親戚の子に冗談半分で読ませたら好評だったんで、ちょっとだけ直してアップします。
舞台は、原作終了後、1年が経過してからの物語となります。
書いてる本人その積もりなかったんですが、かなりシリアスらしいです。
久しぶりに読み返したら、結構重かったです。
重いプリキュアなんてよみたくねぇ! という方はやめた方がいいかも知れません。
4回くらいに分けて投下予定です。
1
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せつなへ
せつな、元気ですか?
今日は高校の入学式でした。すごく天気がよくて気持ちよかったので、帰りにカオルちゃんところでミキたんとブッキーと3人で入学祝いしたんだ。
せつなと一緒に入学式を祝えなかったのはすごくさみしかったけど、私もミキたんもブッキーも、またせつなにあえる日を楽しみにしています。
今度はいつあえるかな。入学式用にって、お母さんがせつなと私に同じデザインのワンピースを買ってくれました。
私のはピンク。せつなのは、もちろん赤だよ。
せつなと一緒に着るって決めてるので、今度せつなと会えるときまで箱から出さないでおきます。
忙しいだろうけど、体壊さないようにしてください。
せつなとあったときにしあわせ一杯ゲットできるように、私も元気にしてまってるからね。
約束だよ。
これ以上書いてると寂しくなるのでこの続きはせつなとあったときに。
またです。
4月7日 桃園ラブより
P.S.
大輔とは同じ高校だけど、今日の入学式でまたケンカしちゃった。
何か、前より気持ちがすれ違ってる気がする。何でだろ。前のほうが気持ち通じてたのに。
何か、悲しいよせつな。
何かが違ってるような気がする。
ミキたんもブッキーも大輔もおかあさんもお父さんも。
みんなの気持ちがわからない。みんな何考えてるのかわからないの。
あいたいよ、あって話がしたいよ、せつな。
こんな手紙かいてごめんね。
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東せつなは、胸中から溢れそうな懐かしい想いと温かな気持ちを胸に抱きながらその手紙を読んでいた。
一ヶ月に一度、地球とラビリンスとの間の時空が開く。
ラビリンスとの交易はその間に行われる。物資や情報、郵便物もその時に運ばれる。東せつながラブからの手紙を受け取ったのは、地球の時間で5月12日。ラブが手紙を交易所に預けてから一ヶ月以上たってからだった。
目を通し終わると、椅子から立ち上がり、デスク横の窓から外を眺める。
デスクの上には山積みになった書類とノートパソコンが置いてある。ラビリンスに戻ってからせつなが従事している仕事の資料だった。
かるく背筋を伸ばしながら、窓の前に立つ。外の風は強そうだが、流れる雲の後ろに広がる青空は胸のすくような青。
風にたなびく雲のひとつが、やがて二つのおさげを頭頂部に持った少女のような形状に形を変える。
ラブ…。
強い望郷の念がせつなの心にひた走る。
そう。私には故郷が二つ。このラビリンスと、ラブやみんながいる四ツ葉町。
せつなは、それがとても贅沢な悩みだとわかっていた。そして、自分の生まれ故郷であるラビリンスがいやになったわけでは決してないことも。だが、ラブたちと別れて1年。日ごとに胸に募る強い想いがあった。
帰りたい、四ツ葉町へ。
ラブやみんなやお母さんにあいたい。
でも、私にはラビリンスを四ツ葉町のような素敵な場所にする夢がある。そして、みんなを招待したい。みんなと一緒に喜びたい。
そして、大好きなラブにしあわせゲットだよ。ってあの笑顔で言ってもらいたい。
そのためには…せつなは唇を噛む。
今はこの気持ちに押しつぶされることはできない。
二つのおさげをつけた雲は、強い突風に吹かれ、細かに形状変えながら、やがてばらばらに霧散していく。
その様子を無言で見ながらせつなは強い意志を唇にあらわす。
そして、今度は口に出してはっきりと言った。
「そうよ。私はここで負けるわけにはいかないの」
でも…。脳裏に映るラブの顔にせつなの決意が少し曇る。
わたしもあいたい。ラブに。
せつなは霧散する白い雲をいつまでも目で追っていた。
2
桃園ラブは夕方の遊歩道を歩いていた。
四葉町にある四葉高等学校に通うことになった4月。
クラスメートの数人と打ち解けた頃、季節は汗ばむ梅雨前になっていた。
手ぬぐいで汗を拭きながら、ダンスチーム「クローバー」の親友たちと週に2回、日曜日と水曜日、すなわち今日。ダンスレッスンをやっている児童公園へと向かう。
いつもの階段をのぼって、いつものドーナツカフェへと向かう。
皆からカオルちゃんと呼ばれる時代錯誤のニュートラルックの店主が、短かめのマレットヘアにこってり塗ったポマードを夕日に輝かせながら、ラブに声をかける。
「よ、お嬢ちゃん。最近ずっと一番乗りだね。グハッ」
おどけながら白い歯を見せ、エナメルの白い靴のかかとを鳴らしながら軽くステップを踏む。
「こんな日には甘く切ないカフェオレでも飲む?」と冗談めかしながらいつものように聞いてくる。
ラブは「うん」と気のない返事をした。カオルちゃんがカフェオレの準備のため、店舗兼移動手段にしている古びたパステルグリーンのワーゲンビートルの奥に入っていくのをぼんやりと見とどけると、ビーチパラソル下のビーチチェアに腰掛け、ラブは空を見上げる。
カオルちゃんの一言が最近ずっとラブの心に引っかかっていた。
ダンスレッスンのメンバーの一人、モデルの蒼乃美希は高校進学後、モデル業務で多忙になり、ダンスレッスンに来るのが遅くなった。元々きっちりした時間を決めていたわけではないので、遅刻とはいえないかもしれないが、レッスンが終わっても慌しく帰っていく彼女を見てると、ラブは何か取り残されたような気分になってしまう。
もう一人のメンバー、山吹祈里は動物病院の娘だ。本人も動物病院を継ぐつもりでおり、進路は悩んだ末、私立白詰草女子学院中等部から、生物系が優秀で医大への進学にも強い紫詰草工業繊維大学付属高校へと転入した。
毎日のように課題とテストに追われ、彼女もまた、ダンスレッスンに来る時間が遅くなっていた。
「なんだろう。高校生って、こんなものなのかな」
3ヶ月前までラブの思い描いていた高校生活。「変化」という名の希望のイメージは、目の前で目まぐるしく姿を変える「変貌」という名の現実にいとも容易くひっくり返された。確たるものの何もない15歳の心には空虚な風が吹きぬけた後のような、そんな薄ら寒い空洞がぽっかりとあいていた。
「しあわせ、ゲットできてないよ、せつな」
ラブは、1年以上あっていないもう一人の親友の顔を思い描く。彼女の義理の姉妹でもある東せつなの顔を思い浮かべると、ラブは少し安心するのだった。
やがて、エナメルのかかとをリズミカルに鳴らしながらカオルちゃんが、カフェオレと青いミントチョコのコーティングにカラフルなチョコチップをちりばめたドーナツを載せた盆を持ってくる。
「はい、これがおじさんの新作。青春の青はナーバスの青。このドーナツの青も青春の青。ナーバスとドーナツ、発音似てるね。グハ」
いつもといえばいつもの発言の脈絡のなさにラブは苦笑する。そんなラブに白い歯を見せながら 、
「お嬢ちゃんのさ、青いナーバス、青い空みたいに変えちゃってよ、これ食べてさ」
ラブにはその一言がとてもうれしかった。いつもの軽口、いつものドーナツ。ここは1年前と変わらない。
「ありがとう、カオルちゃん」
ラブは笑顔とともにその青いドーナツにかぶりついた。
その直後、「ごめん、ラブ」と美紀が手を合わせながら走ってくる。
「撮影中、二回もポーズ間違えて撮影が長引いちゃった。撮影スタッフの人たちにもラブにも迷惑かけて、ぜんぜん完璧じゃないわ、あたし」
息を切らせながらカオルちゃんに「カオルちゃん、あたしアイスティーお願い。思いっきり冷たいの」と元気よく注文し、改めてラブに頭を下げる。
申し訳なさそうにラブに頭を下げる美希の姿にラブは安堵したような顔を浮かべ、その直後大きな声で笑った。
吃驚して目を丸くした美希に「なんでもないよ」と笑いかける。
運ばれてきたアイスティーを一気に半分近く飲み干して、あたりを見回した美希が「あれ、ブッキーは」とラブの顔を見る。
ラブは「ううん。まだ。今日はブッキーが一番最後かな」と首を振る。
たわいない日常のことをジョークを交えながら談笑しつつ祈里をまっていたが、しびれを切らしたように美希が「それにしても遅すぎないかしら」と焦りの表情を浮かべる。
美希は携帯代わりのリンクルンを掴むと、祈里の番号にかける。
何度もかけ直し、次第に表情が険しくなる美希の顔を覗き込みながら、ラブは「どう」と不安げな表情を浮かべる。
「おかしいわ、電波が届かないのメッセージばっかり聞こえる。3回ともよ」
慎重な祈里の性格上、考えにくいことではあった。
「もしかして、なにかあったんじゃ」
ラブと美希は顔を見合わせた。
焦燥に駆られ、祈里の実家にも電話をかけようとしたラブたちを、少し待ってみたらとカオルちゃんがたしなめる。
「なんか起こったかどうかまだ決まったわけじゃないからさ、とりあえず日が暮れるまで待ってみてそれから動くってのはどう?そもそも、おじょうちゃんたちはプリキュアなんだからさ。焦る必要ないんじゃない」
そう言いながらグハっと白い歯を見せる。
ラブと美希は思い出したように顔を見合わせる。そうだ、私たちはプリキュアなんだ。何か事件が起こっていたとしても、キュアパインなら大抵のことならどうにかすることができる。久しくプリキュアに変身することもなく、ごく当たり前の生活を送っていた彼女たちは、自分たちの秘めたる力を思い出す。
それに、本当に電波の届かないところにいるのかもしれない。リンクルンは携帯電話としての機能はあまり高くない。先日、高架下で電話の通信が途切れた事をラブは思い出した。
もう少し待ってみようかと美希に目で合図し、追加のドーナツを二個頼む。15歳のメンタルは、おなかの満足度にずいぶんと左右される。
「ミキたんもドーナツ食べない?ダイエットしてるのはわかってるけど」
美希が普段から体型維持のため、固形物の甘味を我慢していることをラブはもちろん知っていた。だが、最近の美希が情緒不安定に見えるのは、ここ最近の厳しいダイエットに起因していることであるとラブは気づいていた。美希が仕事のために厳正な食事制限をするようになってから、常に焦燥感に駆られているように見える。ラブにはそれを見てるのが少しつらかった。
「食べてもダンスでカロリー消費したら良いよ。あたしも付き合うから」
ラブの悲しそうな瞳を見て、彼女が心底自分のことを心配している心にほだされたのと、ダイエットを伴う仕事のストレスが自分の言動に少なからず表れてしまっていることに恥を感じた美希は、緩和のためにあっさりと食欲を少し開放する。
「わかった。あたしも食べる」
ドーナツ生地にココアを練りこんだ上にブラックベリーとほんの少しのシソを混ぜたシュガーコーティングがなされた商品名「紫のハイウェイ」を2つ頼むとラブに見返り、「ありがとう、ラブ」と礼を言う。
成長期の少女には過酷なダイエットと甘い誘惑が伴うモデル業務は自己顕示欲と強烈な自信を必要とする。だからといって、複数の異性との爛れた交遊や喫煙やアルコール等の、少女にあるまじきと言えば額面上はそうだが、同世代のモデル仲間のほとんどがやっている安易なストレス発散法をよしとしない美希の高いプライドが、そっと手をさしのべてくる親友の純粋な心に暖められ、必死でこめていた力が全て緩みそうな感覚に陥り、美希は涙を流しそうになるのだった。
「本当にありがとうラブ。あたし、ラブたちがいなかったら駄目だったと思う。ラブやブッキーやせつながいるから、あたしはあたしのまま頑張れる」
親友の感謝の言葉にラブは照れ、「なに言ってんのミキたん。あたしは何もしてないよ」とおどける。
美希はラブの照れ隠しに深入りすることもなく微笑んで、ポマードの甘い香りとともに運ばれてきた「紫のハイウェイ」を口に入れた。シソのすがすがしさが、美希の心を穏やかにさせる。
しかし、祈里は結局、日が沈む8時を過ぎても来なかった。
その日の夜はひっきりなしにかかってくる電話や、桃園家、山吹家、蒼乃家の人間がお互いの家に出入りし、美希は泣きじゃくる祈里の母、尚子を必死に慰めたり、ラブは母のあゆみ、祈里の父である正とともに警察に話をしにいったりで、まともに眠れず、緊張と疲労に包まれて朝を迎えた。
3
暗雲たれこめる空の下、かつてメビウスタワーと呼ばれた超高層ビルは彼方のほうで時折光る雷を反射して不気味に光る。
その入り口の前で、東せつなはテスターとノートパソコンを入れたバッグを抱えて、空を見上げる。
「じきに雨が降りそうね、この天気だと」
いつものように冷静な口調を背中越しに聞きながら、西隼人、ラビリンス名でウェスターは高圧線と工具箱をぎっしりと載せたキャスターを押す。
「そうだな。荷物の搬入だけでも急がないと」
少し歩のスピードを速めて二人はタワーの中へ入って行く。
二人の到着を待っていた南瞬、ラビリンス名でサウラーは腕を組みながら近づいてきた。
「待ってたよ。来てもらって早々いうのもなんだけど、厄介な仕事だ」
あくまで無表情を崩さず、しかし、その姿の端々に悪戦苦闘から来る疲労を滲ませてサウラーは言った。
サウラーはこめかみをもみほぐすように強く押さえ、咳払いをひとつして続けた。
「実は、2日前から地球とのアクセスが不能になったんだ。まだ、ここだけの話だけどね。この事実を知っているのは、今知った君たちを含めても数人しかいない。僕は元々メビウスタワーの住人だし、時空歪曲にもそれなりに知見があったから、原因追求に駆り出されていたわけさ」
その話を聞いたウェスターは怒りとも焦りとも取れない表情を浮かべ、噛み付くようにサウラーに迫った。
「一体原因はなんだってんだ? 地球とアクセスできないってどういうことだよ。それに」
ちょっと待って。
言葉をさえぎるようにせつなが割って入る。
「ちょっと待ってウェスター。今は原因追及とその改善が先。ここで私たちが取り乱しても事態は一向によくならないわよ」
せつなは15歳とは思えぬ落ち着いた物腰で、サウラーの方へ向き直り続けた。
「で、原因はわかったの?」ただ、その声は焦りの色を隠しきれていなかった。
せつなの胸中を察したサウラーは深く瞬きをし、ウェスターが引っ張ってきた台車の方へ目配せし、わかったから、それを持ってきてもらったんだよ。と、微笑に疲労を浮かばせる。
「このケーブルはなんなんだ?φ70mmの波動ファイバーケーブルなんて特殊な物をこれだけそろえるのは苦労したぜ」
ウエスターが腑に落ちない顔を浮かべた。
「で、その真意は?」せつなはサウラーの瞳を覗き込んだ。
あせらないで聞いてほしい。と一拍置くと、サウラーは再び口を開いた。
空間転移装置が破壊されたんだ。それも爆弾でね。情報はもちろん物資も人も転送できない状態になっているのが現状さ。そして、総合コンピュータ『HOPE』はこの事象をテロだと判断した。
せつなとウェスターは凍り付いていた。「破壊」、「テロ」サウラーの言葉は二人の想像の範疇を超えていた。
静寂を破ったのは搾り出すようなウェスターの声だった。
「そ、それは、たしかな情報なのか。HOPEはメビウスとは違い、1世代前の第五世代のAIだ。間違いってことはないんだろうな」
間違いはないわね。どこかあきらめるようなせつなの声が割って入った。
「第五世代といっても、自我に目覚めることがないだけで、単純な演算と分析の性能ならメビウスと何ら差はないわ。『HOPE』がそう判断したなら、おそらく間違いはないわよね」
確認を取るようにサウラーに向き直ると、そうだ。と、せつなに同調するかのようにサウラーの声が続いた。
「それに、テロの傾向は以前からあったんだ。君たちもサウスブロックで以前から起こっていた暴動まがいの一連の騒動は知っていただろう。それに、『HOPE』は以前からテロの起こる可能性は示唆していた。考えられない事態じゃないんだ」
深いため息をつき、サウラーは続ける。
「メビウスの洗脳政策が崩れちゃったからね。いずれこんなことも起こるだろうってのは僕だって予想していた」
サウラーは少し間をおいて、「僕個人の気持ちとしては、考えたくもなかったけど」と悲しくつぶやいた。
100年前、自我に目覚めて暴走した第六世代AIメビウスによるラビリンスの圧制は、一年前、突如として終焉を迎えた。
違う次元の世界から来た4人の少女『プリキュア』がメビウスによる支配を打ち破ったからである。
その結果、人々は解放され、ラビリンスには再び人間の世界が戻った。
だが、それは決して一概に平和が訪れたというわけではない。
メビウスが長い間、ラビリンスを掌握できたのは、物理的、心理的、環境的な洗脳政策を布いていたからであった。
メビウスは人間のタイプを大きく4つに分けた。管理、製造、分析、調整と。その4種類のタイプの人間をランダムにかつ遺伝子的に偏らないように選択し、人口受精させた卵子を人工子宮『ウテルス』により成長させ、完全管理下の元、人口を調整した。
食料は完全配給制とし、人口食料には人間の生理的欲求、主に、食欲と性欲を減退させる各種ホルモン剤が配合された。
人が強い衝動に突き動かされることがないように、軽い鬱状態を持続させるための生活リズム、都市の配置、環境を整えた。
そのようにすることで、ある意味「恒久的に平和な」世界を維持することができたのである。
それは人間が一つの部品として構成される世界だった。メビウスの考えた完全なる平和な世界とは、何の障害もなく永遠に回り続ける車輪だった。
だが、それは崩れてしまった。
治世の知見がほとんどないラビリンス人は、メビウス支配が起こる前のラビリンスの記録から国をもう一度再建するための手がかりを探したが、それらの資料はメビウスにより全て消去されていた。
そして、全体的に知能の高いラビリンス人のなかでも、特に知能の優秀な数人が、他の平行世界へと研修に出かけた。人間世界の治世の基礎を学ぶためである。
その間、基礎的な組織編制とコミュニケーション能力の強化策として、一つの組織を構築する基本的な人員編成を計算し、その中で生活するという対処策を行うことに決定した。
食料は以前と変わらぬ配給制が採られたが、3食の食事のうち、1食だけは好きなものを食べられる施策がなされた。
コミュニティを構築するメンバーや食事のメニューはメビウス亡き後のラビリンス管理システム『HOPE』が行った。意思を持たぬ第五世代AIだが、世界を統治するのではなく、AIは管理し、状況を報告するという役割以上をするべきではないと判断したラビリンス人の決断である。
「それにしても、食糧問題が起因の暴動って、この数ヶ月、やけに規模を増していないかしら」とせつなを首をかしげる。
ウェスターは深刻な表情を浮かべながら、「ああ」と確認するかのようにつぶやく。
3ヶ月前から急に規模を増したんだ。考えたくはないが、もしかしたら――
言いかけて止まった。それを言うべきかどうか、ウェスターには結論が出せていない。
「誰かが先導している可能性も十分に考えられる。『HOPE』だって、それは予測できる可能性の一つにあげてきたさ」
続けたのはサウラーだった。
「誰がそんなことをするの? 一体なぜ」
せつなは身を乗り出す。必死で押さえている手綱が手から離れそうになっていた。
あくまで可能性の一つだよ、イース。自分に言い聞かせるように落ち着いた態度でサウラーがこたえる。彼とウェスターはいまだにせつなのことをイースと呼ぶ。以前、せつながそれに不満を持ち言及したところ、彼らから出てきた言葉は「あだ名みたいなもんだ。それで呼びなれてしまっているからな」との返事だった。
慣れって怖いわね。と、せつながつぶやいた。
「多分、暴動のない世界ラビリンスっていう先入観が私たちにはあるのよ。地球にいたとき思わなかった? どうしてこの世界って諍いばかりあるのかしらって。ラビリンスと比較して、心の奥底では、地球人は劣っているって思わなかった?」
サウラーもウェスターも何も答えようとはしなかった。
せつなは構わず続けた。
「私の心の奥底には多分、そういう感情があった。転生した後も。だから、ラビリンスでテロが起こるなんて信じられないと思ってる。理解できるけど、理解したくないって」
こんなことで国を再建なんてできるのかしら。今起こっていることすらまともに直視できないなんて。声には出さずせつなは言った。
「イース」強い口調でウェスターがせつなをにらみ付けた。
「冷静になれといったのはお前だ、イース。ラビリンスを一刻も早く再建したいと焦ってるのは知ってる。俺もサウラーも知ってるんだぞ、お前、この1年間まともに寝ていないだろう」
うつむいたせつなを諭すように、語気を落としてウェスターは続けた。
「お前が半分は地球人になってしまったのは理解している。桃園家の家族になったことも理解している。だから、早くラビリンスを再興して、地球の連中にほめて貰いたいと踏ん張ってるのも知ってるさ。でも、自棄を起こすな」
せつなは完全に沈黙した。渦巻く感情に翻弄され、何をしゃべったらいいのか自分でもわからなくなっていた。
とにかく、と、ウェスターは続ける。
これがテロだったとしても、まだ誰も死んではいないんだ。それに、相手の目的も正体もはっきりしていない。そんな状態で今俺たちにできることは、地球とのパイプを一刻も早く修理することが先決だ。
「ウェスターの言うとおりだよ。まずは装置を直す。テロかどうかの追求と犯人探しはそれからだ」とサウラーが後に続いた。
ところで、と咳払いをし、「イース。君のリンクルンはまだ使えるのかい」と、せつなの肩にかかったバッグを一瞥した。
「アカルンで、地球に行けってこと」と上目遣いで尋ねるせつなに、「そう。察しがいいね」と微笑む。
「僕らがケーブルを交換していくからさ、地球側からテスターで相対状態が機能しているか計測してほしい。君はメビウスの時代から地球への出撃回数が多かったし、時空歪曲における正常時の電圧のフレ方とかよく知ってるだろ。ウェスターが一番多いんだけど、彼はその辺のことに関しては相当疎いからね。」
せつなは、機嫌悪げな表情を浮べそっぽを向くウェスターを一瞥し、からかうような笑みを浮べる。
「ある程度はね。ウェスターが出撃した後、同調が狂った装置を再調整してベストセッティングを出したのは私だし。でも、空間歪曲は専門じゃないわよ。私は経験論でしか決断できないわ」
「それでいいんだ」とサウラーが強い口調で言う。それでいいんだ、イース。正確な数値よりきみ自身の判断が必要なんだ。破壊されたとき、カウンターやトランスミッターにもダメージを受けていて、数値が全く当てにならないんだよ。と少し眉間にしわを寄せると、さらに続けた。
「とにかく、空間転移ができるようになるのが第一優先事項だ。正確な数値は、無事時空が開くことがわかった上で調整する。時空さえ開けば、転移することは全く問題ないからね」
「わかったわ」せつなは、強い意志を秘めた瞳でサウラーを見た。
ショルダーバッグから、赤い携帯電話のような形状のものを取り出す。赤いリンクルン、アカルン。
ラビリンスで携帯電話として使用できないアカルンは何の実用性もない。せつなが肌身離さず持っているのは、アカルンをそばに置くことで、地球の家族や仲間たちとつながっている感覚を持ち続けられるからだ。
特に、ラブとの繋がりを強く感じることができるからだ。それは誰にも言わなかったが。
「じゃ、行ってくる」と告げると、せつなはアカルンのスイッチを入力し、マイクに「地球、交易所」と短く告げた。
時空を移動する直前、せつなは少し前に、サウラーに言われた事を思い出した。せつなのアカルンが瞬間移動能力なのは、せつなの肉体が二つの時空の要素から成り立ってるからじゃないのだろうかと。
時空移動と相性がいいってことかしら?そんな疑問を抱きながら、せつなの意識は肉体とともにスライドしていった。
4
「ここはどこ」
「これからどうなっちゃうの」
「死にたくない」
「お母さんどこ」
「怖いよ」
「お腹減ったよ」
山吹祈里は頭を駆け巡る悲痛な声に起こされる。
薄い桜色に濃い紫の縁取りが入った、紫詰草工業繊維大学付属高校の制服が、汗でびっしょりと濡れていた。人気のない、ステンレスとプラスティックでできた教室が無機質に祈里を見つめる。
正午過ぎの日差しが差し込む窓の周囲だけが、教室にいる間の祈里にとっては安らぎだった。
全身が重かった。いつもなら安らぎを与えてくれるはずの、ひまわりのような午後の日差しが、重いまぶたの隙間から容赦なく祈里の瞳を突き刺す。
「わたし、また教室で眠ってたのね」
授業が終わって力尽きてしまったらしかった。
硬い椅子にもたれかかる。
疲労が祈里の全身を包み、先刻の声が頭の中から離れなかった。
しんどくて、つらくて、悲しくて、痛くて、寝不足の眼に涙がにじんだ。
力の入らない重い腕を持ち上げ、時計に目をやる。ラブたちとのダンスレッスンの時間には少し時間があったが、祈里はデスク内の荷物を鞄に詰め込んだ。息が詰まりそうな教室から早く外に出たかった。
クラスメイトたちは授業が終われば早々と学習塾に向かう。彼らにとっては学校の授業よりも大切な授業が待っている。
―いまどき、学習塾に入らなければ、大学への推薦すらもらえませんよ。ご存知かもしれませんが、今の高校教師には何の力もないんです。
入学直後に行われた三者面談でそんな教師の声に猛反発したのが祈里の父親、正だった。
高校、大学と奨学金を受けて通っていた苦労人の正は、受験勉強だけをする教育機関など祈里に必要ない。と教師の前で声を荒げた。だが、その帰り、冷静さを取り戻した正は「学習塾に通うなら、お父さんの大学の後輩に聞いていいところを紹介してもらうぞ」と祈里を気遣ってきた。
そんな父に「いいの。私、推薦状なんて要らない。試験でいい成績とって高い順位につければ大学入学できるんでしょ。3年間、頑張るから」と祈里は微笑んだのだった。
大学受験への最短距離を自ら放棄した祈里は昼夜問わず必死で勉強した。ラブや美希、そしてせつな、家族や商店街の人たちの笑顔が支えだった。
だが、そんな祈里の足元を挫く出来事が昨日起きた。
昨日、祈里の高校のOGが大学の実験で使用する野良猫を、高校の周囲で捕まえた後、校庭の隅に設置された空きの鳥小屋へ一時的に保管していた。
生物系の大学で行われている動物実験の存在は、もちろん祈里も知っていた。それが必要なものであることもわかっていた。だが、その現場を見たことはまだなかった。
元々、感受性が強く、動物の声を翻訳できるリンクルンであるキルンを持つ祈里には、知らず知らずのうちに動物の意思を感じ取れる感覚が身についていた。
気分転換に出た校庭で、何かの悲痛な訴えを感じた祈里は声に導かれるまま猫が監禁されていた鳥小屋をみつけた。
「ここはどこ」、「これからどうなっちゃうの」、「死にたくない」、「お母さんどこ」、「怖いよ」、「お腹減ったよ」
衝動的に、鳥小屋の扉を開けて猫たちを逃がした。
そのまま悲鳴を上げたくなる思いをこらえて家に逃げ帰った。
祈里は昨晩、結局一睡もできず、勉強も手につかなかった。教科書をめくるのすら苦痛だった。
動物実験は、医療に携わろうとする人間なら誰もが通る道だと思うと、父母はおろか、ラブや美希にすら相談できなかった。
朝の登校時には、学校の教室が暗く冷たい牢屋に思えた。授業中も教室にいるのが苦痛で仕方なかった。
鞄を掴み、重い身体を引き摺るように教室を後にした祈里は、いつものドーナツカフェへ向かうルートから外れた。
どこへ行くというわけでもなく、普段歩かない道を歩いた。いつもの優しい景色が、今の祈里にとっては苦痛だったからだ。
祈里は、四ツ葉町の外れ。町の北東に位置する4階建ての小さなビルの前で足を止めた。
そこは、四ツ葉町に住む人たちしか知らない小さな秘密の港、ラビリンスと四ツ葉町をつなぐ次元転送ポイントだった。稼動するのは基本的に一月に1回だけ。祈里もめったにこのあたりを通ることはない。四ツ葉町の中でも、最も人通りの少ない場所だった。
現状、生まれたばかりの国であるラビリンスにとっては、パニック対策と犯罪対策のために輸出入は最小限に留めておくことがベストであると、ラビリンスのブレーンと民衆が多数決で出した結論である。
そして、その決定こそが、新生ラビリンスで行われた最初の民主主義でもあった。
ふと、せつなのことが祈里の頭をよぎった。冷静で強くて優しいせつななら、こんなときなんて言うだろう。ラブは一緒に傷ついてくれるだろうが、彼女は優しすぎる。そして、一見、クールな美希が一番情熱家で感情的なことを知っている祈里は、冷静で優しいせつなの横顔を思い浮かべた。
入り口のシャッターには円弧の中にアルファベットのAが入ったマークがついていた。肩を組み合って支えあう人がエネルギーの波動を作る、ラビリンスの言葉で民主主義を意味する。ラビリンスにとって、この施設はある意味で民主主義の象徴のようなものだった。
扉のマークを見て、これ、この世界じゃ、アナーキズム。つまり、無政府主義の意味なのよ。と、3人で電話しているときに、美希がうっかり口を滑らせたときのせつなの言葉を思い出した。
そう?でも、政府なんて基盤がなくったって、人が支えあって一つのことを成し遂げられたら素敵だと思わないかしら?それこそ、4枚の葉で一本の茎を支えあう四葉のクローバーみたいに。彼女はそう言って笑ったのだった。
そんなせつななら。自分の疑問に対するこたえを知っているのではないだろうか。祈里はそう思った。
彼女がいまラビリンスの復興に向けて必死でがんばっているのは知っている。そんな彼女に自分のちっぽけな悩みを聞かせたくないとも思っている。でも、全然関係のないことでもいいから彼女との繋がりが欲しいと思った。
そう思いながら、ポケットに入れていたしおりを握り締めた。四葉のクローバーをかたどったしおり。以前、祈里がせつなの為に自ら刺繍し、結局、渡しそびれていたものだった。
祈里はシャッター横の呼び鈴を押す。1秒もしないうちに、無機質な女性の声が聞こえてきた。この港の門番でもあるコンピューターの合成音声である。
なにか御用でしょうか?
「あの、東せつなさん…ラビリンス総統府東部在住の、ES…えっと、国民番号ES-4039781さんにお届けしたいものがあるんですけど」
もうしわけございませんが、現在、臨時に時空転送を停止しております。機械音声は抑揚のない声で祈里にそう告げた。
「あ、あの……、いつになってもいいんです。手続きだけでもさせていただけないでしょうか」
祈里は続けた。せつなのためにここに来て、せつなに何かをしたい。その証が欲しかった。
ブッキー?
祈里のあだなを呼ぶ声が聞こえた後、突然、シャッターが内側からガラガラと開いた。
シャッターの奥から出てきたのは、赤い色の作業用ツナギを身にまとったせつなだった。
「せつなちゃん!」泣きそうになるのを我慢して、祈里はせつなを見つめた。せつなもまた、驚きと感激を隠しもせず、「どうしたの?」と聞き返す。
衝動的に、祈里はせつなの手を両手で握っていた。祈里はうつむき、涙を必死にこらえる。せつなは、そんな祈里に照れたように微笑み、「もう」と口を尖らせた。
「ラビリンスが復興するまであなた達に合わないって、自分自身に誓ってたのに。その私の誓いはどうなるのよ」と目尻に涙をためて、再び微笑んで、笑った。
「おい! イース、どうしたんだ」ウェスターの声が二人に割って入った。無線機のスピーカーからの音がウェスターの大声に割れて、妙にこっけいだった。
「ごめん、ウェスター。すぐ作業を開始するわ」大きく元気な声でスピーカーに向かってそう言い、バッグからテスターを取り出した。
「ごめんなさい。わたし、邪魔しちゃったかしら」と困った表情を浮かべた祈里に、「大丈夫。作業が終わるまでそこで待ってて」と、せつなは微笑む。
「でも」といいかけた祈里に、「お願い」と、強い口調で顔をしかめる。
「お願い、ブッキー。私、あなたとお話したいの。自分から会いに行くつもりはなかったけど、これはきっと神様がくれた小さな幸せよね。ラブならそう言うわ。だから、私、あなたとの再会を楽しみたいの」
表情を笑みで崩すせつなに、祈里は思わず声を出して笑ってしまう。
「せつなちゃんって、そんな性格だった」祈里は、笑いながら思わず聞いてしまう。祈里の記憶の中のせつなに、こんな楽観性はない。
「きっと、ラブの影響ね。毎日、みんなのこと考えていたから。ううん、こういうこと言うのは、案外、美希かも」
おどけるせつなに、祈里は「そうかも」と微笑んだ。
無線のスピーカーから聞こえる、金属がこすれ合う音、質量の大きな物を移動する音。
その後に、ウェスターとサウラーの声が聞こえる。
「一番のケーブルを交換した。サウラー、まずは一番の電源を入れてくれ。俺は今から二本目を交換する」
「今、電源を入れた。イース、そっちはどうだい?同調は取れそうかな」
せつなは、時空転移装置の制御盤に繋いだテスターを見ながら「まだ正常値にはかすりもしてないわよ。もっとマイナス側に電圧振って」と応える。
「で、そっちの損傷はどうなの?ウェスター、破壊の規模はどの程度」テスターに繋いだノートパソコンのキーを打ちながら、せつなは聞いた。
無線越しにウェスターの言葉が詰まっている。その後、「あー」と返答に困ったように声が聞こえた。
「お前は見なくて正解だったよ、イース。ひでぇもんだ。こりゃ、まさしくテロだな」と続ける。
サウラーはため息を一つつき、「僕が最初に入ったときは装置自体が滅茶苦茶。この装置の命とも言える量子演算装置だけは生きてたからまだ助かったけどね。一応、同調取ったら動く程度には直したと思うんだけど」と疲労に眼を細める。
ウェスターは、ヘッ。と短く笑い、「さすがだぜ。地球の言葉じゃ、お前みたいなのをオタクっていうんだろ」と感心ともからかいとも取れる口調で続けた。
「失礼だな。僕はオタクじゃない。僕に人形収集の趣味はないよ。それに地球の言葉だと、ヒキコモリって言葉が一番僕のライフスタイルに近い」
「あのな、サウラー。それ、もっとひどい言葉だぞ」と呆れた口調で返す。
「二人とも静かにして。気が散るわ」上目使いでスピーカーをにらみつけるせつな。
スピーカー越しに気まずい空気が流れ、「すまん」と、ウェスターの声が聞こえた。
「まぁ、いいけど」せつなは短く笑って、テスターとパソコンのディスプレイを交互に見る。
せつながテスターの数値をパソコンに入力し終わったころ、「こんなものでどうかな」とサウラー。
「いいところまで来てるけど、今度は振りすぎ。後、1.5ほどプラスに振って」せつなはスピーカー越しにそう言う。
数分の後、「よし」とサウラーの声が聞こえた。
いけそう?とせつなは首をかしげる。その後、何とかなりそうだと力強く応えるサウラーの声。
「今から一番目を本接続する。何もないと思うけど、強い電流が流れるから用心のために君は少し後ろに下がって、同調を見ててくれ」
せつなは、サウラーの声に「わかったわ」とこたえると、テスターとノートパソコンを抱え、制御盤から離れる。祈里が立っていた位置まで下がり、「少し、時間ができた」と祈里に微笑んだ。
祈里は、制御盤とその奥にあるぶ厚そうな扉をしばらく見つめ、せつなの横顔を見つめた。
「あれが、時空転移装置なの」
「ええ、そう。ブッキーは見るの初めてよね」
昔、イースだった頃からの付き合い、と言いかけてやめた。せつなにとって、イースだった頃の記憶はまだ冗談にできるほど角が取れていない。
祈里は心配と疑問が混じった表情で、どうしたの?とせつなに聞く。「何でもないわ」とせつなは微笑んだ。
「もしかして、壊れたの?」と、インターフォンのコンピューターとのやり取りを思い出しながら祈里が聞く。しばらくの沈黙の後、「そう。さっきの会話を聞いていたらわかると思うけど、多分、誰かによって破壊された。私は修理のためにここに来たのよ」せつなは悲しくこたえた。
祈里は、驚愕を隠すこともなく、だれが? なぜ? つぶやくようにせつなを見つめ、一年前、メビウスを撃破したときのことを思い出していた。四ツ葉町に帰るとき、ラビリンスの人はみんなすごく楽しそうだった。優しく、団結力に満ち、その瞳は喜びと誇りに満ちていた。そんな人たちが…。祈里は沈黙した。
多分…。せつなの言葉が沈黙を破る。
「多分、何か大きなことをするというのは、そういうことなのよ。ラビリンス人が犯人かどうかはまだわからないけれど、恐らく間違いはない。壊されたのはラビリンス側の装置だけ。地球側は大丈夫だったもの」
テスターの数字を見つめながら、せつなは続けた。
「これは良い悪いの問題じゃない。右を押せば、左が出る。新しいことをすれば、必ず抵抗だってあるし、予想もしなかった問題が起きる。綺麗なものを維持しようとすれば見たくないものも出てくる。綺麗な飲み水を確保する上水道を維持するために何が必要か、わかるでしょ」せつなは祈里に向き直る。
祈里は、あ……と少し頬を赤らめ「下水」とこたえた。せつなはクスリと笑い、少し自嘲気味に「私だって、理屈ではわかってるけど、ぜんぜん納得していないわ。だって、こんなことが起こるなんて思っていなかったもの」
でも、社会は人の構成体。人をまとめようとすれば、反発する人が出てくるのは、当然のことよ。
自分自身を納得させたげにも聞こえるせつなの言葉に、祈里は黙る。祈里と少し違うとはいえ、せつなもまた物事の表と裏という深刻な悩みを抱えていたのだった。そして、彼女自身もこたえを出せていないことを知り、安堵と悲しみ、そして愛情が湧き上がってきた。
―でも。
―イースでいた頃の自分がいるからこそ、私はせつなでいられる。ラブやみんな、お父さんやお母さんとわかり合えたのは、イースだった頃の私がいたおかげ。せつなは、口には出さず、そう言った。
「イース、聞こえるかい」サウラーの声がスピーカー越しに響く。
「どうかな、電圧は安定してるかい」
「ええ。今のところ安定しているわ。微妙なフレもほとんどない。二本目も接続して」
「接続は終わってる。サウラー、電源を入れてみてくれ。こいつが繋がったら、とりあえず、時空は開くぞ」ウェスターの元気な声に「ああ」とサウラーが応える。
――ブゥン
制御版のスイッチパネルの色が赤から緑色に変わる。電源が完全に入った。
「こっちは入力したわ。全部グリーン。一応、正常よ」
せつながそういった後、「よぉし、こっちも来たぜ」ウェスターが喜びを隠さない声でそういった。
溜息を一つついた後、何言ってるんだ、これからが勝負なのさ。安定させるには、後二本つながないとダメなのに。と呟いた後、イース、そっちはどうだい?とスピーカーから確認をとるサウラーの声。
「なんか妙な振れ方してるわよ。ヴァイブレーションを刻んでるわね。電力供給に問題はないの?」
「待ってくれ、今調べる」
せつなとサウラーのやり取りを見ながら、祈理は美希の事を思い出した。そういえば、美希ちゃんが「サウラーのルックスだけは好み」って言ってたわね。と含み笑いをした直後、「あ」と小さな声を上げる。
忘れてた、今日はダンスレッスンの日だったんだ。慌てて時計を見る。時刻は7時を少し回っていた。明らかに焦りの表情を浮かべると、黄色いリンクルン、キルンを取り出す。
…アンテナが立ってない。ここ、電波が入らないんだわ。一旦外に出ないと。
「ねぇ、せつなちゃん」言いかけた直後、「同調取れたわよ」と喜ぶせつなの顔が見えた。
「よし。いい感じだ」「ようやく、時空が開くぞ」スピーカーから聞こえるサウラーとウェスターの声。
どうしたの、ブッキー。せつなが祈里の方を振りむいた直後、激しく操作パネルのモニターが点滅しだした。
なんだ、一体。なにかおかしいぞ。焦りを浮かべるサウラーの声が響いた後、せつなと祈里のいる部屋全体が激しく振動する。
「何? 何が起きたの?」周囲を見回すせつな。グラグラと揺れる部屋。操作パネル上のモニターがグラグラ揺れ、せつなの頭上に落ちそうになっていた。
「せつなちゃん!」
祈里がせつなに駆け寄ろうとした瞬間、全ての計器類と照明が、突如、完全にブラックアウトした。
5
「じゃ、あたし行くから。ラブも気をつけて」
美希が桃園家の玄関口からラブに手を振る。憔悴しきったその顔に、いつもの快活さはない。
「うん、いってらっしゃい。気をつけてね。ミキたん。あたしももう出る」
応えるラブの声にも疲労が色濃くにじんでいた。
「じゃ、行ってきます。おばさまも気をつけて」美希は、ラブの背後で見送るあゆみに頭を下げる。
「いってらっしゃい。今日はあなたのお母さんは尚子さんに付き添うっていってたから、そのままこっちに帰っていらっしゃい。夕御飯の支度をしておくから」
「はい。お世話になります。どうもすみません」美希は改めて頭を下げた。
「いいのよ。あなたも半分うちの子みたいなものだもの。余計なことは気にせずに行ってらっしゃい」あゆみは手を振る。心中とは裏腹に、心労を子供たちに見せまいという想いが優しげな笑顔を作る。
あゆみの心中を慮ったのか、美希は精一杯の笑顔で「じゃ、行ってきます」と再び言うと、元気よく駆けていった。
昨夜は帰ってこない愛娘の祈里を心配し、疲れきって倒れた尚子のつきそいで、美希の母であるレミは山吹家に泊まったのだった。尚子の心中を察したあゆみがそのまま美希を自宅に連れ帰り、宿泊させた。己が分身ともいえる娘を心配する母親の気持ちは痛いほど伝わっていた。
「ラブ、あなたもそろそろ登校の時間じゃない?気をつけて行きなさい」
ラブの心中は、正直なところ、学校どころではなかったが、学校に行かなければ祈里が帰ってくるわけでもない。それはわかっていた。
「うん。行ってきます。じゃ、お母さん、ブッキーのことで何かわかったら連絡して」
「わかってるわ、心配してるのは皆いっしょよ。必ず連絡するから、とにかく学校に行ってきなさい」あゆみは微笑んだ。
「行ってきます」言い残して、ラブも学校に向かった。
登校する愛娘の背中を見ながら、あゆみは1年前からは考えられない成長を感じた。1年前のラブならきっとグズるだけグズってべそをかきながら登校しただろう。
せっちゃんがあの子を成長させてくれたのね。ここにいなくても、ラブの心の中にはいつもあの子がいるから。そう思いながらあゆみはもう一人の娘、せつなの顔を思い浮かべる。
それにしても――と、あゆみは深いため息を吐き、ドア越しに外を見る。それにしても、祈里ちゃんが心配だわ。いったいどこに。何もないことを信じているけれど。と肩を落とした。
「おはよう、ラブ」
クラスメイトの挨拶を受け、心中を気づかれないよう必死で笑みを浮かべながら、おはようと返事を返す。今のラブにはクラスメイトと会話する気力もない。会話が続かないよう足早に下駄箱へと向かう。
下駄箱に靴を入れ、上履きに履き替える。視点の先に大輔がいた。
さらに大輔の視点の先には大輔のクラスメイトの女生徒がいた。
ラブと同じ学年だから同い年なのだが、妙に色気があり、すこし厚めの下唇に塗られたグロスが別の生き物のように艶かしく輝き、短いスカートから伸びた足は細いが丸みがあり色っぽい。その足で歩く度に髪から香る匂いも妙に大人っぽかった。校内でも目立つ娘で、艶っぽい噂もいくつか流れていた。
そんな彼女を熱っぽく見つめる大輔を見てると、気分が悪くなるのと同時に悲しくなる。
祈里の消息が不明なことがラブの中の憤りに火をつけた。
ラブは怒りもあらわに、後ろから大輔にぶつかっていった。
「いってぇ、何すんだよ、お前」
振り返った大輔の顔には明らかな怒りの表情が浮かんでいる。
「そんなところでボケッとつっ立ってる大輔が悪いんでしょ。何か気になるものでもあるわけ、その先に」わざとあざけるように顎をしゃくってみせる。
「なんでもねーよ、大体、お前に関係ないだろ」大輔はラブを見下ろす。中学生時分はラブとさほど差がなかった身長も、高校生になってからグンと伸び、今では頭一つ分、大輔の方が背が高かった。
――あたしのこと、好きだって言ったくせに。口に出さずに大輔をにらみつける。
若干の後ろめたさを感じたのか、気まずい表情で大輔はラブから目をそらす。
目をそらした大輔の姿が余計ラブの怒りをあおった。
「何よ、人の目を見て話せないってどういうこと? 何か理由があるなら、言い返せば良いじゃない」
怒りを口にすればするほど感情が爆発しそうになる。ラブは興奮のあまり涙腺まで熱くなっていた。
「俺は」思わず大輔が口にする。
――俺はまだ、お前のはっきりした返事を聞いていないんだよ。大輔は言いかけたがやめた。ラブの目は真っ赤に腫れ上がって、その目尻には涙が少し浮かんでいた。
心中に沸きあがってきた怒りより心配が勝った大輔はラブの顔を覗き込む。
「何か、あったのか」
ラブは虚をつかれたような気分になり、「なんでもないわよ」と言い捨てると教室へ走っていった。
大輔のバカ。あたしのバカ。ブッキーどこにいるの。無事だったら早く連絡して。泣きそうになりながら、机に突っ伏す。ラブのそんな心中など意に介さぬように始業のベルが鳴り響いた。
放課後、学校の屋上でラブは美希に電話をかけた。あゆみからのメールの内容を伝えるためだった。
「ミキたん、今、大丈夫?」
「大丈夫よ、どうしたの?もしかして、ブッキーのことで何かわかったの」スピーカー越しから聞こえる美希の声は疲労でかすれている。
「あのね」ラブは内容を反芻しながら切り出す。
「さっき、お母さんから連絡があったの。昨日の夕方頃に、四ツ葉町の北東の方、ちょっとガランとしているあたりだと思うんだけど、ブッキーらしい子が目撃されてたらしいの。今、うちのお母さんとブッキーのお母さんが、警察に事情を聞きに行ってる」
「ちょっと待って。四ツ葉町の北東の方って?」考え込むような沈黙の後、美希が続けた。
「もしかして、交易所に行ったんじゃないの?あのあたりでブッキーが行くような所って、それくらいしか思い当たらないわよ」
「やっぱそうだよね。でも、何でだろ?」ラブは首をかしげる。
「せつなに何か渡したかったんじゃないの。まぁ、今、それはどうでもいいわ。肝心なことはなぜ帰ってこないかってことよね」美希は可能な限り冷静に事態を把握しようと口に出す。
「ミキたん、今日の放課後って仕事?」不意に沈黙を破るラブの声に思わず「え」と美希は聞き返した。
「仕事?今日はオフだけど。ラブ、あんたもしかして」と美希が応えた後、何かを決意したかのようにラブが言った。
「悩んでても仕方ないよ。行こう、ミキたん。実際に行ってあたしたちで確認しよう。プリキュアのときはずっとみんなそうしてたじゃない」
でも、美希がそれを制する。
「警察にも届けてるし、メビウスはもういないのよ、ラブ。第一、ラビリンスで何かあったらいの一番にせつなから連絡があるんじゃないの。今あたし達が動くのは早計すぎるわ。せめてもう少し待ってから。昨日、あたしがせっかちを起こしそうになったとき、ラブもそういったじゃない。とりあえず、もう少し様子を見てからにしない」
美希の言葉がラブにはひどく冷たく聞こえた。
「どうしてそんな事言うの。冷たいよ、ミキたん。ブッキーに何かあってからじゃ遅いんだよ。死んじゃったらどうするの」
「ラブ!」続きを制するように怒気を含んだ強い口調で美希が言った。
「何言ってんのよ。ひどい事言ってるのはあんたでしょ。ブッキーが死ぬとかそんな事冗談でも言わないで。あたしたちはプリキュアよ。何度辛い思いしてきたと思ってるのよ。たとえ誘拐犯にさらわれたってブッキーは負けはしない。あたしは、きっともっと複雑な事情があったって考えてるわ」
美希の語気に驚き、言葉を詰まらせるラブ。ラブは張り裂けそうな気持ちを言葉に表せず、「でも……でも」と繰り返し呟いた。
少しの沈黙の後、美希が疑問を口にした。
「なにかあったの、ラブ。少し様子がおかしいわよ」
ラブは受話器の前でうつむき、「なんでもない」と呟く。美希に自分の醜い部分を見透かされているような、そんな気がした。ラブは自分の心中にあるモヤモヤとしたものが何かわかっている。冷静な思考を奪う何かはすでにラブの心で色んなものと混ざり合い、ラブの心をかき乱す。大輔だ。いや、大輔の気持ちがわからない自分自身だ。美希にはそれを知られたくない。そう思った。
わかった。と何かに納得したかのように美希が言った。
「わかったわ、ラブ。とにかく、今日の夕方、交易所の前で待ち合わせましょ。とにかく、一度行ってみてから、どうするべきか考えてもいいわね。あたしも言い出した手前、現場にいってみたいという気持ちはあるし」
詳しい時間を決めた後、ラブは「ごめん、ミキたん」と謝る。美希はマイクの前で微笑を浮べ、「いいのよ」と優しく言った。
6時限目の授業が終了した午後、ラブは鞄を掴んで階段を駆け下り、下駄箱へと向かう。下駄箱の前でラブは歩を止めた。心中を複雑なものが駆け巡る。
そこに、大輔が立っていた。少し息を切らせている。ラブの姿を見かけると、困ったような表情を浮べ、「あのな」と口を開いた。
「あのな、ラブ。一体どうしたんだよ、今日のお前、特に変だぞ」
大輔が心配してくれているのはわかっていた。ただ、それを素直に認めたくないラブの心中は、本心とは違う言葉を紡ぎだす。
「今日のあたしが特に変ってことは、いつも変ってことだよね。わかってるわよ。あたし変だもん。別に、大輔に関係ないでしょ。急いでるんだから、そこどいてよ」
ラブのただならぬ剣幕に大輔は素直に下駄箱の前から身を引く。何を言えばいいか、困り果てているようだった。
うつむいたままの大輔の前で、下駄箱から靴を取り出し、履き替える。履き替えると、下を向いたままの大輔を振り向きもせず、校舎出口へと向かい、強く口を結んだ後、立ち止まる。
ごめん、大輔。おもわず、口から出た言葉だった。
「おい」慌てて背後から声を掛けてきた大輔を振り向くこともなく、ラブは走った。
四ツ葉町北東の交易所の斜め前。不動産業者の大きな看板が掛かった電柱の前にはすでに美希がいた。
「ごめん、ミキたん。遅れたかな、あたし」
「ううん、あたしも今来たところよ」と美希が頭を振る。
――で。美希は4階建ての小さなビルを見つめる。四ツ葉町の住人の全てではないが、ラブたちに関係のある人間が交易所と呼ぶビルだった。円の中にアルファベットの「A」をかたどったマークを見ながら、美希が確認するように言った。
「この無政府ビルよね。シャッターは閉じたまま。黄色の規制テープが貼られてる訳でもないし、警察はまだこのビルを捜査していないようね。まぁ、警察官がこのビルの正体を知っている訳でもないし、すぐここに目をつけるわけないわよね」
交易所の存在は四ツ葉町の中でもラブたちの正体を知っている人間と地球に来ているラビリンス人数名、ラビリンスに食料や雑貨を輸出している数名の業者しか知らない。異次元という絵空事にも聞こえる存在を大っぴらにし、そこに出入り流通できる施設を無意味に解放すればパニックしか引き起こさないという判断の元に出した結論である。勿論、幾度となく繰り返されたラビリンスによる襲撃は人々の記憶に新しいし、そのような存在があるという認識は定着もしている。だが、実質この1年はラビリンスによる大掛かりな襲撃もないし、被害もない。悲劇は時間と共に喜劇に変貌し、危機意識はいとも容易く日常という身近に頻発する危機の前に風化する。故に、ラビリンスによる地球侵略という事実は、データのみを残したまま、人々の記憶には別の意味を持つものへと変質していきつつあった。
「とにかく、突っ立ってても仕方ないわ。呼び鈴鳴らしてみましょ」
言うが早いか、美希は入り口横の呼び鈴を鳴らす。何度か来た場所である。手続きはわかっていた。
だが、インターフォンから聞こえるはずの機械音声は聞こえなかった。
美希はもう一度鳴らした。返って来るのは沈黙のみ。
「あれ、故障?でも、ラビリンスの機械がそんな簡単に故障するはずが」
さらに鳴らす。呼び鈴の音は相変わらず響く。ただ、沈黙がそれに応える。
何かに弾かれたように、ラブがシャッターを叩いた。
「ちょ……ラブ!」美希の制止もかまわず、ラブはシャッターを叩きつづける。
「すみません、誰かいますか? 開けてください!」シャッター中央に開いた郵便受けに口を近づけてラブが声を上げる。それでも、内側からは何の反応もない。
「ミキたん、シャッター開けるよ」言うが早いか、ラブはシャッターに手を掛ける。
「ちょっとラブ、待ちなさいよ!」美希が言うまえに、すでにシャッターは大きな音を立てて開いた。
シャッターが開くと同時に、ラブは中を覗き込む。室内は太陽に照らされてはいるが暗い。右手のポケット中にあるピンクのリンクルンを強く握り締めた。
何かあったらプリキュアに変身して、すぐに応戦する。浅はかだが、それが現状考えうる最良の選択であるとラブは考えた。
「ラブったら、後先考えずに行動しないでよ。何考えてんの」ラブの左手を美希の手が掴んだ。
「大丈夫だよ、ミキたん。いざとなったら変身すればいいもの」ラブは美希の手を振り払うように部屋の中に入った。
「ちょっと」ラブの無謀ともいえる行動に美希が語気を荒げる。そんな美希を尻目にラブは更に部屋の奥へと足を踏み入れた。
「ラブ、いい加減にしてよ。どうするつもりなの」
ラブは美希の質問に答えず、「ミキたんもすぐに変身できるようにリンクルンを準備して。あたしは電気のスイッチを探す」
美希は幾度もの経験から、走り出したラブを止めることは出来ないと踏み、わかったわよ。と諦めるように鞄の中のリンクルンを取り出した。
ラブは壁伝いに部屋をまさぐる。暗闇に慣れてきた目にモニターらしき大きな画面が見えた。辺りを見回すと、室内はミキサーにかき回されたようにグチャグチャに荒れていた。
「何よこれ」驚きを隠さず美希が言う。ラブは驚きながらも必死に目を凝らした。破損したコンピュータらしきもの、割れたモニターパネル、ひっくり返った机。
その奥に人影らしきものが見えた。ラブはリンクルンを取り出し、その人影に近付いた。
壁にもたれかかり、尻をついてうなだれる人影。近付くだろう戦闘に備え、リンクルンを握りしめたまま、ラブはさらに目を凝らす。
ラブの視界に入ったのは、血にまみれた顔。
そして、その顔にははっきりと見覚えがあった。
幾度となく死闘を繰り広げ、最後に和解したラビリンス幹部の一人、ウェスターの顔だった。
ひっ……と息をのむ。
そして、その直後。
――キャァァァァァ。
背後の美希が悲痛な叫び声を上げた。