『---あっ、たった今スタジアム全体を覆っていた、謎の嵐が止みました!!』
ツインテイルズが戦っていた間、マスコミは黙ってはいなかった。
民衆が求める、新たなテイルレッドの雄姿を撮りたい。
そのために、エレメリアン出現の情報が入ると同時に多数のマスコミは出動した。
『約20分前、突然の嵐によって、スタジアムが覆われてしまいましたが…』
しかし、オルトロスギルディの能力によって、マスコミはそれ以上近づくことはできなかった。
勿論、それで大人しく引き下がる彼らではない。
直ちにスタジアムの責任者を訪ね、スタジアム内に設置されたカメラの映像を通すよう、要求した。
スタジアム内には、監視用のカメラが複数設置されている。
もしかしたら、それでツインテイルズの戦いが見られるかもしれない。
彼ら報道者は、僅かな望みを賭けた。
『どうやら決着がついたようです。はたして、軍配はどちらに---』
だが、その望みははかなく散った。
オルトロスギルディが放つ暴風は、電子機械類でさえ機能を失わせるほどの威力であった。
つまり、マスコミ及び視聴者はスタジアム内の出来事を誰も知ることはできなかったのだ。
『ええっ!? スタジアムが、ボロボロに…』
オルトロスギルディが倒れたことにより、暴風の威力は減衰した。
やがて遮るものがなくなり、中の様子を窺うことができるようになった。
しかしそこにあったのは、瓦礫の山である。
エレメリアンとツインテイルズの激しい戦闘の余波に、スタジアムが耐えきれなかったのだ。
『こんちくしょー! あの
『ぉ、落ち着いてくださいまし、ブルー!?』
その中心にて、ツインテイルズを捕捉した。
ブルーは何故か周りの瓦礫に攻撃しており、イエローがそれをなだめていたところである。
『これは… ツインテイルズがスタジアムを破壊したのでしょうか?』
ブルーが地団駄を踏む度に、脆いスタジアムはさらに崩壊を誘発させる。
これでは、そう認識されたとしても仕方ない。
『お止めください、ブルーッ!?』
イエローの叫びが、廃墟と化したスタジアムに響いたのであった。
☆☆☆
「……」
これが、テレビで放送されたツインテイルズの姿だ。
正直、逃げ出したい。
「更にツインテイルズの評価を下げて、どうするんだよ!?」
俺の怒鳴り声に、愛香は萎縮する。
「エレメリアンを倒すだけに、ここまで周りを破壊しなきゃならないのかよ…」
あぁ、頭痛がしてきた。
やっぱり、俺がついておくべきだったか。
「取り敢えず、事情は説明してくださいよ」
ずっとモニター画面から目線を離さずにいたトゥアールが、椅子に座ったまま愛香達に向いた。
そうだ、俺達はあの戦いを直接は見ていない。
「愛香さん達を現場に送った直後から、謎の嵐で何も見えなかったんですから」
嵐がスタジアム全体を覆う前、あの場にいたエレメリアンは1体だけだった。
あれはケルベロスギルティによく似ていた。
だけど役者がそろったと思ったのか、その後の入場を断った。
あの嵐は全ての電子機械を麻痺させ、昨日を失わせた。
地球のものはおろか、トゥアールの衛星『ようじょ』ですらだ。
「結論から言わせてもらいますが---」
今まで口を閉ざしていた慧理那が開いた。
そこまで言いたくはない内容なのか…?
「止めを刺したのは、私達ではありませんわ」
「でしょうね」
「ひぅっ!?」
折角、覚悟を決めて話してくれたのにそんなあっさりと!?
あぁ、慧理那の顔に涙が…
「愛香さん、及び慧理那さんのテイルブレスからは、新たな
…確かにな。
俺もそんな予感はしていた。
彼女達が帰ってきた時、何故か落ち込んでいたのだから。
いつもなら、愛香が自分の活躍を話してくるし。
「エレメリアンが自ら引いてくれたか、もしくは---」
桜川先生は慧理那を慰めつつも、俺達の会話を聞き逃さずにいた。
あぁ、考えたくはないが…
(俺達でない誰かが倒した。その2択だ)
ただでさえテイルグリーンという、面倒な戦士が出てきたのに。
しかも、始めて会った時点で俺達を圧倒している。
それはライオギルディとの一戦で、嫌というほど思い知らされた。
「全部は覚えていないから、ザックリと話すわ」
あのスタジアム内で何が起こったのか。
そして、その結末は。
何故あれ程までにブルーが怒り狂う必要があったか。
それが今、愛香の口から明かされる---
「面倒ですね、これは」
「更なるポニーテールの戦士、か…」
白き戦士・テイルホワイト。
両手にクローを着け、空間を切り裂く。
「あの動き、何か葡萄を極めたみたいね」
「武道、な。俺としては、見ていない以上何も言えないが」
確かテイルグリーンは、重さに関係する能力を使っていた。
とてもじゃないが、そんな奴らと戦う力はない。
「おまけに、
「まぁ、実質倒したのは彼女なので何とも言えませんわ」
しかもエレメリアン---オルトロスギルディを倒す前に、テイルグリーンを一撃で黙らせた。
その力は計り知れない。
「今後出会わないことを願いますわ」
両手を胸の前で組み、修道女のようにひたすら天に願っていた。
今回の戦いは、多少なりともあい愛香やエリナに傷心を得てしまったか。
「大体、総二が加わっていたら速攻で終わったかもしれないのよ!?」
「あの時は、唯乃の相手で手一杯で---」
「何なの? 私達よりあの子が大切ってわけ。総二の『彼女』だから?」
確かに、俺は戦闘に参加できなかった。
だがそれは、危険性を兼ねていたからな。
(唯乃の行動は自然なように見えるが…)
端から見れば、俺と唯乃は『デート』しているように思えただろう。
また周囲にそう思わせるために、彼女はかなり無茶な役作りをしていた。
だが、俺が気にしていたことはそれじゃない。
(明らかに不自然だった)
俺は彼女の狙いが何か、途中まで解らなかった。
でもそれは、俺に対する脅迫でもある。
愛香にしてみれば、役目を放棄したと見えたのだろう。
(今は、彼女を刺激してはいけない)
あれは、俺なりの闘い方なんだ。
今は解ってくれなくても良い。
だけどいつかは、皆に伝えなきゃいけないかもしれない。
今、俺ができる事と言えば---
「あぁ。だからこそ、俺は『彼女』を守ることを優先した」
もしかしたら、ツインテイルズへの裏切りかな。
それだけじゃない、俺自身のツインテールでさえも。
だけど、これが今の、俺なりの戦い方だ。
☆☆☆
「随分とお楽しみやったな」
「おぅよ」
伊織達の基地にて。
リンは戻ってきた唯乃に対して、冷たい目を向けた。
「おろ? 伊織がいねぇな」
「伊織やったら、医務室や」
テイルホワイトに受けた傷が止めとなり、彼女は意識を失ったままだ。
それ以前に、オルトロスギルディから無数の攻撃をプレゼントされたので、絶対安静は必要であるが…
「しっかし、また大層なエレメリアンを葬ったな」
唯乃がリンを褒め称えるも、彼女は何も言わない。
その代わりに、椅子の背もたれに体を預けて仰け反る。
リンの素っ気ない態度に、唯乃は鼻を鳴らした。
「まぁ、まだ旅の途中だ。今を謳歌しておけ」
そう言い残し、唯乃は
恐らく、伊織の様子を窺うためであろう。
そして残されたのは、未だ気力のないリンのみとなった。
「はぁ~しんど……」
☆☆☆
医務室。
その中に備えられたベッドに、伊織は横たわっている。
いや、アーマーを取り外され今はアンダースーツを装着しているので、テイルグリーンと称した方が適任か。
彼女は未だ意識が回復しておらず、眠り続けている。
(やはり、素質はあったか…)
唯乃はベッドの側にある椅子に座る。
そして、総二とのデートで買ったものを棚に置いた。
それは自分用とは違う、誰かに渡すと言っていたものだ。
「すぅ… すぅ…」
僅かに寝息を立てるグリーン。
その寝顔は、中々に美しい。
(テイルレッド、アイツの力は到底無視できねぇ。下手すると、アルティメギル首領をも上回るかもな)
それが不安要素である。
強大な力は、同時に多大なリスクを背負うことになる。
これ以上レッドが活躍すれば、アルティメギルの思惑通りである。
だからこそ、ストッパーの育成が必要なのだ。
また1つ、世界が終わらないように…
そして、次なる孤高の戦士を生み出さないためにも。
☆☆☆
(…チッ)
リンはずっと起きていた。
確かに「しんどい」と弱音は吐いた。
だがそれでも、彼女は体を酷使しなければならない。
(ここは何時からブラック企業になったんや!?)
今回の戦闘は、様々な視点から多くの課題点を露出させた。
第一に『テイルホワイト』のテイルギアの出力の不安定化。
第二に『テイルグリーン』のアーマーの修復、及び強化。
そして第三。
『TYPE-P』の再起動の時期を前倒しにすること。
「バックアップがあるって言っても、限度があるわ…」
これらを全て一人でこなすのは、困難だとわかりきったはず。
だがそれでも、彼女は目の前の事実からは目を離さない。
「文句は、後や」
『テイルホワイト』。
あれ程の圧倒的な力を持ちながら、何故課題点とされたか。
それは、あの強大さ自身にある。
ただ、力が強ければ良いというものではない。
あの時、既にリンはテイルギアを制御できたとあの場にいた誰もが思えよう。
しかし、あの状態では半分暴走していたのだ。
それは一歩踏み外せば奈落の底に落ちる、命綱なしでの綱渡り状態。
結果的には、『使いこなせていない』のだ。
「ツインテイルズを倒せるのは---」
『テイルグリーン』。
2学期からずっと、彼女は一人で戦ってきた。
そのツケが、今ようやく回ってきたのだ。
戦闘の度に、アーマーは激しく損壊していた。
それは、アルティメギルとの戦いの激化の現れでもあった。
彼女はよく、ここまで戦ってくれた---
などと、誰もは言ってはくれない。
一般人はおろか、エレメリアンやツインテイルズさえ、味方として見てはくれない。
それ程の悲しい世界に、彼女を投げ込んでいたのか。
「ウチらしか、おらんのや」
『TYPE-P』。
元は誰が開発したのか、彼女は知らないと言った。
しかしその頬には一筋の汗が伝っていたことから、嘘をついているのは明白だ。
兎も角、あれはあれで中々の暴れ馬でもある。
あのレリーフは長く安定化することもあれば、逆にすぐ効果が切れる場合もある。
(せやけど、ウチに休みはあるんかいな?)
課題が山積みの中、リンは答えの返ってこない質問をふと心の中で呟いていた。
☆☆☆
「---んっ」
目を開けてみると、知らない天井があった。
いや~、こういうベタなことってあるもんだな。
…あれ?
私、何してたんだっけ。
確か、リンに無理矢理出撃されて。
エレメリアン---オルトロスギルディと激戦することになって。
それで、リンによく似たツインテイルズに気絶させられて---
「あんのッ---」
徐々に記憶が取り戻せたと同時に怒りが込み上げてきた。
なので、体を動かそうとした。
けれど強烈な痛みが全身を伝った。
あまりに耐えきれず、私は体を戻した。
(き、筋肉痛よりも酷いや…)
もしかすると、急に動かそうとしたせいかもしれない。
仕方ない、大人しくするか。
「ん?」
体は動かせなくとも、頭だけなら何とかなる。
兎に角、ここは何処か確認した。
ここは… 医務室じゃない!?
ぁ、でも私の様な重傷者なら、いて当然か。
むしろ気になったことが1つ。
(これは、袋…?)
随分と可愛らしくラッピングされている。
それは良いけれど、少し大きめね。
お菓子系、ではなさそう…
これがここにある、ということは開けても良いのよね?
「ん~… 開けちゃえ!!」
その袋を思いっ切り開けてみた。
縫いぐるみかな、と思っていたけれど、違った。
まぁ、感触としては当たらずも遠からずだけどね。
「これって、鍋つかみ…?」
ミトンの形をした鍋つかみが、そのラッピング袋に入っていた。
テイルグリーンのカラーリングに合わせたのか、その色は鮮やかな緑色である。
それに、アクセントとして花が散らばっている。
(桜、なのかな?)
しかし、デザインが中途半端だ。
おかげで、何の花なのかサッパリ分からない。
それに、誰がこれを---
「ぁ」
よくよく思い返せば、家にある私の鍋つかみはもうボロボロのはず。
夕飯時にグラタンを取り出す際にも、結構苦労したっけ。
(もしかしたら、これを渡したのは---)
何にしても、これは私へのプレゼントだ。
大切に使わなきゃ♪