まだ暑さの残る夏休みに、私は学校にいる。
その理由としては、
「これより、作戦会議を行います」
ツインテール部にそぐわぬ台詞から、部活は始まった。
この場にいるのは、部長の観束君、津辺さん、慧理那、私、リンの5名。
顧問の桜川先生は、教師としての仕事があるため参加できないらしい。
「まず、この映像を見てください」
テーブルに置かれているプロジェクターから出されたのは、この前の戦闘シーンだ。
しかし、私のではなく彼らツインテイルズについての、である。
今回ツインテイルズが戦ったのは、蝉と蚊のエレメリアン。
どちらもはかなく散った、実に夏らしいエレメリアンであった。
「しっかし、まさかアルティメギルが、ブルー相手に特訓しているなんて思いませんでしたよ」
「アンタに言われたくないわね!」
「まぁ、約束がありますから、愛香さんには大人しく従ってもらいますよ~」
「ぐっ…」
約束…
何だっけ?
まぁ、私には関係がないからいいけれど。
(検めてみると、昨日がテイルレッドばっかりだった理由がわかるわね)
戦闘の最中、彼女は敵の能力によってコスチュームを変えられていたからだ。
正確には上からかぶせている、と言った方が適切か。
ブルマに始まり、婦警、ウエディングドレス。
その衣装の綺麗さに、観客は皆興奮していた。
(日本の若者は大丈夫かしら…?)
私も一応若者の一人だけど、心配になる。
私は正常なはずだ…たぶん。
「ムフフ… テイルレッドの新たな魅力が発見できましたよ」
「仮装を正装に… アンタもアンタやなぁ」
気味悪いトゥアールさんに、リンが冷静につっこむ。
私もここに来て少し経つけど、変態に耐性ができたなぁ…
「さてさて愛香さん、お約束を」
「あーもぅわかったわよ! 総二、後ろ向いてて!!」
「ハァ!? ちょっと待て!!」
…何の約束だか知らないけど、それは流石に不味いでしょ!!
何としても、ここは回避しなきゃ。
「観束、スマン」
「ガッ…!?」
私が止めるよりも早く、リンが観束君に回し蹴りを決めた。
それは容赦のない蹴りだったようで、彼はお腹を抱えたまま地面に倒れてしまった。
「ふぅ… 一件落着」
「「何が一件落着よ!!」」
まぁ、そうでしょうね。
普通なら、後ろを向いてもらえれば良かったのに、まさかの実力行使とは…
「総二様の大切なお身体に、何してくれやがります?」
「一回、本気で戦いましょうか…?」
完全に2人がブチ切れてる。
これじゃ、今回の会議が進行できなくなる。
「ストップストップ。リンは後回しにして、会議を再開させる!」
「そうでした!」
「怖かったわ、伊織~」
一触即発だった空気が、一瞬で収まった。
リンが助けを求めに私にすり寄ってきたけど、
「自業自得よ。後で、説教ね」
リンに阿修羅のような怒り顔を向ける。
ガーン、という音が聞こえてきそうな感じがするほど、彼女はショックを受けていた。
☆☆☆
「…さて、コミケの戦利品はかなり手に入った。皆に分け与えねばならない」
ここは会議室。
この広いスペースには、山積みにされた段ボールが並べられていた。
そして、各エレメリアンに渡すため、
(問題はあの戦士だ)
戦闘員からの中継映像に映った、緑のツインテイルズ。
彼らにとって、この増援はかなり痛い。
その上、新手のエレメリアンがあれ程非道であることが苦痛に感じる。
(あのような乱暴な行為では、
人間を尊重するアルティメギルとして、あの行動は許さない行為である。
新入りだとしても、それは遵守しなければならない、暗黙の了解なのだ。
(するべきことは決まった。後は誰に願おうか…)
天井近くまで積み上げられた段ボール箱を見ながら、ビートルギルディは静かに考えていた。
☆☆☆
「…コホン。続きに入ります」
トゥアールさんがスクリーンの隣に立ち、説明を再開させる。
先程強烈な蹴りを喰らった観束君は、予備のパイプ椅子を並べて作った簡易なベッドで横になっている。
まだ気絶しているけれど、時折寝言が聞こえる。
断片的にだけど、悪夢を見ているみたい。
「ツインテイルズが戦闘を行った場所は、このコミケ会場です」
画面が拡大され、会場の中心に複数のポイントが付けられた。
色分けされているみたいだけど、これって…?
「青で表示されているのはツインテイルズ、赤はエレメリアンです」
青は3つに赤は2つ。
たぶん、
「トゥアール、アンタまさかこれだけのために、緊急会議を開いたんじゃないでしょうね?」
なぜかいらついている津辺さん。
目線が時々リンに行っているあたり、まだ怒っているのかも。
「本題はここからです。確かに、我々の戦いは重要ですが---」
急に画面が縮小し、今度は違う場所を拡大した。
その場所は、
「この場にも、反応が確認されました」
「「「!?」」」
オープンキャンパスが開催された、あの大学だった。
この事実に、ツインテイルズは驚きを隠せない。
寝ていた観束君も、飛び起きるほどに。
「まさか、陽動作戦!?」
「てことは、
「どうしましょう…?」
3者3様にリアクションがあった。
私は特に驚きはしなかったが、そのフリをしておいた。
(もしかしたら、あのエレメリアンかもしれない)
落ち着きでもすれば、怪しまれる可能性があるからだ。
「今はただ、機会を待て」って2人に止められているからね。
「しかし、その反応はたった10分。その後は確認できませんでした…」
トゥアールさんが頭を下げて、謝罪した。
「反応が追えなかった、ってこと…?」
「途中で切り上げたのか、それとも…」
そのエレメリアン、私が倒したんだけど…
「いずれにせよ、皆さんには注意してください。まだ情報が不足していますので」
かつてない緊張感が部室に漂う。
空気までピンと張っている。
(余計なこと、したかなぁ…?)
気まずい雰囲気の中、私は何度目かわからない後悔をしていた。
☆☆☆
アルティメギル基地、会議室。
そこには基地に駐在する全てのエレメリアンが集められていた。
「急に隊長から召集されるなど、何事か?」
「恐らく、コミケの戦利品を配布されるのでは!?」
「そういえば、まだであったな…」
皆、この状況に対して気が緩んでいた。
テイルブルーを攻略できる道が見つかり、希望を見出しているのだろう。
「皆の者、待たせたな」
講壇に現れたのは隊長のビートルギルディと副官のスタッグギルディ。
彼らが現れると同時に、会議室は落ち着きだした。
「まず、お前達に戦利品を配給する。各自、列を組んで並べ」
『オォ!?』
ビートルギルディの指示に従い、各エレメリアンは複数の列を形成する。
皆、戦利品を取ったことに喜びを噛み締めている。
「この作品は、テイルレッドの躍動感が見事に描かれているぞ!!」
「こちらのも、なんという可愛さ…」
皆、作品に描かれている彼女のみ注目している。
だが1体、真剣に読もうとしていない者がいる。
(圧倒的にテイルレッドばかりだ… 他の奴はどうして描かぬ!?)
彼は
同人誌を持つ手が、震えている。
彼の属性にとって、戦闘の描写が少ないことにいら立ちを感じているのだ。
(まぁ、出動した時に戦えれば良いか。それより---)
読んでいた同人誌をしまい、ビートルギルディが見える場所まで近づいていく。
「隊長。ただこれだけのために、召集されたのですかい?」
彼は疑問に感じていた。
ただコミケの戦利品を配るだけならば、段ボール箱に詰めて配送すれば良いはず。
本当にこれだけなのか…
「そうだな。これも必要なことだが、そろそろ本題に入るとするか」
ゆっくりと歩き出すビートルギルディ。
その動きから、隙が全く見当たらない。
「先日現れた、新たなツインテイルズ。今回はその戦士の調査だ」
その発言に、エレメリアンは騒ぎ出す。
まさかまた戦いになろうとは、誰もが予想していなかったからだ。
「自薦、他薦は問わぬ。誰かこの任務を受ける者はおらぬか!?」
ビートルギルディの勧誘も虚しく、誰も立候補しようとしない。
しかしそんな中、群衆を抜けてライオギルディの横に並ぶ者がいた。
「是非ともその任務、このスワンギルディに申し付けくださいませ!!」
深く頭を下げて、出撃を願い出るスワンギルディ。
その自信さに、周りのエレメリアンは驚きの声をあげる。
「確か、今は隊を離れ、一人修行に投じているはずだが…?」
「仰る通りです。しかし、私は実践する機会に恵まれておりませんでした。今この好機を逃せば、私はいつまでもくすぶったままとなり、亡くなられたドラグギルディ様に示しがつきませぬ!!」
それほどまでに、彼の覚悟は堅かった。
ビートルギルディは腕組みをして、深く考え込む。
「ならば、お前には幾つかテストを行うとしよう」
ゆっくりと席を立つと、ビートルギルディはプレッシャーを放った。
それは衝撃波という見える形で現れた。
しかしスワンギルディは身動ぎをせず、彼を見据えていた。
「ドラグギルディの話通り、気合いは十分。しかし---」
ビートルギルディは左腕を軽く挙げる。
それを合図に、1体の
議長席に置かれたのは、スワンギルディのノートパソコン。
彼にとって、またあの悪夢が甦るのか…
周りのエレメリアンはざわつく。
「再び倒れるか否か--- 試そうではないか」
スワンギルディのノートパソコンが起動する。
ホーム画面はやはりテイルレッドのみ。
そしてビートルギルディは1つのアイコンを開いた。
それは彼の属性に相応しき、
かつてドラグギルディが行ったように、ビートルギルディはスワンギルディの秘密を赤裸々に明かしてゆく。
「喚きもせぬか。つまらん」
「私は悟ったのです。自らの
僅かな間に、スワンギルディはここまで成長した。
これならばドラグギルディに顔向けができる。
そうビートルギルディは判断した。
「---よかろう。ただし、新手と戦うとなれば、ツインテイルズが介入するのは間違いない。お前には護衛として、
「ありがとうございます」
かくして、スワンギルディの出撃が決まった。
ビートルギルディに深く頭を下げ、会議室を後にする。
しかし、彼が去った後にビートルギルテディに近づく者がいた。
「隊長、やっぱりあいつだけじゃ不安だぜ。俺にも出撃の許可を!!」
そう自分も出撃させろと迫ったのは、ライオギルディ。
「何故、そう思う?」
「どうせあいつの目的はテイルレッドだけだ。だが彼女と正々堂々と戦っても、ブルーに横やりを入れられるのは一目瞭然だ」
「だから、補佐役を買って出ると?」
「今回の任務は『新ツインテイルズの戦力調査』。それが十分だと判断すれば、首根っこ掴まえてでも撤退させますぜ」
笑って答えるライオギルディだが、対してビートルギルディの顔には曇りが見える。
先日に2体の仲間を失ったことから、いたずらに出撃させたくはないのだろう。
「スタッグギルディ。どう考える?」
「勿論、彼の実力は認めるよ。だけど、彼には厳しい任務かもしれないな」
「やはり、お前もそう考えるか…」
ビートルギルディと長い付き合いがある彼も、同様の意見であった。
「その『厳しい任務』を、奴一人に背負わせるつもりで? あいつが進んで志願したとは言っても、そいつぁ無責任じゃねぇか」
ライオギルディの鋭い指摘に、2体はハッとした。
一応三個大隊の戦闘員を付かせたとはいえ、責任を負うのは彼一人。
もし負けても、彼に示しがつかなくなってしまうではないか。
そこまで考えてでの、この提案だったのか。
「よし、お前は急いでスワンギルディの後を追え!!」
「解ったぜ、隊長!!」
焦りに駆られ、ビートルギルディはライオギルディに指示を下した。
しかし返事するよりも速く、彼も会議室を後にした。
だが、そのスピードが速すぎたのか、
「慌てすぎだ」
「アアハ… 彼らしいね」
自動ドアに、ライオギルディの形がくっきりとくりぬかれていた。
その結果に2体は苦笑いするしかなかった。
何とも締まりのない彼である。
☆☆☆
「ただいま~」
「お帰りって、あら?」
「ぉ、お邪魔します…」
「いらっしゃい、伊織ちゃん。すぐに用意するわね」
私がぎこちなく挨拶すると、おばさんは嬉しそうに出迎えてくれた。
わざとらしくターンした後、スリッパをパタパタ鳴らしてキッチンに向かった。
「今さらだけど、本当によかったの?」
「どうせ、家に帰っても寝るだけやろ? それやったら、楽しみいや」
私はリンに尋ねるが、彼女にスルーされてしまった。
彼女は靴を脱いで、リビングへと向かう。
玄関にいつまでも立っているわけにはいかないので、私は渋々上がることにした。
「ちょっと時間がかかるから、先にお風呂に入ったら?」
おばさんから、お風呂が使えるとの情報が。
最近は基地のシャワーだったから、ゆっくりできるね。
「では、使わせてもらいます」
「ウチも入るわ」
何故、リンが…
別に一緒に入る必要はないはず。
しかし今入らなければ、入る順番に影響が出る。
そんな訳で、一緒に入ることにした。
「……」
「いや~、やっぱ風呂は人生のオアシスやわ~」
湯船に浸かりながら、何やらおっさんくさい台詞を言ってるし。
そんな光景をスルーしながら、体を洗っている。
何だかんだで、今日も汗でベトベトだ。
これも、夏の日差しにせいに違いない。
しかし、私の体は不思議だな…
「ねぇ、リン。私ってどこかおかしい?」
「ん~? よく見れば、ちょっと太ったんと
「---! どこ見てんのよ!?」
一応リンに訪ねてみるも、彼女らしいボケが返ってきただけだった。
誰も受けを狙ってないし、誰も突っ込まないから!
「っ、そうじゃなくて… 私の体に傷が無いのがおかしいのよ!」
「確かに…
リンの指摘通り、私は幾度もそうなりかけた。
脇腹、太もも、肩、左手---
今こそ傷なんてなかったような綺麗な状態だが、本当ならば私の体は傷だらけ。
こうして、日常の何気ない至福を享受していることが信じられないくらいだ。
「…そういえば、前のエレメリアンのはどうだった?」
「アイツの
暴れ馬ってわけか…
確か私のテイルブレスは、ポニーテールの
そこで、リンにある提案をしてみた。
「ねぇ、それで新しいテイルブレスは作れないの?」
「今は、唯乃のレリーフに集中したいんや。ウチもそんな暇やないわ」
「そっか…」
期待できるとすれば、唯乃---フェニックスギルディだけか。
まぁ、ツインテイルズが前線に出るだろうし。
私の仕事も激減するだろうな…
そんなことを考えつつ、シャワーを被る。
シャワーの水によって、頭に付いた泡が落ちていく。
(この泡みたいに、全て洗い流せたら…)
叶わぬ夢を思いながら、私は蛇口をひねる。
「伊織さん、いらっしゃい」
「一輝、帰ってきとったんか」
「こんばんは~」
お風呂から上がり、パジャマに着替えてリビングに向かうと、テーブルに一輝君がいた。
彼の手には途中まで読んでいたであろう文庫本が。
私と違って、真面目だなぁ…
「そろそろできるから、支度お願いね」
「「はーい」」
さすが姉弟、息の合ったコンビネーションでテキパキと容器を並べていく。
だけど、その数は4人分しかない。
まだ帰ってきていないおじさんを含めたら、5人分になるはず。
「あの、4人分しかないんですが…?」
「あぁ。さっきお父さんから連絡が来てね。『遅くなるから、先に食べな』って」
それでか。
ならば、私は空いている席に座らせてもらおうかな。
場所はちょうど、一輝君と隣になる。
「一輝君、今晩はよろしくね」
「…わかった」
私が声をかけると、文庫本で顔を隠した。
何か、不味いことでも言ったのかな…?
「ふふっ… 青春ね~」
「それは、ちょいと
おばさんは口に手を当てて笑い、リンは呆れ顔で私を見る。
もう一度言うけど、不味いこと言った??
一生懸命考えてみるが、頭の回転が遅い私の中からは答えは出なかった。
しばらく出していないと、私も忘れがちになりますね。
今後は、彼を主軸とした物語を作ってみてもよさそう…?