泡につつまれ影追い旅   作:なのはな寮長

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第一話 原生林に慎ましさを求めて

 私は『タマミツネ』という竜を好かない。嫌悪していると言っても良いほどに。

 鱗はぎらぎらと派手に輝き、ヒレは一々気分に左右されて色を変える。慎ましく、謙虚に、質素にすると言うことをまるで知らない。

 

 ヒトはタマミツネを見て『美しい』と感じる事が多いらしいが、とんでもない。狂った感性を持っていると断言させて貰おう。

 とてもじゃないがこれは、趣味嗜好の違いは誰にでもあるだろう、なんて生優しい考え方では引き下がれない事だ。

 

 何故そこまで嫌うのだと誰かに聞かれれば、私はきっとこう返す。

 もし君が色鮮やかで派手なものを嫌いだとして、それなのに近しい者達が揃いも揃ってその様な鬱陶しい格好でいたらどうだろう。吐き気がするほど居心地が悪く、胸焼けするほど目に悪い。嫌悪感を抱いても仕方ないと思わないか?と。

 

 私はそういう身だ。生まれ落ちてからずっとずっと……私達(・・)を忌み嫌っている。

 私が……彼らと同じタマミツネだという事実を踏まえても尚、この気持ちは少しも変わらない。

 

 むしろ胸はざわつき、私の心により強い怒りと不快感をもたらす。水面に映る自分の姿を見るたびに生まれ変わってやりたいと心底思ってしまう。だとしてもそう思うだけで自殺などは御免だが……。

 

 この自然と野生の入り乱れる世界で『自分の容姿が気に入らないから』という理由だけで自ら死を選ぶなど、今も生きるために命懸けで戦っている者達に対して、大変失礼にあたる行為だ。

 

 それは派手さ以上に許し難い。私がそんな行為をするなど耐えられない。生きながらにしてこの容姿を私の理想の物にしてみせるのだ。

 

 私の憧れはあの『ドボルベルク』と言う竜だろうか。

 彼は素晴らしい。派手とは無縁の外見を持ちながら、その身には大木を軽々と叩き折る力が宿っている。

 

 天を衝く様な大木を一撃で折る瞬間を偶然見れた時は心の底から惚れ惚れしたものだ。

 思わず駆け寄って称賛を贈りたくなるほど清々しい強打だったが、地面に転がる丸太の様になりたくなかったので大人しく踵を返したのを覚えている。

 

 そう、彼らを一言で例えるなら『いぶし銀』と言うのが適しているだろう。華やかさは無くとも、実力やその技は折り紙付きだ。

 

 私もそうなりたかった。ああなりたかった。

 だから……あのぎらぎらして居心地の悪いタマミツネの群れから飛び出してやった。派手な物を好まない私にはやはりどうしてもあの中にいる事が耐えられなかったのだ。

 群れの者達も私をあまり良く思っていない様だったからお互いに取って都合が良いと言えるだろう。

 

 とはいえ、私はまだ群れを離れ、一頭で生きて行く様な歳ではない。成体より体格は一回り程小さく、戦闘の経験も浅い……ヒトで例えるなら青年期。17歳から18歳と言ったところだろうか。

 

 だがそれでも私は群れから飛び出した。

 居心地が悪かったと言うのもあるが、あのまま留まり続けていたら独り立ちする前に殺されていたかもしれない、という予感がしたからだ。

 

 群れをなす生き物というのは常に異常を嫌い、異質に怯え、異端を恐れる。それも、外部からではなく内部の『異』に対してだ。

 信頼のおける仲間が多数いれば外部のものに対してそこまでの恐怖は感じる事がないし、そもそも外敵や環境による突然の危機などあって当たり前。

 

 問題なのは内部から崩壊する事だ。そのために必要なのは群れにとって有害な者を省く事。

 極端に役に立たない者や、危険を呼び込む者。他の者と不和を起こす者もその対象だ。

 

 私は他のタマミツネにおんぶに抱っこなわけでもなければ、嫌ってはいたがわざわざ危険を持ってくる様な事はしていないので、切り捨てる判断をされるのであれば不和だろう。

 こちらからあからさまに嫌悪感を露わにした記憶も少なからずあるので間違いない。

 

 それに行動の他にも心当たりはある。まず一番に思い付くのは『知性』だろうか。

 こう言う事をあまり自称したくないのだが、私は他のタマミツネとは違い、ヒトの言葉を理解するくらいは可能な知能を持ち合わせている。

 

 おかげで嫌でも思い知らされるのだ。おかしいのは彼らじゃない、私だと。

 普通のタマミツネは自分がタマミツネという名である事を知らない。それが当然だ。それで正常だ。

 

 こうして自分や彼らをタマミツネと呼称出来るのも、渓流に来たヒトの会話から自分たちの名がタマミツネであると知ったからだ。

 知るところまでは良かったが、何を思ったか当時の私はその事を他の者に話してしまった。

 

 そこからだ、彼らが私を異常なモノとして見るようになったのは。今考えれば話すべきではなかったと反省している。

 そうして群れの者達と価値観や考え方に差が生まれ、日を重ねるごとに孤立して行った、と言うわけだ。

 

 まだまだ他の理由もあるにはあるだろうが、他は忘れているか、そもそも心当たりがないほど細かいものか、のどちらかだろう。

 

 纏めると『一切空気の読めていないあいつと関わり合いになりたくないから、無視を決めるかあからさまに嫌な対応をして追い払おう。なんなら殺してしまおう』……と考えていたのではないかというのが私の推測である。

 

 さて、私が憎き群れから飛び出した経緯についての話だったが、今度は現在私が置かれている状況を今一度確認してみよう。

 

 渓流を出てどれだけ経ったかは分からないが、とりあえずの第一目標である『あの群れと今後一切関わり合いの無い地へ行く』という目的は達成し、私は今見知らぬ土地を歩いている。

 

 ここは素晴らしい。

 見ているだけで胸がすく爽やかな青空と、その下に多種多様な動植物を育む豊かな水辺が広がっているとても居心地の良い湿原。

 

 しかし山へと向かえば、日中でも薄暗いほどに鬱蒼とし、そこかしこで鳥竜牙獣の鳴き声がこだまする原始的な森の中に入るなど、環境が二分している不思議な土地だ。

 

 中でも特に私の目を引いたのは森の中で発見した、見上げるほどに巨大な骨だ。辛うじて肋骨と脊髄だと推測する事が限界の圧倒的な大きさ。初めて見た時にはしばらく見入ってしまった。

 

 あてもなく歩き、直感頼りで行き着いた場所だが、それにしてはとても良い環境に来れたものだ。

 

 ……こうして新たな土地の素晴らしさを再確認したわけだが、ここまではあくまで良い所のみに焦点を絞って話していた。ここからは、今現在私の置かれている非常にまずい状況についての話だ。

 

 それは言ってしまえばとても分かりやすく、だが生きる者として避けては通れない……そう、食糧問題である。

簡単に言えば獲物を獲れる場所を知らないのだ。知らない土地なのだから当たり前のことだが。

 

 一応、日に何匹か魚を食べる事は出来ているが、渓流にいた頃の食事に比べればその場しのぎも良いところだ。

 魚だって私の様に生きているのだから同じ水場に留まり続けるわけがないし、無限に存在するわけでもない。

 

 昨日獲れた場所で今日も獲れる保証は無いという事だ。だからその土地に住み慣れている竜は狩場を一つではなく、多少の間違いが起きても自分の腹が満たされる最低限の数を記憶している。

 

 ならば私もいくつかそう言った狩場を見つければ良い……のだが、そう簡単には行かない。

 それらを探すのにも体力は使うし、それが知らない地形や環境なら尚更だ。とりあえず今は出来る限り体力を消耗しない様に水辺でじっとうずくまっている。

 

 ようやく見つけたとしても、そこを探すのにかかった体力と、獲れた獲物で回復した体力は釣り合うどころか間に合わない事がほとんどだった。そうして日に日に私の腹と体力は減っていき、一度や二度の食事では全快する事はなかった。

 

 本来なら草やキノコなども食べれない事は無いのだが、それは万全な状態での話。ヒトは体調不良を起こすと食性を大人しめの物に変えるらしいが、それと似ている。食べれない事はないだけでこんな体調でも吸収し切れるほど体に合っているわけではないのだ。

 

 しかも知らない土地の野草やキノコなど、死に急ぐも同然。私はそこまで危機感に重大な欠陥は無いつもりだ。

 

 だがそんな私の唯一の幸運といえばここが湿原地帯で水が豊富という事だろう。

 私の身体に合う環境で助かった。極端に気温が高かったり、逆に低かったりしたら食糧問題とぶつかる前に死んでいた可能性もある。

 

 ……しかし、それはあくまで環境による死を避けれただけの話であり、他の死は今も変わらずじわじわと私に歩み寄っている。

 

 まずい。どんな形だろうと死は嫌だが、特に餓死の様な後悔しそうな死に方だけはしたくない。

 意識が薄れる中で『新天地など目指さなければ』なんて考えるのはごめんだ。

 

 どうにかしなければ、と立ち上がり、再び狩場を求めて辺りを散策し始める。

 諦めてたまるか。そんな気持ちを胸に歩いていると、かなり遠くからだがギャアギャアと耳障りな声が聞こえて来た。

 

 おそらく渓流には居なかった種類のトカゲだろう、鳴き声に聞き覚えがない。だが声が複数あることから、群れをなす生態が存在することや、鳴き声で意思疎通を取っていると推測出来る。

 

 その辺りは渓流に生息していた『ジャギィ』と似ているが、もしかしたら他にも同じ様なトカゲがいるのだろうか。

 

 ……なんて事を気にしている場合では無かった。もし狩り方までジャギィと似ているとしたら今見つかるのはなんとしても避けたい……。

 奴らの狩りは速度と連携と数だ。そして、言うなれば私は奴らの狩場に立っているのだ。それも疲れ切った状態で。

 

 ここまで悪い条件を羅列されれば嫌でも分かる、自分が獲物側の立場にいると言うことを。

 ならばやるべき事は一つ、見つかる前に弱り切った体をなんとかしなければならない。

 

 目標ではないが目的は決まった。安全に睡眠を取れる寝床と安定した食事を取れる様にする。

 そのためにもまずは急いで腹を満たさなければ……!

 

 だがやる気で腹は膨れない。ぼやり……と視界が一瞬ぼやける。身体が限界が近付いている証拠だ。

 目を瞑ってぶんぶんと勢い良く頭を振る。そうする事で再び澄んだ視界を取り戻そうとするが、次に目を開けた瞬間、異常な事態が私を襲った。

 

 ……地面が立ち上がって私の左側面に密着し、青空は何故か私の右側にしか存在せず、更には草木が真横に生えている。ついでに言えば顔が半分水に浸かっており、継続的に鈍い痛みが走っていた。

 

 これは……転倒したのだな。休憩を挟みつつとはいえ、長距離の移動とあまりの空腹に体が酷使に耐え切れなくなった。

 

 急ぎ起き上がろうと地面に前足をついて首を持ち上げるが、湿原の水によりぬかるんだ地面で滑ってしまい、再度顔面を強打する事となった。

 泡で滑走する際、勢い余って横転するのを防ぐために歯止めの役割を持つこの爪も、こう疲労していると満足に地面を踏む事にすら使えない。

 

 ここまで無様を晒してしまえば、最期まで諦めるつもりは無いにしろ少しずつ考え始めてしまう。私はここでゆっくりと死んで行くのかと。

 こんな結末を迎えるためにやってきたわけではないのだ。ある意味……生きるためにここへ来た。だと言うのにこの様な……。

 

 ……まだ私はこの地に来ただけで何も成していないのに。まだやり残した事が……あるのに。

 

 まだ……死ねない。死なない。……死に……たくない……。まだ……まだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……て…………ミツ……さ……」

 

 ……声が……聞こえる……。

 

「……きて……タ……ツネ……さん……」

 

 遠くて……聞こえづらい……もう少し近くで……。

 

「……起き……なぁ……え…と……こに…入れ……っけ…。お……あちゃ…が持たせ……れた……弾っ…!あった………ご…んねタマ……ネさん…っ!え〜いっ……!」

 

 なんだか……嫌な予感がする言葉がちらほら聞こえた様な気がするの……だが────ぐぉおおおぉおっ!!?

 

 なっ……ななな何が起きたっ!?耳元で突然きぃいんっ、と頭に響く爆音……が…………何……故、私は生きている……?

 先ほど……何の疑いようも無く死んだはずでは……。

 

 ……混乱して仕方が無いが、とりあえず気になることが3つほどある。まだ爆音の影響で頭がきんきんするが、順に確認していこう。

 

 まず一つ目、何故か私が復活した事だ。いや、死んだ者が生き返る事はあり得るわけがないので、死の淵で謎の大回復を遂げたと言っておこう。

 

 これについては一切分からない。身体を見てみても特に異常な箇所は無いどころか身体は軽く、体力もスタミナも回復している。

 何もかも分からない……死に際に見ている夢だろうか?

 

 次に二つ目、飢えで死にかけたと言うのに口の中に覚えのある味と一切知らない味が混同して舌の上に残っているのだ。

 

 片方は……魚だ。それもあの一等美味な、黒と橙の体色に黄色いヒレを持つ魚。ヒトは確か……サシミウオ、と呼んでいたか。

 何かと混ざり合った後味だけでも幸福感を覚えるとはなんと素晴らしい魚なのだろうか。

 

 閑話休題。

 

 それで、もう片方の味だが……これはなんと言うべきか。

 渓流でうっかり口にした、あの頭痛がするほど苦い虫と似た味をほんの少し感じる様な感じない様な……その程度の断片的な情報しか推測が出来ない。これ以上は私じゃとても例える事の出来ない複雑な味だ。

 

 結構雑食な自覚があったのだが、まだまだ私の知らない味というものがこの世界に溢れている様だ。ついワクワクしてしまう。

 ……味の事になるとつい話が脱線してしまう癖があるな……。本題に戻ろう。

 

 それで3つ目なのだが……これも先刻の超回復と変わらないほどに理解が追いつかぬ状況だ。

 

「ん〜〜〜………!!」

 

 ………ヒトが……ヒトの少女が耳を塞ぎ、背を向け、身体を丸めている……様子を見るに目も閉じているだろう。

 夢だとしても……中々おかしな物を見せてくれる。流石にここまで現実味を帯びていれば、頑固に夢だ幻覚だと主張するのも難しいが。

 

 ヒトはこちらから害を与えない限り、あちらから干渉してくる事は滅多に無い。

 突然太刀で斬りかかるだとか、鎚で殴り付けるだとか、そう言った蛮行は一切行わないのが常識らしい。

 

 爆弾などもごく稀に使用している所を見かけるが、使用頻度の割には自分が巻き込まれない様にとても上手く当てている。おそらく訓練しているのだろう。

 と言うか相手にのみ当てないと彼らがまずいのだ。あんな私達でも当たりたがらないものにヒトが当たれば大なり小なり自殺行為も同然。

 

 石などを投げる手間を惜しみうっかり武器で起爆したりとか、小さい方ならとおふざけで当たる様な者はそもそもハンター以前の問題ではないだろうか、と考える。

 

 ……話が大分逸れてしまった。とにかく、私が少女を襲う事なく五体満足無事で帰せば良いというわけだ。

 

 だとすればこの少女に対して取るべき行動は……と、少し考えた後、お互いにとって平和的に終わる方法を思い付いた。

 

 本当は放置が一番良いのだろうが、予想が正しければおそらく私は彼女に言わなければいけない事がある。言葉が通じないと理解しているが、それに関しては心の有り様だと私は思っていた。

 

 とにかく善は急げ。早速行動に移してみるとしよう。

 少女の背中に前足を伸ばし、爪の背でちょいちょい、とこちらに気付いてもらえる様に……しかし過剰な刺激は与えない軽い接触をしてみた。

 

「ひゃあっ!?」

 

 すると少女はなんとも面白い声をあげながら、曲げていた足を思い切り伸ばして飛び上がる。思わずくすりと来てしまったが、それが表に漏れる事は無いよう堪えた。

 

 驚いた表情で混乱する少女を怖がらせる事の無いように少し後ろに下がって様子を見てみる。

 

「ひゃ〜……びっっっくりしたぁ……。今の何────あっ……!!」

 

 胸に手を当てて深い呼吸をし、気分を落ち着かせる少女。

 もちろんそれを急かす事なく待っていると、彼女がこちらを視認した。すると、接触した時とはまた別の驚いた顔を見せる。

 

 しまった……!そこそこ距離を置いているとはいえ、やはり自分よりも巨大な竜がすぐそこにいるというのは恐ろしいものか……。

 悲鳴を上げるか、もしくはすぐに踵を返して即逃走するか……。

 

「……タマミツネさんっ!よかった、起きたんだっ!!」

 

 ……先程から驚きと混乱の連続だ。少女との距離感を測り間違えた、と内心やらかしてしまった気持ちでいたのに、彼女は逃げだすどころか悲鳴も上げず、可愛らしい笑顔を向けながら嬉しそうに私の元へ駆け寄って来たのだ。

 

 改めて見ると、彼女は私の知るヒトの少女と姿も雰囲気も……どこか違う様に感じた。

 声や顔付き、体型などには多少の違いしか見受けられ無いのだが、不思議に思った点を挙げるなら、まず『髪型』だろうか。

 

 竜の角や爪の形より千差万別な部分だが、彼女は見た目から察するに10歳前後。それ位の年頃だと結えるほどの長髪が基本だと私は思っていた。

 

 しかし、目の前にいる少女はせいぜい耳に少しかかる程度の長さだ。これを機に短髪の女性もいると知れたのはいいが、初見だったので少し驚いた。

 

 そんな少し男性的な印象を受ける少女だが、拍車をかけるのは彼女の『雰囲気』だ。

 活発、と言えば一言で済むのだが、何と言うか……むしろこの雰囲気があるからこそ、彼女が男性的に見えるのかもしれない。

 

 関心と探究心と好奇心。それらを糧に、食事も摂らず寝る間も惜しんで『好き』を追求する……そんな輝きを秘めた雰囲気だ。

 そんな彼女も衣服に女性らしさがしっかり出ていたおかげで、後ろ姿でも性別の判断がすぐについたのだが。

 

 白地に桃色の柄と水色の縫い目をあしらった着物を薄紅色の帯で巻いており、背中には荷物が詰め込まれた鞄を背負っている。

 鞄の方は機能重視といった見た目だが、着物の方は素晴らしい。可愛らしく、素朴な美しさの篭った着衣だ。

 

 そんな風に私は思わず夢中になって着物を凝視していたが、彼女が口を開くと同時にはっ、と集中していた意識が通常に戻る。

 

「ひやひやしたよ〜……お薬飲んでも動かなかったから、死んじゃったのかなって……!」

 

 ……今の発言で確信を得た。やはりだ。他でもない、彼女が私を救ってくれたんだと。

 あの複雑な味はハンターが良く服用していた薬だったのか。私はハンターと直接戦闘した事は無いから目の前で見たわけでは無いのだが、他の竜と戦っている時に飲んでいる所を見た。

 

 ならば、先ほどの爆音もハンターが使用する道具の一種によるものだろう。

 聴覚の優れた竜などに食らわせるのが本来の用途だろうが、今回は気つけとして使ったわけだ。頭の良い子だ、物の使い方を工夫出来ている。

 

 武器や防具を纏っていない所を見るとハンターでは無い様だが……道具はおそらく保護者が持たせたのだろうか。何故一人なのかは不明だが、どちらにせよ都合が良い。

 自分の子供が竜の至近距離ではしゃいでいるとなればきっと慌てて彼女を連れ、逃げてしまうだろう。それは困るのだ。

 

 いや、別行動しているだけでもしかしたら近くにいるのかもしれない。それならやはり早く伝えて去ろう。

 私は少女に向かって深く頭を下げた。

 

 私の命を救ってくれてありがとう。君は命の恩人だ。君が薬と魚を分け与えてくれた事で私はこうして立っていることが出来る。

 本当は……どんな事であろうと君の望むままいくらでも尽くしたいのだが……おそらくこの言葉は君に伝わっていないのだろう。訳も分からず竜に恩返しをされ続けるのは迷惑にしかならないと判断した。

 言葉の壁に責任をなすりつけ、何も返せず立ち去る事を心苦しく思う。恩知らずですまない……。

 

 ……伝えるべき事、伝えたい事は全て言い切った。しばらくは申し訳なさで満足に眠れぬ夜を過ごすに違いない。

 しかし、その自責の念以上に強い感謝をいつまでも抱いて眠る事で、私の生涯はある意味彩られる事だろう。

 

 さて、すっかり全快した事だ。今度こそ早めに狩場と寝床を────

 

「えっ!!ど、どんな事でもっ!?タマミツネさんっ、それ本当の本当っ!?」

 

 …………は……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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