ライカレ短編集   作:喜怒哀楽

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長くなったのでシリーズにしました。


付き合ってる?①

 

 黒の騎士団アジト内、ラウンジスペースの一角。

 

「う〜ん」

 

 そこで扇はソファに座って目を瞑り、しきりに首をひねって考え事をしていた。

 考え事の種は、彼の今は亡き親友の妹の事だ。

 名前は紅月カレン。

 紅い髪に空色の瞳。ブリタニアと日本のハーフの少女。

 幼い頃から彼女を知っている扇からすれば、自分でも妹同然……いや、最近は娘のように思っている大切な少女だ。

 その彼女だが、どうも最近様子がおかしい。

 

「う〜ん」

 

 扇は再度、唸る。

 これまでの彼女の行動を思い返していた。

 以前の彼女ならば、空き時間はKMFの専門書を読むか、日本解放の為、体の鍛錬をするか、学校でのお淑やかなお嬢様設定の為に勉強をしたりしていたのに対し、最近は『必勝!美味しい弁当の作り方』という本を読んだり、ソファに座ってボーッとしては、何かを思い出したかのように顔を赤くしてボスボスとソファを叩いたりしている。

 普段の彼女からは考えられない行動だった。

 明らかに挙動不審で、おかしかった。

 扇はガッチリとした腕を組んで、また唸った。いくら考えても答えは出ない。

 本格的に参った。どうしたものかと考えていると、コツコツと固い廊下を叩く靴音が聞こえた。

 少しづつこちらに近づき、一拍置くと、シュンという音と共に自動扉が開かれ、音源の主が部屋に入ってきた。

 青みがかった長い黒髪に黒の瞳。額には旧扇グループの証であるバンダナを巻いている。

 カレンや自分とも親しい女性。

 騎士団メンバーの井上だった。

 井上は扇を見つけると、手をヒラヒラさせながら話しかけた。

 

「あっ、扇〜。ちょっと物資の供給について聞きたいんだけど……」

「井上!いい所に来た!!」

「は?」

 

 渡りに船とはこの事か。

 扇は顔に喜色を浮かべた。男の自分より同じ女性である井上の方が、何かカレンの最近の行動についてわかるかもしれない。

 井上の話などそっちのけで、扇は今まで悩んでいた事を話すと、井上は呆れたようにため息を吐いた。

 

「扇……あんたバカねぇ。そんなの恋に決まってんでしょ!こ・い!!」

「こ……い?……ッ!!?」

 

 一瞬、何を言われたのか解らず扇は同じ言葉を反芻した。しかし、扇とて鈍感ではない。脳が情報の処理に追いついた時、目が飛び出すのではないかという程見開いた。

 

「こ、ここここ恋だってッ!!?そんな馬鹿な!あのカレンがか!?」

 

 唾を飛ばす勢いで詰め寄る扇に、井上は嫌な顔を浮かべる。なんなら体を少し仰け反らせているが、扇はそんな事を気にかけるほどの余裕はなかった。

 

「まだ……まだあの子は17歳だぞ!?」

「『もう』17歳よ。カレンだって年頃の女の子なんだから好きな男の子の1人や2人……ッ!?」

 

 そこまで言葉を続けて、井上は体を思い切り逸らした。

 カレン程とは行かないものの、これでも日夜ブリタニアと戦っているのだ。それなりの身体能力はあるつもりだった。

 井上は鍛えぬいた反射神経を使って、扇が先程から飛ばしそうで飛ばしてなかった兵器を辛うじて避けたのだ。

 『唾』を。

 

「いいやダメだ!そういうのはまだ早い!」

 

 先程の言葉に激昂した扇は、特大の唾を飛ばされて嫌そうな井上の表情が見えないのか、鼻息が荒かった。目も血走っている。井上は更に顔を歪めた。もちろん嫌悪で。

 

「早いって言ってもねぇ……」

 

 しかし彼とは長い付き合いだ。井上は一つだけため息を吐き、体を戻すと、何事も無かったかのように会話を再開した。井上は扇がカレンの事を大切に思っているのを知っている。亡き親友の妹なのだから、当然だろう。

 だからといって、今の発言は少々過保護すぎるのではないか。まるで娘を持つ頑固親父のようだ。

 そこまで考えた井上は、ピンッと頭に何か閃いた。とてもいい事でも思い付いたのか、満面の笑みだ。

 

「……そんなに気になるんなら、偵察しに行きましょうか」

「偵察?どこへ……」

「決まってんでしょー」

 

 突然の井上の発言に困惑した顔の扇。井上はその少し情けない顔に、白い歯を見せながら笑った。

 

「カレンが通ってる学校よ」

 

 

 

 

 常日頃から、カレンには普通の女の子らしく過ごして欲しいと言っている。

 友達に囲まれて笑い。勉学に励み。クラブ活動や趣味に時間を費やして、平穏な日々を送って欲しいと常々思っている。

 血なまぐさいテロ活動なんかは、十代である彼女にはしてほしくなかった。

 だから、その彼女が楽しそうに学園に通う姿は、幼い頃から知っている身としてはとても嬉しいものだ。

 しかし――

 

「恋なんてカレンには早い!早いぞぉ!」

「まだ言ってんの?」

 

 それとこれとは別である。

 学園から少し離れたビルの屋上。

 呆れている井上を無視して、扇は鼻息荒く右手に持っている双眼鏡を覗き見た。先には赤髪の少女、紅月カレンが、今はお淑やかなお嬢様、カレン・シュタットフェルトとして、アッシュフォード学園の制服に身を包み授業を受けている。

 

「何回言ってるのよそのセリフ」

 

 もう耳タコだ。うんざりしながら井上も手に持っている双眼鏡を覗き込む。

 カレンは真面目に授業を受けているようだ。ノートに筆を滑らせているその眼差しは真剣そのものである。

 だが時折、チラリと視線を外す時がある。

 

「あら?」

 

 視線の先を辿れば、銀髪の髪の男の子。

 幾度となく、チラチラと目を向けている。

 

「あららららー?」

 

 以前、カレンが愚痴ていた。

 『記憶喪失で学園に迷い込んだ銀髪の男のお世話係になった』と。

 その男というのが、目線の先の彼なのだろう。

 

「あんなに面倒臭そうにしてたのにねぇ……」

 

 そういえば、いつだったか彼女の表情が柔らかくなっていた事があった。

 あんなに嫌々行ってた学校だって、最近は文句ひとつ言うことなく通っている。

 それもこれも、全て彼のお世話係になってからである。

 

「何も知らない彼のお世話をする事によって縮まる距離。深まる仲。淡く実る恋心。…………アリじゃなーい?」

「なんだ!?相手がわかったのか!?どこの馬の骨なんだ!?」

「……なんであんたはわかってないのよ」

 

 あんなにわかりやすくカレンが視線を送ってるのに、扇は現実を見たくないのか本気でわかっていないのか、相手がわからないようだった。

 

「ほらほら、あの銀髪の彼よ。前にカレンがお世話係になったって言ってた子!」

「なにぃ!あいつか!?」

 

 井上に教えてもらって、扇は覗いてる双眼鏡から銀髪の少年を発見した。

 美しい銀髪、整った横顔、宝石のような蒼の瞳。

 まるで童話に出てくる王子のような外見の少年に、扇は一瞬目を奪われたが、すぐに頭をふって立て直すと厳しい眼差しを送った。

 

「すごいイケメンよねー」

「いいや、まだ安心できないぞ!!確か身元不明の記憶喪失の男なんだろう!?イケメンだろうが、そんな得体の知れない男の事をカレンが好きになるわけがないじゃないか!!」

「ふーん?」

 

 完全にカレンの視線が気になる男の子に送るソレなのだが、扇の言う事にも一理ある。

 あの警戒心が強くブリタニア人嫌いのカレンが、そんな謎の多い男に心を許すのは、よほど彼の人柄がいいのか騙されているのか……。

 気になった井上は、またいい事を思いついたと言わんばかりの、笑顔を浮かべた。

 

「じゃあ2人でいる所を尾行しちゃう?」

「はあ?」

「カレンが彼の事を好きかどうか知りたいんでしょー?ならいっそ、普段の2人が一緒にどういう風に過ごしてるかを尾行しちゃえば、その謎がわかるかもしれないじゃない」

 

 と言うのが建前だが、ただ単に『面白そう』というのが彼女の本音だ。

 

 (だって気になるじゃない。あの学校では誰にも心を開かなかったカレンが唯一心を開いた男なんて。本人の口から直接聞いてもいいんだけど、どうせ誤魔化すだろうし彼の事もわからないし?なら、自然体の2人を見た方がこの面倒臭い扇も納得するでしょう。私も楽しいし一石二鳥!うーん、我ながらナイスアイディアだわー)

「尾行か……」

 

 そんな井上の思惑など知らない扇は、顎に手をやって考える。井上の言う事はもっともだ。もう偵察という名の覗きもやってしまっているし、尾行をしたとしても、同じ事だろう。

 

「ほらほら、考えてる内にちょうどよくカレン達が出て来たわよ」

 

 再び双眼鏡を覗いていた井上は声をあげた。

 最後の授業が終わったのか、ぞろぞろと校舎から生徒達が出てきていた。カラフルな髪色の生徒達の中でもわかる派手な赤と銀の髪色の2人は、お互い肩を並べて談笑しながら歩いている。その距離感は近い。

 

「あれって、やっぱりもう付き合ってんのかしら?」

「んなぁ!?お、おおおお前、言っていい冗談と悪い冗談が……!」

「あー、はいはいごめんごめん。そうね、まだカレンが彼の事を好きかどうかもわかってないもんね」

 

 軽く呟いた発言にも全力で抗議してくる扇。

 とても面倒臭い。

 

「じゃあ、それを解明する為に、尾行するわよ。いいわね?」

「ああ!やってやろうじゃないか!」

 

 井上は双眼鏡から目を離し、適当にあしらった後、有無を言わさずに先程の提案を決行することを表明した。

 扇も頭に血が昇ったのか、鼻息荒く井上の言葉に頷く。

 

 

 こうして、ライとカレンの尾行は開始された。

 

 

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