中継映像に映し出されていたのは、彼らエレメリアンにとって信じられないものであった。
「何と酷い…」
「あのエレメリアン、見たこと無いぞ!?」
「というか、ツインテイルズも何者だ!?」
誰もが皆騒ぎ合い、パニックになる者までいた。
一応コミケの様子も映されているが、それすら眼中にない程である。
「兄さん…」
「あぁ、もしあれが会場にいれば、大惨事は免れないだろう」
しかし、この会議室もこの有り様では、情報収集ができない。
皆を落ち着かせるために、ビートルギルディは皆の前に立つ。
「聞け、この場にいる全てのエレメリアンよ!! 貴様らが幾ら喚こうが、向こうには何も伝わらぬ。今はただ、我等が仲間の有志と新たな戦士の戦いを静観せよ!!」
その言葉に、会議室が静まった。
誰もが発言力を失ったかのように、空気が張る。
ビートルギルディが自分の席に戻るのを見て、皆思い出したかの如くスクリーンに目を戻したのだ。
☆☆☆
エレメリアンは動かない。
まるで出るタイミングを図っているように。
相手がそうだから、こちらもなかなか攻撃に移れない。
周りには、まだ一般人がいる。
彼等は何とか衝撃から回復しているが、エレメリアンが睨みを利かせているために動けずにいる。
(このピリピリした感じ、嫌なんだけど…)
内心困りながらも、意識はエレメリアンに向けて不意討ちに警戒を緩めない。
ここは戦場だ。
たった一瞬の気の緩みは、死に繋がる。
モールギルディと戦って、それがよくわかった。
(さっさと終わらせる!)
ハンマーを構えたまま、前に動いた。
そしてエレメリアンに近付くと共に、ハンマーを少し後ろに引く。
彼に突きをするためだ。
スピアーより攻撃面積が広い分、当てやすいはず。
「貴方は非道そのものよ!!」
「生命ハ皆、生キル為二他ノ生命ヲ奪ウ。ソレガコノ世界ノ心理」
「貴方を喜ばせるために生きてるわけじゃない!!」
ハンマーが当たる瞬間、彼は跳んだ。
私の真上をかすめるように。
その間にスピアーを逆に持ち変える。
当然後ろに隙ができる間を彼は逃さない。
スピアーの先を私に向け---
「ナラバ、オマエガ初メテダナ」
背中から、私を貫いた。
『伊織!?』
通信でリンが私に話しかける。
だけど、それすら聞き取りにくい。
(またか…)
私は攻撃を受けたショックより、呆れを感じた。
リンと唯乃に折角特訓を受けてもらったのに、敵に攻撃されるとは…
まだ私も甘いな。
「コレデ、我ハ『殺人者』ダ」
スピアーを抜き、付いた血を眺めながらそう呟いた。
その顔は狂喜に満ちている。
「まだよ」
ハンマーを平行に構え直し、横に払う。
しかし、バックステップでそれを避けると同時に詰め寄る。
今度は心臓を狙っている。
「終ワリダ」
スピアーは真っ直ぐ心臓に向かう。
しかし、途中で見えない壁にぶつかったように、それ以上先に行けなかった。
「ったく、起動するのが遅いわよ」
『帰ったら、また特訓やな』
スピアーの先にあるのは、黄緑に発光する障壁だ。
これは、リンが言うには"重力障壁"らしい。
リンが改めてテイルブレスを解析した際に、その機能が発覚した。
特訓で出るようになったものの、まだ発動までに
「…ナラバ壊レルマデ、攻撃スル!」
エレメリアンがスピアーの動きを早める。
それは前に見た、リヴァイアギルディを回忌させる程の技量だった。
(壊れる!?)
実際、障壁には幾つものヒビが入っている。
障壁が破壊され、私にスピアーが入ってくるのは時間の問題だ。
(ガードしなきゃ)
せめてと思い、両腕を交差させて急所を防御する。
ガラスが割れたような音が聞こえたのは、その瞬間だった。
障壁が割れ、スピアーの突撃の雨を襲う。
「がっ…」
ガードしていても、ダメージが軽減されない。
全体的に攻撃されているため、身体を支える足にも力が入らない。
連撃の雨の後、強烈な刺突により吹き飛ばされてしまった。
「貴様、ぽにーてーるノ戦士ノ割ニハ弱イ。同ジ戦士トシテツマラヌ」
『同じ戦士…?』
リンも同じところで引っ掛かったみたい。
もしかして、こいつの
「イタズラ二攻撃シテモツマラナイ。サッサト終ワラセル」
スピアーの先を私に向け、ゆっくりと距離を詰めていく。
細かい傷と最後のダメージで、思うように動けない。
立つだけでやっとだろう。
ハンマーを杖変わりに、脚に力を込める。
傷と疲労で上手く動かないけど、今は弱音は吐いていられない!
「ふぃなーれダ」
立ち上がりきったところで、エレメリアンが一気に距離を縮める。
私とて、いつまでも重いハンマーを持てるはずがない。
(どうせ、ハンマーを振るう程の体力はもう無いんだ)
そう考え、ハンマーを近くに乱暴にブン投げた。
そして、そのまま立ち尽くす。
「諦メタカ」
スピアーが眼前にまで差し掛かる。
相手は油断している。
もし相手の虚を突くなら、ここだ!
"重力障壁"
「!!」
私は左手を前に突き出した。
上手く手の先に障壁が形成、スピアーを押し留める。
スピアーと障壁の間で火花が飛び散る。
このままでは不味い。
障壁の抗力を上げるために範囲を少し縮める。
「ククク…」
「何が可笑しい?」
突如、彼は笑い声をあげる。
防御に全力をあげながらも、問いかけてみる。
「すぴあート言ウノハ、相手ヲ刺スタメノ道具。シカシ---」
彼が語り始めると同時に、スピアーに異変が起こった。
なんと、スピアーが回転し始めたのだ。
「我ノハ、少シ違ウ」
回転するスピアーはやがて障壁を破壊し、左手を貫いた。
あまりの痛さに意識が刈り取られてしまうが、何とか取り戻す。
そして貫かれた左手で、回転するスピアーを捕まえる。
『無茶や、グリーン! 今すぐ離さんかい!!』
必死でリンが止めようとするが、私は無視する。
もしリンの指示に従えば、私の後ろにいる人を貫く可能性がある。
だからこそ、
「嫌だ!!」
『伊織!?』
その言葉に、エレメリアンは嘲笑った。
「ナラバコノママ、体ゴト貫カレロ!!」
確かにこのままじゃ、私に勝ち目は無い。
でも私には、このエレメリアンにない力がある。
「…ねぇ」
「何ダ?」
「ドリルって回転しているから、そう呼ばれるんだよね?」
「ダカラドウシタ!?」
彼からすれば、どうでもよいことなのだろう。
でも、私にとっては凄く重要だ。
「回転が止まれば、それはもうドリルじゃないよ」
「何…!?」
スピアーから、鈍い音が発する。
私の左手がスピアーを掴み、回転を止めているのだ。
やがて掴んでいる箇所から、細かいヒビが入る。
「---バカナ!?」
「うぅぅあぁぁぁっ!!」
スピアーを鷲掴みにしたまま、手前に持っていく。
それと同時に右腕を折り曲げ、肘で力任せにスピアーを折った。
(チャンスだ)
軽くふらつくエレメリアン。
私は、左手に突き刺さったままのスピアーの先端を引き抜く。
逃がさないように、彼の右手を残った握力で捕まえる。
ついでに念のために、自分の半径2mに過剰重力を発生させておく。
「何ヲシタ…?」
「貴方は終わりよ」
"
私は右手に力を込めると同時に
私のテイルギアの能力である重力と、
十分に溜まったところで、エレメリアンの腹部にアッパーを繰り出す。
これが私オリジナルの技。
「"重力爆砕拳"!!」
彼の腹部からトラックが衝突したような重い音が響く。
ヒットすると同時に、通り抜けるような感触があった。
そう感じた一瞬の後、遠くにある建物が一部壊れた。
幸い、あの場所には人はいないはずなので、負傷者は発生しないだろう。
「何故---」
「…?」
「何故、貴様ハ強イ?」
重力爆砕拳を受けたところから、細かい亀裂が生じていく。
痛みに耐えながらも、私に問いかける。
恐らく彼にとっては大切な質問なのだろう。
だったら、私も正面から答えていかなきゃ。
「私には、護りたいものがある。だからこそ、私が負けるわけにはいかないの」
これが、私なりの答えだ。
ありきたりだけど、大切なもの。
失ってはいけない、大切なもの。
だから護る、それだけのこと。
「…ナルホド。ソレガ答エカ」
エレメリアンが微かに笑った気がする。
「サラバダ、
ガラスが砕け散るようにエレメリアンは消滅した。
そして、その欠片が集まり、一つの菱形の形にまとまる。
(
私は、それのそばまで寄ると、菱形を掴んだ。
それはやがて自身の輝きを失い、消えた。
さっきまで掴んでいた手を開いてみると、そこには何も無かった。
(相変わらず、変なの…)
戦闘の疲れと安堵感しかなかった私には、そう感じることしかできなかった。
「結局、オープンキャンパスは中止か…」
私はため息交じりの文句を言う。
何しろ、建物への被害が尋常ではなかったらしい。
コミケ会場にもエレメリアンが複数現れたようだけど、そちらの被害は最小限だったみたい。
その被害を比べるとすれば---
「今も立ち入り禁止のテープがあちこちにあるし…」
テープと共に、侵入防止の柵まで設置されている。
その向こうでは、重機が音をたてて地面を直す様子がここからでも見える。
「やっぱ駄目やわ。今日の大学レポートはでけへんみたい」
「これでパァか…」
離れた場所で学園に連絡していたリンが来た。
予想通りの連絡に、もう投げ出すしかなかった。
背中を地面に預け、空を見上げる。
「これで2戦2勝か…」
天に左手を向ける。
テイルギアの加護があるとはいえ、そう直ぐに回復はしない。
手の甲に、痛々しく包帯が巻かれている。
(このままじゃ、本当に死ぬかもしれない)
モールギルティでは、大量出血を起こした。
今回のエレメリアンも、前回ほどではないけど、非常に危なかった。
(観束君達も、こんな風に戦っていたんだな)
目を細め、ぼんやりとそんなことを思っていた。
まだ戦いは終わっていないのに…
(返ったら、何しよう…?)
急に眠気が襲ってきた。
私はそれに抗えずに、意識が暗転した。
基地に配備されているテレビを、3人は見ている。
もしかしたら、私の戦いが流れているかもしれない。
そんな淡い期待を持ちながら、テレビの電源を付けたんだけど---
「「「…………」」」
無言、ただそれだけ。
その様子から察するに、期待のものではなかった。
何故なら、
『テイルレッドに新たな力が!? これにより、玩具業界に更なる進化が期待される』
その謳い文句と共に、ツインテイルズの戦いが映し出されていた。
ただ、注目されたのは新機能のチェインカスタムのみ。
戦闘シーンは、イエローが前面に出ているたため、殆ど映されていなかったのだ。
「…人気、無いのかな」
静かな会議室に、私の呟きが響く。
あれだけ苦労したのに、一切報道されないとは。
「仕事に戻るわ」
空気に耐えられなかったのか、リンが会議室を出る。
今回入手した
「何か、他に無いのか?」
唯乃が色々リモコンでチャンネルを変えるが、テイルレッド一色。
唯乃はイラつき、リモコンを地面に叩きつけた。
あまりの現実に、私は頭を抱える。
(どうして、テイルレッドだけ人気があるの?)
そんなことを思っていても、答えてくれる人はいない。
様々なことにショックを感じた一日は、こんな感じで過ぎていった。
☆☆☆
「『〇〇大学で、老朽化によるヒビが発生。緊急で補強工事を開始した』か…」
幾つものモニターは、
しかしその一つには、Webニュースが。
様々なメディアがツインテイルズのみを報道する中、ただ一つ、それもオマケ程度だがそう報道された。
「色々と面倒をさせてくれるわ」
呆れつつもそう呟くリン。
タイトルの下には、こう記述されている。
『8月○日、〇〇大学にてオープンキャンパスが開催されたが、実施された建物が老朽化により、一部が崩れる事態が発生した。その破片が参加者及び従業員を襲い、17名の負傷者を出した。負傷者は大学病院に搬送され、今も治療を受けている。この事態に対し大学関係者は「創設以来、補強工事をしていなかった。学生を護るために、今後はこのような事態が起こらないよう、対処する」と発言した』
大学に現れたエレメリアンについて、一切報道されていない。
むしろ、最初からいなかったような扱いである。
「ええ加減、何とかせにゃあ」
緊張感の無い台詞を発しながらも、凄まじい速さでタイピングしていく。
今回の戦闘で、リンもかなり苦しいものになると痛感していたのだ。
(…いよいよやな)
彼女の手元にあるのは、唯乃から渡されたレリーフ。
調整が大方終了し、残すはテスト演習のみ。
(首洗って待っとれ、ツインテイルズ!!)
その顔は、恐ろしいほどに笑みがあった。