ツインテール部での一件からしばらく経った。
その間は、中間テストがあった。
先日その結果が返ってきたのだが、数学が1番悪かった。
万全の態勢で挑んだにもかかわらず、入学してからずっとこんな調子である。
ちなみに、その他の教科は平均より下辺り。
(どうして、こうも悪いのかねぇ…)
私が文系だからとはいえ、必要最低限は習わないといけない。
1年の時は何とかクリアできたけど。
(私の夏休み、どうなるんだろう…)
現在は、制服がブレザーから半袖シャツに変わった6月。
私はまだ先のことについて悩まざるをえなかった。
「おい~す」
「あぁ、リン」
後ろから、リンが軽く肩を叩いた。
そっちのクラスも終わったか。
「結果はどうだった?」
「まぁまぁやな」
そう言っているが、結果を聞くと全教科平均が80辺り。
そんな点数は滅多にとれないので、羨ましい。
「いおりん、相変わらずやな…」
「ナハハ…」
もちろん私の結果も教えたけど、反応はこんなもの。
ガッカリしているけど、何処かバカにしているような気がしてならない。
「このままやと、2年の夏は補習になりそうやな」
「やっぱり?」
リンもそう言うなんて…
これは、期末試験は気合い入れないとダメだな。
「それにしても、前の全校集会は色んな意味で衝撃やったな」
「……」
リンが話題を変えたことで、頭の切り替えにと少しあの時を振り返ってみた。
☆☆☆
その日は、いたって普通の日。
中間テストを目前とした、全校集会。
相変わらず、桜川先生が婚姻届けを出して求婚アピールしている。
しかし、後ろにいたメイドさん達に引きずりおろされる。
もうこれも、学園の日常になっている。
(懲りないなぁ、桜川先生…)
内心呆れながらも、静かに立っていた。
さて、お次は慧理那か。
そう思うと同時に、慧理那が壇上に出た。
だけど…
(ん? 何か違う気がする)
そう思ったのは、私だけではなかったようだ。
「くそぉぉぉ! 俺は大切な
1年の辺りから、かなりの大声で叫ぶ子がいたからだ。
あの声は、観束君かな…?
「あ、あの… 何かおかしいでしょうか?」
その疑問と絶望の原因は、慧理那の髪型にあったからだ。
ツインテールがトレードマークであった彼女は、髪を降ろして普通のストレートロングになっている。
もしかして、イメチェンかな?
意外と可愛いかもしれない。
壇上に立つ彼女の変化に、学年全体がしばらくざわついていた。
だけどそれは、意外な人物の登場によって静寂へと変わった。
「下がりなさい、慧理那。今のあなたに、生徒の長として説する資格などありません」
「お母様!?」
現れたのは、なんと陽月学園の理事長だった。
理事長も慧理那と同じくツインテールをしている。
周りからは「ツインテイルズに影響されたのでは」と話している。
だが、前にも言ったが決してそうではない。
「慧理那、何故ツインテールをほどいたのです?」
「私は何度も怪物に狙われているのですわ。だからこそ、これ以上の迷惑をかけないようにと―――」
「母の眼は節穴ではありませんよ!!」
理事長の声が、体育館内に響き渡る。
怒鳴りつけているわけではないようだが、さすがは神堂家。
言葉に重みがある。
だがその続きは、桜川先生によって止められた。
そして全校集会は中止。
なんだか、しまりのない集会となったしまった。
☆☆☆
「その後、エリナはしばらく来んかったわ」
「そうだったね~…」
廊下にいた1年の話では、エリナだけでなくツインテール部の部員もいなかったらしい。
恐らく、エリナが髪型を変えたことについて言及していたんだろうな。
前に彼女にツインテールにしている理由を聞いてみたら、
「代々、神堂家はツインテールを愛する家系。ですから、ツインテール以外の髪型は許されないのです」
と答えてくれた。
家系ってのは考えようだな。
髪型ですら、自分で自由にできないなんて。
息苦しいものだね。
ん、私?
私がポニーテールなのは、手軽さかな。
でも、何か忘れているような……
ダメだ、思い出せない。
「今日はバイトあるんか?」
「あぁ、今日はないよ」
「それなら、ちょいと遊ぶか?」
そういえば、ここ最近はテスト勉強で全然だったね。
たまにはストレス発散しなきゃ!
「いょーし、遊ぶよ~!」
「ふぃ~、疲れた」
「あんた、凄すぎやて」
「そうかな?」
リンが久しぶりにしたいということで、放課後はボウリングとなった。
たった3ゲームだけだったけど、十分できたか。
「最高170叩き出しといて、まだ不満か!?」
「もうちょっと出せそうだったけどね~…」
「マジで……!?」
ちなみにリンの最高は67。
久しぶりということを考えれば、いい方だと思うけど。
「それにしても、ここのコーヒーって美味しい」
「フフッ、せやろ?」
「こんな喫茶店があったなんて… 」
喫茶店『アドレシェンツァ』。
私が住んでいるマンションからは少し離れている、ちょっとシャレたお店。
ここに住んで2年近く経つけど、ここは知らなかった。
うん、お店の外装とかは悪くない。
だけど、純粋に褒められない。
チラッと横を見ると、
「自家製のコーヒーです」
「おぉ、このコーヒーだけが私の荒ぶる心を静めてくれる…」
周りのお客さんは、皆そんな感じ。
私達、喫茶店にいるんだよね?
(ちゅ、中二病だ…!!)
兎に角、落ち着かないのが現状だ。
そんな中、リンは普通にお冷やを飲んでいる。
よく平気で飲めるよね!?
(店主も店主で、全然働かない。
というか、セルフになってない?)
そんな会話をしていると、なにやらお客さんがまた来たみたい。
おろ?この声は…
ツインテール部か。
彼らも、ここの常連さんかな。
そうやって、入ってきたのはツインテール部と桜川先生。
途端に、店の空気がガラリと変わった。
「俺と友達になってくれ―――!」
「ばかもん、わしとじゃ」
「いや、俺が―――」
なんだなんだ!?
周りにいた客が、一斉に観束君に襲いかかる。
今度は何が起きたんだ?
「みんな『モテモテの主人公を羨む親友ポジション』になろうっていう願望よ。主役になることを諦めた人生の先輩たちのささやかな願い叶えてあげて、総ちゃん」
奥から、店主がそんなことを言いながらやって来る。
それも、何処か嬉しそうな表情で。
…なんだそれ?
もう色々とついていけん。
「あれ、先輩たちも来てたんですか」
「えぇ、ここのコーヒーは美味しいよね」
「そうでしょ、アハハ…」
私達にようやく気付いた津辺さんが、話しかける。
先程の光景を見られてしまったのか、返答がぎこちない。
「何してるんだ、愛香?早く行くぞ-――」
「あぁ、ちょっと待って」
『?』
店主からの突然のストップ。
「どうせなら、そこの2人も連れて行ってほしんだけど?」
『えぇぇぇっ!?』
これには、私達
そして津辺さんが店主を引っ張り込み、ツインテール部たちと何やら話し始めた。
(ちょっと、
(先輩たちは、エレメリアンについて知らない人たちだよ?)
(勝手に入れても大丈夫でしょうか…)
あの…
行くってどこに?
(大丈夫よ。
あの子たちなら、秘密はばらさないわよ。
それに、エレメリアンについてならいくらかは知っているんじゃないかしら?)
不味い。
これ、完全に出るタイミング無くしたんじゃないの?
(確証がありませんわ!!)
(大体、先輩たちは私の勧誘を断ったんですから)
…他に従業員、いなかったかな?
会計、済ませたいんですけど。
(だが、ほっといたらほっといたで面倒になりそうだぞ)
(部活内容も、ろくに話していないんじゃないかしら? きちんと見た上で、あの子たちに決めてもらいましょう)
(((……)))
話、まだかかるかな。
リンも、お冷を飲み終えて退屈しているようだし。
「終わったわよ」
「ええと、お会計―――」
「ついてきて」
え?
ついていくって…
私達がポカンとしている間に、ツインテール部5人は店の奥へと入っていく。
「すいません。お会計したいんですが…」
「それなら、カウンターに置いといて」
なんつ-適当な!!
「もう最近は、みんな勝手に淹れて、勝手にお金を置いていくから楽なのよ~」
「そういうもんなの?」
大丈夫か、この喫茶店。
リンも、乾いた笑いしかしていない。
それでも料金をポンと置くのは失礼なので、店主に料金を渡した。
おつりが出なかったのは、幸いだったかな。
「それで、どこに行くんです?」
「基地よ」
「「…は?」」
この店には不似合いな発言に、私達は思わず間抜けな返事をしてしまった。
☆☆☆
「マジかよ…」
店の奥には、エレベーターが。
それに乗ること数分。
そして、エレベータ-を抜けると信じられない光景があった。
「ほんまもんや…」
「ふふっ、すごいでしょ?」
一体誰が、こんな基地が普通の喫茶店の地下にあると思うか?
今の科学力では出来ないはず…
「もしかして、あの白衣がやったんか?」
「そうよ。しかも一晩で」
どんだけチートなんだよ、トゥアールさん!?
…まさか、宇宙から来たとか言わないよね?
しばらく廊下を進んだ先に、1つのドアが。
「ここが会議室よ」
もしかして、ミツカ君達がいるのかな。
中からは、何も聞こえない。
ここの会議室には、防音加工されているらしい。
「さぁ、入って」
そう言われて入ってみると、中は結構広い。
中央辺りには、大きめのモニターがあった。
そこに映し出されていたのは、
(やっぱりエレメリアン…)
姿は、3つ首の犬?
しかも映像では、3体に分離できるみたい。
「あら、随分冷静ね」
「エリナと一緒にあの怪物に会ったんや、少しは耐性つくわ」
確かに、実際にあったよ。
でも、1回だけだからね?
その後は、画面越しでしかないし。
「トゥアールさん、この装置ちょっと動かしてもよろしくて?」
「構いませんが、Yというファイルは開かないでくださいね。最高機密なので」
合流したのは会議の最後辺りだったか、慧理那が設備を見回っている。
「来てくださいましたか、リンさん」
「ちょっとウチも混ぜてーや」
あっちに行っちゃったか、リン。
そして案内してくれた店主は、観束君達の方に。
…暇だからリン達についていくか。
「一体何を見とるんや?」
「いえ、過去の戦闘データを調べられないかと思いまして」
そう言いながら、慧理那はパソコン?のような装置を操作していく。
「数が多すぎて、よくわかりませんわ」
「まぁ、しらみつぶしに探るしかないな」
しかし、慧理那はあまり機械操作に慣れていないのか、画面がおかしくなる。
「すみません、トゥアールさん。画面が突然動かなくなりましたわ」
「あぁ、それはダメだと―――」
トゥアールが血相を変えて、こっちに来た。
そこに映っていたのは…
『きゃははは』
『わーいわーい』
追いかけっこをしながら通学路を走る、赤いランドセルを背負った少女。
一気に、会議室内の空気が凍り付く。
「さて、あのケルベロスギルティは強力です。早急に対処しなければ」
「「お前の方が危険じゃ―――!!」」
津辺さんがトゥアールを強力な回し蹴りで飛ばし、そこをリンが巨大ハリセン(どこにあった?)で思いっ切りはたいた。
…ここは、変人の巣窟か?
前のお昼も思ったけど、よく観束君は耐えられえるなぁ。
「ハハハ…」
今の私には、ここはきつすぎる。
改めて思う。
あの時、キッパリと断って良かったと。
「…ねぇ、観束君。これがツインテール部なの?」
「…恥ずかしながら…」
この光景とは別の、後悔がうかがえる。
それにしても…
「ところで、なんで店主がここにいるの?」
「あれは、俺の母です…」
「マジか…」
店主が来ているのは、どこぞの悪の大幹部の様なコスチューム。
似合わない、と口に出しては言えないが少しな…
もし、あれが自分の親だとすれば―――
(ダメだ、想像したくない)
結局、ツインテール部は私達に何をさせたかったのか、分からずじまいだった。
と同時に、余計関わりたくないとも思ってしまった。
(トホホ…)
ただ、あの喫茶店のコーヒーは格別だった。
それだけは言っておきたい。