脳の処理が追いつかない。
いや、だって。なんでお前がそんないたずらしてるんだよ。
それに人をコケにしようとか、そういう人を貶めるような反応じゃなくて……。
「それじゃあ、マジっぽいじゃねぇかよ……」
俺、ユウシは唖然としていた。
にぶちんなり、鈍感なり言われていた俺でもはっきり分かってしまった、彼女の俺への好意が。
だとしたら、俺を付きまとっていた理由もなんとなく理解できる。
異様に俺にだけ小悪魔的な態度を取っていたのか、正解をカンニングしてしまったように分かってしまう。
全てのユメの行動に、合点がいくんだ。
それは好き故に、悪戯をしてしまうような男子小学生特有の感覚。
好きだけど、好きと口に出してしまえば、クラスのみんなから浮いた目で見られるため、女の子の気を引くために半ばいじめるようにしてしまって、最終的に嫌われてしまう。可愛そうだけど、それが真実だった。
ユメはあえてそれをやっていた。いや、俺への好意は確かにあったから、同じとは言えないけれど、やってる内容は男子小学生のそれ。
気付くわけないだろ、そんなの。
俺はこれでも真面目なタイプとして生きていた。だからからかわれるようなことはあまりされたくなかったし、恋愛事もどうすればいいか分からなかった。
掲示板の連中はいい、ただの戯言を好き勝手つぶやいているのだから。
だけどユメは違う。対面の相手は違う。彼女が俺にだけ態度を変える理由なんて、今の今まで分からなかった。
それが理由でユメのことをあまり好いた試しもなく、向こうも俺のことをおもちゃ程度の扱いだと思っていたのに……。
「こんなの、あんまりだろ……」
好意を知ってしまった今、俺はなんてことをしてしまったんだろう。
彼女を避けていた理由なんて、ただただシンプルで、ユメを見るたびにリバーフェスの水濡れ姿が脳裏に宿るから。
男子高校生でもそんな淫らな理由で異性を突っ返したりしないだろうに。
でも、今はそんなことどうでもいい。ケジメは、つけるべきだ。
探さなくては。探して、俺の答えを伝えなくては……。
まず最初にフレンドはどうだ?
フレンドからなら確かテレポートみたいなので、一気にその場所にひとっ飛びできるはずだ。
……あの野郎、フレンド登録切ってやがる。俺と会いたくなくて、一方的にフレンド切ったってことかよ。ふざけた真似しやがって。
次はどうする。フォースのテレポート機能も。ってこっちも解散状態になってるし。
なんなんだあいつ! 用意周到すぎるだろ。フレンドもダメ、フォースもダメとなったら、最後の手段は1つ。
掲示板ウィンドウを開き、俺は数に頼ることにした。
◇
672:勇者イッチ
助けてクレメンス。後輩が逃げた
673:以下名無しのダイバーがお送りします。
え、どゆこと?
674:以下名無しのダイバーがお送りします。
突然の展開
675:以下名無しのダイバーがお送りします。
やっぱ後輩ちゃんのスレのせんぱいってイッチか
676:勇者イッチ
「私の男になって」って言われた後、
すぐさま逃げてフレンドもフォースも切られた。
この期に及んで逃げんなやお前!
677:以下名無しのダイバーがお送りします。
ファーーーーーーwwwwwwww
678:以下名無しのダイバーがお送りします。
よく考えたらあの安価って告白みたいなもんだよな
679:以下名無しのダイバーがお送りします。
俺の女ニキ(推定)、やっちまったな
680:以下名無しのダイバーがお送りします。
告って、結果を聞くのが恥ずかしくて or 言ってる内容が恥ずかしくて、逃げたってことか
681:以下名無しのダイバーがお送りします。
後輩ちゃんヘタレかわいい
682:勇者イッチ
そこでお前らに捜索願を出したい。
今も後輩を探してるんだが、GBN内は広すぎる。どこに行ったか分からなくて
683:以下名無しのダイバーがお送りします。
おうおうおう、なんか大事になってきたぞ
684:以下名無しのダイバーがお送りします。
楽しくなってまいりました
685:以下名無しのダイバーがお送りします。
報酬欲しいなぁ
686:以下名無しのダイバーがお送りします。
お祭りやぞお前ら!!!
687:勇者イッチ
報酬ぐらいゲーム内マネーならいくらでも出してやる!
それと俺と後輩の行く末を見守るマンになれるぞ!
688:以下名無しのダイバーがお送りします。
交渉内容草。
でもノッた!
689:以下名無しのダイバーがお送りします。
ええやん。気に入ったわ
690:以下名無しのダイバーがお送りします。
イッチついに自覚したんか
691:以下名無しのダイバーがお送りします。
カプ厨元気でちゅー
692:以下名無しのダイバーがお送りします。
よっしゃ、やったろうじゃねぇか!
693:以下名無しのダイバーがお送りします。
情報クレメンス
694:勇者イッチ
ダイバーネーム:ユメ
機体:パンダ色に塗られたダガーL
特徴:茶髪のおさげ。あと大正ロマンの和装
695:以下名無しのダイバーがお送りします。
祭りだぁあああああああああ!!!!!
696:以下名無しのダイバーがお送りします。
電車男みたいになってきた
697:以下名無しのダイバーがお送りします。
遊びには本気にならないとなぁ!!
698:以下名無しのダイバーがお送りします。
探すぞお前ら!
699:勇者イッチ
吉報超祈ってる
◇
「よし、思いの外ノリのいい奴らで安心したぜ」
ティターンのブーストを吹かせながら周囲の警戒を続けているが、いかんせん豊富なディメンションとエリアからなるGBNというエリアはべらぼうに広い。
フレンドも、フォースもダメときたら後は人海戦術で探すしかないんだ。
ついでに晒した俺のチャット欄には、捜索中のディメンションを記載するようにお願いしているが、いかんせんディメンション1つ1つも広い。故に思ったよりも戦果は期待できそうになかった。
「でも助かる。グラスランドはいない。トワイライトもなし」
マップチェッカー機能を使って、ユメがいない場所をピン留めしていく。
もし漏れがあったら大変だが、どうやらモミジというマッパーの傭兵にも声をかけたらしいという話を聞く。そのフォースの仲間も手伝ってくれているらしいので、思いの外ユメ捜索包囲網は広がっている。
「しっかしあのバカ。いったいどこに行ったんだ……」
元はと言えば、俺が鈍感だったせいではあるが、こうして勝手に告白されて勝手にいなくなられても困るんだよ。
そのくせ用意周到なぐらい遠ざけてるし……。
「くっそ。マジでどこに行ったあいつ!」
エスタニアエリアに突入しても特に反応がない。
パンダ専用ショップに覗いても、それらしい女性はおらず、そのまま渓谷へと足を運ぶ。
見当がつかなさすぎる。この広い世界で迷子になられても困るんだぞ。
その時だった。俺のフレンドから1通メッセージが送られてきた。それはこの前ナンパしたサラーナというフレンドのメッセージだ。
『今、来れる? ふたりっきりで話がしたい』
ご丁寧に場所の指定をしてくるけれど、ここってエントランス・エリアのカフェテリアじゃないか。こんなところでいったい何の話をしようというのだろう。
ただ、なにか知っていそうなのは間違いなかった。急いでエントランス・エリアへのファストトラベルを実行して、カフェテリアへと走り始める。
そういえば、ここもユメと一緒に食事したり、煽られたりしたっけか。懐かしいな。
「こっちよ」
声が聞こえた先を見れば、黒髪ポニーテールの和服美人が俺に向かって手招きしている。
それに従って、逸る気持ちを抑えつつ、ソファーに腰掛ける。
「それでなんだ? 俺はこう見えても今忙しくて……」
「後輩を探しているんでしょう?」
「……お、おう。そうだけど」
「それに関して謝りたくてね」
どういうことだ? ユメと彼女の間には因縁めいたものを感じてはいるものの、実際、俺の目からはお互いに話したことが少ないように見えていた。
俺の知らないところで繋がっていた? いや。まずは、相手の話を聞くことが先決だろう。
合いの手と言わんばかりに「どういうことだ」と口にすると、息を浅く吸って深く吐き出す。深呼吸をしてから、サラーナは語ってくれた。
「あなた、『俺の女ニキ』って名称にご存知あるわよね?」
「っ! なんでそのこと……」
確かに聞き覚えがある、というか俺にとっての因縁の相手だ。
明らかに安価スレスレを毎回撃ち抜いてみせるあの『俺の女ニキ』は、俺にとっての天敵。あれの安価を当てればもれなく告白ルートと、内心ヒヤヒヤしていたのだ。
でも、サラーナがなんでその事を知っているんだ?
「あれね。私なのよ」
「はぁ?!!!」
サラーナは語ってくれた。
実際の私は体型だけは立派なカップリング厨と呼ばれる、2人一組を心から愛するいわゆる夢見る乙女であるということを。
そんな彼女が見つけたのは俺のスレ。最初はいつまでもこのカップリングを眺めていようと、影でクスクス悶ながらレスを出していたらしいが、ある時その張本人に見つかってしまった。
それがリバーフェス。ある意味あのフェスは運命のイベントだったと言っても過言ではないと思った。
ついに推しカプの域まで達してしまった俺とユメの2人を応援するべく。有り体に言えばくっつけるべく、見つけた後輩のスレであるユメの事を陰ながら応援するつもりだった。
だが、そこで事件が起こった。
「今回も安価をずらすつもりだったんだけど、まさかのヒット。結果的には私の望む内容になったのだけど」
「けど……?」
「あなたのスレを見て確信したわ。悪戯に人の恋路を邪魔してはいけないって」
……今更かよ。心の中でそう思ったけれど、口に出すことはなかった。
「私は陰ながら恋路を応援して、時に困難を。時に砂糖を摂取できればそれでよかった。でもユメの様子を見て気付いたの。あの子はあなたともっと親しくなってから告白するつもりだったんだろうって」
「それを早めてしまった、と」
「そういうこと。カプ厨失格ね、距離感を測りそこねるなんて」
みんながみんな、面白がっていたのは知っている。
だが、だがな。俺だってそれに対して何も思わないことはない。
「そんなのは関係ない。元はと言えば俺が最初に始めたことだ」
責任はいつも言い出しっぺが取る。
そんな言葉は一切聞いたことはないけれど、常識的に考えたらそれが普通だ。
この時の言い出しっぺは、スレを打ち立てた俺にある。だからユメが逃げた原因を作ったのも俺にあるし、俺の軽率な行動がユメを傷つけたのだ。
「だからサラーナはなんにも関係ない。これは、俺がケジメを付けるべきことだから」
「……あなたは、どうするつもりなの?」
「ユメに告る。あいつが勇気を出してくれたんだ。俺が答えないとダメだろ」
「……ふふっ!」
サラーナは額を抑えながら、フフフと息を漏らすように肩を揺らす。
真実を知った今なら分かった。この人、結構冷静なこと言ってた試しないな。
その肩の揺れは笑い。尊みを感じるだとか、推しがくっついたとか、そんなところの不気味で不敵で、無敵な笑いだ。
「ホント最高。やっぱりあなたを推しててよかったわ」
「うるせぇ。そんならユメの居場所をとっとと教えろ」
「分かったわ。ユメはヴァルガにいる」
「は?!」
ヴァルガって、あのヴァルガでいいんだよな?!
サラーナが今見せてくれたけど、ヴァルガにいるという情報は間違いなかった。確かに隠れるならピッタリだが、まさかあいつがあんなところに行くなんて……。
いや、こんな事してる場合じゃない。行かなきゃ。伝えなきゃいけないんだ。
「ありがとう! 今日のMVPはサラーナだ!」
「せいぜいくっついてらっしゃいな」
「あぁ!」
あぁ、もう吹っ切れた。分かったよ。
大したことはない。ユメに告白されて、俺はようやく理解した。
俺の気持ちはどこにあるのか。そんなこととっくに気付いてたんじゃないのか?
初めてスレを立てた時、あの時俺はどう思った。
俺以外のやつには淑女な態度を取るあいつに、俺は何を思った。
そんなの簡単だ。彼女の属性が妹系とかだったら、きっとすぐさま堕ちていた。
うざがったりはしたものの、本心ではそんなに悪くないと、こいつがもっと可愛ければと。可愛ければ『好き』になれたと思ったんだ。
あの告白でようやく気付かされた。
あいつは俺のことが好きで、俺もあいつのことが好きだ。
「ふざけやがって」
その声色は少し浮ついていた。今から俺はさっきの告白の答えを伝えてくる。
答えなんて、たった1つ。それは……。
「ユウシ、ガンダムティターン! 今会いに行くぞ!」
俺はあいつを迎えに、ヴァルガへと走り始めた。
決意のイッチ
情報アップデート
◇サラーナ
サラーナはカプ厨であり、GBN後輩スレにおいての『俺の女ニキ』に当たる人物。
スレを見かけたサラーナは一気に推しカプとなり、イッチでからかって遊んでいた。
リバーフェスに訪れた際にまさかのエンカウント、関係を持って以来、側で2人の様子を見れると興奮していたとか。
ちなみに安価は意図的に外していた。が、後輩スレでミスってヒットさせてしまい、今に至る。