東方妖噺録   作:紗耶

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お久しぶり?
なんとなく、最近のニュースを見てふと思い浮かび、筆を執った次第。



ゲンソウメール

 ────そのメールは、溜まった迷惑メールリストに埋もれていた。

 

 「こちら幻想郷......? どちらだよ、幻想郷」

 

 使い古されたような誘い文句の見出し、誰もが知る有名人から何故か送られてくる招待状、怪しいURL......所謂、迷惑メール。

 俺の趣味は、そんなアホらしいメール達を眺めながら晩酌をする事だった。

 ......なに、さみしい趣味だって? やってみれば、なかなか面白いもんさ。

 そんな訳で、今日も今日とて、溜まった迷惑メールを眺めながら独りでグラスを傾けていた訳だが。

 ふと、あるメールが目に付いた。

 

 件名 こちら幻想郷

 ────────────

 初めまして、外の世界の誰かさん

 わたしは河城にとりといいます

 誰にこのメールが届いたのか、わたしにはわかりません。本当に届いているのかも、わかりません

 もし、誰かがこのメールを見てくれたのなら、是非返信をして欲しいのです

 どうか、よろしくお願いします

 ────────────

 

 そんな、メールだった。

 今までと違う方向性の迷惑メールなのか、それともマジで電波な奴が適当にバラまいたメールなのか。

 いや、正直に言おう。

 その時の俺はそういうのとはまた違う......非現実性、とでも言えばいいのか。

 そういうものを、そのメールから感じていた。

 後で思えば、何を特別な存在ぶってるのやら、なんて笑えてくるが。

 

 「幻、想、郷、っと......は? 検索結果ゼロ?」

 

 地名なのか施設名なのか、聞いたこともない名前だったが。

 それでも、この情報社会。ネットで検索すれば名前くらいはヒットするかと思ったんだが。

 怪しいとは思う、思うが。こうして何の情報も得られないとなると、逆に興味が増してきた。

 次は、送り主の名前と思われる河城にとり。

 ......ダメだ、これもヒットしない。

 ガキの頃、実家の裏山を探検した時の様な。そんな、未知を求めて駆けずり回っていた頃の様な気分だった。

 

 「返信、してみるか?」

 

 自分のアドレスが知られる危険性はあるが......一回くらいなら。いや、でも。

 なんて、長考した訳でもなかった。

 なるようになれ、というような、そんな気持ちで。

 

 件名 こちら外の世界

 ────────────

 メール、届きました

 河城にとりさん、ですね

 ────────────

 

 「送信......と」

 

 送信ボタンをタップする。

 これで、送ってしまった。

 何処の誰かも分からない奴に、返信を。

 途端に後悔の念が沸き起こるが、そこらはそれ。

 もうやってしまった事だ、と、グラスに残った酒を煽る。

 そうしてその夜は、メールの返信も確認せずにさっさと眠ってしまった。

 

 動きがあったのは、次の日の朝だった。

 

 「返信......来てるよ、おい」

 

 アドレスを登録していない為に、また迷惑メールリストに送られていたが。

 それは、確かに昨日の、あの河城にとり某のアドレスだった。

 

 件名 こちら幻想郷

 ────────────

 ほんとうに、ほんとうに嬉しいです

 まさか、本当に外に繋がるなんて思わなかった

 ありがとう

 ────────────

 

 外とは何なのか。

 なんでそんなに喜ぶのか。

 何も、分からなかったが。

 それでも、やはりこれは迷惑メールじゃないのかもしれない、という気持ちが強まったんだと思う。

 その日から、俺のアドレス帳には河城にとりのメールアドレスが登録された。

 

 河城にとりは、なんというのか。

 純真無垢な、そう、子供の様な人だった。

 どんな話でも楽しそうに聞いてくれる彼女に、俺は色々と話題を振ったものだ。

 中でも、何故か技術関係については熱心に話を聞いてきたことだけは不思議だったが。

 そして、彼女からも色々な話を聞かせてもらった。

 そう、河城にとりが話す〝幻想郷〟についての話は......正直、俺なんかには及びもつかないような、信じられない物ばかりだった。

 外の世界......人間社会から、人の歴史からいつしか消え去って行った御伽噺の中の存在。妖怪や、神様や、妖精なんかが今も尚暮らす幻想の郷。

 河城にとりも、そんな妖怪の一種。なんと、河童なのだという。

 きゅうりが好きで、きゅうりと同じくらい発明が好き。

 拾ってきた壊れたスマホを改造して、世界を隔てる結界を越えてメールを届ける技術を発明したのが事の始まりだとか。

 流石に、電波か? と疑いはしたが。

 彼女から送られてくるメールに添付された写真には、そんな信じられないような存在達が写し出されていた。

 俺の想像していたような、妖怪なんぞとは少しばかり違っていたみたいだが。

 何故か将棋盤を挟んで座る、真っ白な耳と尻尾を生やした少女。何でも、白狼天狗? とかいう天狗の一種らしい。翼はないが、この天狗は飛べるのか?

 時代劇で見るような古めかしい街並みの一角、柳の木の下に立つ赤い服の少女が、首から外れた頭を腕に抱えていたり。

 何処ぞの縁側で撮られた写真には、人差し指程の背丈の少女が写っていた。写真の端に写り込んでいる、巫女服? を来た人物と比較すると容易にその背丈の小ささが分かる。

 妖怪らしい妖怪は写らず、皆少女ばかり。コスプレといえばそれまでだが、今更俺の様なつまらない男独りを騙す必要性も感じられない。

 そして、彼女自身の写真も。

 

 「これが、にとりか......なんだ、そこらへんの女の子と変わらないじゃないか」

 

 青い合羽に、緑の馬鹿でかいリュックサックを背負った少女が。恐らく、内カメラに向かってだろう。照れくさそうに微笑んでいた。

 澄んだ水の底を覗くような、青い瞳がこちらを見つめている。

 甲羅も、頭の皿も見えないのに。

 確かに、彼女は河童だと言うのだ。

 俺は、それを信じた。

 

 長くもなく、短くもない時間が過ぎ去った頃。

 河城にとりと所謂メル友となり、幾度となくメールをやり取りする内に、俺の生活には僅かな変化が訪れた。

 俺は、彼女が送ってくる非日常の風景を眺めるのが趣味になっていた。

 何故か、見目麗しい少女の姿をした妖怪が多いと言うのも理由の一つではあるが。

 偶に送られてくる、風景や、街並みの写真に心を惹かれたのだ。

 人の手の入っていない、自然の景色を写した写真。古臭い街並みなのに、生き生きとした様子の人々が映る写真。

 現代では、もう殆ど見られないような光景。

 眩しかった。

 仕事の粗探ししかしない上司や、競い合うのではなく、蹴落とし合いしかしない同僚。それがいつしか、当たり前に感じる様になって。

 日頃のストレスの捌け口を、バカな迷惑メールを眺めて嘲笑する事に求めていた俺にとっては、幾ばくかでも心を救われたような気さえした。

 

 件名 こちら外の世界

 ────────────

 羨ましいな、そっちは

 俺、田舎から都会に出てきたんだけどさ

 外は、どこもかしこもアスファルトとコンクリートばっかりで緑なんてありゃしない

 昔住んでた田舎も、山が崩されてさ

 排気ガスやらが増えすぎて空気も汚い

 アイツらは、社会とか会社を回す歯車位にしか俺を見てくれないし

 ほんと、そっちに行きたいくらいだ

 ────────────

 

 心の底から、そう思った。

 憧憬、だったのかもしれない。

 こちらの様な煩わしい人間関係のない、あちらの世界への。そして、疑うことを知らないような、河城にとりという妖怪の、人間性への。

 

 件名 こちら幻想郷

 ────────────

 それは難しいかなぁ

 大結界を越えなきゃいけないしね

 ────────────

 

 幻想を幻想のままで存在させるには外の世界はもう手遅れで、結界で隔てた内側に幻想郷があるというのは聞いたことがあったが。

 やっぱり、普通じゃ行けないのか。

 ......まあそうだよな、何でもかんでもネットで検索出来るような世界で、その存在を今の今まで知られていないんだから。

 ただ、その後に送られてきたメールには興味深い事が書かれていた。

 

 件名 こちら幻想郷

 ────────────

 越えるなら、結界の綻びを探さないといけないかな

 それは多分、無理だろうけれど

 それか、その

 自殺をしようとするか

 命なんかいらないって人は、妖怪の餌にするために自動でこっちに飛ばされる事があるんだ

 そういう設定になってるって、紫が言ってた

 紫ってのは、その結界を作った妖怪のことだよ

 まあ、自分から死のうとする奴なんてそうそう居ないだろうけどね

 ────────────

 

 そうだな、彼女なら、そう言うのだろう。

 外を知らない、薄汚れた社会を知らない彼女なら。

 ......だが、悲しいかな。

 今の時代、自殺者は少なくないんだ。

 テレビを付ければ、毎日の様に自殺者のニュースをやっている。

 死にたいと思ってる奴なんて、いくらでもいるのさ。

 

 件名 こちら外の世界

 ────────────

 でも

 やっぱり、幻想郷に行きたいな、俺

 キミに会いたいよ

 ────────────

 

 気が付けば、そんなメールをしていた。

 我に返ったのは、送信をした後だ。

 途端に自分の送った文章の意味を理解する。

 

 「まて、まてまてっ! これじゃ、出会い厨じゃねぇか......うわぁぁ、まずった」

 

 頭を抱えてベッドに倒れ込む。

 彼女が、控えめに言って僅かばかり現代の一般常識に疎いとはいえ、言葉の意味くらいは理解するだろう。

 恥ずかしいことは恥ずかしかったが......その時、胸中を支配していたのは恐怖の感情だった。

 彼女に否定される恐怖、彼女との関係が壊れる恐怖。

 会いたい、そう言っただけ。

 それだけ。

 それだけだが、上京してからこれまでまともな人付き合いも出来なかった俺にとっては、本当に大きな一言だった。

 もう、自分でもどうしようもない程に彼女に惹かれてしまっていたことに、気が付いていたが故に。

 ......その日はそれ以降返信も無く、一睡も出来ない夜を過ごした。

 

 翌朝。

 カーテンの隙間から漏れる朝日で、夜が明けていたことを知った。

 

 「......終わったよ、絶対引かれたよ」

 

 怖くてスマホは見れなかった。

 もう、返信は来ているのだろうか。

 吐き気がして、トイレへ駆け込む。

 ......最近は、無かったんだけどな。

 

 件名 こちら外の世界

 ────────────

 昨日は急にゴメン

 この事は、忘れてくれ

 ────────────

 

 それだけを送った。

 受信リストに新着のメールは入っていたが、見れなかった。

 今までつかなかった踏ん切りが、なんとなく、ついてしまった。

 こんなことで。

 

 疲れ切っていた。

 休みなんてものは僅かばかりも無く、ボロ雑巾の様になるまで働いて。

 帰っても何の楽しみもない毎日。

 きっと、最後はそのままゴミ箱にポイ、なのだろう。

 自殺を考えている人は多い。

 そう、俺もその一人だった。

 そして、一線を踏み越えてしまった大馬鹿者だった。

 

 地元に帰ってきた。仕事を始めてから忙しく、一度も帰れなかった故郷。

 昔、遊んだ山々は削り取られ始めていて、見る影もない。

 僅かばかりに残った山に分け入るように、道無き道を進んだ。

 背負ったバッグは軽い。ロープ位しか入っていないからかな。

 会社には退社届けを送り付けた。

 親に合わせる顔は、もうない。

 ただ、一つ心残りがあるとするなら。

 

 「......」

 

 手の中のスマホを眺める。

 返事、来てたなと。

 首を振り、歩みを進める。

 この道は何処へ続いているのだろうかと、ふと思った。

 あの世なのか、幻想郷なのか。

 どちらでも、結果は同じ。死が待つのみだが。

 でも、願わくば。

 

 「幻想郷で、死にたいなぁ」

 

 一目でいいから、彼女の見た景色を見たい。一度でいいから、彼女と同じ澄んだ空気を吸いたい。

 そう思った。

 急に、寂しくなってスマホを取り出す。

 

 「......っ、あ、やばっ!」

 

 するりと、スマホが手から滑り落ちて。

 それを追いかけようとした体がバランスを崩して。

 どうにかキャッチしたスマホだけは胸に抱き締めて、斜面を滑り落ちていった。

 ああ、呆気ないなと。それだけを思って意識が闇に沈んだ。

 

 

 

 

 

 ふと、目を覚ます。

 ぼやけた視界が鮮明になる。

 日が眩しい。

 

 「っ......いってぇ」

 

 体を起こせば、どことも知れぬ場所だった。登っていた山ではない。

 周囲に木々が生い茂る、空き地のような場所。見渡す限りに赤い花────彼岸花が咲き乱れ、ぽつりぽつりと土の盛り上がった箇所がある。

 そこは、〝この世界〟において無縁塚と呼ばれる場所。

 境界が歪み、様々な世界が入り乱れ、迷い人が最後に辿り着く終着点。

 そして、自らの命を投げ捨てようとした者を引きずり込み、世界の影に巣食う者達の供物とする為の生贄の場だった。

 立ち並ぶ木々がざわめき、陽の元に何かの影が伸びる。

 

 「な、んだ、あれ......?」

 

 ずるり、ずるりと影が伸びながら迫ってくる。

 怖い。

 それしか浮かばなかった。

 痛む体を無理矢理に引きずり、近くにあった大きな木の影に隠れる。

 やばい、アレは絶対にやばい。

 混乱の極みだった。

 ここは何処だ、もしかしたら、いや、多分幻想郷。いつか聞いた、自殺者を妖怪の餌とするための場所。

 自分は死を望んでいたはずだ。何も問題は無い......なんて、そんな考え方は出来なかった。

 死にたくない。人は、死を間近にしたその瞬間、それしか浮ばないことを知った。

 

 「にげ......でも、どうやって!」

 

 あんな、訳の分からないものから逃げられる自信はない。ないが。

 ここでアレに喰われるのを待つしかない?そんなのは、ゴメンだ!

 影はウロウロと、こちらを見失っている様子だが、徐々に迫ってきている。

 縋る思いで大切に抱えていたスマホを見つめた。

 そんなものに、救いはないというのに。

 

 『死にたくないの? 自分から死のうとしておいて、外の人間は勝手ねぇ......そうね、河童にでも、助けを求めてみたら?』

 

 耳元で、囁かれた。

 飛び上がって周りを見回すが、人影などない。

 聞き間違いじゃない。

 ゾクリとするような、息遣いさえ感じたのだ。

 いや、そんな事はどうでもいい。

 そうだ、河童。

 彼女にメールを送れれば......!

 

 「でも、今更......通じもしないメールなんて」

 

 ホーム画面を立ち上げて。

 あっ、と声を上げてしまった。

 

 「電波が、ある」

 

 すぐさま、アプリを開いてメールを打つ。

 

 件名

 ────────────

 虫のいい話だけど助けて欲しい

 彼岸花がたくさん咲いてる広場きのかげ

 もつそこまで化け物が来てる

 ────────────

 

 送信。

 あとは、もうどうしようもない。

 待つしかなかった。

 ふと、受信リストを開いてみた。

 彼女からのメールが、溜まっていた。

 

 件名 こちら幻想郷

 ────────────

 私も、会いたいな

 けど、それは出来ないんだ

 なんか、寂しいね、こういうの

 ────────────

 

 件名 大丈夫?

 ────────────

 返信、見てない......?

 気にしてないよ、私だって同じ気持ちだから

 だから、忘れてなんて言わないでよ

 ────────────

 

 件名 返信待ってるよ

 ────────────

 どうしたの?

 何か行ってくれないと、分からないよ

 ねぇ、また話したいよ

 ────────────

 

 件名

 ────────────

 さみしいよ

 ────────────

 

 本当に、本当に。

 後悔、申し訳ない気持ちで胸が痛かった。

 いつの間にかこぼれ落ちた涙が、画面を濡らす。

 その場に崩れ落ちて、泣き続ける。

 

 「ごめん......ごめんにとり、おれ、おれ自分勝手で、こんな、......ごめん」

 

 ポーン、と。

 受信を知らせる音が響いた。

 はっ、として、涙を拭いて画面を見つめる。

 

 件名

 ────────────

 すぐにいくから、絶対に死んじゃダメ

 まってて

 ────────────

 

 見捨てられていなかった。いや、元々俺の妄想だったのだろう。

 安堵のため息を漏らした、その時だった。

 今まで腰を下ろしていた木陰が、更に影を濃くした。 柔らかな木漏れ日が1本、また1本と途絶えて、闇より深い影が広がる。

 最早体は動かなかった、指一本も。

 グルルル......という獣の唸り声が影から漏れ、水面に浮き上がるように、大きな何かが暗い地面から這い出てくる。

 これが、妖怪、なのか。

 ガチガチと、噛み合わない歯を必死で食いしばり、ソレと向き合う。

 目を逸らしたら、その瞬間にくびり殺されそうだった。

 真っ黒な輪郭に鮮烈な赤色が、ぬるりと這う。舌なめずりだった。

 一歩一歩近付けば、小さく地面が揺れる。

 ああ、もうダメだと、心に魔が差す。

 

 「っ......!」

 

 ソレの歩みが止まり、距離はほぼ、ゼロに近くなっていた。

 目を瞑って、歯を食いしばる。

 

 「ごめ......にとり」

 

 ぽつり、と漏らした最期の言葉だったのだが。

 

 「今、あやまらないでっっ!!」

 

 それに応える声があった。

 

 目を開くと、馬鹿でかい巨体が真横に吹き飛んでいく瞬間だった。

 水風船を地面に叩き付けたような、嫌な音が鼓膜を揺らす。

 化け物の巨体が視界から消え去ると、変わりに人影が現れる。

 写真で見たままの、真っ青な合羽を着た少女。ほんとに、少女と呼べるくらいの見た目だった。

 大切なものが色々と詰め込まれているという緑色のリュックサックは背負っておらず、帽子も見当たらない。

 急いで駆けつけたのだろう。額には汗を浮かべて、肩で息をしていた。

 少女────にとりはこちらに顔を向けると、今にも泣き出しそうな、安堵の表情でその場に崩れ落ちた。

 

 「ちょ、ちょっと......大丈夫、か?」

 

 慌てて駆け寄れば、彼女の側に跪く。

 

 「それは、私の、台詞だよ......ぐす、じんばいしたんだがらぁぁ!」

 

 そこからは、怒涛の勢いだった。

 口を挟む暇もなく。

 

 「なんで、なんで返事してくれないのさぁ!」

 

 「私、嫌われたのかと思って!」

 

 「やだよぉ、もっと一緒に話したかったのに!」

 

 「よかった、キミが無事でほんとうによかったぁぁ」

 

 涙ながらに、矢継ぎ早に告げられる。

 純粋に、心配してくれていたのだ。

 

 「しんじゃだめ......死ぬのは、怖いんだよ? なんにも、無くなっちゃうんだよ?」

 

 腕の中で泣き続ける少女が、それは本当に恐ろしい事なんだと言う。

 自分も、実感した所だ。

 全てを失くす覚悟なんて、どうしたって出来ないんだと。

 

 「ごめん。ごめんにとり......もう、大丈夫だから」

 

 ちゃんと生きるから、と。

 背中を撫でる。

 昔、泣いていた俺を母さんが慰めてくれた時を思い出しながら、なれない手つきで。しばらくの間、そのままで彼女の言葉を聞き続けた。

 その時、視界の端に、何かが映った。

 紫色のドレスの、誰か。

 しょうがないわね、なんて顔をしてこちらを見ていた気がした。

 

 

 

 

 「えへへ......色々あったけどさ、会えちゃったね」

 

 泣き止むと、彼女はそう言った。

 俺も、出会えるはずがないと思っていたから、出会えたことへの感謝と喜びが、遅れて溢れてくる。

 会って、直に言葉を交わせて、触れ合えている。

 なんて奇跡なんだろう、と。

 柄にも無く、俺にも涙が溢れてくる。

 

 「ずっと、会いたかったんだ」

 

 「私もさ、ずっと直に話してみたいなって思ってた」

 

 ふと、目が合う。

 なんとなく気恥ずかしくなり、お互いに目を逸らしてしまう。そして、少しするとまた目が合う。

 

 「ね、ね、そういえばさ。私、まだキミの名前聞いたことなかったんだけど」

 

 そういえば、そうだったか。

 ずっとキミと呼ばれていたし、いつの間にかその呼び方に慣れてしまっていたから、気が付かなかった。

 

 「じゃあ、改めて自己紹介しようか。お互いに、さ」

 

 なんとなく、お互いに姿勢を正して。

 

 「「初めまして、俺(私)の名前は......」」

 

 

 

 

 件名 こちら、幻想郷

 ────────────

 まず、自殺なんて馬鹿な真似、何も言わずにしようとしてごめん

 謝っても済まないことだとは理解してる

 でも、お陰で大切な人に会えたんだ

 天国の父さん、母さん

 色々あったけど、こっちは楽しくやれてるよ

 これからは、大丈夫だから

 ────────────

 

 




とりあえず、投稿です。
もう少しボリュームが出せれば、こう、伝えたい事も書ききれたのかな、と少し後悔。
随分と久しぶりですが、読んでもらえればそれだけで嬉しい限りです。
ではでは、またいつか。
書きたいものが思い浮かんだ時にでも。
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