インターホンのボタンを押す。今日はやけに静かだ。チェーンを外すカチャリという音がしたのにドアが中々開かない。何かあったのかとドアを引いて部屋の中を覗くと、中から「入って」といううるかの声がした。不思議に思いながらもドアに鍵とチェーンをかけて部屋の中を進む。リビングのドアを開けると、白い競泳水着姿のうるかが目に飛び込んだ。
「というわけで水着着てみた! どう?」
「いや、うん。ちょっと待て」
うるかは自宅のリビングで競泳水着を着ていた。俺の恋人は何をしてるんだ。
「なに?」
「なんで水着着てるんだよ!?」
「成幸が好きって言ってたから」
「言ったけど! でも自宅でってのは違うだろ!?」
「これもう水泳には使えないやつだから大丈夫」
「そうじゃなくて……。場所考えろよ」
「……な、なんかそう言われるとヘンタイっぽいじゃん!」
そう言うとうるかは顔を真っ赤に染める。できれば着る前に思いとどまって欲しかった。
「むー。じゃあ着替えてくる」
「あ」
「……今あ、って言った?」
……しまった。こんなに速く心変わりするとは思わなくて、つい声が出てしまった。
「き、気のせいじゃないか?」
「水着着ててほしいん?」
「……いや、その」
「成幸が嫌ならもう着るの止めるよ?」
「…………いや、だから」
「もうちょっとだけこのままでいよっか?」
「…………はい」
「エッチ」
「…………はい」
完全敗北だった。そもそも勝ち目なんてなかった。好きな人が好きな姿でいるのを断る理由はどこにもなかった。というか勝ち負けの問題でもないし、ある意味勝ちとも言えるんじゃないだろうか。何に勝っているのかはわからないけど。
◆◆◆◆◆◆
うるかは水着を着たままでも普通に過ごしていた。うるかにとっては水着なんて着慣れているだろうからあまり気にならないのかもしれないけど、俺にとっては非日常的で、うるかが何をしていても目で追ってしまう。
俺の視線に気がついたのか、うるかがソファーに座っている俺の隣に腰を下ろす。水着姿で間近に迫られて心臓の鼓動が速まるのを感じる。うるかは色の混じった微笑みを浮かべていた。
「……自分で言うの結構恥ずかしいんだけど、あたしの水着姿も、水着の下も。見たいって思ってる男の人少なくないと思うんだ」
うるかが熱の籠もった声を耳元で囁く。
「でもね。こんな家の中で水着着てる姿見れるのも、水着の下まで見れるのも成幸だけなんだからね」
優越感をくすぐるように言葉を紡いで。
「コーフンした?」
最後に挑発するような微笑みを見せた。
俺の恋人はたまにこういう姿を見せる。誘う仕草が愛おしくて、彼女の期待に応えるように、返事の代わりに口づけをした。
「スイッチ入った?」
「入ったよ。今さら文句言うなよ」
そう言いながらうるかのことを押し倒す。水泳でしか着ないはずの白い競泳水着を着た恋人が自分の下にいるというのは、なんだか倒錯的だ。
「もー、ヘンタイなんだから、んっ」
「水着で待ってたお前が言うな」
「彼氏のセイヘキに合わせるいい彼女でしょ?」
「元はと言えばうるかのせいだろ。責任取ってるだけじゃないか」
「ちゃんと責任取ってるんだからやっぱりいい彼女じゃん」
「ああ言えばこう言う……」
「へへ。あたしの勝ちー」
うるかがとてもいい笑顔で勝ち誇る。そもそもパソコンで写真を集めていたのを見られた時点で手遅れだった。これ以上何を言っても勝てる気がしないので、うるかの口を閉ざすように今度は深く口づけをした。