ツインテイルズ基地から出発して、俺達はよく目にしている空間にいた。
出撃する際に使用する、ゲートの中とよく似ていた。
俺の目に映る景色としては、様々な色がマーブル状となった空間。
「ねぇ、私達がいつも使用しているゲートと一緒なの?」
かれこれ30分くらいは経過しただろうか、退屈している愛香が質問をトゥアールに投げかけた。
「いぇ、全くの別物です。今我々が通っているゲートには、人体にとって有害な物質が多数存在しています。なので、仮にテイルギアを付けていたとしてもこの空間にいることは難しいと思われます」
「マジで…!?」
操縦も機械制御に移り、操縦桿を手放して暇そうにしていた彼女はそう答えた。
その話が本当なら、あの女の子---ロロリーは大丈夫なのか?
「この移動艇も、技術の大半は搭乗者の防護に振り切っているだけの、ただの箱みたいなものです。意識だけを飛ばしたあの子は、理に適っていますね」
それを聞いて、安心した。
あの娘とは俺の夢の中であったから大丈夫なんだ。
その時、操縦席のモニターからアラームが鳴り、トゥアールはそちらに視線を向けた。
「もうそろそろですかね」
「やっとか。先輩を起こさないと…」
ゲートの中でも、リン先輩は寝ていた。
バスと同じ感覚なのだろうか。
席から立ち、後ろに座っている彼女に声をかけようとしたら---
「何、今の!?」
「揺れたわよね…?」
この移動艇全体が揺れた、ような気がする。
そして、トゥアールが血相を変えた。
「不味いです。目的地に着く直前でトラブルが発生しました」
マジかよ!?
てことは、墜落するのか?
「皆さん、席にしがみ付いてください。特に総二様!」
俺は慌てて席に戻り、シートベルトをかけ直した。
「すっごくラッキーだわ! 母さん、戦艦での移動中にこういったトラブルに遭遇するのが憧れのシチュエーションの一つだったの!!」
「頼むから、今度帰ってきたら母さんが望んでいること、全部書き出してくれ―!」
こんな出来事はできるなら会いたくもない!!
俺はこんな場面で、母さんが
「嘘、もう
俺達を乗せた移動艇は、地面に引かれるように急速に堕ちていった。
「イテテ… ここは?」
気絶していたのか、記憶が少し飛んでいる。
確か、俺達は墜落して---
「! そうだ、皆は!?」
辺りを見回すと、キチンとシートベルトを着けていたのか、乗員は無事のようだ。
(って、俺の後ろで寝ていたはずのリン先輩は!?)
もう一度探すが見つからない。
一体何処に…
そう考えていた時、悲鳴が聞こえた。
「どうした!?」
「あわゎ… リンさんが…」
声の主は慧理那だった。
駆け寄って話を聞くと、彼女は天上を指した。
その先には---
「何やってんだー!?」
天上に頭が刺さり、手足をだらりと下げたリン先輩の姿があった。
彼女が座っていた席を確認する。
シートベルトが衝撃で外れたのかと思ったが、しっかりと固定されていた。
兎に角、先輩を助けないと。
「愛香、手伝ってくれ」
「…一体どうやったら、こうなるのよ」
目の前に映る光景に呆れつつも、何とかリン先輩を天上から引き抜くことに成功した。
改めて彼女の顔を見る。
天井を突き破ったときに付いたのか、幾つかの小さな擦り傷が見えるがたいしたケガは無いようだ。
「何ボケッとしてるのよ。替わりなさい」
愛香がリン先輩の襟首を掴んで手前に持ってくると、平手打ちを高速でしだした。
頬を叩いた音が、間隔なしで艦内に響く。
「うぅ…」
もう何十回目だろうか、頬が十分赤くなったところで先輩は起きた。
「おはよう、先輩」
「起きて見る最初の光景が阿修羅の顔て、どんなんやねん」
愛香は容赦なく、彼女の頭に拳骨を喰らわせた。
寝起きな頭によく響くようで、先輩は頭を抱えて床を何往復も転がっていた。
「---さて、この星を調べますか…」
愛香が先輩に喰らわせた光景に冷や汗をかきつつも、トゥアールは操作しだした。
「メンテナンスは完全なはずだったんですが… どうも大きな力が干渉した感じがあるんです」
「大きな力… まさか、
「それは不明です。しかし、墜落時に皆さんに大きなケガが無くて良かったです」
墜落時は大丈夫だったが、現在進行形で怪我人がいるんだけど…
「艦載の人工衛星を飛ばしますか。地球の周りにある人工衛星"ようじょ"に比べれば些か
「ねぇ、本当に探知できるの?」
「大丈夫ですって!
「なんで
確かにうってつけだよね…
俺が会った娘も、そのゾーンに入っているし。
「随分と不思議な惑星ですね。私たちが墜落した場所以外は全て水に囲まれています。言い換えれば、島が一つしかないということですね」
ほぼ海の惑星、ということか…
「反応を2つキャッチしました。
「1つはロロリー本人だとして、もう一つはテイルギアみたいなものなのか?」
「それはどうでしょうか? テイルギアは私が開発したオリジナルですからねぇ。取り敢えず、降りましょうか」
そう言って、トゥアールは身支度を始めた。
「ちょっと、降りても大丈夫なの!?」
愛香がそう声を荒げるのもわかる。
俺達がいる場所は、地球でも目にする草原。
だけど、異世界だからどのような危険に遭遇するか、わからない。
「大丈夫ですって。他の惑星でもないですし、大気も汚染されてませんよ」
トゥアールの言葉を信じ、俺達も用意し始める。
だけど、母さんは席に座ったまま身じろぎもしない。
「あれ、母さんは行かないの?」
「うん。母さんは戦艦で異世界に行くことが目的だったから、出しゃばらないわ。それよりも総ちゃん、その夢で出てきた女の子を持って帰ってくるくらいの豪胆さを持ってね」
「あぁうん…」
まぁ、大人しく留守番してくれるならいいけど…
目の前にある大量のボタンを見て、適当にいじくらないで欲しいと静かに願う。
移動艇に残る母さんを不安に思いつつも、俺達は外に出た。
「ここが異世界…」
感想を述べたのは慧理那だ。
確かに、俺達は異世界に来たんだ。
踏みしめる草の感触も、頬を通り抜ける風も本物だ。
「さて、目的地に向かうぞ!!」
トゥアールから端末を受け取り(と言う名の強奪)、桜川先生は先導しだした。
(随分とノリノリだなぁ…)
内心やれやれと思いつつ、その後を追った。
しばらくは何事もなく進んでいたが、不意に先生が立ち止った。
「どうかしたん---」
「静かにしろ。何か来る」
その言葉通り、地響きが聞こえてきた。
その音は大きくなってくる。
エレメリアンかもしれないと思うが、夢のあの娘の話ではもういないはず…
やがて姿が見えてきた。
その正体は---
「…ゴリラ?」
どうやらゴリラの群れに遭遇したようだ。
「いや、ただのゴリラじゃないぞ!」
頭部の毛をツインテールに束ねていた。
それも、俺達からみえる全部のゴリラがだ。
「それに友好的ではなさそうね…」
全身に包まれた剛毛から、筋肉が強張っているのが分かる。
それこそ、今にも飛び掛からんとしている。
「総二、あたしが取りこぼした分はお願いね」
愛香、何迎え撃つ用意してるんだよ!?
下手に刺激するな---
「ほぉ―、このゴリラって地球のと違って毛深いんやな― しかも野生か。地球じゃ、絶滅指定種やねん。ラッキーやわ」
俺の心の声を無視して、リン先輩はツインテールゴリラの体をべたべた触っていた。
「危ねぇから、こっちへ来てください―!!」
俺の注意と同時に、先頭のゴリラが剛毛の中から何かを取り出して投げてきた。
それは粗く削られた木のブーメランで、慧理那に向かって真っすぐ飛んでいく。
「危ない!!」
両方の間に桜川先生が割り込み、ブーツでの踵落としでブーメランを粉砕した。
一歩間違えれば、身を斬られる恐れもあったというのに…
「つがいが見つかる野生動物ごときが、婚期を求めるアラサーをなめるな! ハングリー精神が違うのだ!!」
…一瞬でも恵理那の護衛として、先生を尊敬した俺がバカだった。
愛香と先生の気迫に押され、ゴリラたちが後ずさる。
その中から、また別のゴリラが出てきた。
今度は、片目が傷で塞がっている。
この威圧感とツインテールの良さからして、群れのボスに違いない。
「アンタなら、その無駄な脂肪が役に立つでしょ」
「だからって非戦闘員の私を矢面に立たせる意味がありますか!?」
愛香はボスゴリラを警戒してか、トゥアールを盾にした。
野生の動物より非道だな、オイ…
「---つ、ツインテール…」
『しゃべったあっ!?』
ゴリラが突然言葉を発しだした。
だが、俺は不思議に感じられなかった。
むしろ、そんな予感さえあった。
「お前、ツインテール、なのか」
「凄いな、男の俺でもわかるんだな」
テイルギアによる
流石は野生の感、ということか。
「お前、笑わないのか…?」
「ぇ?」
「ツインテールにしたら、人間、笑う。人間、バカにした」
ゴリラのツインテールを見ると、枯れた蔦を紐代わりにして結んでいる。
こうしてツインテールを愛する存在がここにもいてくれたんだ。
「笑うのは、嘲りだけじゃない。いいものを見て、嬉しく思う時にも笑うのさ。」
「ツインテールは本物だ。俺が保証する。可愛いってのとは異なるけど… カッコいいぜ」
威嚇するように唸るゴリラ達を、ボスゴリラは手を振って制止させた。
「コイツ、嘘言ってない。」
この言葉で、愛香や桜川先生も警戒を解いてくれた。
ひとまず、争い事を回避することには成功した。
「ツインテール、減った。元に戻ってほしい」
どういうことだ?
ロロリー本人はツインテールだった。
もしかしたら、アルティメギルの侵攻で減ってしまったのかもしれない。
「いくらツインテールでも、ゴリラは困りますぅ~ どうなっているんですかねぇ…」
「うわああっ!?」
ゴリラの横から、急に全身がピンクのエレメリアンが現れた。
「ーーーあら、そこのアナタ達、良いツインテールなのに、ちっとも属性力が感じられません。 逆に、ショートカットの娘は、ポニーテールの属性力がビンビンと感じられます。不思議です~」
何故ここにエレメリアンが!?
まさか、残存兵が…
「別に危害を加える事はありませんので、大丈夫です」
そう言って、後方に現れたゲートへと消えていった。
不味いな、ロロリーはこの世界にエレメリアンはいないと思って油断している。
「急いで向かおう!」
「…そうね」
俺の言葉に、愛香は何故か不服を抱えた返事をした。
「普通やね」
草原を抜けた後、俺達は町の中に入った。
リン先輩が言うように、俺達が思っていた景色は違和感は無かった。
ただ、街並みは中世のヨーロッパ、と言った方がしっくりと来るかもしれない。
壁は幾つものレンガを重ねて作られていて、窓越しに洗濯物が架けられている。
まるで、タイムスリップしたかの様な錯覚を覚えてしまう。
「それもそうですが… 私達、見られてません?」
そう応えたのはエリナだ。
確かに、珍しい物を見たかの様な視線がある。
それも当然、俺達の回りは皆ポニーテールにしていたからだ。
あのゴリラが言っていたように、この惑星にはツインテールはあまり見られなかった。
俺達を見て騒いだり、
中世の街並みを抜けて、俺達は城の前に着いた。
門には2人の兵士が守っている。
その姿は、アニメがドラマなどのフィクションでしか見ることができない、西洋の鎧を纏っていた。
被っている兜は後部に隙間があり、そこからポニーテールが出ている。
トゥアールに検知器を操作させて、もう一度確認する。
「ここに、ツインテールの反応があるのか?」
「えぇ、間違いありません」
それにしては、ツインテールの気配が無いけど…
兎に角、ロロリーに会うためにも城の中に入らなければならない。
そう考えて門を通ろうとしたが、当然止められる。
だが、その理由が常識はずれなものだった。
「貴様、この国ではツインテールは禁止されている。直ちにツインテールをほどけ。さもなければ---」
そう言って門番は西洋剣を抜き、近くにいる慧理那のリボンに狙いを定めて振り降ろした。
俺は籠手ごと掴み、動きをを抑える。
「お前、慧理那のツインテールを切るつもりか?」
「流石にツインテールを切り落とさぬ。私はリボンを狙っただけだ」
それは看過できない。
俺は兵士の行動に、憤りを感じた。
「ふざけるな! リボンを切り落とせば… ツインテールじゃなくなるじゃないか!!」
「…何を言っているのだ?」
剣を持つ騎士は、どうにも理解できないようだ。
「まぁまぁ、先輩も落ち着いてくださいよ~」
「お前は黙ってろ!」
もう一人の門番が止めに入ったが、その一言で黙ってしまった。
見れば先程の兵士より身長が低く、ポニーテールも短めである。
というか、さっきから掴み続けているせいで、腕が…
だけど、慧理那のツインテールを守るためならば---
「そこまでだ」
城門が開き、重厚な音を立てて開き始めた。
門の隙間からくぐりぬけて兵士を止めたのは、桃色のドレスを着た女の子。
「その者達は、ボク達の客人だ」
「姫様…! 申し訳ございません」
その女の子---ロロリーは髪を右に束ねた、サイドポニーをしていた。
門番の騎士は、その子の言葉に従い、剣を収めた。
「護衛の騎士の非礼を詫びる。さぁ、城へ案内しよう」
彼女に従い、俺達は城の中へと入っていった。
「しかし、町の中ではツインテールが見当たらなかったぞ。もしかして、まだアルティメギルにツインテールを盗られることを恐れているんじゃ---」
「いや、ツインテールは法律によって禁じられているぞ」
俺は先程見た光景をロロリーに話したが、どうも内情がややこしい。
法律で禁止って…
「ところで、後ろで凄まじい顔でボクを見ている奴は誰だ?」
ロロリーが嫌な顔をして俺に問いかける。
横目で見れば、ハァハァ言いながら身体をくねらせている。
時々愛香やリン先輩から強烈な攻撃を喰らっているが、全く応えないようだ。
「---あいつはトゥアール。俺の仲間だ」
そう答えておいた。
時々垣間見える変態性さえなければ、完璧なのに…
「お兄ちゃん!!」
門の方角から、俺を呼ぶ声が。
振り返れば、もう一人のロロリーが走ってきた。
驚いて正面を見れば、そこにはロロリーがいる。
近づいてきたもう一人は、俺の腕に抱き付いてきた。
「会いたかったよぉ、お兄ちゃん」
そう言って、上目使いで俺を見るロロリー。
でも、そこにいるのもロロリーで…
訳がわからん。
「姉様アアアァァァッ!? そんな奴に触らないでください!!」
右側にサイドポニーをしている娘が、血相を変えて叫んでいた。
もしかしてこの娘達、双子なの!?