「おかあさん… おとうさん… どこ…?」
女の子が一人で歩いている。
右手には、小さなクマのぬいぐるみを持っている。
女の子は両親を探していた。
か細い声で。
少し離れたところに、燃えている車が一台ある。
その前方には、何か長い棒が道路に突き刺さっていた。
恐らく、棒がボンネットを突き刺し、炎上したのだろう。
そして、車の近くに横たわっている人がいた。
「! おとうさん!!」
女の子は近づこうとしていた。
だが、それはできなかった。
そのとき、もう一つの人影が現れた。
そして父親の首を掴み、片手で持ち上げたのだ。
「だれ…?」
当然、女の子はその人影には身に覚えがない。
いや、それは人影と呼ぶにはふさわしくなかったのだ。
何故ならば、身体中にトゲがついていて、身長も人間離れなほど高いのだ。
人間ではあるまい。 怪物だ。
そう女の子は確信した。
そのとき、怪物は人の首を掴んでいる手に力をこめ、
ボキッ
と、まるで人形の首を折るようにいとも簡単にへし折ったのだ。
「…お、とうさん…?」
女の子は立ちすくむ。
今、目の前で人が殺されたのだ。
それも、自分の父親が。
(なんで? おとうさん、わるいことしてないのに)
この状況に、思考が追い付いていない。
なぜ、殺されなければならないのか。
なぜ、父親が。
(なんで… どうして…?)
怪物はへし折った人間を離す。
ドサリと落ちたそれは、もう動かない。
生きていないのだ。
怪物は女の子に気が付いたか、顔をこちらに向けた。
そして、ゆっくりとこちらに歩み寄る。
(にげなきゃ)
そう思うが、身体が言うことを利かない。
恐怖で、足が震えている。
逃げることができなかった。
(こわい…!)
とうとう、怪物は女の子に触れられる距離にまで近づいた。
見れば、頭に立派な角が付いている。
身体はトゲに覆われており、筋肉もしっかりとしている。
こんなのに襲われれば、ひとたまりもない。
女の子は、思い切り目を閉じた。
これが夢であってほしいかと願うように。
「…………」
目の前にいる怪物が何か言っているが、女の子には聞こえなかった。
そして、頭に乗せられた感触が。
恐らく、手を置いたのだろう。
だがそれは、怪物のであるにもかかわらず、どこか優しさを感じた。
まるで、父親になでられたときのように…
そして、女の子はゆっくりと意識を失った。
☆ ☆ ☆
(今のって…)
…さっきの夢にいたのは、私?
でも、なんで昨日の夜に見たんだろう?
それに、あの怪物は……
「ハッ! 今何時!?」
ベッドのそばに置いてある目覚まし時計は5:30を指している。
朝食や洗濯物のことを考えると、この時間に起きないと学校に間に合わない。
「ヤバい!? 急がないと!!」
急いでベッドから出る。
炊飯器の電源を入れた後、洗顔しに洗面所に向かう。
いつもなら、5:00辺りに自然に起きるのに。
どうしてなんだろうか。
(たぶん、昨日のせいだな)
確信はあった。
なにしろいきなり怪物に襲われるわ、ヒーローが助けに来るわで、大変な1日となった。
こんな出来事、警察に話しても信じられないだろうなぁ…
「さっ、支度しないと」
そう言って、自分に気合を入れ直すことにした。
「きつい…」
現在、登校路を疲れた足で歩いている。
少し汗が出てきて、それがシャツに付いて気持ち悪い。
時間はギリギリ。
家から走ってきたので、息が上がってる。
ほんと、いつもなら余裕の登校ができたのに。
「おはよう、伊織」
「あぁ、お早う」
「珍しく遅い登校だね。寝坊でもしたの?」
「ええと… うん、そうなんだ」
仲のいいクラスメイトが明るく話しかけてきた。
しかし、そのクラスメイトには昨日の出来事を話すわけにはいかない。
なので、適当にはぐらかした。
「まぁ、いっか。それより聞いた? 一年の話」
「ん? 何の話?」
遅い登校に関してはさておき、一年の話か。
まだ入ってきて一日しかたってないのに。
「昨日は入学式で、部活動の希望アンケートてのがあったよね」
「そんなのあったなぁ、確か」
去年、私も希望部アンケートを書かされたな。
結局、アルバイトを始めなければならない状況があり、白紙で提出したが。
おかげで、私は帰宅部である。
今日は無いが、夕飯の買い物があるのだ。
急いで行かないと、買いたいものが買えなくなってしまう。
「それでアンケートにね、『ツインテール』って書いたやつがいたのよ」
「…はぁ!?」
『ツインテール』ねぇ…
昨日の出来事もあって、多少の親近感はある。
しかし、わざわざ書くかね、そんな単語。
アニメとかが好きで『アニメ』とかくならまだしも、そんなマニアックなもの。
なぜ、書いた!?
「でも、なんでそんなことを知ってるの?」
「弟が入学してね。その子とたまたま同じクラスメイトだったから、目撃して」
「なるほど」
「それで、そのアンケートを受け取った担任は大笑いよ」
「ウケを狙ったのかな、その子」
「いや、あの慌て様だとマジだったみたい」
「…うそん」
自分が好きなものならそれでいいが、希望部アンケートに書くのは並大抵じゃないぞ。
一体、何を考えて書いたんだろうか。
…わからない。
兎も角、その子になにかトラブルが無いことを願うのみである。
☆ ☆ ☆
「リザドギルディが倒されただと!? 人間にか!!」
「馬鹿な、ありえぬ!!」
「油断したというだけでは説明がつかぬぞ、どういうことだ!?」
会議室のような広い部屋に丸テーブルが置かれ、様々な姿の怪物が騒いでいた。
ここは、アルティメギルの秘密基地。
伊織達には見えぬ場所にあり、今現在その世界に
「沈まれい!!」
その騒ぎの中、低く、そして重い声が響く。
「ド、ドラグギルディ隊長」
「リザドギルディの力は師である我がよく知っている。それを上回る戦士が、密かに存在していたということだ」
ドラグギルディと呼ばれた怪物は、冷静に状況を判断した。
静かに闘気を発する姿は、他の怪物―――エレメリアンとは一線を引く。
ただ、一体を除いて…
「これを見よ。瞬殺されたようだが、その直前に送られてきたものだ」
前方の大型スクリーンに映し出されたのは、
「オオオッ!!」
紛れもない、テイルレッド―――観束総二であった。
その姿・強さ、そしてたなびくツインテールに皆、のめり込んでいた。
「この戦士についてどう思われるかな、"怨み"様?」
「僕としては、あまり興味がないかな。ツインテールは素晴らしいけど、まだまだ未熟だよ」
"怨み"と呼ばれたエレメリアンは、やる気が無いような返事をする。
その怪物は、他とは違う容姿をしている。
普通は動物がモチーフとしているが、彼は動物というより人形に近い。
(ぬう…)
更にドラグギルディを悩ませているのは、その情報の少なさである。
一応アルティメギルの幹部らしいが、その者の能力・
そんなエレメリアンが、共に行動することを命じられているが、それはドラグギルディにとって不安要素でしかなかったのだ。
「さて、どうする? このまま尻尾を巻いて、他の世界に旅立つか?」
いったん切り替え、一周見る。
皆は、答えなどわかっているかのように、微笑んでいる。
「何を仰います、隊長殿。あのツインテールを前に、他の世界へと逃げろと?」
「この星こそ、我が死に場所!!」
「ならば、何も変わらぬな。あのツインテールともども、この世界の
ドラグギルディのその言葉に、皆は声を上げる。
しかし…
(ふうん… なかなかいいモノ、見つけたかもね)
"怨み"が見ていたのは、ツインテールの戦士…ではなく、わきに捕まっていたポニーテールの子である。
彼は、退屈しのぎのオモチャを見つけたように、不敵な笑みをこぼした。
☆ ☆ ☆
「ま…間に合った…」
なんとか教室に到着した私達。
しかし、この時間なら授業の準備を始めるころ。
なのに、みんなはまだおしゃべりを続けている。
「あれ…?」
「どうしたの?」
いつもと違う様子に戸惑い、皆に聞いてみる。
「1時間目が無くなって、体育館で全校集会をするらしいよ」
「へぇー」
珍しい。
わざわざ授業の時間を潰してまでねぇ…
私としては、大歓迎だが。
するとなれば、やはり昨日の出来事か。
会長である慧理那が巻き込まれたからな。
そりゃ、一大事である。
ただ、心配事がある。
全校集会となると、慧理那は前にでなければならない。
そして、慧理那が大の特撮好きであることだ。
なんでも、自分の部屋には特撮玩具のコレクションがたくさんあるらしい。
いずれ、そんな英雄のお手伝いをしたいと日頃から言っている彼女。
そして昨日、颯爽と助けに現れたヒーロー。
(変な騒ぎを起こさなければいいが…)
胸に不安を抱きつつ、体育館へと歩いた。
全校生徒が集められた体育館。
その雰囲気は、異様にピリピリとしている。
誰も身動きをしない。
(いつもとは、違う…?)
普段らしからぬ光景に、戸惑ってしまう。
その空気の中、一つの足音が響く。
私立陽月学園生徒会長・神堂慧理那だ。
彼女は壇の前に立ち、全生徒を見るように周りに視線を送る。
彼女の後ろには、数人のメイドが。
昨日の失態を配慮してのことだろう。
「皆さん。知っての通り昨日、謎の怪物たちが暴れまわり、町は未曽有の危機に直面しました。」
そりゃあね。
ツインテールを狙う怪物なんて、珍しいんじゃないのかな。
だって、ピンポイントすぎるもの。
「実は、このわたくしも現場に居合わせ、そして狙われた一人です」
「なっ……!!」
「なんだって!」
生徒たちが騒ぎ出した。
時間が経つごとに、それは生徒全体に広がっていく。
いくら生徒会長でも、これを静粛させるのは至難のわざだろうな。
今だって、オタオタと皆を鎮めようとしているが、うまくいってない。
「許せねぇ!!」
「俺がぶっ潰してやる!!」
ノリがいいなぁ、相変わらず。
お祭り好きというか、なんというか…
まぁ、慧理那が襲われて黙ってろというのは難しい。
現に、その騒ぎは全体に広がっている。
「皆さんのその正しき怒り、とても嬉しく思いますわ。他人のために心を痛められるのは、素晴らしいことです。まして、わたくしのような先導者として未熟者のために」
他人のために怒り、涙を流す。
それは素晴らしいことだと、確かに思う。
「しかし、狙われたのはわたくしだけではありません。この中にも何人かいらっしゃるでしょう。まして目を学校の外に向ければ、さらに多くの女性が、危うく侵略者の毒牙にかかるところだったのです」
その発言に再び生徒たちはどよめくが、それをさえぎるように、しかし、と強めに言った。
「今こうしてわたくしは無事ここにいます。テレビではまだ情報は少ないですが、ネットなどで知った人も多いでしょう。あの場に、風のように颯爽と現れた……正義の戦士に助けていただいたのです」
…正義の…戦士?
もしかしたら、あの時の?
「わたくしは、あの少女に、心奪われましたわ!!」
うおおおおお、と喝采が起きる。
(やっぱりか…)
特撮好きである彼女ならば、ありえないことではなかったが。
問題は…
「ちっちゃい会長がちっちゃい正義の味方に憧れる…これが摂理なのか!? 俺は今、世界の何たるかを知った!!」
こんな変態野郎が存在していることだ。
こんな奴がクラスにいたとなると想像しただけで、頭が痛い。
「これをご覧あれ!」
慧理那が右手を挙げると、メイドの一人がスクリーンを準備する。
そして、そこに映し出されたのは…
「「「ウオオオオ―――ッ」」」
そう、昨日のあのヒーロー・テイルレッドの姿だった。
どうやら、ネットからの画像のようだな。
手際が良すぎないか…?
「神堂家は、あの方を全力で支援すると決定しました! 皆さんもどうか、わたくしと共に、新世代の救世主を応援しましょう!!」
歓声は更に高まる。
(マジかよ…)
テイルレッドのバックアップってこと?
まだ、あの子の正体も掴めていないのに!?
それよりも、よく両親を説得できたな。
これから先どうなるか、ますます不安になってくる。
「慧理那はんのアノの発言、どう思う?」
「どう思うって…」
夕飯の調達をしにスーパーへ行く帰り道、一緒に歩いているリンからそんな質問が出てきた。
リンは、教室を出るときにバッタリ会い、その流れで、ということである。
私は、その質問に戸惑った。
全校集会が終わった後から、クラス内はテイルレッドの話題で持ち切りだったのだ。
既に、ネットには多くのコメントがあり、人気は急上昇。
幼女の姿ということもあり、ロリコンどもが大興奮していた。
更に、かわいさも持ち合わせており、女子にも大人気。
どこか違和感を持つ私には、今日ほどうまく馴染めないことは無かった。
「支援といっても、どうやってするのかな?」
「まぁ、理事長もおるし、何とかするんとちゃう?」
正直、ツインテールでない私達にとってはどうでもいい話だ。
今日の夕飯のメニューの方が大切である。
「昨日だけで済むんかな」
「どういう意味?」
「いや、また来そうな気がして…」
「そんなわけ―――」
『この世界に住まう全ての人類に告ぐ! 我らは異世界より参った選ばれし神の徒、アルティメギル!』
突然、空中にスクリーンが浮かび上がる。
見れば、竜の姿をした怪物が玉座に座っている。
『我らは諸君らに危害を加えるつもりはない! ただ各々の持つ
…それも、偉そうに足を組みながら。
「ほぉ~、最近の技術はすごいな」
「そこを気にする!?」
相変わらず、リンの注目はどこかずれている。
平常運転だ。
『だが、どうやら我らに弓引く者がいるようだ……。抵抗は無駄である! それでもあえてするならば…思うさま受けてたとう! 存分に挑んでくるがよい!!』
ずいぶん余裕な態度。
しかし、画面からは絶対的な自信もうかがえる。
『ふはは、わが名はタトルギルディ! ドラグギルティ様のおっしゃる通り、抵抗は無駄である!
交代で、亀の怪人が現れ、ふんぞり返る。
しかし、申し訳なさそうに一人の戦闘員がそっと耳打ちをする。
『……なにい、この世界では、今はほとんど存在せぬだと! おのれおろかなる人類よ、自ら滅びの道を歩むかああああああああ!!』
「「……」」
もう、突っ込みきれない。
こんな世界侵略ほど、バカバカしいことはない。
(買い物、しなきゃ…)
取りあえず、気分を切り替えることにした。
なんとなくオリジナリティーが出たかな。
文章の書き方は、前話がすごく読みにくいと思ったので変更しました。