いつになれば、彼女をかっこよく書けるのかな…?
リンは、怪しげな男をまだマークしていた。
男の後を追ったその先は、中庭である。
彼はしきりに、周りを見渡していた。
(校内のチェックにしては、ここは変や)
もし校舎の耐震調査並ば、校舎の壁を見るはず。
しかしこの男は、それとは関係のない草むらまでチェックしているのだ。
(なんちゅうかなぁ…)
まるで身を隠す場所を探しているかのようだ。
しかし、あの男の図体では隠れる場所は相当限られてくる。
(…話しかける、これが一番やな)
彼女自身、何時間も監視していたが流石にしびれを切らしていた。
彼女が身を乗り出そうとしたが、別の場所から生徒が現れた。
「あの~、職員室に案内しましょうか?」
「…」
リンと男の距離はあるが、会話を聞き取れる場所にいた。
だからこそ、問いかけてきた男子生徒の声をハッキリと聞き取ることができた。
しかし、男は何もアクションをしない。
しばらく沈黙が続いた。
(気まずいわぁ~…)
リンは完全に、この場を去るタイミングを失った。
恐らく男子生徒も、問いかけた以上立ち去れないと思っているはず。
「…いや、すぐにここを去る」
長い沈黙の末、男はようやく口を開いた。
そう答えたあと、男子生徒に背を向けてその場を去っていった。
彼が向かう方向からして、校門だ。
そして彼の姿が完全に見えなくなったと同時に、深く安堵した。
(何事もなくて、助かったわ)
確かにあの男は、校舎を綿密に調べていたこと以外は何もしなかった。
しかし彼は何をしたかったのか、それと彼は何者なのかを知る事は出来ずじまいであった。
☆☆☆
「いゃ~、結構な量になったわね」
「め、滅茶苦茶重いんですけれど…」
私と一輝君はまだ商店街をうろついていた。
私も彼も、両手にかなりの大きさとなった買い物袋を持っている。
タイムセールが多い商品を狙ったのが失敗だったかしら…
袋が手に食い込んで、痛い。
「ゴメンね、手伝わせてもらって」
「いえ、ちょうど良い筋トレになりますので」
私が申し訳なさげに一輝君に話すが、彼は買い物袋を持ち上げて平気そうに答えた。
元々彼の分に加え、私のも一部持たせているのに…
流石は男の子、ってことかな?
「(まぁ、荷物持ちがいて正直助かったけど)」
「…何か言いました?」
「---ありがとう、助けてもらって」
危ない、もう少しで聞かれるところだった。
というか、何時の間にか考えていた事が漏れていたのか。
「良かったら、伊織さんの家にまで持っていきますよ」
「悪いわよ。一輝君の分もあるのに」
彼の優しい気遣いはありがたいけれど、私の家は不味い。
一般的な理由として、思春期の男子を女性の家に上がらせるのはどうかと思う。
でも私には、別の理由がある。
(唯乃を彼に会わせるのは、私的にはどうかな…?)
学校では「かなりの美人」ともてはやされている唯乃。
でも私から見れば、「ズボラ女子」にしか見えない。
彼女のそれを示すかのように、私が片付ける以上のスピードで散らかす。
お陰で、綺麗だった私の部屋は酷くなっている。
(一輝君はおろか、誰にも入れさせるわけにはいかない…!!)
折角のお誘いも断らざるをえない事に、私は落胆した。
今思ったが、唯乃を泊めるなら雨宮家でも良かったのでは…?
あ、でも親の承諾が必要か。
「ここで考えても仕方ない。お言葉に甘えさせてもらおうかな」
「じゃあ、早く行きましょう。もう腕がもたないので」
私が提案に乗ったと同時に、一輝君は一目散に駆けていった。
どうやら、本当に腕がもたないらしい。
…まぁ、家に上がらせなければ良いか。
そう楽観的に考えることにした。
(---!!)
急に寒気を感じた。
いや、何かが来る予感か。
「ちょっ、一輝君ストップ!!」
彼は私の言葉に従ってくれた。
---わけではなかった。
雨避けの屋根を突き抜け、何かが落下してきた。
その場所は、彼がいるところよりもっと先だ。
そのせいで商店街はパニック状態。
ただでさえ逃げ場の無い中なのに、誰もが我先にと逃げようとするから渋滞は避けられない。
「…何でしょう、あれ?」
「えっ、行くの?」
多くの買い物客が逃げ惑う中、何故彼は向かおうとする。
度胸があると言えば、良いのか…?
しかし、彼を放っておいては不味い。
渋々ではあるが、私もその現場へ向かうことにしよう。
☆☆☆
「---で、一体どこまで連れていく気です?」
「お前はただ、俺様に着いてくれば良い。それと、お前と同じ学年だから敬語は要らねぇ」
俺が唯乃に連れ去られてから、ずっと手首を掴まれたままだ。
そろそろ痛い…
たまにすれ違うのは先生か、受験勉強をしていた3年くらい。
その誰もが挨拶をするのみで、この状況に突っ込まない。
(…不安しかねぇ)
一般生徒ならば、誰だって羨ましいのかもしれない。
だが俺はツインテールにしか、興味ない。
第一、どこへ連れていくのかわからない状況自体が恐い。
ある意味、これはミステリーツアーだ。
(あり? あそこはどこだっけな…)
ちなみに、俺は彼女が転入してまだ間もない事に気付かなかった。
だから、彼女は単純に迷子になってる事に気付かなかった。
(同じところ、何回まわっているんだ…?)
先生や3年は、唯乃に話しかけ難いのか誰も近寄ろうとはしない。
俺も手を掴まれた上に、下手に話しかけると怒られてしまう。
誰も彼女に助け船を渡すことができなかったのだ。
それが余計、彼女を寂しがらせる結果となる。
☆☆☆
「あっ、見えてきましたよ」
「でも野次馬ばかりで、肝心の騒ぎの元凶が見えないんだけど…」
私達がいた場所から現場まで、それほど遠くはなかった。
しかし、時間帯がかなり不味かった。
今の時間は午後5時あたり。
だから買い物客がかなり多く、商店街の通路を埋め尽くしていた。
もう、窮屈のなんのって…
それに、両手に抱えた買い物袋が邪魔で仕方ない。
買い物客にぶつかる度に「すみません」と謝らなければならない。
(ちゃちゃっと合間を縫うしかないのよねぇ…)
周囲1kmと言ったところか。
どこにも私たちが入る隙間が見当たらない。
「野次馬に、断る理由はないか」
「…え?」
私は決意して、野次馬に突っ込むことにした。
一輝君に買い物袋を持たせ、意を決して前に進む。
ズンズンと割り込む私に、持たされた彼はは若干ドン引きかも。
(しっかし、更に密度が増した気がする…)
何故だ?
邪魔であるはずの、買い物袋は預けたはずなのだが…
体を横にして、何とか隙間をかいくぐる。
ところが、急に視界が開けた。
どうやら野次馬の先頭に出たみたい。
「…あぁ」
「た、助けて---!!」
「ぐふふ、中々の上物。これは新たな実験台としては、最適だ!!」
案の定、騒ぎの元はエレメリアンだった。
怯える女子高生2人に、巧みな指使いで迫っている。
その姿は、変態オヤジそのものだ。
「ちょっと、野次馬よりあいつを止めて---」
そばにいる警察官に、この騒ぎを解決させようとした。
でも、実際に見て言葉の先が出なかった。
何故ならば---
「おい、
「モケ?」
本来、この場を終息させる役割である警察官がいない。
その代わり、なぜか戦闘員がこれ以上野次馬を入れないようにバリゲートを張っていた。
こいつら、エレメリアンと一緒に降りてきたのか。
しかもご丁寧に、警察の帽子までかぶっていた。
(この余裕な態度が、余計に腹立つ…!)
しかし、戦闘員に怒りをぶつけても仕方ない。
今はどうやって彼女達を助けだすか、だ。
私のいる場所は、ちょうどエレメリアンの横顔が見える。
その気になれば、バリゲートを突っ切って割り込むことはできる。
でも、それで彼女達を助けられるかは別問題だ。
彼女達に少しずつ近寄ってはいるが、常に周りを警戒をしている。
もし突っ切ってしまえば、彼女達を人質にしかねない。
私は身を乗り出しながらも、ただ指をくわえるしかないの?
バガンッ
「…?」
突然、エレメリアンから変な音が聞こえた。
しかし私のいる場所とは反対側から聞こえたので、何が起こったのかはわからない。
でもこれで、隙はできた!!
「はぃ、どいたどいた!!」
「ムオッ!?」
戦闘員のバリゲートを飛び越え、一気に女子高生達のところまできた。
チラッと地面を見ると、白い欠片があちこちに散らばっていた。
そしてその中で、みずみずしい緑の葉が付いた欠片が目立っていた。
(だ、大根…!?)
今は大根なんてどうでもいいや。
…正直に言えば、勿体ないと思ったけど。
彼女達は恐怖で動けないので、両脇に抱えて脱出を試みる。
だけど、エレメリアンもただで帰してくれるわけないよね。
逃がさないと言わんばかりに、その大きな手で私ごと女子高生を捕まえにきた。
「クマは大人しくこれでも食べてろ!!」
「あん?」
だけど大根が飛んできた方向から、誰かが飛び込んできた。
戦闘員を踏み台にして、私以上に高く飛んでいた。
大量の買い物袋は、全て左腕で抱えている。
それに対して、右腕は何も持っていない---
いや、右手には瓶のような何かがあった。
私に気をとられていたエレメリアンが振り向いた瞬間、その口に開けられた瓶が突っ込まれた。
「な、何をする?!」モゴモゴ
「---って、一輝君!?」
「今の間に早く!!」
色々とツッコムところはあるが、それはあと。
何とか女子高生達を両脇に抱え込み、急いで走った。
当然戦闘員が邪魔しにかかるが、さっきの野次馬に比べれば…!
彼らの隙間を上手く掻い潜り、抜け出すことに成功した。
「彼女達をお願いします!!」
「えぇっ、あんたは!?」
抱えていた女子高生達を、野次馬の中に放り投げた。
少々乱暴だけど、相手が相手だけに丁重に扱ってくれるはず。
私も逃げたいところだけど、それはできない。
既に放り投げた先は戦闘員にふさがれ、私は完全に包囲されたのだから。
それに、たった一人でエレメリアンに立ち向かっている一輝君を置いていけないから…!!
「「モケモケ」」
「---」
今ここで変身すれば、確実にテイルグリーンの正体がバレる。
それに、私は何のために戦ってきたのか。
何の覚悟も無い私がでしゃばっても、しょうがないよね…
(兎に角、今私にできることは---)
時間稼ぎ、それしかない。
ツインテイルズなら、このエレメリアンが発する
僅かな望みをかける、だから私は---
「クマ野郎、女に手を出すとは男の風上にも置けねぇな」
「フン、男を闇落ちさせても見苦しいだけの事よ。やはり闇落ちは、
あぁ、それはよくわかる…
このエレメリアンは
なんとまぁ、扱いずらい属性で。
「それにしても貴様、よくも俺に屈辱を与えたな!!」
「ハハッ、ナンパを邪魔して屈辱もあるか」
「そうではない!!」
「あれほど甘ったるいものを、よく人間は食べられるな」
「「ハァ!?」」
よく見れば、一輝君が持っていた瓶には『ハチミツ』のラベルが貼られている。
お前、クマでありながら甘いのはダメだったの?
確かエレメリアンは食事する必要はなかったはず。
だけど、クマが蜂蜜を嫌いって…
うん、ショックだわ、色々と。
「ええぃ… この屈辱、貴様の
「屈辱の理由がどうでもいい---!!」
クマ野郎---ベアリングギルディにツッコミを入れつつ、一輝君はエレメリアンの猛攻をギリギリでかわしている。
得物をハチミツ瓶から長葱に切り換え、剣道の要領で捌いていく。
だけど所詮長葱、掠めたベアギルディの攻撃でどんどん細くなっていく。
そして---
「もらった!」
「チッ…!!」
長葱はベアギルディのアッパーカットによって、ついに半分に千切れた。
そして片方の葱、は空中を何度も回転する。
やがて葱は重力に従い、地面へ向かう。
その先はベアギルディの真上だ。
そして、彼は口を中途半端に開いている。
まさか…!
「あっ」
予想通り、葱はベアギルディの口にホールインワン。
葱はベアギルディの中に吸い込まれていく。
『---』
私や一輝君はおろか、野次馬や
エレメリアンが葱を食った、だと…!?
「あ、これ意外とイケるわ」
ベアギルディの感想に、誰もがズッコケた。
蜂蜜が駄目で、葱はOKって…
(しかも、葱は生)
ますますクマから遠ざかったぞ、こいつ。
「この野郎…」
何、この気配。
急に空気が変わった。
見れば、一輝君がかなり怒っている。
半分になった葱を前に出す。
「葱は焼いて食いやがれ!!」
「何を言ってるの---!?」
変なところで怒ってた-!
何で葱なのよ?
「な、何を---」
「葱はなぁ、確かに生で食べたら旨い。刻んで味噌汁に入れれば、ちょっとしたアクセントになる。すき焼きなら、肉の間に食べることで肉を飽きさせない。それはアイスクリームにおけるウエハース的存在だ。つまり、葱はあらゆる食材に合う『万能食材』だ! だけどなぁ…」
一呼吸置き、彼はポッカリ空いた穴に向かって告白した。
「俺は焼き葱が好きだ------!!」
どんな告白だ-!?
もう、ベアギルディも野次馬も顔がポカンとしているし。
エレメリアンに立ち向かう度胸は凄いが、何処かズレてる。
…時間稼ぎにはなるけど。
ふと疑問に思いましたが…
7巻でのヘラクレスギルディ戦で、あの
消えたのか、それとも回収されたのか…
そこらへんが書かれていなかったので、どうなんでしょ?