ありすと文香のフランス遠征記   作:同志しろ

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著者自身の旅行体験を文香とありすに再現してもらいました。
著者の記憶整理のために書いたのが元なので多少のガバには目を瞑ってもらえると幸いです。


第一話 機内にて

 三万三千フィートの上空で、橘ありすは大きなため息をついていた。

 

「まだ着かないんですか、この飛行機」

 

「そうですね、あと……二時間ほどでしょうか」

 

 読んでいた本から顔を上げた文香が、優しく微笑みながら応えた。

「むぅ……」とありすは頬を膨らませている。眼前のスクリーンに映る現在位置表示は、ちょうどヘルシンキ上空あたりを示していた。

 乗客の多くは来る旅に備えて全力で睡眠を貪っている。ありすと文香はというと、夕方となる到着の後にぐっすりとホテルで休めるよう、到着数時間前の今は眠らずに映画鑑賞や読書など思い思いの方法で時間を潰していた。しかし流石に飽きて疲れてきたのだろう、ありすは不機嫌そうだ。当然だ、十二歳の子供にとって十三時間に及ぶ空の旅がどれほど過酷かは想像するに難くない。

 

「あと少しの辛抱です。そうしたら華の都、パリですよ」

 

「分かってます、分かってるんですけど……」

 

「まぁ、仕方ありませんね。短くない移動ですから……あ」

 

 がさがさとハンドバッグを漁り、文香がチョコレートバーを取り出した。

 

「お腹、空いてませんか?」

 

「……いただきます」

 

 食いしん坊に思われたくないのか、やや迷った末に手を伸ばした。それをもしゃもしゃしゃやりながらありすが背伸びをした。

 

「それで、旅程はどんな感じなんでしたっけ」

 

「旅程ですね」開いたままのハンドバッグから文香がノートを取り出した。

 

「まず初日は空港からホテルへ真っ直ぐタクシーで向かう予定です。疲れているでしょうからそのままおやすみにしようかと考えていますが、何かしたいことはありますか?」

 

「んー……いえ、大丈夫だと思います」

 

「到着は6時過ぎくらいになるので夕食は摂っておこうと思いますが、着いてすぐ休めるように空港で食べることにしようと思います。初日はこれくらいですね」

 

 ふむふむ、とありすが頷く。本当は出発時にも機内で説明したのだが、ありすはその時かなりうとうとしていた様子だったためやはり忘れていたようだ。文香は心中で苦笑した。

 

「それで二日目はまずホテルで朝食を済ませ、シャンゼリゼ通りを登って凱旋門のあたりを観光。登るかどうかは体力次第ですね。買い物しながら坂を降りて、それからルーヴルへ。終わる頃には夕方でしょうから、その日はもうそれで終わりになると思います」

 

 彼女は目を爛々と輝かせている。その無邪気な笑顔はいつも通りに文香を暖かい気持ちにしてくれる。

 

「それで三日目はエッフェル塔です。多分階段で登ることになるので体力は残しておいて下さいね」

 

 ありすは大きく首を縦に振った。元気そうで何よりだが、二日目あたりで息切れしないか不安になる。本人は至って冷静なつもりなのだろうが、彼女はこういうときよく張り切りすぎてしまう。この前ロケで訪れた某ランドでもそうだった。仕事でそうなのだからプライベートの今日は特に心配になってしまう。

 本題を忘れてしまっていた。気を取り直して、「ええと、それからフランス軍事博物館ですね。エッフェル塔から歩いて行ける……と思います。あくまで地図上は、ですけど」

 

「その日はそれで終わりですか?」

 

「そうですね、おそらくそうなります。ちょっと早くなると思いますが、ゆっくり夕食でも食べながら過ごしましょう」

 

 うんうんと嬉しそうにありすが相槌を打つ。仕事からも学校からも完全に解放され、家族を除いて最も近しい女性(ひと)と過ごせるのだから、二人がいつになく浮かれてしまうのも当然だ。

 

「次の日が一番ゆっくりできます。まず朝にヴェルサイユ宮殿を巡ります。名前の通りヴェルサイユって街にあるのですが、パリから少し離れているのでタクシーで向かいます。そして開くまでかなり待つようなので頑張って耐えてくださいね。それが終わったら帰って近くの街でも歩きましょう。疲れてしまったらそのままホテルでゆっくりしても大丈夫です」

 

「その次の日が最後、ですよね?」

 

「そうなります。一番忙しくなるのもこの日ですね。朝はオルセー、昼はモンマルトルの丘、夜は……今は未定ですが時間次第でいくつか考えています。どれもかなり離れているのでたくさん歩きます。覚悟しておいてくださいね」

 

「文香さんの『覚悟してください』ですか……が、頑張ります」

 

 文香は思わず微笑みを漏らし、そこまで過酷にはしませんよ、と補足した。ありすは微妙な顔をしてみせたが、文香さんがそう言うなら、と信じることにしたようだ。

 

「以上がおおよその予定になります。多少変わるかもしれませんが、まぁ、なんとかなるでしょう」

 

「なんとかって……もう、仕方ありませんね」とありすは頬を膨らませた。その様子がなんとも可愛らしく、なんとなく抱いていた不安の霧が晴れ上がった。敵わないな、と文香は思った。

 

 それから二人は残った時間で映画鑑賞でもやろうと考え、適当に選んだ作品を観て到着に備えた。

 内容がいまいち頭に入らなかったのは、踊り続ける心のせいだろうか。




ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。
更新は気が向いたら少しずつします。たぶん長くて二週間以内には次をお出しできるかと。
あくまで著者の旅行体験を元にした創作ですので、記憶違い等あるかもしれません。現地の情報などについて間違いを発見されましたらご指摘いただけると幸いです。

では、また。
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