喫茶店『アドレシェンツァ』の地下、ツインテイルズの基地で。
あの騒動の後、店主―――
『あなたたちは、いずれ私達の仲間になるかもしれないわ。だから、この子たちのことをよく知ってもらいたいの』
つまり、未春さんもまたツインテール部に入ってほしいと思っているようである。
まぁ、ツインテール部の子たちとは友人レベルなら良いとは思う。
だけど、同じ部員としてはねぇ…
(面倒だ)
私の内情を示すとすれば、この一言だ。
リンはどうだって?
彼女なら、
「ウチは別にええで。ピッタリなボケ役もおることやし」
と、やけにウキウキだった。
どうやらトゥアールさんの過激なボケ、そしてツッコミに耐えられるほどの頑丈な身体が気に入ったみたい。
そんなわけで、リンは正式に入部することを決断した。
「伊織先輩は、入らないんですか?」
もちろん、私にもそう尋ねられた。
だけど、私は知っている。
その部活に入ることは、ただならぬ覚悟が必要だと。
それは、今まで(画面越しでだが)彼らの戦いを観てきた事実が証明している。
だからこそ、
「…やめておこうかな。」
今の私は、そう答えた。
「…そうですか。ですが、何時でも来てくださいね」
トゥアールさんは、やはり残念そうにしていた。
だけど、こればっかりはどうしようもないよね?
「せや。折角部員になったんやから、お近づきにどうや?」
そう言ってリンが取り出したのは、飴玉の袋。
そこから適当に飴玉を取り出す。
数は観束君、慧理那、津辺さん、トゥアールさん、桜川先生の分で、計5個。
色はそれぞれ違っている。
もしかして、フルーツ飴なのかな?
「ちょうど5つしか無いわ。ウチはかまへんから、皆で食べてや」
『いただきます』
リンがそう言うと、ツインテール部の皆は喜んで飴を取っていく。
「あっ、これってブドウ!?」
「この白いのは…桃ですか」
「レモンですわね。ちょっとすっぱいですわ」
「ふむ。私はオレンジか」
皆、美味しそうに飴をなめている。
私の時は野菜アメだったときを思うと、リンも出し物を気にしたのだろう。
そう思うと、食べていない私も嬉しくなる。
「ん、どないしたん?」
「あ、あの… リン先輩…」
おっと、観束君を忘れていたか。
しかし、顔色が悪そう。
「俺が食べたのって、何味ですか…?」
「ちなみに、飴の色は?」
「み、緑です…」
観束君に飴の色を確認した後、飴が入っていた袋の裏面を確認するリン。
「あ~… あんたが食べたんは『ドリアン』やな」
『何じゃそりゃ!?』
これには、リンを除く全員がツッコんだ。
なんやねん、ドリアンて!!
普通、飴の味として入れるか?
…前言撤回だね、これは。
というか、フルーツ飴にドリアン味を加えた会社にツッコミをすべきでないか?
(食べなくて、正解だったかもしれない)
結局、観束君は気分を悪くしてダウン。
私も観束君を介抱しようとしたけど、するには人手が多すぎるので止めた。
対エレメリアンの作戦会議が既に終わったこともあり、ここで解散となった。
そして、私はリンと一緒に帰路についている。
「いや~あれは失敗してもうたわ」
「…お願いだから、もうヤメテ」
リンの食べ物のセンスは、去年と変わらずひどかった。
今度は、普通のお菓子がいいなぁ…
☆☆☆
「ライブのチケット?」
数日後。
リンから、そんな話が出てきた。
なんでも、リンの弟―――
前売りのチケットはかなり品薄状態だったらしいが、3人分をなんとが確保。
元々は友達と行く予定だったらしいけど、2人ともキャンセルに。
そこで代わりの人と行こうという結果となったようだ。
しかし、一輝とリンで2人。
後は誰を誘うかとなったところで、私が出てきたようだ。
「でも、一体誰の?」
「見てみぃ」
そう言って差し出されたのは、そのチケット。
表には『善砂闇子』という文字が。
「もしかして、最近有名になったあの子?」
「ウチの弟が大ファンでなぁ」
はしゃぐ一輝を思い返したのか、疲れ気味にそう返事した。
テイルレッドの次は、善砂闇子か。
一輝って、結構浮気性なのかもしれない。
「で、どないする? 行かんのやったら、ツインテール部に渡すけどな」
「いやいや、行くってば!」
本当は、その日にバイトが入っている。
でも折角のチャンスは、無駄にはできない。
何とか今日中に、店長に伝えないとね。
☆☆☆
ライブ当日。
朝早くから、私達3人は長い行列にいた。
開演まではまだ時間があるけど、そこは有名人。
私達が着いた頃には、すでに何十人も並んでいた。
「伊織さん、大丈夫です?」
「目の下にクマができとるで」
「アハハ… 大丈夫だから、気にしないで」
そう答えるけど、実際はかなり不味い状態である。
何故かって?
店長に当日休むことは伝えたけど、その代わりにスケジュールを詰められてしまったからだ。
そのせいで、昨日は閉店ギリギリまで働く結果に。
もう眠いのなんのって…
席に座った途端に、おやすみモードに入りそう。
「しかし、ウチら目立ってへんか?」
「周りがオッサンばっかやからやない?」
いや、周りがオッサンだらけというより、男性が9割を占めていると言っても過言ではないかな。
やっぱり私達はこの場には不似合いなのかな、珍しい感じで見られていた。
(おい、あの娘…)
(あぁ、かなりの巨乳だぞ!)
(隣のロリもなかなか良いし)
(一緒にいる奴は誰だ!?)
かなりざわついてもいたけど、寝不足で聞く余裕は無かった。
折角の休みが~…
でも、何とかライブは参加しないと!
☆☆☆
『め~がねめがね、なにもかもめがねになぁ~れ』
ウォォォォォ!!
あのアイドルは凄い。
いや、ライブという特殊なステージが彼女をより魅力的に引き立たせる。
だが、気を引き締めないと身体が勝手に動き出しそうな感じがする…
「おーい、闇子ちゃ~ん♪」
3人席に、右から一輝・リン・私の順に座っている。
一輝は他の観客と一緒に盛り上がっているが、私はそれができなかった。
この大音量で眠気は吹き飛んだけど、睡眠不足から来るダルさが私の邪魔をしていた。
「一体、何がどうなったらそうなるねん?」
「…ちょっとバイトを頑張り過ぎてね…」
「アホか、お前!?」
やっぱり、叱られちゃったか…
当然だよね。
さて、どう言い訳するか―――
「ん?」
突然、天井から何かが落ちてきた。
その姿は…
「「エレメリアン!?」」
しかもあれって、この前に映像でみたアイツ!?
「今度はリベンジ戦ってところかいな?」
「状況に慣れすぎだよ、リン…」
善砂闇子が悲鳴をあげたのをきっかけに、会場内は一気にパニックとなった。
「姉ちゃん、伊織さん、早く逃げなきゃ!!」
だけど、この大人数では上手く逃げられないかもしれない。
でも、またあんな目には会いたくはない。
「ニッヒヒ… チャンスや」
「「何やってるの!?」」
リンの方に向けると、何処か嬉しそうにしていた人が。
まるで、大スクープに出くわした記者みたい。
「チッ、早く来んかい!!」
「ほら、行くよ」
何とか一輝と二人がかりでリンを引きずり剥がすことに成功した。
だけど、今なお人の流れは激しすぎる。
「あっ!?」
「姉ちゃん、伊織さん!!」
しまった!
人混みの流れで、一輝の手が外れてしまったのか。
リンはリンで、まだ抵抗しているし。
「おろ、あれは…」
「なっ、テイルレッド!?」
今回は、結構早いな。
そう言えば、やたら『ツインテール』を連呼していた人がいたけど、もしかして…
いや、今はこの場から離れないと。
「あわわ…」
何とか、会場から少し離れた廊下まで移動することができた。
私達がギリギリまでモタモタしていたせいか、周りは誰もいない。
もしかして、観客たちは既に脱出したんじゃ…
「まったく… 相変わらず詰めが甘い」
「「!!」」
まだ避難していない人がいたのか。
だけど、そう判断するには場に合わないという、か…
「あ、貴方は―――」
「ユウ! めっちゃ久しぶりやん」
そこにいたのは、まぎれもないユウだった。
そろそろ蒸し暑くなるというのに、スーツ姿とは。
「おや、こんなところで出会うとは。奇遇、かな?」
むしろ、この緊急事態にそんな返事ができる方が珍しいんですけど。
「あの時渡したノートパソコン、使っているかい?」
「あぁ、大助かりやわ」
「それは良かった」
紳士的な対応で話を進める両者。
こんなところで話している余裕は、無いと思うけど…
「それでや」
「ん?」
「結局、あんたは何者なん?」
リンの言葉で、3人以外誰もいない廊下に、更なる静寂を与えた。
どストレート過ぎない、いつも。
「あの中には、アルティメギルについての情報がほとんど入ってたわ。普通なら漏れたら不味い最重要機密を、何でウチらに渡した?」
「………」
今頃、ステージに乱入したエレメリアンはツインテイルズと戦っているのかな。
ユウが沈黙している間、ときどき爆発音が聞こえる。
「…協力してほしいことがある」
その場から動かず、ユウの目は私達を確実に捉えている。
「ツインテイルズと戦ってほしい」
交渉というには、ハードルが低い。
これは『お願い』と言った方がいいね。
「…ツインテイルズと?」
「そうだ」
このところ、かなりの確率で『面倒事』に関わっている。
慧理那たちと捕まった時から、ずっとつきまとっている。
だけど、今のユウの言いようでは
「『面倒事』にもっと関われ」
そう解釈しても、いいのかな…?
「なんでそないな事、せなアカンのや」
「どこの誰かも分からないのに?」
兎に角、回避したい一心で返答した。
さりげなく観束君達のことは、知らないふりをしながら。
「少なくとも、君達は彼らの正体を知っているはずだよね?」
だけど、彼の前では通用しなかった。
もしかして、顔に出てた?
「大丈夫。顔は普通だから」
うひぃ!?
心を読んできた!
これは私でなくても、怪しいと思わずにはいられない。
「それで? ウチらは何の得があるんや?」
それもそうだ。
学校の部活なんかは、入部することは別に強制では無い。
だから、私は今まで何処にも所属していない。
だけど、ツインテイルズーーーツインテール部と関わることで、私達にメリットがあるのかな…?
「今は言えない。だけど、それはいずれ君達にとっても良いことになるはずだ」
そんな言葉を残し、彼は私の側を横切った。
しかし、振り返れば私達以外は誰もいない。
(…怖っ)
☆☆☆
「姉ちゃん達、何処にいたんだよ!?」
「スマン、迷ったわ」
「嘘つけ!」
ユウが去った後、私達は会場を出ることにした。
そしたら、一輝が入り口で待っていた。
私達を見つけると、ダッシュで近付き、尋問されるはめになったのだ。
リンに詰め寄る一輝の目には、うっすらとだけど涙が。
「一輝、もしかしてお姉ちゃんが恋しかったりして」
「バッ、バカ野郎!? 俺はただ、姉ちゃん達が心配で…」
からかわれて、一輝の頬が少し赤くなる。
こんな態度をとってはいるけど、本当にリンのことが好きなんだな。
そう思うと、何だか微笑ましくて、いいな。
「もう遅いし、帰るで~」
「おっけー」
「ちょっと待ってや!?」
ユウの言葉は相変わらず引っ掛かるけど、
とりあえず、今日は気分転換できたかな?
「…ぁ」
帰りに買い物しようと思ってたんだ。
だけど、今からじゃスーパーは閉まってるよね…
どうしよう?
「せや、もう遅いから伊織もウチで晩御飯食べへんか?」
「えっ、いいの!?」
「たぶん、両親も喜んでくれるよ」
えへへ、ラッキー!
今日は、本当に色々あったけど結果オーライ、だね!
その後、雨宮家でごちそうになった。
とはいえ、何もしないのは失礼なので、夕食作りを手伝わせてもらった。
その際、リンのお母さんから「一輝のお嫁さんになるわ」と言われた。
一輝は頬を赤くしながら否定したけど、私はスルーしておいた。
彼女の冗談には、本気で相手にしないことが一番である。
食卓で並んだものは、いつもと変わらない。
だけど、いつもよりおいしく感じられた。