王子から婚約破棄されて王都追放された悪役令嬢がショックでしおらしくなってて可愛い   作:松風呂

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キリ悪い為分割の前後編


第十六話 コカトリスは探せばいるレベル 前編

 

 早朝、一日の始まりは朝からだ。俺は至極当たり前のことを考えながら目を覚ました。

 

 睡眠時間が少なかったからか、それとも大蛇に締めつけられる悪夢を見たからか、寝起きの気分はあまり良くなかった。

 

 それでも俺は今日なるべく早く起きる必要があった。何故なら昨夜メアリーと添い寝をするという突然の謎ミッションが発生したからだ。

 

 何かやましいことがあった訳ではないが、同衾したことについて親バレは出来れば避けたいし、男の子の朝の生理現象を同じ歳の女の子に見られたら絶対に気まずくなる。その為、俺は誰よりも早く起きる必要があったのだ。

 

 危機回避能力が高くてすまんな。余計なハプニングは御免なのだよ。

 

 ところで俺の身体の上に乗ってる柔らかい物体は毛布じゃないよね。完全にメアリーです。寝相が悪いからか、俺の上に覆い被さるようにくっつき虫となった彼女はすやすやと気持ち良さそうに寝ていた。

 

 俺が変な夢見たのこいつのせいだろ。

 

 文句を言ってやりたい気持ちはあるが、彼女の自重により、俺の身体に押しつけられている豊かな胸の感触をどうにかしないと俺の理性のダムも決壊しそうだったので、とりあえずメアリーを身体から引きはがして横に寝かせた。

 

 顔を見ると、開いた口から涎を垂らしながら幸せそうに寝ている。本来なら起こして彼女の部屋に帰って貰おうと思っていたのだが、その幸せそうな顔を見ていたらそれも躊躇われた。

 

 学園時代の悪夢を見たと言っていたし、平気そうに見えて平民生活の心労も溜まってたのかもしれない。

 

 にしても改めて見ても整った顔してんな。黙って寝ていると表情から普段の険もとれていて、まさに天使の様な悪魔の寝顔といったところだ。

 

 やっぱり起こすのはやめとくかと、優しい俺は彼女に毛布をかけて、着替えた後に部屋から出ていった。

 

 

 

 

 デートってしたことあるかい? 残念ながら俺は無い。だがそれは昨日までの俺であって今日からの俺は一味違う。

 

 服装は悩んだ末、結局面白みも無いシャツとパンツ姿という、普段通りのラフな感じに落ち着いた。なんとなく上にジャケットは着たかったが、暑いのでやめておいた。行く前にそわそわしちゃうのもデートの醍醐味なのかもとまた一つ賢くなった気がする。

 

 親父達には、昼くらいに知り合いが家に来てそのまま出かけることを告げた。彼らも同じくらいには村の用事でしばらく出るらしい。メアリーの予定は知らんが、最近はだいぶこっちでの生活も慣れてきてるので、部屋で読書でもするだろう。彼女はまだ起きてこない。そろそろ起こそうかと思ったら、今日は休日だし畑仕事も無いので好きなだけ休ませてあげようとお袋に言われたので、素直に従った。

 

 そうこうしてるうちに来客が来た。出迎えた俺をドアの前で待っていたのはクリスさんだった。

 

 黒い線の入った白のストライプシャツタイプのワンピースを着て、右手にはランチボックスを持っている彼女はニコニコとした邪気の無い表情で俺を見上げていた。

 

 可愛い。爽やかで涼しそうな格好は季節感も相まって元気はつらつといった風の彼女に似合っていた。まだ知りあって間も無いが、彼女から醸し出される癒しの波動は俺みたいな捻くれ者には効く。なんというか眩しくて直視し辛い。何言ってるか分からない? 俺も分からない。

 

 お互い軽い挨拶を交わした後、俺達は連れ立って歩き始めた。

 

 デート開始である。ワクワクが止めらんねぇぜ……! 

 

 

 

 

「アル先輩は今日どこか行きたいところとかありますか?」

 

 どこへ行くでも無く二人で歩いていると、そんな風に彼女から声をかけられた。

 

「今日はクリスさんに付き合いますよ」

 

 昨日の今日ということもあって俺には何のプランも無かった。いや、だってこっちが誘われたしさ。ごめんなさい。

 

「じゃ、まずは公園でお弁当でも食べませんか? 昨日言った通り作ってきました!」

「いいんですか? ありがとうございます」

 

 俺達は、雑談をしながら近くにあるハーケン村コクウ公園へと向かった。コクウ公園は木々に囲まれた村一番の公園だ。敷地面積はとにかく広い、ピクニックや運動をする者は多く利用しているし、たまにバザーなんかも開かれている。

 

「成程、クリスさんは今は村の宿屋の方に泊まってるんですね」

「そうです。アウラと一緒に馬車で自領へ帰省する途中だったんですけど、この村のお祭りに参加したくてつい泊まっちゃいました」

「しばらく滞在するんですか?」

「ほんとはお祭りを楽しんだら直ぐ帰る予定だったんですけど、アル先輩に会えたので当分ここに居たいなぁって……」

「え、親が心配するんじゃないですか?」

「大丈夫です。ちゃんと手紙出しといたんで!」

 

 クリスさんはそう言って親指をグッと立てて良い笑顔で言い放った。彼女がそう言うなら良いけど、貴族の御令嬢が護衛もつけずにそんな自由に行動出来るもんなの? 危なくない? 貴族って未だによく分からん。

 

「そう言えば私が昼前に宿屋を出た時なんか慌ただしかったです。詳しく聞いてないけど偉い人が泊まりに来たらしいですね」

「へー、こんな田舎の村に何の用でしょうね。行事なんてこの前の夏祭りくらいなもんですけど」

 

 珍しいが、偶にはそういうこともあるだろう。俺には関わりの無い話だから特に気にしなかった。

 

「ところで気になってたんですけど俺の家が知られてたのって何でですか?」

「あ、村の役所に行って登記簿で確認しました。クロワッサンって珍しい名字だからすぐ分かりましたよ」

「いや怖っ」

「……ごめんなさい、私重いですかね? 初めて男の人を好きになったから、よく分からなくて……」

「そんなこと無いですよ。男代表として言うと、女性は少し重いくらいの方が可愛いです」

 

 俺は顔をキリッとさせてそう言い切った。

 

「そうですか? 確かにちょっとぽっちゃりしてた方が男の人は良いってよく聞きますもんね!」

 

 それは体重的な意味の重いだから、ちょっと違うなぁと思ったが、あははうふふと俺達は笑いあった。

 

 そうやって他愛も無い会話をしていると、公園に着いていた。

 

 俺達は芝生の上に座りながら引き続き談笑した。いつの間にかお互いが気安くなり最初の頃の様な遠慮も無くなって、俺の勘違いで無ければ二人の距離は確実に縮んでいた。周りでは楽しそうに肩車している子供連れの親子や、遊んでいる子供たちが駆けまわっており、俺の目に映る世界は平和に包まれていた。

 

「それでは、お待ちかねのクリス特製弁当です!」

 

 そう言ってランチボックスから可愛らしい弁当が取りだされた。朝早起きして、宿屋のキッチンを借りて作ったらしい。

 

 なんとなく昼食はサンドイッチかと思っていたら、普通に美味しそうな野菜炒めや焼き鮭や鶏肉の照り焼きが入っていて、俺は唾を飲み込んだ。

 

「どうぞ、召し上がって下さい。……あ、でも無理して食べなくても良いですよ。私がさつだからあんまり美味しく無いかもしれないので……」

 

 さっきまで自信満々だったのに、急に弱気になっていじらしい乙女な感じ出してくるじゃないか。そんなこと言われて、じゃあ要りませんなんて言える男居るか? 仮に俺が菜食主義者だったとしても残さず全部食べるね。可愛い女の子ってそれだけでズルいわ。

 

「ありがとう。感謝して頂きます」

「わ、私も自分の食べます!」

 

 そして自称グルメな俺の舌を唸らせる程に、クリス特製弁当は美味かった。

 

 栄養のバランスもばっちりで俺の好きな物がいっぱい入ってる。どれもきちんと火が通ってるので、衛生面も問題なさそうだ。これだけ尽くされると逆に悪い気がしてくる。俺は気づけば泣きそうになっていた。美味いし優しさが染み入る。

 

 メアリーがお袋から料理を習い始めていた頃、よく味見もとい毒見をさせられた。あいつはお袋が見ていない隙をついては自分流のアレンジを加えるタイプの料理人だったので、不味い失敗作をよく出されて、食べないと理不尽に怒られた。

 

 今ではお袋のスパルタ指導のおかげで、レシピ通りに作ることの大切さを覚えて美味しく作れるが、それでも最初は酷かったものだ。カレーなのに甘かったりしてたもの。

 

「どうしましたか?」

「ああ、凄く美味しくて優しい味がしたから感じ入ってた」

「……そう言って貰えると嬉しいです」

 

 彼女は切なげに笑うとまた自分の料理を食べ始めた。

 

 

 

 食事が済み、片付けを終えるとこれからどうすっぺという話になった。

 

「うーん実は私、こういうふうに男性と遊ぶのって初めてでどうしたものやら」

「実は俺もなんですよ。恥ずかしながら、同世代の女の子と遊びに行ったことないっす」

「あは、一緒だ。でもメアリー先輩は?」

「あれは、まぁ連れ立って歩いたことはしょっちゅうだけど護衛って感じでしたし」

「そうですか。公爵家の御令嬢と使用人ですもんね」

「一緒にいるのはしょっちゅうだったけど、仕事上、しょうがなく、嫌々、とかもれなく付いてきますよ。今は成り行きで一緒に住んでますけどね」

 

 やれやれだぜ、という風でメアリーの近況についてのことを話した。クリスさんから聞いてきた話題だが、どことなく寂しそうな顔をしている。

 

 すいません。デート中に他の女の子の話をしてすみません。

 

 おまけにクリスさんに嫌がらせしてたあの性悪の話題をするとか、最低です。デリカシーが無いよね。

 

 なんとか話題を変えようとあたふたしていると、クリスさんから助け船が飛んできた。

 

「そう言えば、今日広場でコカトリスの解体ショーやってるらしいんで見に行きませんか?」

 

 話題が変わってくれるなら乗る気は満々だったのだが、思ったより凄いの来た。

 

 解体ショーとか、かなりメジャーなマグロのでさえ見た事無いよ。少なくとも初デートで嬉々として行くところでは無い。それくらいは俺にも分かる。

 

 だがしかし。

 

「行こう。解体ショー、そんな機会滅多に無いし、二人で良い思い出作ろう」

 

 そう言って俺は親指をグッと立てて良い笑顔で言い放った。

 

 それを受けた彼女は花が咲くような満面の笑みで答えてくれた。

 

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