観束君が無事に戻れた。
それによって、ツインテール部はようやく平穏を取り戻すことができた。
ただ、『ソーラ』が消えたことで少なからず学校が騒ぎになってしまったけど…
何しろ、
「ソーラちゃん、どこ行っちゃったの~?」
「もう追いかけ回さないから出てきて~!」
部室の扉の隙間から見えたのは、彼女の姿を探し回る陽月学園ソーラファンクラブのメンバー。
恐ろしさのあまり、観束君がまたソーラに戻ると言い出す程に。
まぁ、私達が全力で説得して止めさせたけど。
しかし、そんな騒動は数日で収まった。
あれだけ熱かったソーラへの熱は、いつしかテイルレッドへと戻されていた。
そうして、ソーラがいた事は過去となった---
「う~ん…」
私が正式にツインテール部に入部してから、しばらく経った。
バイトや勉強でなかなかハードなスケジュールにはなったけど、意外と充実しているかもしれない。
まぁ、一番の難関である期末テストが終わったし、一息入れても良いよね?
「あ、そうだ。久しぶりにリンと何処か遊びに行こうかな♪」
「おい、長瀬」
もう誰なの、折角ウキウキな状態に水を差すのは!?
そう思って、振り返ると…
「ぁ、
後ろから声をかけたのは、数学の足立
ちなみに、私の教室の担任ではない。
「お前、また数学の点数が赤点だったぞ。これで、夏の補習参加は確定だな」
「ぇ!?」
「お前の夏休みはもう少し先と考えることだ」
「ふえぇ…」
そんな…
あれだけ懸命に勉強したのに!?
「いいいぃぃやあああぁぁぁ!!」
夏休みを間近に控えた空に、我ながら情けない悲鳴が響いた。
☆☆☆
終業式が終わった後、俺たちはツインテール部の部室に集まっていた。
生徒会については、夏休みは登校日に合わせて一日しかないようだ。
この夏休みをどうするか、会議が行われているんだけど…
「伊織先輩、どうしちゃったの?」
「目が虚ろと言いますか…」
「滅茶苦茶怖い!」
部室の隅で、パイプ椅子に座りながら何かを呟く先輩がいた。
何があったかは知らないけど、雰囲気がとてつもなく暗くなるから止めてほしい。
「リン先輩は知りません?」
「ん? あぁ…」
慣れない終業式で疲れていたのか、半分寝ていたリン先輩がようやく起きた。
よく見ると、ヨダレが…
先輩、女の子としてみっともないです。
「ふぁ~あ… どうせ、明日から補習があるから軽く落ち込んどるだけや」
「いゃ、軽くって…」
「んで、結局どないするん?」
トゥアールの発言すらスルーして、無理矢理本題に戻した。
「特訓の合宿などは、いかがでしょう?」
「…どんな内容で?」
「あ、やっと戻ってきた」
しばらくどん底モードに入っていた伊織先輩が参加してきた。
というか、最初から参加してください。
「特訓って言っても、私たちは文化部扱いなんだけど…」
「活動の一環として海に行ったんやから、今更やと思うで」
…ごもっともで。
「それに思うだろ、最近の俺たち」
戦闘データを見るに、決定的に問題がある。
俺はツインテールに関すると、てんでダメになる。
愛華は、何のためらいもなく攻撃を繰り出す。
そのせいで、日々化け物扱いがひどくなる一方だ。
慧理那は、戦場では脱ぎたがるし。
「身体的にも精神的にも、強くならないといけないと思ってる。敵もかなり強くなってきたからな」
「この前戦ったアラクネギルディは、副官でしたよね?」
「ということは、まだ隊長が残ってんのよね…」
その言葉に、部員は深く溜め息をつく。
少なくとも、まだ
「いずれにせよ、お前たちは更なるレベルアップをしなければならないな」
「いや、先生が言うことじゃないでしょ…」
私は関係ないという態度に、俺は呆れた。
貴女が教室で何をしたか、忘れましたか?!
「クラスの男子生徒だけでなく、女子にまで婚姻届を渡して!」
「何考えてるんですか、この年増は!?」
「まさか、アッチに目覚めたんとちゃうか…?」
周りにいる部員全員から、白い目線を向けられる顧問。
だけど、先生はそれを軽くあしらった。
「何を勘違いしている? 私が女子に婚姻届を渡したとき、その兄弟がいれば是非渡して欲しいと伝えている」
「それを父親にしないから、ドンドン年増になっていくんでしょうが」
「ふっ、流石に私とて家庭を無闇に崩壊させたくはないのでな」
俺が気にしているのは、別の事だ。
俺より年齢が低い者に婚姻届を渡したってのは…!
とてつもなく嫌な予感に、冷や汗が背中を伝った。
☆☆☆
アルティメギル基地。
その大会議室にて、修行が行われている。
「描くのはテイルブルーのみだ。それ以外は許さぬ」
美の四心の隊長・ビートルギルディの監督の下、テイルブルーの絵を描いていた。
無論、彼は絵の完成度を求めていない。
絵に、どれ程テイルブルーに憎しみが込められているかを見ているのだ。
「兄さん、これでどれだけレベルアップできるかな?」
「少なくとも、これでテイルブルーに対する恐怖心を和らげれば良いが…」
彼の側に寄ってきたのは、スタッグギルディ。
ビートルギルテディの片腕として、彼に仕えている。
「へぇ、随分と熱心にやってるな」
「おぉ、"怨み"様」
「一体どうされましたか?」
そんな場所にひょっこりと現れたのは、ユウ。
「いや、皆が大会議室で特訓をしていると言うから、何をしているか気になってな」
「皆で、テイルブルーの絵を描いております。"怨み"様も、一緒にどうですか?」
「止めておくよ。恐怖心も、僕の
そう言って、ユウはやんわりと断った。
彼としてはこのまま恐怖心を抱いてほしい。
しかしそれでは、今後の作戦に支障をきたすため、ただ見守ることにした。
「それにしても、随分と必死に描いているな」
「お分かりで?」
「ここからでも、凄まじいまでの怨みを感じる…」
まだこの企画を始めて間もないため、皆慎重に彼女を描いている。
その描き方からは、恐怖心が垣間見えているのだ。
「だけど、僕を満足させる程では無い、か…」
ほくそ笑むユウに、側にいる2体は不気味さを感じた。
「そういえば、ダークグラスパー様が近頃出撃なさるようで」
「…やはりか」
この空気を変えようと、ビートルギルディは話を変える。
その報告に彼は驚きを見せず、むしろ平然と感じているようだ。
まるで、それをあらかじめ予測していたかのように。
「だが今回は、彼女といえど苦労しそうだな」
「何故そう思いで?」
「その任務は、『脱走した裏切り者の確保』だからだ」
「「…!」」
その意味は、瞬時に解った。
『確保』というものは、『撃破』よりもはるかに難易度が高い。
更に言えば…
「…何故『確保』なので?」
「裏切り者ならば、即刻排除すべきでは?」
2体の言い分も納得できる。
1つは、害を成してもなおアルティメギルに利をなす存在。
そして、
「首領が直々に封印された奴だからだ」
「まさか---」
「それは、首領に同行した僕が保証する」
それは、驚きの発言だった。
「既にダークグラスパーは出現した場所に向かっている。僕もその後を追う」
「---なんと!? もう向かわれたか!!」
「お前らは引き続き、修行に励んでくれ」
「「ハッ!!」」
そのままユウは、大会議室から出ようとした。
しかし、何かを思い出したのか急に向きを180°変えた。
「そうそう、"裏切り者"といえば、お前たちもか」
「何のことで?」
「"アイツ"が裏切り者となったことで、お前は
「「……」」
この情報は、ごく一部にしか知られていない。
それを何故態々言うのか。
「精々、立派な隊長と思われる様に、頑張ることだな」
皮肉を残し、今度こそ大会議室から離れた。
「兄さん…」
「解っている。俺とて、この場にいるのは偶然である事は」
ビートルギルティの拳は強く握られ、震えていた。
自信の無力感を、彼なりに理解しているのだ。
「いずれにせよ、ツインテイルズを倒すには『彼』の協力が必要だ」