生徒たちが目を覚ますと、そこは見慣れた教室ではなく初めて見る大理石のようなもので作られた広大な空間だった。見慣れぬ場所に突然来たためか生徒たちは周囲をキョロキョロしていた。そんなとき声が聞こえた。
「勇者様と同胞の方々、ようこそ、異世界トータスへ。歓迎させて頂きます。私はイシュタル・ランゴバルド。聖教教会にて教皇の地位に就いている者です。以後、お見知りおきを…」
そう声をかけて来たのは、見た目的には70過ぎの禿げた老人だった。ただ、その老人の目には何かを企んでいるような目をしていた。
「今、茶菓子を運ばせておりますので話はそれが来てからに致しましょう。」
その間、生徒たちは巨大な机が広がる一室に案内され一人一人が席に着くように言われたので、素直に従った。暫くすると、幾人かのメイドがサービスワゴンにティーポットとカップ、マカロンみたいなお菓子を乗せ部屋に入り給仕していた。その光景を目の当たりにしたクラスメイトは頬を紅く染めながら魅入っていた。もちろん、ハジメもその見事な給仕に目を奪われていたが、その横から物凄い視線で見られていることを感じすぐに目を逸らした。ハジメが感じた視線とは、香織のモノだった・・・
「(なんで白崎さん、僕のことずっと見てるんだろう?何かしたかな?)」
しかし、当のハジメはなぜ自分が見られているのかさっぱり分からずにいた。
香織からしたら単に好意を向けているだけなのに・・・
その横では、剣弥もメイドを凝視しており雫と優花がジト目を向けていた。が、本人は全く気付いていない・・
数分見ていると興味を無くしたのかメイドから目を離しすぐに前を向いた。
すると、横から声をかけられた・・・
「・・・ねぇ、剣弥はメイドが好きなの?」
「ん?衣装は好きだが、ここのメイドは嫌いさ。優花や雫が着てくれるなら話は別だがな」
「「そ、そう///」」
剣弥からの一言で頬を真っ赤に染めた2人はすぐに話題を別のものに変えたかったが、剣弥が再び話し始めたためそれは叶わなかった。
「なぁ、2人はあのメイドの動きを見てなにか感じなかったか?」
「私は、特になにも感じなかったけど?」
「そうか、優花は?」
「私は、素人なのかなって感じた。紅茶を入れるにしても様になってないし、この紅茶だって香りが少ししかしない・・・それに一番は姿勢がなってない・・・正直、これが王宮レベルなら舐めてるとしか思えない」
剣弥は優花の答えを聞くと「俺もそう思う」とだけ答え感心していた。メイドじゃないにしろ中学生のころから喫茶店の手伝いをしていた優花だからこそ的確に指摘することができたといっても過言ではなかった。
しかし、ここで1つ疑問が生じる。それはなぜ、素人のメイドを雇ったのかということだ。
「でも、なんで素人のメイドなんて雇ったのよ?」
「それは多分、ハニトラが目的だろうよ。ハニトラ目的で男子を籠絡させてこの世界に縛り付けるのが狙いだろうな」
剣弥のその推理に雫と優花は感心していた。なにせ、既にクラスメイトの男子の何名かは、すぐ側にいるメイドに魅入ってしまっている。
けれど2人は剣弥のことをある意味問題視していた。それは2人が見ても周りのメイド達は美女美少女だと言うのに剣弥は全く眼中に入れていないのだ。
((本当剣弥って、どんな娘が好みなんだろ…))
初恋から何日経っても、真実にたどり着けてないどころか謎は深まるばかりに彼女達はため息を漏らした。
そして、イシュタルから語られた話を纏めると下の通りだった。
・まず、この世界には人間族・魔人族・亜人族・海人族など多種多様な種族がいる
・人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているがこの内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている
・ 魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。それが、魔人族による魔物の使役だ
・だから、貴方たちで魔人族を倒してきてね
この話を聞いた社会科教師の畑山愛子先生(通称:愛ちゃん)はイシュタルに抗議した
「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
ぷりぷりと怒る愛ちゃん。彼女は今年二十五歳になる社会科の教師で非常に人気がある。百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿はなんとも微笑ましく、いつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒も多い。
そんな彼女が理不尽な召喚理由に怒り、ウガーと立ち上がったのだ。それを「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……」と、ほんわかした気持ちでイシュタルに食ってかかる愛子先生を眺めていた生徒達だった。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
この言葉に場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているかのようだった。そして、誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見ていた。イシュタルは、そんなの気にしてないとでも言うように更に言葉を続けた。
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「そ、そんな……」
愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。
しかし、ここで登場するのが彼だ。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
「……」
ここでも彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮され、大半の女子は賛同している。
そこに更に発破をかける者が居た。そう、幼馴染1号の坂口龍太郎だ。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
しかし、ここで雫が参戦に拒否した
「私は、参戦しないわ。いや、参戦しないじゃ誤弊があるわね。戦いはする、でも貴方たちとは一緒に行かない。私は、私のやり方で行くわ」
「え、えっと、雫ちゃんがそう言うなら私も雫ちゃんについて行くよ!」
「雫、香織……なぜだ!なぜ一緒に来れないんだ!」
雫と香織のパーティー離脱宣言に光輝は叫んでいた。彼の頭の中じゃ、龍太郎と雫、香織は幼馴染なんだからいつまでも一緒にいるのが当たり前、そう考えていた。しかし、今その考えが崩れかけていた・・
「光輝、私はねいつまでも貴方の尻拭いをさせらるのは嫌なのよ!いつも自分が正しいように言うけれど、貴方の行動は人を不幸にしかしてない。私がいじめられた時だって貴方は私を助けてくれなかったじゃない!」
「な、なにを言ってるんだ・・雫・・ちゃんと、話し合って和解したじゃ・・」
「誰が和解して欲しいって言ったのよ!あの子たちだってバカじゃないわよ・・アンタの前では好かれるために猫を被り、いないところでその苛立ちは全て私に来ていたのよ!それでも、貴方は助けてくれなかった・・・だって、アンタの頭の中じゃ既に終わったことと認識されていたんだからね・・・そんな自分を見捨てたやつに付いて行って命を預けるなんてできるわけないじゃない!バカなの!?だから、今日から貴方との関係は幼馴染でもなくクラスメイトでもない。赤の他人よ・・じゃあね、天乃河君?」
雫の怒涛の言葉を聞いた天乃河は膝から崩れ落ち、泣いていた。その光景を見ており、先程戦いに賛同していたクラスメイトたちも光輝を白い目で見ながら部屋から出て行った。そして、その場に残ったのは光輝と龍太郎だけだった。
部屋を出たクラスメイトたちは全員自分の部屋に戻ったが、雫と香織、優花は戻ることなく剣弥&ハジメの部屋に来ていた
「これでよかったかしら?」
「あぁ、上出来だ。でもアレ、本音だよな?」
「そうよ、普段から感じていたことを全部吐いてやったわ」
そう先程のパーティー脱退宣言は剣弥が計画したものだった。なんたって、『戦争=殺し合い』の概念を持たない勇者光輝に命を預けて死にたくはないからだ。だったら、抜けるしかないだろう・・
そこで、最も効力があるのが幼馴染2人の言葉というわけだ。
「俺は、鍛錬が良い感じに終わったらここを出ていくがお前たちはどうする?」
「僕は剣弥についていくよ」
「「私も」」
「私は、雫ちゃんと南雲君に付いて行くよ」
「わかった」
ーーここから勇者パーティーとは別のパーティーの話が進んでいくことになるのだ。
FIN.