「~♪」
この鍋つかみを使ってから、料理が更に楽しくなった。
もう、熱さも我慢せずに物を掴めるのは、本当にありがたい。
(今日は給料日だったし、奮発しちゃおう)
メニューはありきたりだけれど、きっと喜んでくれるはず。
(それにしても、唯乃は何処に行ったのかな?)
そろそろ晩御飯ができるのに…
☆☆☆
「…何?」
アドレシェンツァにて。
俺はトゥアールから、緊急コールを受けた。
またエレメリアンが来たのか?!
ただでさえ、ブルーとイエローが負傷してるって時に…!
「クソッ、場所はどこだ!?」
『落ち着いてください、総二様』
落ち着けるかっ!!
今戦えるのは、俺しかいない。
これ以上、戦火は拡がらせない!!
『今回緊急コールを送ったのは、総二様のみです』
「…だろうな」
『それに、これはエレメリアン出現ではありません』
…?
どういうことだ。
エレメリアンでないなら、何故こんな回りくどい手段を…?
『私はいつもの場所にいます。そこで会いましょう』
そう言い残し、通信は切断された。
「---トゥアール。これは一体?」
「私にも、何がなんだか…」
トゥアールの指示に従い、俺はツインテイルズ基地に来た。
そして彼女は
だが、その向こうに映ったモニターに、俺は混乱させられた。
「1時間前、
「その結果がこれか…」
モニターに映し出されたのは、まさに地獄絵図そのものだった。
とは言えど、その戦場は上空なので直接的被害は無い。
だが、それ以外はどうだ…?
「場所は九州・種子島上空。幸いにも森林エリア内なので、人的被害は最小限になるかと」
そうじゃない。
俺が気にしているのは、そうじゃないんだ。
なんだよ、アレハ---!!
☆☆☆
「ウチが気にしてへんとでも、思ったか!!」
「俺様が何処にいようが、俺様の自由さ!!」
上空は、灼熱の嵐である。
その中で激しく動く、2つの光があった。
「まだ完璧やないねんて!!」
一方は空間を切り裂く戦士、テイルホワイト。
彼女の周囲を操作し、彼女自身を浮かせている。
その彼女は、誰かを止めようとしていた。
「俺様は一刻も早く、アイツと会わなきゃならねぇ!!」
もう一方は紫に染まりし灼熱の戦士、テイルギア・TYPE-P。
面倒なので、以降は元の通り名である『唯乃』とする。
リンにはもう任せられないと、彼女は感じたのか。
自身の力を通常以上に高めている。
「テイルレッド… アイツのツインテールが本物なのか、俺様自身で確かめる!!」
「その前に、病院送りやな」
両爪と銃剣、二つの刃が交わる。
その衝撃波は、再び種子島の空気を震わせる。
☆☆☆
「総二様…」
あの赤いポニーテール…
覚悟もそうだが、彼女のポニーテールもタダモノじゃない。
あれはポニーテール極めた者にしか出せない輝きを持っている。
それに対して、あの白いポニーテールはどうだ?
赤のポニーテールと同等の輝きを持ってはいるが、何処か後ろめたさがある様に見えるのは気のせいか?
(まるで、出逢い始めた頃の、慧理那の様な…)
慧理那---イエローの時は出力がガタ落ちしていた。
だけれども、それでいてあの強さは何だ。
テイルホワイト、彼女の力は弱まるどころか更に強くなる一方だ。
明らかに矛盾している。
「どうする…!?」
決断は、俺に委ねられている。
拳に自然と力が入っていた。
このまま静観するか、乱入して決闘を止めるか。
☆☆☆
「ここまで拮抗するなんてよぉ… アンタ、何者だ?」
「頼むから、大人しく戻ってや」
ここにきてもなお、頑としてその姿勢を崩さないホワイト。
差し詰め、脱走した患者を連れ戻しに来た医者、とでも表現するのが適切か。
刃を交わした数は知れず、時間もどれ程経ったのかは知らない。
ただ朝日が昇ってきたのを見るに、軽く8時間以上は経過したはず。
(そういや、
唯乃は更なる疑問を、彼女に抱いていた。
異常なまでに、テイルギアと適応力を増していく
自身のレリーフの調整はおろか、新たなテイルギアの作製、果てには装着者となった
何故今まで、彼女達に疑問の欠片1つ浮かばなかったのだ?
「お縄頂戴いたす!」
思考は刹那的なものだが、ホワイトには十分な隙となった。
攻撃を仕掛けないと判明後、すぐさま彼女の周囲に空間の裂け目を形成する。
彼女は鳥籠に閉じ込められたのだ。
「だぁ~、やっと…」
彼女は既に肩で息をしていた。
テイルギアの加護があるとはいえ、ここまで苦戦を強いられるとは…
だが、僅かな安堵すら彼女には与えさせなかった。
「俺様は自由が好きなんでな」
一体、どんな
気が付けば、フェニックスは空間の鳥籠を脱け出していた。
フェニックスラッシューターの銃口をホワイトに向けて。
(不味いで…)
もうホワイトには、回避できるだけの余力はない。
ならば、大人しく受けるか…?
「あばよ」
引き金は引かれた。
エレメリアンの状態よりも強化された熱戦は、真っ直ぐにホワイトへと向かう。
だが、それは急に方向を変えた。
「相変わらずのチートっぷりだな」
「ぶっ飛び設定のアンタには、絶対言われたくないわ!?」
彼女の真上に空間の裂け目が、既に形成されていた。
フェニックスラッシューターの熱線は、そこへ吸い込まれたのである。
これは、テイルグリーンの重力操作と同等の威力。
ホワイトも、彼女がいつ引き金を引くか、内心ヒヤヒヤしている。
会話は、ここでしばらく途切れた状態となる。
「---ッは」
長きに渡る沈黙の末、破ったのはフェニックスである。
何かの覚悟を決めたかのように引き締まった顔で、真っ直ぐにホワイトを捉える。
「やっぱり、俺様は『組織』ってのには馴染むモノじゃねぇ」
「なんやて…!?」
それは彼女達との決裂を決定させることを意味していた。
「こっからは、俺様のターンだ!!」
唯乃はフェニックスラッシュ―ターを乱射しながら、接近戦へと持ち掛ける。
ホワイトも行動に移ろうとするも、狙いがワザと外れた攻撃では下手に流れ弾に当たる危険性がある。
だが、接近戦へと持ち込ませないために、彼女の周りに裂け目を展開させる。
「そんなもの、俺様に通用すると本気で思ったか!?」
唯乃は自身の体を
そして、迷いなく蹴りを入れ込んだ。
「フェニックス・バーニングキッ---ク!!」
一直線でありながら、その威力はテイルイエローの"ヴォルティック・ジャッジメント"を遥かに上回る。
これをまともに受ければ、ホワイトとてひとたまりもない。
その焔の蹴りは、確実に彼女を捉えたはず。
しかし唯乃が感じたのは、異様なまでに脆く形成された裂け目を破壊したことのみ。
「---やられたか」
次の瞬間、彼女の体に無数の切り裂き跡ができた。
否、切り裂かれたのだ。
テイルホワイトは、ただ防御のために裂け目を形成したわけではなかった。
裂け目の向こう側から、連続で攻撃を繰り出しただけの話。
言葉にするならば容易ではあるが、ホワイトのテイルギアを網羅したリンだからこそできる芸当である。
「たまらねぇぜ。俺様と互角に戦える奴が、まだいたとはな」
「アンタには、退屈しのぎとしか見えへんけれど?」
テイルホワイトは、唯乃から十分に距離を離した裂け目から出現した。
その顔には呆れとも、安堵とも窺える。
いずれにせよ、唯乃を止めなければ被害は更に拡大する危険性が増す。
「さぁ、第2ラウンドの幕開けだ」
(えぇ…)
唯乃は満面の笑みを浮かべながら、えげつない展開に持ち込んだ。
その強引さに、ホワイトは内心疲れていた。
(休ませてぇや…)
彼女の悲痛な心の叫びも虚しく、上空ではまた火花を散らすこととなる。
☆☆☆
「そーじ!!」
「観束君!?」
メインルームに愛香と慧理那が割り込んできた。
確か彼女達は、学校が休みだから基地に泊まったんだっけ。
「これって…」
「昨日からずっと、硬直状態です~…」
戦闘が開始してから、約10時間は経過したはずだ。
ずっと見ていたトゥアールも、流石に限界が来たらしい。
目にクマができており、彼女はかなり無理をしたらしい。
愛香に現状を伝えた後、前のめりに倒れてしまった。
「トゥアール、さん…?」
慧理那が彼女の体を揺するも、反応がない。
耳を傾けると、微かに寝息が聞こえる。
完全に夢の世界へ入ったのだろう。
「アイツ、あの時の…!」
「愛香、知ってるのか!?」
そばでモニターを見ていた愛香が驚愕した。
エレメリアンに対しても堂々とした態度で接してきただけに、俺には新鮮な反応である。
「そうよ、スタジアムで私の獲物を横取りした奴よ!!」
「横取りって…」
うん、愛香はやっぱり愛香だ。
「エレメリアン、許すまじ!」って感じだもんな、いつも。
「確か名前は---」
「テイルホワイト。そう名乗っていましたわ」
愛香が彼女の名前を出す前に、慧理那が答えてしまう。
そうだ、彼女もイエローとして会ったんだ。
「これはまたとないチャンスね。あたしが直接---」
愛香が転送装置へ歩こうとするも、足取りがおぼつかない。
俺はすかさず、彼女の体を支えた。
「愛香も慧理那も、まだ回復しきれていない。今は我慢するんだ」
「…」
俺の説得に、愛香は伏し目がちに頷く。
彼女が無言で俺に従うのは、何か考え事をしている。
(ここ最近、妙だ…)
俺は愛香の肩を抱え、医務室へ運び出す。
その間、今まで起きたことを思い返していた。
「ツインテールを守るだけじゃ、駄目なのか…!?」
「…」
愛香や慧理那に対して、俺ができるのはこれぐらいしかなかった。
あまりの無力さに、俺の心が押し潰されそうだ。
☆☆☆
「嘘っぱちの正義で、一体何が救えるんや!??」
「世界の片鱗すら知らねぇお前に、何ら言われる筋合いは無いな!!」
戦いの終焉は、いつ来るのか?
戦場は種子島本土へと場所を変え、未だ終わらぬ戦いを継続していた。
「…まさか、一人で全て片付ける気やないやろな?」
「反逆者ってのは、半端な覚悟でなったもんじゃねぇ!!」
クローとフェニックスラッシューター、2つの刃を交えつつ、会話を続ける唯乃とテイルホワイト。
「それにしても、お前---」
唯乃は、テイルホワイト---
「自分の
「!!」
何かを見透かされた。
それだけで、今までの彼女の余裕は全て破壊された。
"
「関係ないやろ」
無限の幻影を作りだし、全て唯乃へと牙を向ける。
「最初から仲間になる気のない、アンタにはな---!!」
無数のホワイトが、唯乃へと襲い掛かる。
これで、3度目の
いよいよもって、退き際が難しくなった。
このままでは、ジリ貧は必須。
(もうやけっぱちや!!)
死なば諸共、彼女は死を覚悟した。
無限の幻影は彼女を纏い、一つの塊として唯乃に叩き付ける。
「凄まじいなぁ、ここまで連れてきたかいがあったもんだ---」
その先は言わせない。
危険だと判断すれば、仲間だろうと倒す!!
その意志は、確実に唯乃を捉えていた。
「なるほど。幻影は幻影、か…」
後ろでは、ホワイトの背中を殴っていた。
そして、そのまま力任せにぶん殴る。
"
地面に跡を残しながらも、彼女はただ従うしかない。
「クハハッ、良いぜ。もっと
(やっぱエレメリアンやからか、恐ろしいわ)
体をふらめつかせながらも、唯乃は立ち上がる。
あまりのタフさに、ホワイトは警戒を強化する。
「だが、俺様の体はボロボロだ。後は頼むぜ」
唯乃は腰に装填された翼を広げる。
翼の先端から、重力玉とは異なる黒玉を形成する。
すると、戦場全体から気味悪い泥人形のようなものが、地中から出現した。
「
「ソイツらと遊んでなっ!!」
姿は
エレメリアン程の脅威はないが、数が圧倒的なために時間は幾分かかる。
偽者を打ち倒すホワイトだが、唯乃の追跡は断念せざるを得なかった。