アッシュフォード学園の屋上に行く為に、僕は足を動かしていた。
そこで僕はカレンとお弁当を食べる約束をしている。
クラスが一緒だから一緒に行けばよかったんだけど、僕が教師から頼まれ事をされた為にカレンには先に行ってもらっていた。
予想以上に時間がかって少し遅くなってしまったけど。
「カレン、待ってるかな」
屋上に続く階段を登りながら、僕はポツリと呟く。
特区日本が設立されてから、僕達は目まぐるしい毎日を過ごしていた。反対派の残党の処理や会談、事務仕事、遠征・・・等々。こうして2人で学園に来れたのは久しぶりだ。
まったりとした空気。平凡な日常。
ここは平和で何も変わらない。
僕達が出会った大切な場所。
僕達が黒の騎士団で活動していたのを生徒会メンバーに話しても少し驚きはしたものの、前と変わらず暖かく迎えてくれた。
本当に・・・皆には感謝してもしきれない。
(特区日本が無事に設立出来てよかった)
そうでないと、今頃こんなに皆と穏やかに過ごせなかっただろうから・・・
僕はそんな事を考えながら、階段を登り終えると屋上へ続くドアの前に行き、ドアノブに手をかけて扉を開く。
抜けるような青空が目に飛び込み、頬を撫でるそよ風が心地いい。
僕は視線を左右に動かしてカレンを探した。
「??・・・カレン・・・・・・・・・ぁ」
ぐるりと辺りを見回してもカレンはいなかった為少し歩いてみると、すぐに見付けたが声をかけるのは躊躇ってしまった。
カレンは屋上の壁に寄りかかって眠っていたからだ。
「すー・・・すー・・・」
最近は忙しかったから疲れが溜まっていたのだろう。穏やかな寝息をたてている。
でも、少し前まではブリタニアとの戦争で気を張りつめて気配に敏感だった彼女が、扉を開いた音にも僕の気配にも気付かないのは珍しい。
こんなに無防備に眠れる様になったのも、少しだけ平和になった証拠だろうか?
僕は起こさないようにそっと近付いて、屈んで彼女の顔を覗き込む。手を伸ばして指でちょいちょいと顔にかかっている髪を払ってやれば、くすぐったいのか少し唸った後、ふにゃっと蕩けたように微笑んだ。
その柔らかで、安心しきった様に笑う顔が・・・たまらなく愛おしい。
ふっ、と自分の口元が緩むのがわかった。
(かわいいなぁ・・・)
多分、今の僕の顔は締りのない、だらしない顔をしているのだろう。
でも、それでも、頬が緩むのが止められない。
だって、こんなにもカレンを愛しいと思っているのだから。
(こんな感情が僕にもあったなんて、知らなかったな)
そこまで思って僕はふと、考える。
もしカレンと出会わなければ自分はどうなっていたのだろう?
記憶を無くして、色を無くして、抜け殻のようだった自分。
記憶を取り戻そうともがいて、少しずつ思い出す記憶の断片に苦しんでいた自分。
そして思い出した血塗られた過去。
はるか昔の人物である僕はきっと、ギアスの暴走のことも考えて皆の前からいなくなっていただろう。
なんのアテもない僕は、その時は実験動物に逆戻りか、もしかしたら死を選んでいたかもしれない。
考えただけでゾッとする。
(カレンがいてくれてよかった)
カレンが僕に生きる意味を・・・居場所を与えてくれた。
同じハーフだと、一緒だと喜んで。
黒の騎士団では双璧としてお互いの背中を預けて戦って。
好きだと言って、この暖かな感情を教えてくれた。
僕に希望を与えてくれた彼女。
僕の存在を喜んでくれた彼女。
僕に・・・一緒に生きようと言ってくれた彼女。
その言葉で、どれだけ僕が救われたか・・・
僕はカレンの頬にそっと手を伸ばす。
起こさない様に最大限の注意を払って。
長い前髪をくぐり抜けてその柔らかな頰に触れるとピクっと反応したけれど、無意識なのだろうか?頬を僕の手に擦り寄せてきた。
暖かな体温と、擦り寄せる頬の感触が手の平に伝わって少しだけ擽ったい。
だけど、その仕草もとても愛らしくて。
(ああ・・・好きだなぁ・・・)
何度想っても足りない。
もう無くさない。僕の大切な人。
彼女の喜ぶ顔が見たい。
ずっと笑っていて欲しい。
できるなら・・・僕の隣で。
(こんな事を思ってしまうのは・・・少し我儘だろうか?)
僕は苦笑しながら彼女の顔に自分の顔を近付けて、触れるだけのキスをする。
僕の想いが伝わればいいと、ほんの少しの願いを込めて。
カレン・・・愛してるよ・・・