「おい、聞いたか? 転校生がC組に来たらしいぞ!」
「あぁ、かなりの美少女らしいな」
「しかも、今じゃ珍しすぎる『俺様』女子よ!!」
『キャーッ!!』
…相変わらず、この教室は騒がしい。
まぁ、入学直後からテイルレッドで盛り上がっていたから、それほど珍しい光景じゃない。
俺が気にしたのは、その内容だ。
(トゥアールですら、ここまで盛り上がることはなかったのに…)
「総二様。今大変失礼な事、考えていました?」
俺の心を読んだ、だと…!?
というか、何時の間に彼女が俺のそばに来たんだ!?
「いや、そんな事はないぞ。ただ、この騒ぎがいつもと違うな~と思って」
「そうよね~ どうせトゥアールの時は、胸が大きすぎてそれしか特徴がなかったんでしょ」
「強調するものが残虐さしかない貴女に、言われたくありませんよ~っだ」
余裕ぶっこいたトゥアールの顔面に、愛香の裏拳が入った。
残虐さを強調するだけに、顔面がめり込むだけの威力を発揮した。
「少なくとも、ツインテール部には来ないでしょ。まず、あること自体知らないと思うし」
「だよなぁ…」
俺も今は、関係者以外は部室に入れたくはない。
段違いのエレメリアンに加え、テイルグリーンという新たな戦士---
(問題は山積みだ。トゥアール一人に任せてはおけない)
あの強さ…
俺はまだ、道半ばにいる。
ツインテールも、戦闘も。
(あれ、あの娘の髪型って---)
回想の途中、俺はある違和感を感じた。
テイルグリーンは、俺達のようにツインテールではなかった。
そして彼女がが登場してすぐに、転校生がこの学園に入ってきた。
まさか…!?
「---なぁ、転校生の髪型ってどんな風だった?」
「ちょっと総二」
愛香が止めに割り込むが、俺は無視した。
何故か、俺の気配に何かを感じたからだ。
「何だよ観束。折角の美少女だってのに、お前が気にするのはやっぱり髪型ってか。流石、ツインテール部を作っただけの事はあるぜ」
悪かったな、髪型にしか興味がなくて。
だけど、俺のツインテールに対する愛は本物だと思う。
事実、そのおかげでテイルレッドとして世界を守っているのだから。
「だけど残念だな。転校生はツインテールじゃない」
「? それじゃ、ボブカットとかロングってこと?」
愛香は首をかしげつつ、転校生の髪型について問いかける。
やはり、彼女はツインテールではないのか。
もしツインテールだったら、即教室を飛び出して彼女のツインテールを拝もうと思ったのだが…
「いや、むしろお前らツインテールにとって真逆かもしれないな」
「…、まさか!?」
俺の予感は的中していた。
俺達ツインテールと逆の存在。
それはつまり---
「友達が言うには、彼女は『ポニーテール』をしていたらしいぜ」
「なっ…!?」
「何ですって!?」
俺の脳に、雷が落ちたような気がした。
まさか、ここでもポニーテールとは。
「本当なんですか!?」
「急に割り込むな! あぁ、写真も送られてきたから間違いない」
愛香に裏拳を叩き込まれたトゥアールは既に回復しており、ガバッとクラス男子の両肩を掴んだ。
クラス男子はそれにたじろぎながらも、スマホの画面を俺達に見せる。
「なっ、本当だろ?」
「これは…」
「間違いないわね」
画面の中心には、確かにポニーテールをした女子高生がいた。
ブレザーの前は全開、ネクタイも中途半端に緩んでいる。
制服の身だしなみがかなり悪いし、目付きの鋭さがより彼女の外見を悪くさせる。
しかし、それを上回る美しさを彼女の髪から放っていた。
茜色の髪を独特なゴム止めで一房にまとめられている。
画面では正面部分しか見えないが、恐らくバランスがとれているに違いない。
「この場所は---南校舎ですね」
「色々と回っているみたいだ。ここで生活する以上、どこに何があるか確認するのは当然だろ?」
確かにそうだろうな。
だけど、画面越しに見える彼女の顔はどこか不機嫌そうに見えた。
「転校生に校舎を紹介するのに、C組全員で回っている。流石にこれじゃ、満足に回れないだろ」
「私も近寄りがたいわね…」
それだけなのか…?
俺には、違う事で不機嫌になっているように思える。
「いずれにせよ、今日は会えない可能性が高そうですね。C組に在席している以上、いつでも会えますし」
「そうだな」
伊織先輩の事もあって、ポニーテールにはかなり敏感になっている。
少なくとも、俺達に何かしら被害を与えない限りは彼女を詮索する必要性は無いかな。
この時の俺は、そう楽観視していた。
「(総二様、今日の部活はお店で行いませんか?)」
「(そうだな。俺も学校での用は無いし)」
トゥアールがそっと耳打ちするように、提案を持ちかける。
☆☆☆
「ここは調理室。クラスで適当に料理を作るの。と言っても、使うのは年に数回なんだけどね」
「料理か…」
クラス女子の説明に、唯乃は内心困っていた。
彼女が長瀬家の居候となってから、料理はダメなのである。
もし彼女が調理を行ったならば、未知の物質を生み出しかねない。
だからこそ、彼女の反応が薄かったのだ。
決して興味がないわけではない。
「---もしかして、唯乃さんって料理が苦手?」
「あぁ、その時は頼むぜ」
クラス女子は、キャッと彼女と反対に向き両握り拳を顔に当てる。
唯乃の切れ目は、クラス女子を惚れさせる何かを持っているかもしれない。
対して彼女は、クラス女子のしぐさに首をかしげた。
「…なんだここ?」
随分とC組から離れた場所に来たらしい。
廊下には人気は無く、空気が冷え込んでいる。
その中で唯一目立つのは、『ツインテール部』と書かれた貼り紙。
「あれ、こんなところに部室があったんだ」
案内役をしていた女子も、ここは知らなかったらしい。
周りのクラスメイトもざわついている事から、
「『ツインテール部』だぁ? これまたストレートな」
「知らなかったぞ」
「ツインテール部は、確か1年が部長をしているはず」
「---ほぉ」
この台詞に、唯乃は敏感に反応した。
その顔は、まるで獲物を見つけた猛獣のよう。
「部長に会わせてくれ」
「唯乃…さん?」
唯乃は隣にいた女子に頼んでみるが、彼女の反応が思っていたのとはどうも違う。
断ろうというより、近寄りがたいと表現した方が近いのかもしれない。
「確か、部長は『観束』って名前だったな」
ボソッと男子がそんな事を呟いたが、人間ではない唯乃にはハッキリと聞こえた。
「1年の観束か… もしかしたらソイツが---」
一人そんな事を考えているうちに、彼女は自然と方向転換していた。
「唯乃さん、どちらに?」
「戻るんだよ。今日は帰らせてもらうぜ」
C組のクラスメイトを置いてけぼりにしたまま、彼らを振り返らずにスタスタ歩いていく。
彼らは遅れまいと、彼女の後を追いかける。
☆☆☆
「取り合えず… 帰るか」
俺の一言で、今日のツインテール部の活動は決まった。
俺は、愛香とトゥアールと一緒に教室を出た。
と言うよりは、トゥアールが俺の腕に寄りかかり、愛香がそれを妨害しているのだが。
「総二から離れなさいよ!!」
「フフフ… 愛香さんには、当てるだけの胸がありませんからねぇ」
前に相談したら友達に、「このリア充め!!」と言われた。
この状況の何処がリア充なんだ?
俺には、毎日が殺戮劇場を無理矢理見せられているだけの話なんだが…
(取り敢えず、慧理那と桜川先生に連絡しなきゃ)
そう思って、俺はトゥアルフォンを取り出そうとした。
しかし、いつもなら騒がしいはずの廊下が何かが違う事に気付いた。
(…ん?)
正面に目線を戻すと、そこには大集団があった。
慧理那のメイドさん達ですら、これ程の集団は彼女には就かないはず…
そして、その中心には明らかに雰囲気が違う生徒がいた。
「…あれ?」
「もしかして、転入生ですか?」
遅れて彼女達も、その存在に気付いた。
「…」
対して彼女は、何やら周りの生徒と話しかけている。
俺、何か不味いことでもしたのか…?
しかし数秒後、彼女は俺に向かって真っすぐ歩いてくる。
「えっと…」
「お前が、観束総二か」
身長は、俺と同じくらいだ。
目線を俺の正面に構え、確認をとる。
「あぁ、そうだが---」
「俺様は結翼唯乃だ。今日から、よろしく頼むぜ」
そう言って彼女は、俺に右手を突き出してきた。
握手のつもりか?
兎も角手を取らないわけにはいかないので、俺も右手を差し出す。
「こちらこそ」
差し出すついでに、俺は彼女を隈無く観察した。
写真越しではわからなかったが、ある意味で彼女は特別だ。
武道を少しでも得ている者ならば、肌で感じられる。
彼女はかなり強い。
それに俺は、この空気に似た奴と、過去に会った。
「えっ?」
「なっ…!?」
「ちょっと!」
不意に、俺を引き寄せられた。
同時に彼女は俺のそばまで寄ると---
スンスン
「うゎあっ!?」
突然嗅がれてしまった。
嗅がれたのは首筋辺り。
あまりにも急だったので、俺も驚いた。
というか、この場にいる全員が驚いているに違いない。
(なるほど…)
唯乃は何事も無かったかのように、俺のそばを通り過ぎていく。
慌てて振り向くが、彼女は俺を見ようとはしなかった。
「ねぇ、一体何を---」
「首筋はちゃんと洗えよ。臭うぞ」
「えぇ!?」
愛香が代わりに問いかけようとしたが、俺は唯乃の言葉にショックを受けた。
そんな反応を予測していたのか、彼女はケタケタ笑いながら廊下を歩いて行った。
「…何者なのよ、アイツは」
愛香は疑いの目をしながら、そう呟いた。
☆☆☆
「…結局、彼とは会ったの?」
自宅にて、私は不機嫌そうに問いただす。
折角バイトが休みで、エレメリアンも来なかった、ラッキーな日だったのに…
何故こうも、トラブルばかり巻き込まれなくてはいけないのか。
「まぁな。スレ違った程度だ」
「…本当かしら」
飄々と答えるのは、唯乃。
今日から、陽月学園高等部の生徒となった。
そしてクラスが1-Cに配属されたこと、その後に学園を回った事を聞いた。
しかし、私は何も知らなかった。
「一体どうやって編入したのよ?」
「細けぇ事は鈴音に任せたからな。俺様は何も話せねぇ」
テーブルをバンと叩き、吐き出すように強迫させてみた。
対する彼女は、両手を軽く挙げてヤレヤレな感じであった。
畜生、その余裕綽々な態度が腹立つ…!!
「(鈴音、あの娘が裏を引いていたなんて…)兎に角、学校では大人しくいて。これは絶対だからね!?」
人差し指を唯乃に突き付け、念押しをしておく。
この子はリードを離した犬のごとく、何をしでかすか分からないから。
「なぁ、伊織」
「…何よ」
先程の話で、私の頭は既に沸点に達していた。
そんな状態の私に、まだ話があると?
「ツインテイルズの正体、お前は知ってるんだろ?」
「---!!」
だけど、この一言で私は一気にクールダウンした。
まさか唯乃、いやフェニックスギルディ、貴女…!?
「いいいいや、何の事だかサッパリ…!」
「うん、左手が震えているぞ。一先ず落ち着け、な?」
ここまで立場が逆転するとは…
ともかくも今わ落ち着こう、私。
「大丈夫か?」
「えぇ、続きを聞くわ」
数分後、落ち着きを取り戻した私は今度こそ話を聞くことにした。
「ツインテイルズの正体、ね… その様子だと、既にわかっているようね」
「ハッ、俺様にコスい変装は効くかってんだ!!」
椅子に体重をかけながら体を後ろに仰け反り、唯乃は胸を張った。
どうやら、彼女は私に褒めてもらいたいらしい。
「---褒めても、何も出ないぜ」
「まだ何も言ってませんが…」
相変わらず、彼女は平常運転のようだ。
というか、この娘はかなりの問題児になるかもしれない。
「(色んな意味で、監視はした方が良いわね…)間違っても、ツインテイルズには近寄らないで」
「何でだよ!? 折角、あいつらの仲間になれるチャンスだってのに」
…それができるなら、とっくにしてる。
私だって、あの時に正体をさらせば。
でも、できなかった。
「私達の立場、わかっているの?」
「---第3勢力、とでも言ってもらいてぇのか」
図星だった。
アルティメギルは、地球上の全ての
ツインテイルズはツインテールを力に、エレメリアンと戦う存在。
でも、私達はどちらでもない。
「私達はポニーテール… アルティメギルからは禁忌の存在として遠ざけられ、地球ではツインテールの猛進によって薄れてきている… なら、私はどうすれば」
「だから、人前に出るのを避けてきたってか」
俯き自信なさげに答える私を、唯乃は冷たく突き放した。
「きっと、ツインテイルズにわけを話しても聞いてもらえない。むしろ、敵と誤認されちゃうかもしれない」
私は怖い。
今まで友達だったのに、急に敵に変わることが。
今日までの信頼が、一気に崩れそうで。
「私、この世界を守るために戦士になったのに… どうして」
私の中では、ツインテイルズと共にアルティメギルと戦うイメージがあった。
だけど、それが絶望的だと感じている私がいた。
「私、どうすれば---」
「甘ったれるんじゃねぇ!!」
唯乃に助けを求めようとしたけれど、彼女は怒鳴りつけてきた。
「いちいち自分の信念がぶれてる奴は、この世界にはいらねぇんだ!! 敵と見られたくないから、仲良しこよしで過ごしてぇのか!? 馬鹿か、お前は!?」
私の襟元を掴み上げ、唯乃は私の顔を睨み付ける。
その顔からは、心の底から怒っていると感じられた。
「俺はアルティメギルから抜け出し、反逆者としてここにいる。ただ流れでここまできたお前とは『覚悟』が違うんだよ!」
唯乃は私を乱暴に離した。
椅子に強く当たって痛いが、今は気にしていられなかった。
「こんな腰抜けだったとは… お前に『テイルグリーン』を名乗る資格は無いな」
呆然とする私を唯乃は横目で見ると、何処かへ行ってしまった。
私は指1つ、動けずにいた。
(私は---)
今回は、唯乃の---フェニックスギルディの横暴さを正そうと思っていた。
でも逆に、彼女に私の弱さを見抜かれてしまった。
(確かに、元々は身体的にも精神的にも弱かった。ここ最近、エレメリアンに勝って強くなったと思っていた。でも、それは幻覚でしかなかったの…?)
思わず、両手の平を見つめる。
この体で、エレメリアンを倒してきた。
特にユニコーン型エレメリアンと交戦したとき、スピアーを左手で受け止めた。
本来ならば、左手は使い物にならないはず。
だけど、今はそんな事など元から無かったかのように、綺麗な手をしている。
「私が強いって事を証明するものなんて、無かったんだ…」
ただ、右手に着けられた緑色のテイルブレスがある。
でもそれだけだ。
変身しても、制御するのは私自身。
私が全てなんだ。
(結局、私は何のためにここにいるの…?)
額をテーブルに思い切り叩き付ける。
もしかしたら、この時点で私は涙を流していたのかもしれない。
ただただ、私は悔しかった。
テイルレッド---総二君みたいに何で純粋に戦えないの?
(私って、なんだろう…?)
今日は蒲団に入れずに、私はテーブルに突っ伏したまま朝となった。