しかしパンツを咥えながらピョンピョン逃げ回る亀甲縛りの女というのも、物凄い光景だと思う。
有り体に言って、まるで化け物のようだ。
「ふごふご! ふごふごふご!」(ふははは! 捕まえてごらんなさ~い♪ ……あぁカズマ! まるで物語に出てくる恋人たちのようだな!)
「――――こんな恋人たちがいるか! パンツ返してくれ!」
その後、ギルド酒場を半壊させるほど暴れまわったダクネスは、ピョーンと窓から飛び出し、見事に逃げきったのだった。
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「お前のパンツは、我がダスティネス家の家宝となったぞ。光栄に思うがいい」
午後。家で昼食(意味深)を済ませてきたダクネスと合流し、俺達4人はテーブル席で雑談している。
「出汁を取った後、額に入れるか、私の枕カバーにするか、迷ったんだがな?
結局は神棚に飾ることにしたよ」
朝出かける前、俺のパンツが飾られた神棚の前でパンパン手を叩き、ウムムと祈りを捧げるダクネスの姿を想像する。クソくらえだ。
前にも言ったが、お前はどうしてそんな風になっちまったんだ。親は何をしてるんだ。
「後で狩りに行き、猪でも獲って来るよ。
ご先祖様と、お前のパンツに、新鮮な猪肉を供えるぞ」
「嬉しくねぇよ。
お前の先祖泣いてるぞ? 俺のパンツの横で」
ちなみにだが、いま俺の手錠には、紐は付いていない。
前まではコイツの首輪と繋がっていたんだが、壮絶な話し合いの末に、紐だけは外して貰えることになったんだ。
よくよく考えなくても、あの紐があったら服を着替えることも出来ないし、ひとりで風呂やトイレにいく事すら出来ない。生活がままならないのだ。
コイツはぬけぬけと「風呂もトイレも手伝ってやるぞ」と抜かしやがったが、めぐみんアクア両名による猛説教により、なんとか説き伏せることが出来たのだ。民主主義バンザイ。
まぁ俺の手錠は今もそのままだし、ダクネスの犬の首輪もしかり。
コイツいわく、鍵はもう処分したらしいから、下手すると一生このままだ。
「ほらカズマ、私のリードがブラブラしているぞ?
お前の犬のリードだ。ちゃんと握ってくれ」
「へいへい……」
実は手錠の紐を外させる時、俺はダクネスと「出来るかぎり、お前のリードを握っているようにする」と約束してしまった。
こいつにとって、俺との物理的な繋がりである“紐”は、なんかとても大事な物であったらしい。
主従の証であり、自らを縛って貰う物。
そしてこれは【貴方と共にある】という、彼女の誓いの象徴だった。
それへのこだわりは、常人には理解出来ないほど並々ならぬもので、ぶっちゃけこの紐を外せと言った時、ダクネスはもうビックリするくらい泣いた。
その泣き顔と、悲痛な声は、見ているこっちの胸が締め付けられるくらい。
普段のバカな姿からは想像もつかないくらい、真摯な物だった。
ポロポロと涙を流し、必死に懇願するダクネス。その姿はとても哀れで、またこの上なく弱々しく見えた。
まるで、親に置き去りにされた子供みたいな――――そんな純粋な悲しみ。
俺はとてもじゃないが、強く言うことが出来なくなり、泣きじゃくるコイツをなんとか諫める為に、「ずっとリードを握って、傍にいてやるから」と、そう約束してしまったのだ。
俯いてた顔を上げ、まだ赤い瞳のまま、とても嬉しそうに微笑んだダクネス――――
ぶっちゃけて言うと……あのとき俺は、ダクネスに見とれてしまってたんだと思う。
その美しい笑顔に、俺は一瞬息がつまり、まったく動くことが出来なくなった。
「あ、いま“ブラブラ”という言葉があったが、お前はどう思う?
私的には、とても素敵な言葉だと思うんだが。
「やかましいよ!」
まぁその後すぐ「言質は取った」とか「リードを持って貰う方が、わんこ的に上」とか言われて、渾身のゲンコツを叩き込む羽目になったけど。
一瞬でも「こいつ可愛いな」と思った、俺の純情を返して欲しい。
「今回発見したのは、下着泥棒とクンカーのスキルは、とても相性が良いという事だ。
お前のパンツを盗んだ後、クンカーのスキルが大活躍!
辺り一帯の空気を吸いつくす勢いで、パンツをくんくんしてやったぞ」
「え、何その報告? それいる?」
半裸で亀甲縛りの女が、俺のパンツをくんくんしている光景が頭に浮かぶ。何とも言えない気持ちになる。
「いや、聞いて欲しいんだカズマ。
お前のパンツをくんくんし、出汁を取った味噌汁を飲んだら、もうビックリするくらい体調が良くなったんだよ。元気爆発なんだ。
いったいお前のパンツには、
「――――俺に訊くな! 知るか!!」
お前のパンツが、私のリポビタンD。
そんな謎の言葉を吐いた後、ダクネスはテーブルの酒をひとくち。
ちなみにコイツの両腕は縛られているので、お皿に入ってる酒を、犬みたいにペロペロ飲んでいる。
頭につけた犬耳がヒョコヒョコ動いているのを見る限り、とても機嫌が良さそうな感じだ。
「ほらもう……ベトベトじゃねぇかよ。
ちょっと口を拭くから、じっとしてろ?」
「うむ、かたじけないご主人様。わんわん」
ナプキンを取り、口のまわりを拭ってやる。こいつの尻にある犬の尻尾がパタパタと揺れる。
重ねてになるが、これをどこに、どうやって付けているのかは、知らない。
「……」
「……」
口を拭いてやったり、たまにおつまみをアーンと食わせてやったり。
そんな風に甲斐甲斐しくダクネスの世話をしていると……何やらテーブルの向かいから、二人の視線を感じた。
「ん、どうしたんだお前ら? さっきから妙に黙ってるけど」
「……いえ」
「……ええ」
気が付けば、酒を飲む手も、料理をつまむ手も止めて、めぐみんとアクアがこちらをガン見していた。
俺は何気なく手に持ったリードをイジりながら、そちらに目線を向ける。
「クエスト行くんだろ? なんか意見を出せよ。
アクアも、めぐみんも、行きたいのを言って良いんだぞ?」
「……」
「……」
引き続き、黙ってじ~っとこちらを見つめる二人。
いつもなら、喧しいくらいに自己主張してくるヤツラなのに、今日に限っては大人しいように思う。いったいどうしたんだ?
「えっとねカズマ……?
私達、席を外した方がいいかな……?」
「入れて貰ったばかりで、残念ですけど……。
もしアレでしたら、私パーティを抜けても……」
「えっ」
何を言われたのかが分からず、呆けた声が出た。
二人はなんか、すごく申し訳なさそうな顔で、モジモジとこちらを見つめている。
「あれかな~って……。
なんだったらカズマさ? ダクネスと二人でパーティ組んでも……」
「ちょっと待てよ!? なに言ってんだお前ら?!
こんなヤツと二人でやってけるワケが……!」
「でもカズマ? さっきから私達、入る余地がないです……。
二人がラブラブすぎて、もうどうしていいか……」
「はぁ?!」
ふと隣を見れば、俺とピッタリ肩をくっつけて座る、ダクネスの姿。
文字にすれば「~♪」って感じで、嬉しそうに俺に寄り添っている。
「ラブラブ?! お前ら目ぇ腐ってんのか?!
こいつ全裸で亀甲縛りなんだぞ?! どこをどう見たらそんな……!」
「でもカズマ、優しいです。すごく甲斐甲斐しくて、あったかいです」
「カズマ、ホントの犬の飼い主さんみたいよ?
めちゃめちゃ慈愛に溢れた顔で、ダクネスのお世話してるもの」
「!?!?」
驚愕に目を見開くが、二人はうんうんと頷きながら、言葉を続けていく。
「私カズマのこと、救いようの無いクズだと思ってたんだけど……。
でもそんな優しい顔も出来るんだな~って、ちょっと見直してたわ」
「カズマに飼われるワンちゃんは、きっと幸せです。
大切にされ、いっぱい愛情を注いでもらえる。とても幸運な子だと思いますよ?」
よかったわねダクネス! 幸せ確定よ?
そうアッハッハと笑うアクアの声を遠くに聴きながら、俺は愕然とする。
「お前たちもそう思うか。やはり私の目に狂いは無かった。
カズマはとても良い匂いがするんだ。こうして近くにいると、よく分かる。
私は犬で、クンカーだから」
そんなダクネスの声も、今は遠い。
頭がグアングアン揺れて、どんどん平衡感覚を無くしていく。意識が遠くなっていく。
「ちなみに、腐ったイカみたいな匂いだぞ?」
だがリードをぐいっと引っ張り、ダクネスに「ぐえっ!」と言わせた後、即座に意識を戻す。
――――俺がこの変態の飼い主? 優しいご主人様ぁ?!
もうありとあらゆる言葉を使って反論してやったが、二人が俺を見つめる瞳は、なんか生暖かった。
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「毎日毎日毎日ぃ!
俺の城にポンポン爆裂魔法を撃ち込むバカは、どいつだぁぁぁーーッ!!」
ダクネスがパーティに加わってから、数週間後。
俺達の街に、魔王軍の幹部の一人であるデュラハンというヤツがやって来た。
「ねぇ! な~んでそんな陰険な事すんのぉ~!?
この町にいるヤツラなど雑魚ばかりだと、見逃してやってればぁ! いい気になりおってぇ!」
アレだな。最近俺達がおこなっていた、めぐみんの爆裂欲の発散が、思わぬ弊害を起こしたんだな。
近頃ろくなクエストがなくて暇だったから、もう毎日のようにあの廃城に向けて爆裂魔法を撃ち込んでたからな。そらコイツが怒るのも無理はない。
ちなみにだが、このめぐみんの行動には、俺はもちろんダクネスもしっかりと付き添っている。
クエストなくて暇なんだから、実家に帰って筋トレだの自慰だのしてりゃー良いのに、ダクネスは飼い犬としての矜持を持って、律義にずっと俺に付き添っていたのだ。
身体を縛られた全裸の女を、リードで引いて歩く男――――
買い物に行く時も、ギルドに行く時も、俺は常に町の人々の目や「ヒソヒソ…ヒソヒソ…」という声に耐えなければならなかった。
元ヒキニートの俺だが、近頃もっぱら下を向いて歩く癖が付いた。人の目が怖い。
「誰なんだ! 爆裂魔法を撃ったヤツは! 大人しく出てこぉーい!」
町の門前に集まった冒険者に向かい、デュラハンがヒステリックに叫ぶ。
この駆け出ししか居ないような町で、爆裂魔法を使えるヤツなんて、心当たりは一人しかいないだろう。自然とみんなの視線は、冷や汗を流して押し黙るめぐみんに集まる。
「――――めぐみんよ、安心しろ」
だが、めぐみんが覚悟を決めた顔で前に出ようとした時、それを制するかの如く、ダクネスが言い放った。
とても肌色の割合が多い、ミノムシみたいな女が、いまピョンピョン跳ねながら、デュラハンのもとへと向かっていく。
「ちょ……!? なんだこの女はッ!!
お前はいったい、仲間になんて扱いをしてるんだ!!」
当然ながら、リードを持っている俺もその後に続いたんだが、謂れのない罵倒を受ける。
こいつからしたら、俺がダクネスにこんな格好を強要してるように見えるんだろう。遺憾の意を表明する。
「目隠し、首輪に、ギャグボール!?!?
そのうえ全裸で縛り上げ……リードで引いているのか!?
どんな変態なんだお前はッ!! 恥ずかしくないのかッ!!」
「――――俺じゃねーよ!! 変態はコイツだ!!」
「ふごふご! ふごごご!」(そうだ! 変態は私だ! 間違えるな!)
なんか譲れない矜持があるのか、ダクネスがぷんすか怒っているが、ややこしくなるんでお前は黙っていろ。
「そういう事は、家でやれッ!!
なにこの一大事に、ハードコアな事しとるんだ!! 場をわきまえんかッ!!」
「しゃーねぇだろうが! この首輪、外れねぇんだよ!
どっかの馬鹿が、鍵を捨てちまったんだ!」
「ふごふ! ふごふご!」(捨てるどころか、木っ端微塵にしたぞ! これで安心だな!)
「今でこそ魔に堕ちているが……俺も生前は騎士だッ!
仲間をそのように扱うなど、とても看破できんッ! この人でなしめが!!」
「俺じゃねーって言ってんだろ! こいつの性癖なんだよ!」
「ふごふご! ふごふ!」(そうだ! 私の性癖だ! カズマはご主人様だ!)
「ほら見ろ! ふごふご言っとるではないか! とても苦しそうではないか!
放してやらんか馬鹿者ッ! お前に人の心があるのならッ!」
「ああもう面倒くせぇなぁ!!!!」
頭を掻き毟って叫ぶが、こいつら勝手にヒートアップして、全然話を聞いてくれない。
片方は騎士道、もう片方はその変態性によって、グムムと睨み合っている。もう帰らせてくれ。
「ええい! もう爆裂魔法どころでは無いわ!!
こんな町の者達など、取るに足らんと相手にせんつもりだったが……このような鬼畜は今まで見た事がないッ!! 許してはおけんッ!!」
「やべっ……! アイツやる気まんまんじゃねーか!」
「ふご? ふごふご?」(え? 今
「――――エロに反応すんな! そういう意味じゃねーよ!!」
「ふごっ!!!! ふぅ……♪」
「 力むな!! なにイッてんだよお前!? こんな時によぉぉーー!! 」
助けてくれ。もう俺の心は砕けそうだ。主にダクネスのせいで。
「ええい! そこになおれ、このド畜生めがッ!! ぬぅえぇぇーーい!!」
「うぉあぁーー!!」
業を煮やしたデュラハンが、ついに襲い掛かって来る。
なんとか咄嗟に身をかわすが、もう俺の命は風前の灯だ。迫りくる死の瞬間を前に、ギュッと目を閉じる。
「ッ?!?! ……な、なんだ貴様はぁ!?」
だがその時は、いつまで経っても訪れなかった。
たった今、まるで金属を叩いたような物凄い音が鳴ったが、俺の身体はまったくの無事。痛みすら感じない。
「と……止めた?! この俺の剣を、生身で止めたと言うのか?!?!」
固く閉じていた目を、ゆっくり開いてみると……そこにはデュラハンの大剣を“おでこ”で受け止める、俺をご主人様と一方的に慕う女の姿。
――――ダクネスだ。
「な……なぜ斬れん?!?! こんな矮小な人間の身体が、なぜ斬れんのだッ!?!?」
デュラハンが小脇に抱えた、自らの頭。
そこにある表情は……驚愕。まるで信じられない物でも見たかのように。
いまヤツはパニックに陥り、それでも目の前の女を“脅威”と認識したのか、もう一度その大剣を振りかぶる。
「なぁッ?!?! ……何故だッ!? なぜ斬れん?!?!」
とんでもない音が鳴った。
馬鹿でかい鐘を打ち鳴らしたような、辺り一帯に響く轟音。
それでもダクネスはその場で踏み止まり、まるで鍔迫り合いをするように、おでこで剣を受け止めていた。
「ッ!? ッッ!?!? ッッ?!?!?!」
次々と剣が振るわれる。あの身の丈ほどもある巨大な剣で、ダクネスが滅多打ちにされる。
だが不動――――彼女は一歩もそこを動くことなく、微動だにせず立ち続けている。
相手は魔王軍幹部。恐らくは、この世界で最強の剣士。
その爆発めいた威力の剛剣を、ダクネスはその身で受けきっていた。
もしこれが全裸でなく、ミノムシみたいな恰好をしていなければ、とんでもなくカッコいい光景だったハズだ。
「――――ふご? ふごふご?」(なんだお前、私を斬りたいのか?)
ふいに、刃のような鋭い声で、ダクネスが呟く。
その威圧感と恐怖に、思わずデュラハンの剣撃が停止した。
これはダクネスの気迫やカリスマによるものであり、決して亀甲縛りによる威圧感ではないと信じたい。
「ふご。ふごふごふ」(そうか、早く言えばいいのに。気が利かなかったな)
突然デュラハンから目線を切り(目隠しをしてはいるが)、ダクネスがおもむろにこっちへ振り返る。
剣を持った相手に背を向けるという、暴挙。
だがデュラハンは一歩も動くことが出来ず、それはこの場で見守っている全員が同じだ。
「ふご。ふごふごふご、ふご?」(質問――――
数歩だけピョンピョンとこちらに来て、ダクネスがまっすぐ俺の方を向いて、そう問いかけた。
「ふごふご。ふご!」(それはな?
愛と言い換えても良い――――お前への。
そうダクネスはフゴフゴ言いながら、おもむろにブチィィと、自らを縛っていた縄を引き千切った。
「ふごふごふ。ふごっふ」(見ておくがいい、カズマ。そしてみんなも)
ダクネスはそうフゴフゴ言い捨て、デュラハンの方に向き直る。
そして再びピョンピョン飛びながら(足の縄はそのままなのだ)、少しずつ近づいて行った。
「う゛っ……! うおぉぉおおッ!! 来るなぁぁああああッ!!」
思わず、と言ったように、デュラハンが剣を振り下ろす。
それをあたかも虫でも払うみたいに、すっと手で受け止めるダクネス。
「い゛っ……?!」
そして何気ない仕草で、ヒョイッと剣を取り上げる。
自らの武器を奪われたデュラハンは、もう訳も分からないまま目を見開き、その場で硬直した。
まるで品定めをするように、ダクネスは手に持った剣を、顔の前に持っていく。
そして暫く見つめた後……おもむろに大きく後ろに仰け反り、弓のようにしなった。
「――――ふぅご!」(そぅらッ!!)
頭突き! ダクネスが大剣の腹に向けて、おもいっきり頭を振り下ろす!
「――――ふご! ふぅご!」(そらッ!! そぅらッ!!)
巨大な打楽器を力一杯に打ち鳴らしたような音が、連続してこの場に響く。
ガンというより、ゴィンみたいな、空気の振動さえ感じさせる重い音が、何度もダクネスの頭から鳴る。
でもこれは、決して人間の身体から鳴るような音では無い。いま目にしていなければ、とても人の身からしている物だとは、信じられなかっただろう。
「――――ふご! ふご! ふご!! ふご!! ふぅぅご!!!!」
だんだんダクネスの動きが早くなり、もう矢次に何度も頭を振りかぶり、剣に打ち下ろしていく。
まるで工事現場の杭打ち機械が、壊れて制御不能になってしまったような。そんな狂った轟音が幾度も響き渡る。空気を揺らす。
「ふごふごっふ。……ふご?」(手間を省いてやったぞ。こんなものでどうだ?)
聞いたことも無いような、バキィィンという馬鹿でかい音。
その音と共に、デュラハンの大剣が真ん中からへし折れ、クルクルと空を舞った。
そしてよく見れば、たった一筋のか細いものではあるが、いまダクネスの額から、つぅっと血が流れている。
――――私を斬りたかったんだろう? 聞き届けてやったぞ。
そう言わんばかりに、ダクネスの口元が「にぃや~!」と、大きく歪む。
「ふごご、ふごふご。ふごふご」
――――アクア、出番だぞ。浄化魔法だ。
「ふごごん。ふご? ふごごご」
――――めぐみん、爆裂魔法はいけるな? お前がカタを着けろ。
そうフゴフゴ言いながら、デュラハンに背を向けたダクネスが、ピョンピョンとこちらに帰って来る。
未だ立ち尽くしている魔王軍の剣士、そして硬直しているこの場の者達にも構わず、ダクネスは雄々しくピョンピョン飛び跳ね(?)、飼い主である俺のもとへ戻った。
関係ないが、最近ダクネスが何を言ってるのか、だんだん分かるようになってきたよ俺。
ホントこいつが変態でさえなければ、さぞカッコよかっただろうに。神話にでもなるレベルだぞこれ。
「とっ……とりあえず行くわよぉーっ!!
セイクリットぉ! ターンアンデッドぉぉーー!!」
「えええエクスプロォォーージョンッッ!!!!」
「 ぎぃぃぃいいいいやぁぁぁぁぁあああああああああああああッッッッ!!!! 」
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やがてなんやかんやあり、武器を無くして心までへし折られたデュラハンは、めぐみんアクアを始めとする冒険者たちのタコ殴りによって、この世から消滅していった。
最後にアクアの大津波めいた大魔法によって、町が甚大な被害を受けたりもしたが、魔王軍の幹部を倒せたのだから、勘弁願いたい所だ。
「自分でやっても、気持ち良くはないな。
やはりお前が必要だわん」
「うるせぇこの雌犬。台無しだよ」
性癖を増やす為、より良い性処理ライフを送らんが為に、いったいこいつはどれだけレベルを上げたんだろう?
ただ、オ〇ニーしたい!
その一念のみを持って、こいつは魔王軍の幹部ですら傷を付けられない程に、自らを鍛え上げたというのか。とんでもねぇな性騎士。
そんなコイツも頭を撫でてやると、もう力が抜けたましたとばかりに、フニャフニャと微笑む。
まるで飼い主にご褒美を貰い、ごきげんの犬みたいに。
見惚れてしまうくらい、無邪気な笑みで。
「――――ふんぬっ!!」
「イクな。力むなっつーに」
いや、せっかくカズマがしてくれたのに、
そんなたわごとも聞かなかったフリして、俺はダクネスのリードを引き、町へ戻った。