Which do you love ?   作:ズケズケ

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Episode.45【That's too bad !】

ゴスッ!!

「あべしっ!?」

 

何かが私の頭に、思い切り当たった。

それと同時に、クスクスと笑い声が周りから聞こえる。

感触はめちゃめちゃ硬い。

痛みを抑えようと、両手で頭を抱えた。

うぅ、頭に響くよ…

 

「相変わらず、俺の授業で寝るとは… まったく、大した度胸だな」

「ぁ、足立先生…」

 

呆れ顔でそう話すのは、私の天敵である。

右手にチャートを持っている。

間違いなく、凶器はそれだ!

 

「夏休みであれだけの補習をしながら、反省の1つもないな」

「…」

 

寝ていた手前、彼の言葉に何も言い返せない。

だって、難解すぎるんだもの!!

…なんで皆はできるんだろうか?

 

「寝てスッキリしたなら、あの問題は解けるよな?」

「…ハィ?」

 

親指を先生の後ろにある黒板に向ける。

その先には、問題のページ数が書かれていた。

恐らく、彼が持っているチャートのだろう。

…というか、何故私を?

考えても仕方ない、改めてチャートを開く。

そこはちょうど因数分解である。

 

「---解けない」

「馬鹿か」

 

私にとっては、茨の道にしか見えない。

因数分解って何よ、そのままにしてやれという気持ちが芽生える。

 

「大学を目指すなら、少しでも選択肢を増やせるよう努力しろ」

 

これは、担任にも言われた言葉。

そうは言っても、私は大学に行くとは言っていない。

まず、そう決められている気がする。

まるで、決定事項のような言われようだ。

 

(---思えば、一辺倒な気がするな)

 

高校を大学を卒業して、会社に就職。

結婚して、家庭を築く。

それも人生の1つのやり方、私は別に悪いとは思わない。

でも、私個人としてはどうなんだろ…?

 

「---大沢、長瀬の代わって問題を解け」

「うっす」

 

足立先生に指示された彼は席から立ち上がり、ノートを片手に黒板へと向かう。

私の目線はチャートに集中しつつ、頭ではまだ別の事を考えていた。

 

(私もそうなるのかな…?)

 

次々と黒板に記されていく計算式。

答えのようだけど、私にはスワヒリ語にしか見えない。

 

「よし、正解だ」

 

解答をかき書き上げ、自分の席へ戻る大沢君。

こうやって、誰もが『社会人』としていく。

でも、私にはそれが正統な道筋とは思えない。

 

(---わからないや)

 

それは黒板に記されている解答を差すのか、それとも私の未来図なのか。

考えすぎて、頭がぐちゃぐちゃだ。

 

「お前はもう少し、自分の非を恥じろ!」

「ひでぶッ!!」

 

今度は丸めた教科書で叩かれた。

チャートのような固さは無いのに、やっぱり痛い。

この~、相変わらず手加減しないね。

そしてクラスは、私を見てクスクスと笑う。

 

(うぅ…)

 

周りの目が白い。

顔では笑っていても、目はそうじゃない。

何でこうも先生は、私を目の敵にするんだろうか…?

 

☆☆☆

 

「(何や、あれ?)」

 

校舎の裏側に知らない人がいた。

それだけなら、別に不思議でもない。

 

「黒のスーツ… 会社員にしては場違いやな」

 

その服装が、かなりミスマッチしていることが問題である。

それに誰かに見られていないか、執拗に周りを警戒している。

 

「迷った、わけでも無さそうや」

 

もしそうならば、この辺りをウロウロしている。

だが、何かを探すように動く範囲が狭い。

それに目線は建物を向けている。

昔を思い返しているには、顔が険しい。

いずれにせよ、男が怪しいことは明白である。

 

「ここは戻って先生に知らせるべきか、それとも…」

 

しかし、今この場を離れたら男の行方はわからなくなる。

それはなんとしても避けなければならない。

 

(…わからへんわ)

 

それから数十分ほど監視しているが、そこを離れる様子はなかった。

そろそろ戻ろうと思ったとき、彼にようやく動きが見えた。

リンのいる場所とは、反対の方向に行ったのだ。

これは何かあるに違いない、彼女はそう判断した。

 

(着けましょ)

 

足音を消し、気配を感じ取られないように男の後を追った。

 

☆☆☆

 

「総二様~、一緒に返りましょうよ~」

「そうやって、また総二を連れ去る気ね!? とっとと離れなさいよ、この痴女が!!」

 

俺は学校が終われば、すぐに帰る。

そう決意していたけれども、トゥアールに邪魔されてしまう。

そして愛香が彼女を引き剥がす、いつもの光景だ。

いつになっても変わらないな、このやり取りは。

 

「いや~、最近はスキンシップがないもので私のストレスは最高潮なんですよ? 総二様、何としても責任取ってください!!」

「ほぉ… あんた、まだ懲りてないようねぇ…」

 

トゥアールが血涙を流して俺に懇願するも、愛香に襟首を掴まれドナドナのごとく連れ去られた。

トゥアールは必死に俺に手を伸ばすも、愛香の馬鹿力には敵わず遠ざかる。

俺はただ、その光景を静観するだけだ。

 

「やっべ、教室に忘れ物があった」

 

ふと、鞄の中に忘れ物がある事に気付いた。

俺は慌てて自分の教室に戻った。

トゥアールと愛香は放っておいて大丈夫か、って?

あの2人だ、結局は校門前でお出迎えをするに違いない。

何だかんだ言いつつも、仲は良いからな。

そう考えている間に、教室に着いた。

引き戸を開けるが、勿論教室には誰もいない。

それを確認した後、真っ直ぐ俺の机に向かう。

 

「やっぱりか」

 

机の中にあったのは、B5のノート。

今日の授業で使ったので、これが無いと復習すらできない。

さて目的の物も見つかったことだし、早く出るか。

でなければ、校門前でまたトゥアールがスプラッタにされかねない。

 

「よぉ」

 

教室を出て引き戸を閉めたとき、誰かに声をかけられた。

それに反応して振り向くと、うちの生徒が一人いた。

その奇抜な制服の着方から、誰なのかはすぐにわかった。

 

結翼(いわばね)さん…?」

「おぅ」

 

なんでここに?

第一、彼女は俺のクラスとは別だったはず…

それに、この時間まで残る生徒はそれほどいない。

彼女が好んで居残りをするとは考えずらい。

 

(そもそも、何故このタイミングで…?)

 

俺に会うなら、今までにもチャンスはあった。

なのに、彼女はそれをあえてしなかった。

いや、俺だけじゃない。

俺の周りにはトゥアールや愛香、慧理那が常にいた。

まさか、彼女たちがいると何か不都合なのか?

 

「何か俺に用が---」

「それについてだが…」

 

俺が問おうとする前に、彼女は俺の手首を捕まえた。

ガッチリホールドされているから、無理矢理ほどこうとしてもできない。

この強引さ、誰かさんと似ている…!?

 

「場所を変えさせてもらうぜ」

「おぃ、強く引っ張るなって---」

 

そして、俺の手首を捕まえたまま連れ去る。

意外にも彼女の力は強く、抗うことはできなかった。

 

 

 

 

その頃、校門では---

 

「総二の奴、おっそいわねぇ…」

「意外と手こずっているのかもしれませんねぇ…」

 

てっきり彼女達の後を追いかけてくると思っていた。

しかし待てど来ない彼について、逆に心配していた。

 

「あんたの異常なスキンシップのせいで、総二はウンザリしたのよ」

「あれで嬉しくないはずがありません!! むしろ、ウハウハだったのでは?」

「総二が異常なツインテール好きだっての、忘れたの…!?」

 

彼がツインテールにしか反応を示さないことは、トゥアールはとうの昔から知っている。

しかし、彼女がツインテールにできない以上、こうすることで彼の気を引くしかないのである。

 

「うむむ… どうすれば、総二様は私に振り向いてもらえますか?」

「今までいやらしいポーションをしてきたからでしょうが…」

 

検討がつかないトゥアールに対し、愛香は冷ややかな目を彼女に向ける。

いや、正確には彼女の豊満な胸だが…

 

「まぁ、どこにも優位に立てない貴女よりはマシですね」

「んだと、ゴルアッ!?」

 

そしてトゥアールの挑発に、愛香が激昂する。

もはや観客がいようがいまいが、彼女達にとって日常なのだ。

 

☆☆☆

 

(足立先生め、余計な真似を…!!)

 

帰り道。

私は肩を落としながら歩いていた。

何故、こうも足取りが重いのか。

それは---

 

 

 

 

「お前なぁ… このままで良いと思っているのか?!」

 

昼休み、私は職員室に呼び出しをされた。

しかも放送での名指しだ。

これ以上の皮肉は無いだろうな。

その時私は、食堂で並んでいた。

あと少しで食べられるところだっただけに、酷くショックを受けた。

あと「長瀬、お前また数学で酷い結果出したな!」と笑いながら言った男子生徒Cは、絶対許さない。

そのせいで、食堂全体が爆笑の渦に巻き込まれたんだから。

 

「最近は何処の文系でも、数学を受験科目として取り入れている大学は少なくないんだぞ!!」

「---はい」

「俺が言いたいのは、その様な姿勢じゃ大学には受かれないぞ!!」

 

私を叱っている先生の声量がまた凄いもんだから、周りの先生方の注目を引く。

向こうにいる体育教師も、カップ焼きそばを途中まで啜りながらだし。

せめて、食べきってからこっちに向いてもらえません…?

 

「生憎ですが、私はまだ大学へ行くとは言っていません」

「だとしてもだ。今の世の中じゃ、大卒でなけりゃ雇ってくれる企業も少なくない」

「別に大学に行くだけが、私の道ではありませんよね?」

 

ここはキッチリと言わなければ。

確かに、この陽月学園での大学への進学率は極めて高い。

だがそれは、『大学部』の存在によるところが大きい。

高等部の7割以上がここに進学するため、()()()は極めて高い。

キーポイントのため、重ねて言わせてもらう。

 

「考えて見たことがあるか、お前の未来を?」

「ぼんやりとでは、あります」

「それじゃあ、ダメだ。お前にははっきりとしたビジョンってのが無さすぎる」

「---ハァ」

 

毎度お馴染みの「ビジョン」。

この先生は、何かにつけてこの言葉を多用する。

あまりに使いすぎて、この言葉の重要性が薄れていく感じがするのは、私だけではないはず。

 

「なんだ、その目は!? 文句があるなら、直接俺にだな---」

「はぃ、ちょいと通るぜ」

 

私と先生の間をわざわざ割り込んできたのは、足立先生だった。

自分の席に着くなら、遠回りすればいいのに…

 

「自分が苦労してきたから、子供の世代に苦労をさせたくない。その気持ちは理解できます」

「だったら---」

「しかし、自身の価値観を人に押し付けるのはどうかと思います」

 

ナイス、足立先生!

その正論に、私を叱っていた先生は押し黙ってしまった。

あんた生徒から恐れられているけれど、根は良いんだね!!

 

「俺は元から良いんだ。お前らが馬鹿しなけりゃ、少しはマシな印象になったろうよ」

 

私にジト目を向けながら、足立先生はそう話す。

あんたも人の心が読めるのか…!?

 

「お前は少し、競争心がないよな」

「な、何をぉ!? 私にも、多少なりとも競争心は---」

 

足立先生の挑発に乗ってしまったのは、良くなかった。

私は怒りに任せて、職員席に思い切り拳を叩き付けた。

それは運悪く、置かれていたマグカップが宙に舞い、中身をこぼしてしまう。

さらにそれは、そばにあるプリントの束を汚してしまった。

 

「ぁ---」

「あちゃ-…」

「お前は---」

 

振り返ると、般若の顔をした足立先生が。

まさかこの席って、先生の…!?

 

「アホか---!!!」

「ごめんなさい-!!」

 

更に大きい声が、職員室に響いた。

おまけに、私には何十発もの拳骨を喰らった。

漫画やアニメなら、たんこぶの山ができているかもしれない。

 

 

 

 

「うぅ~… まだ、たんこぶが残ってるよ…」

 

未だ痛みが残る頭をさする。

私が悪かったとはいえ、あそこまですることはないだろうに…

 

(過去の失敗より、今は晩御飯のメニューよ)

 

とにかく、気持ちの整理が必要だ。

それに、私の冷蔵庫はもう空っぽだった。

 

「さて… 少なくとも1週間は補充しておかないと」

「あれ、伊織さん?」

 

冷蔵庫の中身をどうするか考えようとしたら、誰かに声をかけられた。

その方に振り返れば、リン---鈴音の弟がいた。

 

「一輝君、珍しいわね」

「えぇ、親に買い出し頼まれて」

 

私の問いかけに対し、彼は頭を掻きつつそう答えた。

でも、私としては一人でいるよりは気が紛れる。

そんな時、あることが閃いた。

 

「どうせなら、一緒に買い物しない?」

「…良いんですか?」

「一人で回っても、退屈しかないから」

 

「それなら」と、一輝君は了承してくれた。

 

「しかし… 大丈夫です、その頭?」

「あぁ… やっぱりわかる?」

 

あれほど拳骨を喰らったのだ、隠せる方がおかしい。

照れ隠しに、頭を手に乗せながら軽快に笑い飛ばした。

 

「俺としては、あの放送と職員室での出来事が気になるんですが…」

「ヤメテ。モウ忘レソウダッタノニ」

 

がっくりと肩を落とす私。

無神経なのが、彼の短所なのよね…

 

「今日は本当に反省したから!! 早く行かないと、セール品が売り切れになっちゃう」

「いきなり走らないでくださいよ~!!」

 

私は自棄になって、一輝君を置いて行ってしまう。

だが彼は、持ち前の脚力を活かして追いついてくる。

こうして私は、新たな従者(荷物運びの予定)を連れて、戦地へと急いだ。

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