陽月学園高等部正門前。
そこではまだ、ツインテール部員同士での取っ組み合いがまだ続いていた。
「なっ!? これは…」
「どうかした、トゥアール?」
しかし突然、通話とは異なる発信音がなった。
その音でトゥアールの顔は豹変し、愛香もその顔からただ事ではないことを直感した。
すぐさまトゥアールは白衣のポケットから、マーカーを取り出して機動させる。
折り畳まれた紙を広げるように、疑似ホロスクリーンが機動していく。
やがてスクリーンは、ポイントを中心とした地図を表示させた。
「この赤いポイント、まさか…!」
「すぐに連絡を取らないと」
焦りながらも、簡易型ヘッドマイクを通して連絡を取る。
同時にマーカーを操作し、各ツインテイルズの居場所とポイントを表示させる。
慧理那は自宅に、総二はまだ校内にいた。
(慧理那さんは兎も角、総二様は一体何を…?)
「あたしが、会長に連絡する。トゥアールは総二を探して連れてきて!!」
振り向けば、既にテイルブルーがいた。
そして
「私もすべき事をしなければ…!!」
両手で頬を叩いて気合を入れ直したあと、トゥアールは急いで校舎へと走った。
「エレメリアンが? えぇ… 了解ですわ!!」
ブルーの知らせを受け、慧理那もすぐに出撃の準備に取り掛かる。
そうは言っても、周りに誰もいないことを確認するだけではあるが。
万が一、自分がツインテイルズの一員だと知れば、母親に迷惑をかけるかもしれない。
そんな不安からの、行動である。
「"テイルオン"!!」
テイルブレスを機動させ、テイルイエローとなる。
流石に彼女の鈍重な装備のままでは、自室からは出られない。
テイルブレスに搭載された簡易型転送機能を使用し、そこからワープする。
(何だか、胸騒ぎがしますわ…)
それはエレメリアンが強大とかではなく、何か別の物に対して本能でそう感じていたのだ。
☆☆☆
「おぉ、ここだ」
「---」
散々校内を歩いてきた唯乃だが、どうやら目的の場所に着いたようだ。
それまで俺は連れ回されてばかり、正直疲れていた。
ここまで歩いたのは、いつ以来だろうな…
「にしても、このドアは建てつけが悪いなぁ」
しかし、目的の場所に通じるドアが開かないようだ。
というか、それは当然だろう。
本来、日本では靴を脱ぐ習慣が根付いており、その際に靴がドアの開閉を邪魔しないように外に開く構造となっている。
それはこのドアも同様で、押すタイプのドアだ。
しかし唯乃はさっきから引いているだけ。
あれでは、幾ら頑張っても開かないだろう。
「まどろっこしい、そりゃ!!」
苛立ちを覚えた彼女は、そのドアに前蹴りをする。
その威力は、ドアを開かせるには十分なものだ。
むしろ、金具ごとドアが吹っ飛んでいったのだが。
…ここはスルーするべきなのか?
「ふぅ… 時間的にも、ちょうど良い感じか」
ドアを潜り抜けると、強烈な西日が俺の視界を奪う。
あまりにも眩しすぎるため、左手で目の辺りに影を作る。
「どうだ、良い場所だろ?」
俺達が今いるのは、本校舎の屋上だ。
なるほど、確かに色々と良い場所なのかもしれない。
授業を抜け出して、一人風に当たってみる。
ボッチが人の目を気にせずに落ち着ける。
カップルが仲良く昼食をとってみる。
様々なシチュエーションにはもってこいだ。
「…あれ?」
そこで、俺は疑問に気付いた。
何で唯乃は、ワザワザ俺をこんなところに連れてきたんだ。
単純に俺と話したいのならば、他に適切な場所の一つはあるだろうに。
「…気になるか?」
そう考えていた俺をお見通しなのか、彼女は真っ直ぐ俺を見つめる。
逆に俺は、彼女の考えていることが全く分からない。
(ここはどう出るべきだ…?)
迂闊に出れば、俺は戻れなくなってしまう。
かといって、今ここで回れ右をしても速攻で追い付かれてしまうかもしれないが。
…俺ができる事は、ただ相手の出方をうかがうくらいか。
「そうだな。幾ら俺様が黙ったままじゃ、進展がねぇか」
そう言って、唯乃は俺のすぐそばまで来た。
しかも、かなり近いし。
下手すれば、彼女の息遣いまで聞こえてきそうだ。
欲情の大半がツインテールである俺でも、この状況にはあまり慣れていない。
きっと俺の顔は、トマト以上に真っ赤なはずだ。
「そんなに照れることねぇじゃんか」
そんな俺を見て、唯乃は無邪気に笑う。
くそっ、俺は彼女に遊ばされたか…
「---一体、俺をどうしたい?」
ただ単に、俺をからかいだけにこんなところに連れてきたのか?
だとすれば、かなり馬鹿馬鹿しい。
「決まっているだろ」
俺の顎を下げ、彼女の目線に合わせてくる。
目を逸らそうにも、かなりの力で押さえられているので無理だ。
「俺と付き合え」
「---それは買い物に、という意味でか?」
「それは随分とベタな洒落だな」
俺の予想が外れてほしいと思っていたが、どうやら回避はできないらしい。
またしても俺の答えを、軽く蹴飛ばした。
俺の顎を更に引き寄せ、お互いの距離がより近くなる。
「俺様の"彼氏"になれって言ってるんだ」
「…随分と急な話だな」
この強引さ、誰かさんと同じだ。
全く、ロエルの時みたいにどうして俺は…
「そう急でもねぇ。
こいつ、どうして
---まさか!
俺がそのことに驚いて、僅かながら固まってしまった。
その隙を狙って、唯乃は強引に俺の顔を引寄せる。
同時に、俺に向かって彼女の顔が近付いてきて---
「隙アリ」
---俺、初チュー奪われました。
(テイルレッドの状態を除いて)
☆☆☆
『俺は焼き葱が好きだ---!!』
「…何やってんだか」
ポイントを示した商店街から10km離れた上空にて。
テイルギアによって強化された聴力は、そんな告白をも聞き逃さなかった。
一体、あの場所に何があるのか。
ブルーとしては、あまり想像したくはなかった。
「遅れてすみませんでした!」
「いいって。イエローの装備を考えれば上々よ」
横からイエローが合流した。
通信で慧理那を呼び出してから、それほどにはかかっていない。
彼女もそれなりに急いだのだろう、息も荒くなっていた。
『商店街の屋根の一点に穴があります。そこから突入してください』
「「了解(ですわ)!!」」
見れば、穴の直径は5m強。
ブルーとイエロー、2人が一斉に入っても大丈夫そうだ。
そう見たブルーは、一気に加速する。
「どぉりゃああぁぁぁ!!」
途中で体制を整え、蹴りの構えを行う。
その加速の勢いを利用し、最高速度での流星蹴りを放つ。
…狙いは屋根の穴目掛けて。
「わたくし、なんだか忘れ去られた気がしますわ…」
『突貫爆裂暴力女よりはまだマシだとは思いますが』
空中で制止しまま、イエローは一人そう呟いた。
通信越しでトゥアールはフォローするものの、ブルーに対する暴言が強かった。
まだ、校門前で絞められたことに根を持っているらしい。
☆☆☆
「な、何事だ!?」
ベアギルディ達が侵入した穴から、何かが飛来した。
その威力は着地点の地面を砕き、砂塵が周囲を襲った。
それによって視界を奪われ、状況把握ができなかったのだ。
「ゲホッ… 今度は何よ?」
それは私も同じ。
しばらく砂塵が収まるのを、ただ待つしかなかった。
やがて、視界はクリアになっていく---
「待たせたわね、アルティメギル!!」
着地点にいたのは、テイルブルーだった。
片膝をついていたが、ゆっくりと立ち上がる。
そして、彼女は真っ直ぐエレメリアンを見ていた。
「貴様、テイルブルー!?」
「さぁ、誰から死にたいのかしら?」
驚愕の声をあげるベアギルディに対し、彼女は手の平を上にして挑発をかける。
だが、思いの外彼らは乗ってこない。
「チクショー、テイルレッドだと思っていたのに!!」
「土煙の中でも、決して強調しない胸の持ち主が真っ先に出るなんて!」
「その台詞は、テイルレッドちゃんの物だ-!」
周りにいる野次馬が、かなり五月蠅い。
黙ってろ、ロリコンどもめ。
私も「テイルレッドかな」と少々期待はしていたが、あそこまで非難することは無いだろうに…
「まさか、直に見るツインテイルズがまさかド貧乳だとは…」
「地獄に行く覚悟は十二分にあるようね」
自身のウィークポイントを指摘されて、ブルーはかなり御立腹のようだ。
指の骨を鳴らして、ジワジワと距離を詰めていく。
「俺達のこと、見えてないのかな?」
「かもしれないわね…」
一輝君の告白以上に、ブルーは目立っていた。
…悪い意味で。
両側にいる
(---って、これチャンスじゃない!?)
その隙に、右側の
左腕を折り畳み、無防備な脇腹に肘打ちを当てる。
それは見事にヒットし、彼は脇腹を押さえながら後ずさる。
勿論、このまま黙っている彼らでは無いよね。
もう一方の
(悪くないわね)
でも、あの地獄の特訓を受けた私には見える。
頭を傾けてストレートをかわす。
ある程度過ぎたところで、彼の右腕を左手で掴む。
同時に右手は、胸に当てて体を固定させる。
一旦体を背負い、思い切り投げる!!
「一輝君、離れて!!」
「伊織さん、ってえぇ!?」
投げる先には彼がいるので、あらかじめ注意をしておく。
私の狙いが理解できた彼は、急いで横に飛び退く。
投げられた
「モケ-!」
「ヌォォ!?」
流石に、後ろに気を配っていなかったようだ。
背中に
(って、伊織先輩!?)
その予想外な攻撃をした私に、きっとそう思っているはず。
ブルーの顔には、驚きが見えていたもの。
「---何ですの、この状況は?」
ようやくイエローも来たのか。
しかし、最初に現れたブルーのように地面には降りず、
「イエロー、あんたは出ちゃ駄目」
「何故ですの? 敵を倒して人を救うのは、ヒーローの務めですわ!!」
ここはブルーが正論だわ。
イエローの戦い振りは、私も何度も見てきた。
だからこそ、滅茶苦茶危険だ。
もし、彼女が出てきたら---
『私をもっと見てくださいまし、御主人様---!!』
そんな台詞を言いながら、四方八方に乱射する姿が目に浮かぶ。
私や一輝君は勿論、野次馬もきっとただじゃ済まないだろうな。
「ブルー、貴様一人だけで倒せるつもりか」
「あんたの配下共で試せば?」
その余裕な態度が気に入らなかったのか、
対してブルーも、その軍勢に突っ込んでいく。
その後はもう、ブルー無双だったわね。
ポンポンと
でも、彼女なりに安全に考慮してくれたみたい。
倒されていく
直接野次馬を傷つくことの無いように、だ。
「少しは、わたくしがいることも考えてくださいまし~!!」
…完全に、ではなかったか。
上空にいるイエローは、ブルーの眼中にないみたい。
時々彼女のいる場所
イエローは
「---これじゃ、肩慣らしにもならないわね」
「グヌヌ…」
数分後、全ての
その顔には、疲労を感じさせない。
「ええぃ、せめてテイルレッドが来るまでねばるつもりだったが…」
そんなブルーを見て、ベアギルディはたじろいでしまう。
「作戦失敗! 撤退する」
「あっ、待ちなさい!!」
ブルーが追いかけるも、既にベアギルディの足元に転送装置が起動されていた。
その場所にもう少しでというところで、彼の姿は完全に消えてしまった。
「チッ、逃がしたか」
「し、死ぬかと思いましたわ(ブルーのせいで)」
ベアギルディを取り逃がしたことに、ブルーは地団駄を踏む。
イエローは地面に降りると、深く安堵の息を吐く。
豊満な胸に左手を当てていることから、どうやら本当にそう思ったみたい。
野次馬も、テイルレッドが見られなかったことで興味を失ったようだ。
既にこの場には、私・一輝君・イエロー・ブルーしかいなかった。
「---しかし、まだのようですわ」
落ち着きを取り戻したイエローは、私達を見る。
見られて初めて気付いたけれど、私も一輝君も随分汚れてボロボロ。
買い物袋も、中身のほぼ全てが使えなくなった。
だけど、彼女が言いたいのはそれじゃないだろうな。
「お話ししたい事があります」
テイルイエロー---新堂エリナの口調は、最早私の『友達』のものじゃなかった。