「アテテ…」
リンのやつ、わざとでしょ!?
どうせなら、あのドームの中に転送してくれても良かったのに…
お陰で、私はまた死にそうだったんだから。
---まぁ、生きてるからいいけど。
「馬鹿な!? あの暴風の障壁を突破しただと?」
「にしては、カッコ悪い登場だけどね」
うるさい。
私だって、こんな地面に強烈なキスはしたくなかった。
全部、リンのせいだからね!!
「て、テイルグリーン!?」
「何でこんなところに…」
かなり離れた場所、壊されたスタジアムの壁付近にイエローとブルーがいた。
でも、何で寝そべりながら?
もしかして、敵---エレメリアンの攻撃を受けた後だからかな?
(…ん?)
ここでようやく、私はエレメリアンの姿を見た。
頭が2つ、首周りには何かが巻き付いている。
よく見ると、それは無数の蛇だ。
『長いものには巻かれろ』という
それにしても、何処かで見たことがあるのよねぇ…
(顔が犬っぽいな)
そういえば、複数の頭を持つエレメリアンが他にもいたような。
---あっ、
「ケルベロスギルディ!」
そうだそうだ、思い出した。
何処かで見たことあると思ったら、あのライブ会場か。
でも確か、既にツインテイルズに倒されたはずじゃ…
「違う!!」
「どうして、こう何度も間違えられるのかしら…?」
いきなり、本人からの否定が入ったし。
というか、複数のツッコミ?
「我々はオルトロスギルディ」
「なめていると、痛い目に合うわよ」
なるほど、オルトロスギルディね。
別に舐めているわけでは無いけれど、どうもねぇ…
(面倒だな)
目の前の敵に話しかけているはずなんだけれど、2倍話さなきゃいけない感じがする。
別に話すのは構わないよ、慣れているし。
ただストーリーの進行が遅くなる、そんな気がする。
「何をブツブツ言っているの?」
「動かぬならば、こちらからっ!!」
しまった、口に出していたか。
集中していると、無意識に何かをすることはよくある。
でも、こうも怪しまれるほどだなんて…
気をつけていこう。
「って、そんな場合じゃなかった!?」
気がついたら、目の前にはオルトロスギルディがいた。
私よりも慎重派高いから、見下ろされている感がMAXなんだけど。
彼、いや彼らは左手を手刀の形にして、私を狙って振った。
あの爪で切り裂くつもり?
「そんなもの---」
爪の餌食にならない場所、つまり左腕を抑え込む。
同時に左腕に力を込め、思いきりお腹を狙う。
身長が彼らより低いから、見事なストレートになる。
「何度も喰らってきたんだから!!」
正直、もういいかな。
モールスギルディの時に、嫌と言うほど受けたし。
爪の傷って、案外残りやすい。
私は、テイルギアによるフォトンアブゾーバーの加護で何とかなった。
「もういっちょぉッ!!」
体を時計回りに捻らせ、右裏拳を脇に叩き込む。
拳は体にめり込むけれど、それは一瞬の出来事。
その威力によって、オルトロスギルディは見事に吹き飛んだ。
「な、なんで動けるの!?」
「この環境下では、まともに動けないはず…」
何でかって?
…そう言えば、なんでだろう。
ツインテイルズはどうしたのかな。
そう思って、彼女らを探した。
「何故こうもケロッとしているのでしょう?」
「あれは人外レベルね」
ちょっと外野、聞こえているんだけど?
更に言えば、バーカーサー女には言われたくはない!!
しかし、這いつくばっていてはその暴言もいささか惨めに見えてくる。
(というか、レッドがいない)
私にツッコミをしてのは、ブルーとイエローのみ。
ここで、レッドが何らかのリアクションを取ってくれるはず。
しかし彼女がいないせいで、いまいちノリがない。
(まぁ、向こうの事情ってやつか)
考えるのは一時休止、今は集中しよう。
追撃が来るかもしれないんだから。
そう思って、私は構えようとしてみる。
「あ、あら…?」
急に動きがぎこちなくなっていた。
右腕が重く、足も思うように上げられない。
これじゃまるで、錆びついたロボットだ。
さっきはあれだけ軽快な攻撃ができたのに…
(まさか、ハンマーと何か関係が---)
『あぁスマン、重力設定間違えてしもうた』
---水差すの、止めてくれない?
折角の私の見せ場が…
「---って、リン!? どーゆーことか、色々聞きたいんだけれど!!?」
『どうどう。深呼吸や、グリーン』
あまりの怒りに、凄まじい声でリンを怒鳴り散らす。
もうあれほどの声量は、初めてなのかもしれない。
気圧されたリンは、兎に角私を落ち着かせようとした。
「な、なんて大声な!」
「耳がキーンってするよぉ…」
あら、聞こえてた?
見ればオルトロスギルディは、耳に指を突っ込んで栓をしていた。
怒鳴るときには、周りに注意しよう。
「---なるほど」
小一時間、オルトロスギルディの猛攻を凌ぎながらリンの説明を聞かされた。
いつもツインテイルズの戦いを見ていて感じていたけど、よく話ながら戦えるなぁ…
私なんかは、息切れするよ。
だから私は、適当に相づちを打ちつつ聞き手に集中した。
そして、相手が間合いを取ってくれたために、ようやく私は答えることができた。
「全ては、リンの差し金か」
『せやから、スマンて言うとるがな!?』
リンの説明では---
まず私は、自在に重力操作ができるらしい。
その効果範囲は、私の周囲10km前後。
修業次第では、その範囲は拡がるみたい。
そして、その操作はテイルギア開発者もある程度できること。
「もしかして、ハンマーや私の重さを変えたのって…」
リンの解析によれば、この暴風のなかでは満足に動けないそうだ。
普通の人間はおろか、ツインテイルズでさえも。
到着時からブルーとイエローが瓦礫に寝そべっているのは、そのせいか。
じゃあ、それと同等である私は、なぜ平気なのか?
「私のテイルギアの能力なの!?」
『
思い返すと、そんな節があったなぁ…
転送された時、急にハンマーが重くなった。
そして、今も私の体は満足に動けず、防戦一方だ。
まるで生身の体に、鉛の甲冑を着ている感覚。
「あの鎧、なんて固さなの?!」
「こちらが持たぬ!!」
---誰か、助けてください。
もう、足が重さで震えてきた。
彼らのマシンガンパンチも、滅茶苦茶痛い。
アーマーがあるから、ある程度は軽減できるよねって?
冗談じゃない、むしろアーマーの振動が余計に痛いの!
「なんて防御力… 私には出来ませんわ」
「どうかしらねぇ…」
ふと視界に入ったブルーとイエローは、呑気に談話していた。
動けないのは仕方ないにしても、せめてアドバイザーとして働きなさいよ!!
(腕の感覚がもう…)
痺れを通り越して、腕が無くなったと言った方が適切かな。
顎を守るために両腕を交差させてはいた。
だけど彼らはその隙間を狙い、何発かは胸部アーマーを振動させた。
「だったら---」
「こうしちゃえ♪」
オルトロスギルディは地面に両手を叩きつける。
その瞬間、地面が揺れた。
通常よりも重力に影響を受ける私には、十分に威力を発揮する。
私は続く揺れに耐えきれず、地面に両手を着きそうになる。
だけど、彼らはそれを許してはくれなかった。
「にゃああぁぁッ!?」
地面から無数の蛇が出てきて、私の体を拘束する。
この蛇、どれだけ長いの?!
完全に私の身長、超えている気がする。
動きを封じることより、蛇のザラザラした感触が嫌なんだけれど…
(長いものに巻かれろとは言っても---)
蛇はやだ。
下手すると、トラウマになっちゃう。
しかも、何気に拘束の仕方が上手い。
そのせいで、まったく動けない。
「「フィナーレだ(よ)!!」」
オルトロスギルディの双頭を見れば、何かを溜め込んでいた。
その口に何かが漏れ出ると同時に、吐き出した。
その正体は、高密度にまで練られた
風を編んで作られた刃は、かなり鋭いだろうね。
---なんで、こう冷静になれるんだろうな…
「「グリーン!!」」
ブルーとイエローは声をかけるだけで、何もできなかった。
私はなす術もなく、鎌鼬に切り刻まれてしまった。
そう、思っていた。
鎌鼬が途中で進路を変えてしまったのだ。
「…はぇ?」
思わず私は気の抜けた声を上げてしまう。
鎌鼬は左に大きく逸れていく。
その先には、切れ目が存在している。
それも軽く浮いている感じで。
そして、鎌鼬は定められたかのように吸い込まれていく。
そこから生じた流れは、今までとは違うことを肌で感じた。
「乱気流… でもこれは…!?」
やたらめったらに吹いていたものではなく、常に一定方向に吹いている。
それに、過重力状態の私ですら引き寄せられるなんて…
これ、余計に跡が付きそうだよ。
でもその心配はなかった。
すぐに何かの力によって消されたからだ。
跡が残っていないか、体をくまなく確認する私に誰かが問いかける。
「はぁい、真打ちの登場や!!」
現れたのは、白いツインテイルズ。
いや、髪型はポニーテールにまとめられているから、厳密には違うな。
体のスタイルは、まぁまぁか。
胸に関しては、若干ブルーに勝っている。
伸長はテイルレッドより少し高め。
両腕には、大型のクローを装備している。
そのせいか、テイルブレスは見当たらない。
代わりに首輪みたいなものが取り付けられている。
その武器も、両腕を覆うように籠手のようなものから刃が出ている。
(これはツッコむべきか…?)
確か、
だからこそ、私は彼女の正体はすぐにわかった。
というか、最初の関西弁でわかっていたけれど。
「取り敢えず、ありがと」
「おおきに」
助けられたからには、真っ先に彼女に礼を言っておいた。
だけど、かなり気にしていた事があったから、私は彼女に耳打ちをする。
「(---で、何でここにいるのよ?)」
「(ええやん、別に)」
ええやん、で済む事じゃないと思うけど。
「感謝はするわ。けど、貴女が戦えるような相手じゃ---」
「黙っとけ」
私は彼女に非難するように説得を試みた。
けれど、その前に何かが鳩尾に入った。
入れられた感覚からして、おそらく左拳。
下からの突き上げだから、何かがこみ上げてきそうなほどの威力だった。
(ま、待ちなさいよ…)
勝手に進んでいく彼女を止めようとした。
けれど膝を付き、地面に倒れこんでしまった私ではどうにもできなかった。
彼女の後ろ姿を見ながら、私は戦闘による疲労と鈍痛に耐えるだけ。
徐々に視界が狭くなっていく。
もう、意識が保てないな---
☆☆☆
テイルグリーンが意識を手放した事を脇目で確認した。
乱入者は再び専用武器"ディメンション・クロー"を装着する。
「…何者だ?」
オルトロスギルディの片側が彼女に問い掛ける。
テイルグリーンが手負いの状態だったことを差し引いても、彼女をダウンさせた威力は脅威だ。
先ほどの亀裂も、恐らく彼女が作り出したのだろう。
彼女には、不明点が多すぎる。
それだけでも、エレメリアンを畏怖させるに足るものだ。
「ウチは、テイルホワイトや」
単調に答える。
クローを合わせ、削ぎながらで。
既に彼女は戦闘体制に入っている、ということか。
「気持ち悪いわね…」
「先手必勝!!」
女性の頭が感想を呟く。
それに対し、男性は攻撃を仕掛ける。
先程打ち消された鎌鼬。
テイルホワイトはこれをどう凌ぐか、試そうとしたのだ。
ホワイトは右腕のクローを前面に空を斬るだけだ。
期待外れだったか---
だが、その直後異変は起こった。
ホワイトの前に、3本の鋭い爪跡ができる。
そこには再びあの妙な空気の流れを生み出し、騒がせる。
(あら…)
(やはりか)
吐き出された鎌鼬は、その流れに遊ばれ、爪跡の中へ消えていく。
テイルグリーンを狙うはずだった攻撃が殺がれた原因は、あの両爪にある。
オルトロスギルディは、そう結論づける。
「だが、この暴風吹き荒れる中では容易に動けまい」
「
接近戦ではこちらが有利だと判断し、すぐさま戦闘スタイルを変更する。
拳を握りしめ、足元の地面を踏み砕いた。
それは、爆発的な加速を生み出した証である。
常人にはもはや、オルトロスギルディの姿は見えてはいないはずである。
「スマンなぁ---」
テイルホワイトは冷静だ。
直接的な攻撃とはいえ、高速過ぎて見えないオルトロスギルディに対して。
彼女はその小柄な体を低くさせる。
頭が下がる、そのすぐ後にオルトロスギルディの拳が通り過ぎる。
すれ違いざまに、ホワイトはクローを縦に構え、彼らのお腹を切り裂いた。
「ワザワザ教えてもろうて」
オルトロスギルディに苦悶が窺える。
見れば、強固な体を深く削られていた。
振り向き様に彼らは回し蹴りを仕掛けるも、クローに備え付けられた大きめの籠手に遮られてしまう。
足を戻すと同時に、両腕をフルに行使して殴りかかる。
しかしホワイトは、両腕の籠手を体の前で縦にガードする。
先程グリーンもこのように防戦に応じたが、彼女とは明らかに異なる点がある。
グリーンは両腕を交差させて、防御姿勢を取っていた。
これは腕を交差させた部分は2重の壁となるため、防御力は高い。
しかしこの方法では、交差した際に『隙間』が生じる。
グリーンが少なからずダメージを受けたのは、この欠点にある。
(まるで手応えがない)
(この子、何処で戦いを学んだのかしら)
打てどまるで響かぬ鉄壁に、オルトロスギルディは素で評価を上げた。
両腕の籠手を平行に構えた防御姿勢は、一点の防御強化がない。
その代わりに、前面に拡がる攻撃に対して多大なアドバンテージを得る。
グリーンの防御を『点』と例えるならば、ホワイトは『面』。
(耐えて耐えて、耐え抜くんや!!)
だからこそ、彼女は耐久性に優れているのだ。
しかし、辛抱強く待っていたが我慢できなかったようである。
気迫を出し、ホワイトはオルトロスギルディごと周りを吹き飛ばした。
彼らが地面に着地した時、彼女は好機を得る。
「捕えたで」
瞬間、オルトロスギルディの周りに無数の切れ目が出現する。
それは密度の高い乱気流を生み出し、結果的に相手を拘束した。
「
彼女の籠手は展開を始め、間から凄まじいブーストを生み出した。
そしてホワイトが跳躍した。
「って、あれ…?」
「どれが本物だ!?」
空中で幾つもの分身を生み出し、オルトロスギルディに向かって行く。
そして、すれ違いざまに両腕に備え付けられたクローにて、無慈悲に切り裂く。
それはある意味、数の暴力とも言える光景でしかない。
「"シュレーディング・ストライク"」
何故そのような名前となったか。
その真意は、あの攻撃にある。
分身を生み出した際、本体を含めてその中には実体を持つ者と、そうでない者がいた。
すれ違う際、どの分身体が彼らを切り裂くのかは知らない。
オルトロスギルディはおろか、ホワイトでさえも、だ。
切り裂かれるか、ただ通り抜けるか。
その選択肢は決して交わることは、本来ない。
しかし、この必殺技はこの矛盾に当てはまる。
両者の結果を交えた、矛盾の攻撃。
それは"シュレーディンガーの猫"と類似するのかもしれない。
だから彼女は、あえてこの名前を付けたのだろう。
「見事…!」
「完敗、ね」
無数の切り傷を付けられたオルトロスギルディは、ただ一言称賛した。
その後爆発し、スタジアム内に荒れる暴風も収まった。
ホワイトは
後はグリーンを連れて帰るだけ、だったのだが---
「待ちなさいよ」
「---何や?」
途中、テイルブルーに呼び止められた。
仕事を終えたホワイトにとって、これは機嫌が悪い。
彼女の応答は、何処かぶっきらぼうに見える。
「あんたたち、結局何なの?」
それはツインテイルズの味方か敵か、それを明確にしたいのだろう。
アルティメギルに楯突きながらも、ツインテイルズとは一線を引く存在。
どっち付かずの状態だからこそ、彼女は問い掛けたのかもしれない。
「競争相手、やな」
そう言い残すと、グリーンを肩に乗せる。
抱える方とは反対側のクローで切れ目を作り出すと、その中へ消えていった。
「途方もない強さ… 油断は出来ませんわ」
ようやく起き上がったイエローは、そう洩らす。
確かに、彼女達に対して油断はできない。
だがこれ以上、ツインテイルズの邪魔をするなら、容赦しない。
ブルーは沸き上がる苛立ちを、抑えきれなかった。
実はこのタイトル、テイルホワイトの「クロー」と「苦労」を掛けたものなんです。
いい加減テンポよく行きたい…