Which do you love ?   作:ズケズケ

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Episode.31【伊織、初陣!!(後編)】

「まったく、人間ってのも悪くねぇな」

 

伊織の家。

そこでは、唯乃が一人でお留守番をしていた。

 

「こうして寝転がって、テレビ見て… 良いねぇ」

 

腕枕をしてダラリとしているその姿は、まさに『ズボラ女子』。

彼女が着ているのが伊織のジャージなので、尚更残念でならない。

伊織が帰って来た時の様子が、容易に予想できる。

 

「あぁ、極楽極楽---」

 

そう言おうとした時、唐突にチャイムが鳴った。

水を差されてしまった彼女は、思い切り不機嫌な顔をする。

 

「ったく、誰だよ…!?」

 

苛立ちを感じながらも、唯乃は玄関のドアを開ける。

 

「どちらさんで---」

「伊織はおるか!?」

 

ドアの先に、血相を変えたリンがいた。

ふと目線を下げると、脇にパソコンを抱えている。

 

「いや。1時間くらい前に、買い物に出かけたが?」

「ちとスマン!!」

 

唯乃が答え終わると同時に、リンは家に飛び込んだ。

 

「おい、待てよ!?」

 

唯乃の制止も聞かず、リンは真っ直ぐリビングに向かった。

慌てて唯乃もその後を追う。

 

「一体どうしたってんだ!?」

「パソコンいじっとったら、急にエレメリアンの反応があったんや。そんでしばらく様子を見とったら、おもろいことになっとる訳や」

「エレメリアンだぁ?」

 

ノートパソコンを立ち上がらせるリンを、後ろから興味深く見つめる唯乃。

やがてその画面は、何かを映し始める。

 

「やっぱりな。こいつは確かに面白みがあるな」

 

それは、エレメリアンと緑色のツインテイルズの戦闘であった。

 

「しっかし、これは不味いな。負けちまうぜ」

「せやな、ちょいと手伝いますか」

 

そう軽く発言した後、パソコンを操作していく。

その横顔は、笑みが浮かんでいた。

 

☆☆☆

 

爪の数は、5つ。

それらは全て、私に向かって飛んでいく。

 

(避けられない…!)

 

私は目の前の光景が信じられず、強く目を閉じた。

彼は勝利を確信してか、口元を歪ませる。

 

「勝った…!」

 

しかし、その確定事項はたった1つの出来事で崩れてしまう。

遥か上空から飛来した何かが爪を全て破壊し、地面に小さいクレーターを作った。

かなり重量があるのか、地面に衝突した際に轟音が鳴り響いた。

 

「今度は何だぁ!?」

「今のって…」

 

観察してみると、空中から落ちてクレーターを作ったのは、緑色のハンマー。

何処から現れた!?

 

『聞こえるか~?』

「その声…! 今何処にいるの!?」

 

突如、リンの声が聞こえた。

何処から見ているのかと、辺りを見回す。

しかし、テイルギアで強化された視力でも、彼女を見つけることが出来なかった。

 

『それよか、あんた今まで得物も無しにようやったな。とにかく、それでぶっ飛ばし』

(適当過ぎるわね…)

 

しかし、あのままではジリ貧は避けられなかったので、助かる。

問題は、どうやってあれを取るか…

取らせまいと、モールギルディは左手を私に向けている。

恐らく取った瞬間に、撃つのだろう。

 

「取れよ」

「えっ」

 

そんな警戒心丸出しの彼から、驚きの発言が出た。

そんなことをすれば、彼が不利になるのは確実。

 

「俺はこの長い爪が武器だ。これじゃ不公平(アンフェア)だろ」

 

なるほど、彼なりのフェアプレー精神か。

断るのも失礼だと思い、私はゆっくりハンマーに近づく。

そして足下まで近づいた時、腰を屈めてハンマーの柄を握った。

途端、この武器の名前と使い方が脳裏に浮かび上がる。

これが、私専用の武器。

 

"重力の鉄槌、グラビティハンマー"。

 

ハンマーを持ち上げてみる。

重そうな見た目に反して、意外と軽い。

いや確かに重さはあるが、私では持ち上げられない予感があったので助かる。

 

「よっと」

 

頭部を上に持ち上げ、両手で構える。

扱うには、両手でないと厳しそうだな。

 

「さぁ、遊びましょ♪」

「良いぜ」

 

私は舞踏会でダンスを誘う感じで、挑発する。

その誘いに、彼は嬉しそうに頷いた。

それを合図に、両者はお互いに向かって真っ直ぐ走る。

そして、爪と鉄槌がぶつかり合う。

 

☆☆☆

 

「やるじゃねぇか。エレメリアン1体だけだが、互角にやりあってる」

「せやけど、今の伊織---テイルグリーンは負傷しとる。このままやと不味いで」

 

テイルグリーンに助言をした後も、リンは唯乃と状況をパソコンの画面越しに眺めている。

唯乃は伊織の底力に驚きを隠せない。

普段の彼女には、そんな素振りが無かったからである。

 

「なぁ、唯乃。あんたは、こうなる事を予測しとったんか?」

「さぁ、どうだかね」

 

リンはふと感じた疑問を唯乃に問いかけるが、彼女は反らしてしまった。

 

(いずれにせよ、大変なのはここからやな)

 

そうしてリンは視線をパソコンの画面に戻した。

 

☆☆☆

 

「なかなかのパワーね」

「お前も、初めてにしちゃやるじゃねぇか!?」

 

私達は、優雅に踊るように戦っている。

武器の衝突音が、この戦場に響き渡る。

 

「もっと俺を楽しませろ!」

 

縦に切り裂こうとした長爪をハンマーを横に構えることで凌いだが、がら空きとなったお腹に容赦ない前蹴りを浴びせられた。

両足で踏ん張ったけど、ダメージが軽減された訳では無い。

距離が開くやいなや、モールギルディは爪を再び撃ち出してくる。

ハンマーを回すことで壁を作り、何とか凌ぐ。

 

(…あれ?)

 

今撃っているのは、左手。

爪で攻撃した右手は使っていない。

あいつの能力なら、すぐに再生できるはず。

 

(やってみるか)

 

私は矢継ぎ早に来る爪を、身を屈めて回避していく。

ハンマーがギリギリ届く距離まで詰め、体の左側に構える。

そして、右手だけでハンマーを斜めに振り上げた。

 

「ハアッ!!」

 

気合い一閃。

慌てて引っ込めようとした左手にヒット。

指先付近にハンマーの中心が当たったため、親指の爪以外は全て折れた。

 

(もう一撃!)

 

空の左手に力を込め、ストレートを腹部に叩き込んだ。

耳を塞ぎたくなるような音を立てて、モールギルディは吹っ飛んだ。

 

(そろそろハンマーで決めたいけど、この重量だし。隙が大きすぎる。何とか相手を拘束できれば…)

 

そう考えていた時、再びリンから通信が入った。

 

『さっき重力砲撃ったやろ? その応用で拘束(バインド)もできるみたいや。まぁ、やってみ』

(なんで、私が思っていることが解るんだろ…?)

 

彼女の通信に一抹の疑問を浮かべながらも、私は賭けに出る。

先程のように左手に力を込める。

しかしイメージは、球でなく網に変える。

 

「てぇい!!」

 

撃ちだされたそれは、見事モールギルディに命中。

その後、球が大きくなり彼をスッポリ包んでしまった。

 

「何だこれ、出られねぇ!?」

(うわっ、本当にできた…)

 

内心驚きつつも、私はハンマーに力を込める。

確か、その時の起動コードは…

 

完全解放(ブレイクレリース)!!」

 

その言葉にハンマーは応えた。

ハンマーの中央が開き、何かのタービンエンジンのようなものが(あらわ)になる。

それは回転を始め、緑色をより淡く光らせる。

私はハンマーを高く上げると共に、モールギルディに真っ直ぐ向かう。

 

「グラビティ---」

 

敵を打ち砕く、重力の鉄槌の必殺技。

それは---

 

「ブレイカー!!」

 

私はハンマーでモールギルディを叩いた。

技を喰らった彼は、捕縛球ごと砕かれた。

最後の言葉も、断末魔も無く。

それにしても、技による衝撃と轟音、砂煙が凄まじい。

私もこのアーマーが無ければ、吹っ飛んでいたかもしれない。

 

(……)

 

それらが落ち着いた後には、静寂しかなかった。

私はハンマーを地面に叩いた格好のまま、動けずにいた。

 

『…大丈夫か!?』

 

通信でリンが問いかけるが、私には聞こえなかった。

思えば、私は重傷で戦っていたのだ。

終わったと一息つくと同時に、痛みが襲ってきた。

 

「あと、よろしく」

 

そう言って、私は倒れた。

もう意識が保てない。

勝ったという喜びお噛みしめつつ、意識は暗転した。

 

 

 

 

「---ぅ」

 

薄くだけど、目が開く。

そこで見えたのは、

 

(白い…天井?)

 

もしかして、病院に搬送されたの?

何とか動かそうとするも、体が言うことを聞かない。

 

(確か、エレメリアンと戦って、負傷したんだっけ)

 

勝利こそしたが、ギリギリだった。

下手すれば、自分が死んでいたかもしれない。

 

(向いてないのかな、私)

 

私自身が情けなく思う。

覚悟したのに…

 

「目ぇ覚めたか」

 

突然現れたのは、リン。

その後ろには唯乃もいる。

 

「ここ、病院?」

「いや、基地や」

「…へ?」

 

基地?

てことは、ツインテイルズの!?

 

「それ、不味くない?」

「なんでや?」

「ツインテイルズの基地だよね? トゥアールさんが知ったらどうなるか…」

 

それに、勝手にブレスを作製してるし。

まず、属性玉(エレメーラオーブ)をどこで入手したか、とか色々質問攻めの遭いそう。

 

「安心せぇ。ここは元々いおりんの家やて」

「---ハァッ!?」

 

ちょっと待て、てことはここは私の家?

勝手に工事したってことだよね。

建築基準法とか、そんなのはどうでもいい。

先に言うことは…

 

「何私の家を勝手に改造してるのよ~!!」

 

大家さんに怒られちゃうのに!

バレたら追い出される可能性もあるし。

私、ホームレスになるのか…

 

「ぁ~…スマン。順に説明するわ」

 

リンの話では。

テイルブレスの製作は、町外れの廃工場で行った。

ならついでに基地も作っちゃえってことで、内装工事(リフォーム)をした。

規模は、本家と比べれば小さいみたいだけど…

だけど、一々工場に行くのはめんどくさい。

ならば、何処かに中継地点、つまり基地への入口を作ればいいじゃないか!

ちなみにその入口は私の家を含め、リンの部屋にもある。

ついでに、テイルブレスにも簡易版のワープ装置が搭載されている。

私を基地へ移動させたのは、この機能を使用してのことらしい。

 

「---つまり、現在地点は町外れの廃工場で、ここから一瞬で私やリンの部屋に移動できる、ってこと?」

「せや」

 

せやって…

かなり広い意味では、私の家になるかもしれない。

何というか、説明が回りくどいよ…

あれ、何かを忘れているような…

 

「そうだ、買い物袋!!」

 

確か、あの場所に置いてきたままだったはず。

でも、あの激しい戦闘で無事の可能性は無いけど。

 

「ぁ~… あれは戦闘でおじゃんになってもうたわ。幸い、買い物のメモはあんたが持っとったから、今唯乃に買いに行かせとる」

(やっぱり…)

 

あの中には、壊れ易い卵や豆腐もあったのだ。

あの戦闘で無事な方がおかしい。

 

「いずれにしろ、2.3日かは療養が必要やな。その間、じっとしとけ」

「そんなに短いの!? あんなに傷を負ったのに!!」

「テイルギアには、自己修復機能と共にダメージ軽減、回復の機能も搭載されとる。実際、ここに転送した時に傷は幾らか修復されとったわ」

 

高性能過ぎる…

実際死にそうだったのに、これだけの怪我で済んだから、良しとするか。

ただ、

 

(…津辺さんへのプレゼント、買いに行けそうにないな)

 

それが私の最大の後悔だった。

 

 

 

私の初めての戦いから2日後。

リンの言うことは本当だった。

あれほどの傷にもかかわらず、ほぼ治りかけている。

基地にずっといる必要もなく、退院(?)できた。

 

「変ねぇ…」

「何がだ?」

 

そんな私は、家で唯乃とテレビを見ている。

だけど、私にはその内容が不可思議で仕方がなかった。

 

「私、エレメリアンを倒したんだよね? だったら、何かしら報道されるんじゃないの!?」

 

確か、実際にエレメリアンの被害に遭いそうになった人がいたはず。

ならば、警察に電話の1本は入っているよね?

それにあれだけ激しい戦闘だったのに、ツインテイルズが気付かない訳もない。

不可解な点が多すぎる。

 

「たぶん、認識阻害装置(イマジンチャフ)が使われたんじゃねぇのか? それも高性能の」

「そうなの?」

「俺が所属していた時代でも、そいつはかなり優秀だったぜ」

 

認識阻害装置(イマジンチャフ)

ツインテイルズも使用している、便利道具の1つ。

それのおかげで彼らは、今まで正体がバレずに済んでいる。

 

「でも、確かそれって使用前の姿と使用後の姿との因果関係を無くすための装置じゃ…」

「『無くす』じゃなくて『遠ざける』な。確かにツインテイルズが使っているのはそうだが、今回のエレメリアンが使用したのは、存在自体を消すタイプだったんだろうぜ」

 

その説明を聞いて、更に疑問がわく。

 

「あの時、悲鳴をあげた人には見えてたんだよね?」

「たぶん、身体の一部を密着させたんだろ」

 

そういえば---

 

『離してください!』

『いいや、離さぬ! 千載一遇の機会を逃すか!!』

 

触ってたな、思いっきり!?

彼の属性力(エレメーラ)のせいとはいえ、相手が嫌がってても『手』を握り続けていたな。

(注意:本人は確認していない)

 

「まぁ、こっからが大変だぜ」

「それって、どういう---」

 

私が唯乃に問いかけようとしたとき、チャイムが鳴った。

宅配便か何かかな?

そんな軽い気持ちで、ドアを開けると、

 

「おいッス」

「リン… 何その格好?」

 

家の前にいたのは、青のジャージを着込み、日の丸ハチマキを着けたリンだった。

手を前に挙げるその姿は、体育の教官に似ている。

まるで「今から特訓だ」とでも言わんばかりの気合いだ。

何だろう、とてつもなく嫌な予感が…

 

「えっと、色々突っ込みたいんだけど…」

「時間は無いんや! テイルギアを使いこなすためにも、早速特訓や!!」

「やっぱりぃ!?」

 

リンに手首を掴まれて、私は引っ張られていく。

唯乃は部屋から、こっそり観察していた。

見ているなら、私を助けろ!?

 

「仕方がねぇ、ついていくか」

 

彼女は呆れた顔をしつつ、私とリンの後を追った。

ただし、私の姿を後ろから見えるよう、遅めで。

 

「やっぱり私、断れば良かった-!!」

 

そう叫んでも、後の祭り。

こうして、私が立派な戦士となるための、地獄の試練が始まったのだった。

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