(ふうん…)
一人、薄暗い部屋で映像を見ている者がいる。
その映像には、ツインテイルズとエレメリアンの戦闘が映し出されている。
「やっと、首領殿も重い腰をあげてくれたってことか」
何故そう判断できるか?
よく見てみると、エレメリアンがいつもと違う。
『あ、どーもこれ……私、パピヨンギルディと申します……。ダークグラスパー様直属部隊にして、アルティメギル四頂軍の一角、
セリフでも分かるが、普段ならば動物や神獣をモチーフとしたエレメリアンが主流だった。
だが、このエレメリアンは昆虫をモチーフとしている。
それだけでなく、『肩書き』を用いていることから、ただの部隊でないことも
「さて、どう出るかなぁ?」
ツインテイルズとの新たな展開に、彼は静かに胸を踊らせていた。
最も、幹部クラスで無ければテイルブルーに敵わないと予想できただろうが…
兎も角、これによりアルティメギルとツインテイルズの戦いは激化していくだろう。
☆☆☆
中間テストが近い陽月学園。
今日もテイルレッドの話題で持ち切りの2年の教室で、慧理那は物思いにふけっていた。
まぁ、そんな姿をヘンタイの目で見る輩もいるが…
「どうかしたの?」
黄昏ている慧理那に声をかけてみる。
もしかしたら、ツインテイルズに関してかもしれないからね。
「はい。実は親戚の男の子の誕生日に、えろほんを買ってあげることになったのですが……どういうものを買ってあげればいいか、わからなくて」
私やリンだけでなく、クラス全体が静まりかえった。
ど、どう反応すればいいんだ!?
「…おーけー。まずは深呼吸だ、って」
「ちょっと聞き捨てならないわよ!!」
おっと、慧理那の発言を聞いたクラスメイトが近づいてきたし。
「慧理那ちゃん、それは止めなきゃ!」
「そこは年上として止めなきゃ」
そりゃそうか。
普通は止めるよね。
だけど、慧理那はこう反論した。
「男性が思春期に女性の身体に興味を持つのは当然のこと。決して罪ではありません。それを周囲が悪し様に非難する浅慮こそが、罪なのです」
…正論キター!!
これでは何も言えないな。
しかも、何故か男子が涙を流してるし。
「それなら、男子の方が詳しいんじゃないの?」
「それもそうですわね。では、お伺いしますわ」
ある女子が、男子どもをゴミの様に一瞥しながらつぶやく。
すると、男子達は怯えながら自分のエロ情報、もとい性癖を暴露していく。
しまいには、倒れる者が続出するという、ある意味悲惨なものであった。
「うぃーす。面白いことになっとるやないの」
『リン?!』
そんな中、リンがうちのクラスに入ってきた。
「なんやなんや、ここの男子は雑魚ばっかか」
「…何しに来たの?」
「ただ遊びに来ただけや」
周りを軽く見たあと、慧理那に近づいた。
「慧理那、エロ本買いたいんやったなぁ」
「えぇ、性急にですわ」
「せやったら、近くの本屋にでも行ったらええわ」
『ちょっと待てー!?』
とんだ急展開に、私も含めクラスの女子が声をそろえて抗議した。
「『エロ本』言うくらいやから、そこにあってもええはずやし」
「ありがとうございます。早速行ってみますわ」
しかし、そんなツッコミはスルーされる。
エリナが教室を出ていった後、リンがせきをきるかの様に笑った。
「プッ… アハハハハハ!!」
「…ちょっと、リン!?」
「クッ… あんた、何を考えているの!?」
エリナを心配していたクラスの女子も、リンに糾弾し出した。
「いやいや、今まで純真無垢だった慧理那がエロ本を欲しがるなんて思わなかったからねぇ~」
「だからと言って、事態をどんどんややこしくさせないでよ!」
このままでは慧理那の生徒会長としてのイメージダウンに繋がってしまう。
早く止めないと!!
「やめとき」
「…!!」
急いで慧理那の後を追おうとしたら、リンに左腕を掴まれた。
その力は強く、ちょっとやそっとじゃ抜けなかった。
「理由が何であれ、元々ウチらが止める権利は無いわ。」
「そんな……」
「いおりん、ここは空気を読め」
どのみち、この状態では追いかけるのは不可能。
それに今頃、慧理那は本屋に向かっているはず。
今からじゃ間に合わない。
何より、あの慧理那の本気さ。
リンの言うことに一理あるな。
「まっ、こんなことした張本人は大体分かるわ。後で懲らしめたるか」
『えっ!?』
リンの言葉に、私だけじゃなくクラス皆が驚いた。
「そうなの、リン!?」
「私にも教えてよ~」
「くそぅ、愛しの会長を悪に染めた奴をブッ飛ばしてやる!!」
犯人を懲らしめるために、皆がリンに問い詰める。
男子は、バットまで取り出してきてるし。
あれで叩かれたら、痛いじゃすまないだろうな。
…犯人が誰か知らないけど、ご愁傷さまです。
「うんにゃ、これはウチといおりんに任せてほしいんや」
「な、何故だ!?」
「私は友達として止めたいのよ」
「皆の言うことはよう分かるわ。せやけど、ウチは慧理那の友達として、そして同じ生徒会の者としての義務があるからな」
リンの言葉に皆が黙った。
ここまで友達思いで、責任感があるとは思っていなかったからだ。
そんな覚悟があるならば、生徒会の仕事を私に手伝わせないでほしいんだが…
何とかクラスの皆を説得させ、犯人がいる場所に私とリンが向かった。
「で? 犯人は誰なの?」
「……」
誰にも聞かれたくないのか、しばらく周りを見回した。
そして、誰もいないことを確認した後、少し小さな声で言った。
「…恐らく、ツインテール部の奴らや」
「あぁ、納得」
私も、なんとなくそうだろうとは思っていた。
あんな変人の集まりにいて、影響を受けないわけがない。
「でも、エリナは『親戚の子が欲しがってる』って…」
「ぁー、あんなん
…それもか。
理由としては、少しおかしかったからね。
普通、あんなお願い事なら隠すものだろうけど。
「珍しいね。リンが率先して仕事するなんて」
「これ以上、慧理那や生徒会の名を汚すわけにはいかんからな」
リンも、生徒会が好きなんだ。
それがわかっただけ、安心した。
そんな会話を交わしながら、私達は部室へと歩いた。
☆☆☆
ツインテール部・部室。
そのドアに、リンは数回ノックする。
「なぁ、生徒会の雨宮やけど」
『どうぞ~』
この前とは違い、待たされることなくすんなりと入れた。
部屋にいたのは、トゥアールと愛香だけ。
「あれ? 観束君は?」
「彼なら、慧理那さんと買い物に行きましたよ」
そうしれっと答えるトゥアール。
たぶん、嘘なんだろうな。
「それならそれで都合がええわ」
「と、言いますと?」
「慧理那についてや」
そうリンが切り出すと、2人は固くなる。
「慧理那にエロ本を買わそうとしたんはお前らか」
「えぇ」
あら、あっさり?
「これは、慧理那さんと総二様のためでもありますし」
「…ふ~ん」
答え方に違和感があるな。
まだ何か隠しているような、そんな気がする。
「せやけど、あれはアカンやろ」
「それじゃ、会長が間違っているってこと?」
「いや。慧理那がエロ本を求めるんは、別にウチの知ったことやない」
…興味なかったんだ。
てことは、あれは野次馬感覚で会話に加わったってこと?
「それならば―――」
「ただ、もう少し考えるべきやったとちゃうか?」
「と、言いますと?」
「慧理那にもう少し誤魔化すようするべきやないか」
ん?
空気が少し変わったな。
「『親戚の子が欲しがってる』って言うとったけど、あれは苦しい言い訳や。親しい者なら直ぐに分かる。」
「ですが、それは―――」
「ウチら生徒会をなめとるんか?」
「「!!」」
あれれ?
いつの間にか、リンが2人を追い詰めているぞ。
「少なくとも、今日の件で生徒会は無能と判断されてもおかしくないわ。『トップである生徒会長が、学園の風紀を大きく乱した』とな」
「……」
「編入試験を満点スルーした、その頭脳をもう少し使って欲しかったわ」
うゎー…
気まずくなっちゃったよ。
「もうちょい周りに気をつけて行動してもらいたいわ。ウチが言いたかったのはそれだけや」
それだけって…
結構ボロクソに言ってませんでした?
それだけを言い残し、リンは部室を後にした。
「え~っと…」
不味い。
この空気には耐えられないぞ。
「ま、まぁ厳重注意だけで良かったと思うよ?」
そんな言葉を2人に振って、私も後を追った。
☆☆☆
「あれは言いすぎじゃないの?」
「あれがええんや」
廊下を歩きながら、私達はさっきのことについて話していた。
「それより、明日が大変や」
「どうして?」
「学園中に、この噂が広まるんは早い。収拾させるんが面倒くさいんでな」
「…もしかして」
「手伝って欲しいんやわ」
「…マジですか」
そんなこんなで、また生徒会の仕事をする破目になってしまった。
それにしても、2人に対してあんな事しゃべっちゃったけど、大丈夫かな?
あと、慧理那と観束君はどうしたんだろうか?
それを聞くのを忘れてしまったのが、今日の反省だね。