Which do you love ?   作:ズケズケ

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Episode.36【ほのぼの日常】

晩御飯を食べ終わり、私はリンの部屋に向かった。

今回はここで寝ることになっている。

 

(それにしても… 今日の一輝君、変だったな)

 

ケータイ小説を読みながら、そんなことを考えていた。

何しろ、私が食べていた間、私をチラチラ見てたし。

視線に気付いて振り向くと、彼は急いで反らす。

 

「何か付いてる?」

「いや… なにも」

「……そう?」

 

話しかけてみても、こんな応答しかない。

普段なら部活や家族について話題を絶やさない彼が、こうも話さないとは…

 

「いいわね~」

「……」

 

助けを求めようと、向かいに座っている2人を見る。

おばさんは、嬉しそうに私達のやり取りを見ていた。

リンは、無心で食べ続けていた。

 

「御馳走様でした」

「ちょっと待って」

 

食べ終わって、私はすぐに去ろうとしたけど、おばさんに止められた。

オマケに、手招きまでしている。

よっぽど聞かれたくない内容なんだろうな。

取り合えず、おばさんのところまで行くと、そっと耳打ちをしてきた。

 

「(ちょっと時間が過ぎたら、一輝の部屋に入りなさい)」

「はぁ…?」

 

おばさんの真意はわからなかった。

だけど彼の母親が言う以上、大切な用事なのかな。

 

 

 

 

そんなわけで、私は一輝君の部屋の前にいる。

異性の部屋に入る時は、緊張するなぁ…

ノックしよ。

 

コンコンコン。

『どうぞー』

 

中にいるんだ。

それじゃ、気兼ねなく。

 

「ヤッホー」

「ぃ、伊織さん…」

 

部屋を訪ねてきたのが私だとわかると、彼は目を反らした。

うん、やっぱりおかしい。

 

「一輝君、どうかしたの? 今日は変だったよ」

「……」

 

ベッドに腰を降ろし、なるべく彼が話しやすい環境にしてみたけど、彼は一向に口を開ける気がしない。

 

「"お姉さん"に話してみなさい」

 

わざと、そこを強調して尋ねてみる。

一応私は彼の先輩だ。

だからこそ、知っておきたい事情がある。

 

「あの…」

「ん?」

 

ようやく、彼は口を開ける。

 

「伊織さんは、この前、オープンキャンパスに行ったんですよね?」

「そうだよ」

「実はあの時、俺も参加していたんです」

 

なんですとー!?

でもそれはそれで、助かった気がする。

もし彼が私達と一緒だったら、不味い展開になりそう。

 

「そして見たんです。ユニコーンのエレメリアンと戦う、緑のツインテイルズを」

 

あぁ、あの…

参加者を護るためとはいえ、泥臭い戦いをしたんだっけ。

死者は出なかったから、良かったけれど。

 

「あの人は美しかった。風になびくポニーテール、人を護るという覚悟、そしてあの顔。俺はあの人が好きになったんだ」

 

いわゆる、一目惚れってやつか。

あの戦闘を見ていて、変身した私に惚れた。

…あれ、もしかして?

 

「でも、その人は伊織さんに似ていて… 顔を見る度に、その人を思い出して…」

 

あー…

これは私としても、難しいなぁ。

 

「俺、どうすれば…?」

 

一輝君が震えるチワワの目で、私を見ている。

やばい、可愛い。

じゃなくて!!

 

「そうねぇ… こればっかりは、私にはどうすることもできないね」

「えぇ!?」

 

当たり障りのない回答をしたら、彼に驚かれた。

てか、こんな相談は姉に任せるべきじゃないの?

 

(なんでこんな役回りなの…?)

 

そんなことを考えていたら、一輝君が詰めよってきた。

 

「俺にとっては、一大事なんです! ちゃんと真面目に答えてください!!」

 

パジャマの襟元を掴み、体を揺らされる。

やめて、頭がフラフラするから。

 

「~っ… だから、それは結局一輝君の覚悟次第なんだって」

「覚悟…?」

「今は決められなくていいから。問題は、その気持ちがずっと続くかどうかってこと。すぐに冷める恋心じゃ、きっと悲しく思うよ。だからこそ、一輝君は時間をかけて自分の心に問いかけるの。そして、その気持ちが確信になったら、彼女に告白でもしなさい」

「こっ、告白!?」

 

フラフラする頭で、何とかそれらしい回答をしたつもりだ。

思いっきり驚いているけど、告白はまだ先の話だから。

 

「まぁ兎に角、今の君には考える時間が必要だよ。それでも困ったら、いつでも相談して」

 

小さい子どものように、頭を優しく撫でる。

こうしてあげるのは、もしかしたら初めてかもしれない。

彼もまんざらではなさそう。

 

「そうだね。俺が焦りすぎだった。もう少し、頭を冷やしてみるよ」

「うん、がんばれ!!」

 

話がまとまったので、2人きりの会議は終了した。

私は軽く伸びをしたあと、部屋を出た。

 

(~っ! 私ったら、何やってんのよ!?)

 

改めて思い出してみると、恥ずかしい。

今の私、絶対顔が赤くなってる。

てか、男女があんな密室で…

顔の距離も近かったし、思わずナデナデしちゃったし…

 

(色々反省しなきゃ…)

 

逃げるように、私はリンの部屋に入った。

だけど、私は知らなかった。

 

(伊織さん、無意識すぎだよ… 思わず近づいたら、いい臭いがしたし。伸びをした時におへそがチラッと見えたし。もしかして、俺を誘惑してるの!?)

 

私が去った後、一輝君はベッドの潜り込んでもぞもぞしていた。

彼も男性、女性の匂いにクラッとしているのかもしれない。

そんなことも知らず、私は床に敷かれた来客用の布団に入る。

 

「私、もう寝なきゃ…」

 

そう一人呟くけど、先程の興奮でなかなか寝付けない。

頭を空っぽにしようと思っても、どうしても割り込んでくる。

布団を頭から被っても効果はまるでない。

 

((ね、眠れない…!!))

 

それぞれの戦いは、朝まで続くことになる。

 

 

 

 

「…熱い」

 

朝、こんな感じで目が覚めた。

この季節で何故、"暑い"ではなく"熱い"のか。

その原因は、私のすぐ近くにあった。

 

「うにゅう… いおりん~」

「…ハァ」

 

部屋のベッドで寝ていたはずのリンが、私の蒲団に潜っていた。

私の胸に埋もれながら、寝言を言っている。

 

(何やってんのよ…)

 

内心呆れつつも、彼女を起こさないように静かに出る。

その際、プチプチという音が聞こえたけど、寝惚け頭ではそれに気付けない。

足元がふらついているけれど、頑張ってドアまで歩いた。

 

「おはよう、一輝君」

「おはようございます、って…!?」

 

部屋を出ると、ちょうど一輝君と会った。

彼は挨拶しようとしたけど、途中で躊躇してしまう。

暗くて見えにくいけど、わずかに顔が赤い。

 

「どうしたの?」

「ぁ、その… パジャマ…」

 

私の胸辺りを指していたので、顔を下に向ける。

するとそこには、前掛けのボタンが全て外れ、胸が出ていた。

普段は胸が苦しいから、ブラジャーは着けていない。

そして昨日も、ブラを着けずに寝ていたため---

 

「キャアアア---!?」

 

前を隠してしゃがみこみ、大声量で叫んだ。

こうなったのは、大方リンだろうな。

後でとっちめてやるから!!

 

「ぁ、あぅ…」

 

ちなみに一輝君は、目の前の光景にフリーズしていた。

恐らく、どうすればいいのかわかってない。

 

「後ろに向け-!」

 

まだ視線が私の方を向いていたので、思いっ切りビンタした。

加減のないビンタだったため、彼は吹っ飛んで気絶してしまった。

 

 

 

 

 

「「……」」

 

朝の食卓にて。

おじさんはもう仕事に出かけたので、この家にいるのは私とリン、一輝君におばさんの4人だ。

昨日の晩と同じ席で、ご飯を食べているわけだけど。

 

「なぁあんたら、何があったん?」

 

頭に大きなこぶを抱えたリンが、不機嫌そうに問い詰める。

何しろ、一輝君の左ほおには、見事な紅葉ができあがっているのだから。

 

「---フンだ」

 

今の私は機嫌が悪いので、わざと無視した。

あんなことになった原因は、貴女なんだから。

 

「伊織ちゃん、私にも教えて」

 

おばさんまで…

なんだかんだ言って、楽しんでるでしょ。

でも、流石に答えないというわけにも…

仕方ないか。

 

「私の"生"を、一輝君が見たんです」

「ちょっと、説明しなさい!?」

「うぉぉい!? 話は最後まで聞け-!」

 

私がぼかした説明をすると、おばさんは彼に突っかかった。

対する彼は、必至で言い訳をする。

フフフ、まだ仕返しは終わってないのよ…

皆に見えないように、下をチロッと出す。

 

「---話をまとめるとこういうわけね」

 

『伊織は床の蒲団で、リンはベッドで寝ていた

リンが寝返りをうったら、ベッドから落下

動いているうちに、伊織を抱き枕にしていた

しばらくしていると、伊織のパジャマが着崩れてくる

朝起きて部屋を出ると、伊織は一輝と遭遇

寝ぼけている彼女は、彼に無意識に胸を見せる形に

一輝にビンタ』

 

溜め息をつきつつ、おばさんが話す。

 

「伊織ちゃんの胸を見た一輝も悪いけど、気付かなかった貴女も悪いわ」

「「ごめんなさい」」

 

おばさんに正論を言われ、私と一輝君は頭を下げる。

 

「リンも珍しいわね。ベッドから落ちるなんて、何年振りかしら」

「ウチも知らんわ」

 

貴女があんなことをしなければ、こんな面倒にならずに済んだのに…

 

「本人達が反省しているなら、それでいいわ。それよりも伊織ちゃん、今日はどうするの?」

「えっと…」

 

おばさんから急に話を振られたため、私は詰まってしまう。

今日は、基地での作戦会議がある。

でも、それを素直に話すわけにはいかない。

 

「買い物を何日分かしてから、家に戻るつもりです」

 

これも本心だ。

確か、そろそろ冷蔵庫の中身が無くなるんだっけ。

2人分だから、減りが早いのよ…

 

「そう… 困ったら、また来なさい」

 

頬に手をあて、残念そうにおばさんは答えた。

 

 

 

 

私は雨宮家を出て、買い物をしている。

全く、今唯乃は何をしているのだか…

 

「あれ、伊織?」

 

私に声をかけたのは、クラスメイトだ。

陽月学園には、実家から通う生徒もいるので、特に珍しくない。

 

「久し振りじゃない!?元気にしてた?」

「そっちこそ! 何処かに旅行した?」

 

ふと目線をカゴに向けてみる。

彼女もなかなかの量を買い込んでいる様子だ。

 

「そんなに買うの?」

「母さんが出掛けてね。兄弟の分も作らないといけないの」

「大変だねぇ~」

 

こんな感じで話を進めてきたけれど、ある言葉で私は固まってしまった。

 

「伊織も何処かに出掛けたの?」

「…ううん、ずっと家かな。後はオープンキャンパスとか」

 

嘘です。

この夏、かなり面倒ごとに巻き込まれてます。

居候が加わったり、修行したり、エレメリアンと戦ったり…

 

「勿体ないよ! まだ夏休みはあるんだから遊ばなきゃ」

「ウン、ソウデスネ…」

 

悪意のない、純粋な瞳で語りかけるクラスメイト。

その笑顔が眩しいです…

 

「そうだ、テイルレッドの新しいフィギュアが発売されるんだって」

「速いね。確か、テレビに紹介されたのは2,3日前のはず…」

 

形態変化(チェインカスタム)だっけ。

説明は難しいからよく解らなかったけれど、あれが『諸刃の剣』だってのは理解してる。

 

「もう予約しているんだ。あんなちっちゃい子が、怪物と戦う姿が可愛くて。しかも、その子がアップグレートしたんだよ!? 買わないわけにはいかないでしょ!!」

「へぇ~…」

 

相変わらず、テイルレッドの人気は高いなぁ…

たまには、別の人にスポットライト当てなよ。

テイルレッドに対する熱が凄まじく、その後も、彼女のみについて話し続けていた。

 

「っと、そろそろ夕食の用意しなきゃ! じゃあね」

「うん、それじゃ」

 

彼女は急いで荷物をまとめると、駆け足でその場を去った。

私も家での用事と会議をしなきゃ!

 

 

 

 

「来たようやな。それじゃ、ゆるく会議を始めていきますか」

「「オイオイ」」

 

私の家で夕食を済ませた後、簡易型ゲートを使用して基地に入る。

 

会議室(ブリーフィングルーム)に入ると、もうリンが自分の席に座っていた。

しかし、顎をテーブルに着けて疲れた表情をしている。

そんな感じで始めるわけにはいかないでしょ。

あと、ゆるくって…

 

「随分お疲れのようだな」

「わかるか」

「そりゃ、身体で示してるからな…」

 

取り合えず、司会がこんな調子では進みようがない。

買い物するついでに買った、『アレ』の出番か。

 

「リン、口開けて」

「「は?」」

「いいから!!」

 

納得がいかないものの、彼女は指示通りにした。

私はすかさず、口に『アレ』を突っ込んだ。

 

「~っ!? 何をするんや!?」

「…何をやったんだ?」

 

かなりの刺激が効いたのか、勢いよく起きた。

やはり2人には解らないか。

ネタばらしに、私はポケットから『アレ』を取り出した。

 

「フ〇スク!?」

「そ。それも全部」

「アホか!!」

 

確かにアホなのかもしれない。

でも、こうしなければリンは起きやしないのだ。

 

「それよりも、ここに呼び出したからには重要な案件なんでしょうね?」

 

腕組みをしながら、私はリンに問い詰める。

私にはまだ片付けなければならないことが多いのだ。

くだらないものなら、速攻帰ってやるんだから!

 

「はいはい、さっさと終わらせたいようやな」

 

渋々とリンはポケットから何かを取り出した。

 

「おおっ、俺様のレリーフ!」

「完成したんだ!?」

 

テーブルの上に置かれたのは、フェニックスギルディが持っていたレリーフだった。

あれはかなり手こずるとか言ってなかったかな?

 

「一応やけどな。まだテストは行ってへん」

「…するってえと、今日の会議はこれか」

 

唯乃が残念そうに答える。

貴女、まさかぶっつけ本番でするつもりだったの…?

 

「それじゃ、テスト開始と行くで」

「おう!!」

「ちょっと待ちなさいよ~」

 

そう言って、リンは会議室(ブリーフィングルーム)を出る。

私と唯乃も、その後を追った。




だいぶ焦りすぎましたかね。
もっとゆっくり進めていけばよかった…
そう軽く後悔してます。
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