例によって分割します。作中の日付も結構変わるのでちょうどいいかな、ということで。
あの後イッセーはリアス先輩のことを部長と呼ぶように指摘され、その日は解散となったのだが、俺と櫛名は呼び出されていた。
「いったいなんですか、先輩。今家に誰もいないんで早めに帰りたいんですが」
櫛名も頷いている。現在時刻は夜の9時。小猫や木場と雑談してたらこんな時間になってたのだ。いつもは俺、生徒会のほうにいるからなぁ……。あっちのピシッとした静謐な空気が好きなんだよな。こっちの緑茶もいいけど、あっちの紅茶も……。とそんなことはいいや。
「あの子の神器について質問があるのよ。私の見立てでは『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』だと思うのだけど、それだと駒を8つ使用した理由がわからないわ。言っちゃ悪いけど、あの子はあなたたちみたいに異様なほどの実力があるわけじゃないでしょう?」
「まぁ、正直言って兵藤君は弱いわね。大体一般人ぐらいの実力じゃない?」
多少は鍛えてたようだが、自分1人で鍛えるのには限度がある。ましてや一切の素人が鍛えるとなると筋トレが精いっぱいだろう。俺だって閻魔から送られてきた力の使い方と、櫛名による裏の世界の特訓によってここまで強くなったんだからな。
「そうよね……だからこそ、あの神器が何なのか知りたいのよ」
「見てわからなかったんですか?」
俺は純粋にそう思った。嫌味じゃなく。まだ目覚めていないとはいえ、あそこまで強い力をほとばしらせている神器を、一切の先入観なしに見てわからないとは信じがたい。
「いえ、これかな、と思うのは1つあるのよ。だけどあまりにも非現実的すぎて……」
「それは神滅具が3つも、といった意味で、ですか?」
そう俺が問うと先輩は神妙な顔で頷いた。
「あなた方がそう言うってことはやっぱりあれは……」
「赤い龍帝、ですね。この目で見て確信しました。あれは神滅具ですよ」
そう、と妙に真剣な顔で考え込む先輩。
「そんなに心配することはないんじゃないかしら? いざとなったら私たちもいるし、滅多なことにはならないわよ。ただ、兵藤君が悪魔に慣れるまでは言わないほうがいいかもしれないわね」
むやみに使うと自己を滅ぼす可能性があるものだしね……と口の中でつぶやく櫛名。その通り。龍帝の力は本当に危険だ。原作のほうでもかなりなものだったし。あいつが悪用するとは考えられないんだけどな。
「そうね。私の方から機会を見て話すわ。こんな遅くまで残ってもらって悪かったわね」
「いえ、お気になさらず。……それでは失礼します。じゃな~木場、小猫」
ひらひらと後ろ手に手をふりながらオカルト研究部の部室を後にする。今までの会話は部室の奥で行われていたので聞こえていないだろう。朱乃さんとはそこまで親しくないしな。
「じゃ、私もお暇しようかしら。おさきに失礼?」
櫛名も俺に続く。こうして、イッセーの力のことはリアス先輩に伝えられたのだった。
その翌日、放課後になるとイッセーと連れ立って俺たちはオカルト研究部のほうに顔を出す。しばらくはイッセーの様子を見ないと不安だからな。会長にもそのことは伝えてある。
「さて、イッセー。まずはチラシ配りの仕事からしてもらうわ。普段は私の使い魔にさせているのだけど、今回はイッセーがやって頂戴。これも悪魔の仕事の一環よ?」
という訳でイッセーは下っ端中の下っ端の仕事をさせられるようだ。その仕事を聞いたイッセーはこちらを向いて、
「あの……櫛名さんや縁っていったい……?」
ん? 説明してなかったんだったか? いけないな、つい説明した気になってたよ。
「俺たちは外部協力者ってことになってるな。悪魔でこそないが、強力な力を持っているためほかの組織に勧誘されないように監視してるってわけだな」
「人聞きが悪いわね……」
「でも、事実よね? ほかの組織に私たちが行ったら大損害、なんてもんじゃないんだしね?」
リアス先輩が若干不機嫌そうに返すが、櫛名が反論した。自信過剰なセリフだととられるかもしれないが事実なのだ。ただでさえ貴重で強力な神滅具。さらに俺の様に汎用性にとんだ神器、櫛名の体術など実際相手にしたくないものなのだ。
「な、何となくわかりました……とりあえずこれを配ればいいんですね?」
イッセーが魔方陣が書かれたチラシを手にそう問う。
「ええ。そうよ。配る家はその機械が教えてくれるから。それじゃ、頑張って行ってらっしゃい」
リアス先輩がイッセーを送り出す。俺と櫛名は手持無沙汰になるのでそれぞれ仲のいい友人のところへ会話をしに行く。と言っても俺は木場と小猫、櫛名はリアス先輩と朱乃さん、といった具合にきっぱりわかれる。先輩はまだ櫛名をあきらめてないみたいだからなぁ……。戦車一つじゃ転生不可能だと思うんだけどね。
「なんか考え事かい? 難しい顔をしていたけど」
「大したことじゃないよ。……櫛名のこと、まだあきらめてないんだな、と思ってさ」
「……そうですね。更識先輩はすごく魅力的ですから。そういう先輩もまだ会長に目をつけられてませんでしたか?」
あらら、小猫にも伝わってんのな。とはいっても、会長はもう駒を使っちゃってるみたいだから、俺を転生させるのは不可能なんだよね。たぶん兵士換算で7つ以上は必要になると思うからね。
「たぶん今の段階じゃ無理だね。会長の持ち駒じゃあ俺は転生できない。……もっとも、魔王にでも頼んで新しい駒を作ってもらったりしたら別だけどな」
冗談交じりにそう答える。もし頼んで作ってもらったとしたら、わがまま姫、といったレッテルが貼られることになる。これほど最悪な評判もないだろう。
「あはは……確かに。じゃ、どうあっても君は人間のままってわけだね」
「そうだな。だから激戦、とかになっても俺たちを呼んでくれるなよ? 下手な衝撃でぽっくり逝っちまうからな」
念のため忠告をして置く……といってもどこかで関わりそうな気もするんだがな。
「……さすがにそこまでの協力は依頼しないと思います。大体そこまで大きな戦いはこの時代にはないと思いますよ?」
ま、そうだな。……未来を知っているっていうのもなかなか複雑だな。
「だからと言ってチラシの配布を毎日毎日手伝わされていることの事情にはならん。こっちの身にもなってくれ……。ないならないでいいじゃないか……ゆっくりさせてくれ……」
「なるほど。最近妙にぐったりしていると思ったらそういうことだったんだね。……部長に言っておくよ」
苦笑いで木場は答えてくれた。とはいっても待遇改善するかは別問題だがな。
「……そういえば先輩、今日はいつまでいるんですか?」
小猫が妙にそわそわして聞いてくる。
「そうだな……最低でもイッセーが戻ってくるまでかな。今日は遅く戻る予定でいたから親がいなくても問題ないしな」
「そうですか。……お菓子食べますか?」
「いいのか? もらおうかな。夜食を食べないからおなかがすくんだよな」
小猫の厚意でせんべいをもらう。やっぱりお茶にはせんべいだよな。小猫はわかってるじゃないか。それにせんべいは米を原材料にするから腹も膨れる。ナイス、選択。
「そういえば、君ってどんな特訓をしているんだい? 一般的な特訓じゃないことはわかるんだけどさ……」
と木場。話したことはなかったな。ちょうどいい。軽く話しておこうか。
「俺の特訓は、大体神器の応用訓練だな。たとえば、『眠りの王』を使用してさまざまなものを一定時間内に作り出す、とか、『紫炎祭主による磔台』を使用して、その熱量によって陽炎を作りだして認識をずらす、とかな。
安定させるために陽炎を作る際は『眠りの王』を併用してやったりとかな。居合のほうについては、直接的な訓練はしてないな。睡眠している最中に夢の中で100を超える魔物を生み出して戦ってるだけ。頭の中でやってるだけだから技術は向上しないが、相手の動きに合わせやすくなるんだよ。
休みの際には結界はって直に戦闘、とかもやるがな」
「…………なかなかハードだね。たまに君が本当に人間かわからなくなるよ」
失礼な。一応人間だぞ!? そりゃ結構チート混じりだけどさ。
その後も小猫たちと談笑を続け、イッセーがへとへとになって帰ってきたときにお暇した。
その後数日はイッセーのチラシ配りの際に木場たちと話すということが続いた。
「さて、イッセー。今日からあなたにも契約を取ってきてもらうわ。小猫の依頼がブッキングしてしまったのよ」
「……すいません、先輩。お願いします」
「おお! まじっすか! ついに……俺のハーレムへの道が……」
感涙を流すイッセー。って、
「気が早いわよ? いったいどれだけの契約を取らなきゃいけないと思ってるのかしら?」
「櫛名のいう通りだな。たった数回の契約を取っただけで昇進できるならだれも苦労しないよ」
実際まだこの学校にいる悪魔は誰も昇進していない。それだけ条件が厳しい、ってことだな。
「そうね。契約で昇進する悪魔よりもレーティング・ゲームで昇進する方が圧倒的に多いわ。レーティング・ゲームのことは説明したわよね?」
「はい! 確か上級悪魔の間で流行ってる下僕を使ったチェス、みたいなものですよね!」
「そうよ。それでいい結果を出して昇進する方が早いわ。だからと言ってイッセー。契約で手を抜いたらいけないわよ?」
「はい! もちろんです!」
らんらんと輝く瞳からは希望以外の何物も感じられない。まったく……。
「それじゃ、その魔方陣の真ん中に立って。動かないで」
そう言ってイッセーを魔方陣の真ん中に立たせる。そのあとに朱乃さんが何らかの呪文を唱える。
「あの……これっていったい……」
「静かに。今朱乃はあなたの刻印を魔方陣に読み込ませているの。ようは転送のための前準備よ」
「部長、終わりましたわ」
「そう。イッセー、手をこっちに向けて」
イッセーがそっちに手を向けると、その掌を円を描くようになぞる。するとイッセーの掌が光ってそこに魔方陣が描かれていた。
「これでいいわ。これで依頼が終わったらこちらに戻してくれるはずよ。それじゃ転送するわね」
そう言ってイッセーを転送する準備に入る。先輩が呪文を唱えると魔方陣が光りだす。いつみてもなんか、これぞ魔法! って言った感じだよな。しかし、光が収まった時、イッセーの姿は、まだそこにあった。……転送失敗?
「あれ? どういう、ことですか?」
「……イッセー。どうやらあなたの魔力量が少なすぎて魔方陣で転送できないみたい。申し訳ないけど、足で依頼者のところに行ってもらえるかしら?」
「え? まじっすか……? ってかどこに玄関から訪問する悪魔がいるんですか!」
「そこにいるじゃない? なんなら鏡を貸しましょうか?」
「いや、櫛名。ここでからかうのはやめてやってくれ……。あまりにも惨めすぎて、かわいそうだ」
「……先輩……」
俺たちの憐みによってより一層のダメージを受けたイッセーは泣きながら、
「行ってきますぅ! チャリで行ってきますよぉ~!」
行ってしまった……。あいつ、本当に惨めだな。
「1つ確認なんですけど、あれって、子供でも転移できましたよね?」
「ええ、一応そのはずだけど……。あの子、ホントに大丈夫かしら、これから……」
イッセー、お前……。その話を聞いて全員が悲しそうな顔になっていた。その後、小猫やら木場やらが契約を取りに行ってしまったため、暇になった俺は帰ることにした。……明日は生徒会にでも顔を出すかな。
後日聞いたがイッセーの初仕事は契約失敗だったが依頼主に絶賛されるという意味不明なものだったらしい。その後も同じものが続いたということでイッセーに対する評価は、前代未聞の悪魔、ということになった。俺? 俺はその間生徒会で紅茶を飲んだり、風紀委員の仕事を手伝ったりしてたかな。
イッセーの初仕事でした。書くと原作まんまになりそうだったので割愛しました。
すぐにもう1話投稿します。