「えっ、リンもですか?!」
『えぇ、そうなのよ』
結局、翌日になっても唯乃は帰宅することはなかった。
流石に心配になったので、リンに聞こうと思った。
彼女、唯乃について絶対心当たりがあるはずよね。
でも、リンは携帯に出なかった。
妙だと思い、今度はリンの家---雨宮家に連絡してみた。
『夜になって、急に友達から誘いの連絡が入ったらしいのよ』
「はぁ…」
そして今、リンの母親から事情を伺っているわけ。
まさか、親にすら詳しい説明をしていないなんて…
『私もちょうど、伊織さんに連絡しようと思っていたところなのよ。ありがとうね』
「いえ、こちらこそ」
丁寧な挨拶に、こちらも相応の対応をする。
…初めて会ったときから、片隅に感じていたことがある。
何でリン以外、関西弁じゃないの?
(こっちでの生活に対応するため、なのかな?)
なら、なんでリンは関西弁を使い続けているんだろう。
---今、考える事じゃないよね。
(リンが寄りそうなところと言えば---)
彼女の手で一から造り上げた基地、そこしかない。
時間はかかるけど、行くか。
「ちょっと、どうしたのよそれ!?」
私達の基地にて。
到着した私を出迎えてくれたのは、リンだった。
でも、損傷が凄まじい。
装甲は全て剥がれ落ち、アンダースーツは汚れていた。
壁にもたれ、彼女は座り込んでいる。
「しっかりして!!」
リンの側まで急いで近寄り、彼女の頬を何度も叩いた。
だけど目は虚ろで、呻き声しか聞こえない。
一体、何があったのよ?!
(そうだ。確か、データバンクがあったはず---)
リンの側から離れ、私はモニターを操作する。
いくら機械の操作が苦手でも、ゆっくりやればできる。
たどたどしくキータッチしながら、目的のファイルを見つけ出した。
(…あれ?)
画面左端には、
それ以外、は発生時の現場を中継していた。
「(唯乃…)」
点は1つ。
その現場では、よく知っている者がいた。
だけど、後ろ姿しか見えない。
だからどの様な表情をしているのか、私ではわからない。
『唯乃!?』
そこにもう1つ、反応が。
声からしても、リン---テイルホワイトなのは明白だ。
既に得物を装備している。
どうやら説得しようと来たみたいだけど、どうもそんな雰囲気ではない。
結局、説得は失敗。
互いの意地を賭けた、死闘が始まってしまう。
ここまで一気に観たので、休憩も兼ねて一時停止する。
そこで気付いた事が1つ。
(げっ、丸一日かかったの…?!)
どんだけ長丁場な戦いなのよ…
流石に全部は観れないので、戦況に変化が出るまではスキップ×2。
あの2人、凄いとは思っていたけれど、とんだ底抜けね。
知らなかったとはいえ、彼女達にあんな態度をとっていた自分が末恐ろしい。
やがて視界は青色から、緑色や茶色へと変化する。
空中から地上へ、戦場を移したらしい。
『自分の
唯乃がそんな事を話すと、明らかにテイルホワイトの動きが変わった。
一気に終わらせるかのごとく、積極的に攻撃を仕掛けていく。
その力は、唯乃を凌駕していた。
止めを刺しに行こうとしたが、唯乃の能力(?)に阻められてしまう。
それは敵の
追いかけようにも、その偽者が道を阻む。
ホワイトが片付ける間にも、唯乃は戦場から距離を離していく。
そして、唯乃の反応が消えた。
(ど、どうしよう…!?)
内心慌てきっていたが、今ではどうしようもない。
唯乃の反応を探そうにも、この機械についてはほとんど操作方法がわからない。
今までリンに頼ってばかりだったからなぁ…
「うぅん…」
すっかり忘れておりました。
リンを介抱するのが先なのに、何で別の事やってたんだろう?
って、起きた!?
「ぁー… ウチ、何やっとった?」
頭をガシガシと掻きながら、起きた。
まだ焦点が合わないのか、全体的にぼへ~っとしていた。
少し間抜けに見えたけれど、可愛くも見える。
「(えっと、唯乃を見つけて。ほんで、ボッコボコにしたけど、尻尾巻いてトンズラしおって。それから---)」
順に記憶を思い返しているみたい。
今は、声をかけるのは止めておいた方が良いね。
普段でも、何かに集中している時に声をかけられると、
「黙っとれ!!」
と、一喝。
何故か、声をかける側が怒られる始末なんだよね。
別に悪いことをした覚えはないけれど…
「取り敢えず、休めば?」
先行き不透明感がありありだけど、休憩も大切だからね。
☆☆☆
アルティメギル前線基地にて。
会議室は、再び騒乱に包まれた。
「相変わらず、落ち着きがないな」
「いや、ウチが居るからやろ」
「考えれば、ここのメンバーと顔を合わせるのは初めてだったか」
3者3様に、何とも緊張感のない会話を続ける。
自席に居座るエレメリアン達に、冷徹な視線を送るダークグラスパー。
自分こそ騒動の元凶だと、自分に指差しするメガ・ネプチューンmk.Ⅱ。
顎に手を当て、冷静に状況把握する"怨み"。
今ここに最強クラスの戦士が現れて、動揺しない者はいない。
「これはこれは、ダークグラスパー様に"怨み"様。態々ここへお越しになるなど、忌々しき事態となったので?」
「いや、書類審査に飽きたのでな。戦況の確認も兼ねているがな」
スパロウギルディの挨拶に、久し振りの友達に話し掛ける様な気軽さで答えるユウ。
要は暇潰し。
そのような軽い気持ちで、この死地に来たのか。
「にしても、随分と淋しくなったものじゃ。何しろ、わらわ達を出迎える者すら居ないのじゃからな」
「皆忙しいんや、察したり」
ダークグラスパーも残存部隊に対して、かなり辛口コメントを寄せる。
その鋭い指摘に、皆は沈黙してしまう。
慌ててメガ・ネがフォローするも、皆の気持ちは容易に回復できるものではない。
「(僕がいない間の戦闘記録を)」
「(直ぐにご用意致します)」
スパロウギルディに手招きするユウ。
彼が近付くと、そっと耳打ちをする。
ユウは前線から引いてかなり時間が経ったはず。
またここで戦闘指揮を執る以上、情報を得ることは必然であった。
「僕は資料室に行くよ。適当に時間潰しておいて」
「わかった」
ダークグラスパーに言づけして、会議室を出る。
彼が去った後、新参者であるメガ・ネの周りにはエレメリアンが多数寄ってきた。
そんな彼女に嫉妬の眼を向けるダークグラスパーであったが、ユウが知ることはない。
「「……」」
ユウとスパロウギルディ、2体は微動だにせず。
ユウは、部下達が作成した報告書を全て通す。
スパロウギルディは、時々補足説明するために割り込むことはある。
だが、基本的には彼に介入はしなかった。
「---なるほど」
ようやく、ユウは報告書に目を通しきった。
流石に彼のブランクが長かったために、その枚数は膨大ではあった。
それを休憩なしに読み進めたので、目に疲れが出てきた。
「『テイルグリーン』が登場してから、明らかに状況に変化が起きているな」
目頭を押さえつつ、ユウは単調な回答をした。
単純明快、だからこそスパロウギルディは何も反論はしなかった。
(恐らく、
ここにはいない誰かに、ユウは文句をつける。
厳しい戦況の中、手持ちのカードはあと僅か。
もし1つでも間違えれば、総崩れとなる可能性が高い。
(それに、他の三神も騒がしくなってきた。僕の獲物を横取りされるかもしれないな。なら、すぐに始末するのが最善か)
彼の中に焦りが陰り始める。
「
「仰せのままに」
スパロウギルディに指示を送り、ユウは早々に資料室を出る。
その歩きは、自然と早くなる。
事態は大事に成りつつある。
だからこそ、速攻で終わらせる必要がある。
(何としても、シナリオは変えてはならない---)
「---で」
再び会議室。
だが、いつにない静寂が辺りを包む。
何しろ、エレメリアンが普段以上に居ないのだから。
ここには
そしてダークグラスパーとメガ・ネがいるだけ。
「何故、主催者がおらぬのだ?!」
「ぉ、落ち着いてよ、兄さん」
声を荒々しく挙げて、不満を撒き散らすは
そんな彼を落ち着かせるのは、その副官・スタッグギルディ。
彼等の苛立ちは、既に頂点に達していた。
「既に1時間も過ぎているのだぞ!? 一体何をしているかっ!!」
彼が気にしていたのは、"怨み"が未だにここへ着ていないことだ。
重要な会議とはいえ、ここまで待機されては待つ側が寂しくなる。
「確かに遅いのぅ。マイペースな性格ではあるがな」
「あぁ見えて、完璧者やないの? 案外、手こずってたりして…」
ダークグラスパー陣からも、とやかく声が上がる。
最初は談話して時間を潰していたが、話のネタも尽きた。
(早く溜めている恋愛マンガの続きが読みたいのだ---!!)
(僕はアニメがまだ…)
(テイルレッド… 妄想しただけでうずうずします)
(とっとと帰りたいわぁ)
それぞれの心境はこんなもの。
表ではアルティメギル幹部らしく振る舞ってはいるが、裏では個人の欲望が丸出し状態。
いや、これが普通か。
「遅れてスマヌ」
ようやく姿を現したユウ。
待たされた彼らは、彼に文句を言おうとした。
だが、脇に抱えられた物を見て、それは控えることにした。
妙に分厚いのだ。
まるで、コミケの戦利品を抱え込んだかのように。
(コミケの戦利品、にしては薄すぎるな…)
皆の視線を無視し、"怨み"は席に着く。
それと同時に、抱えていた物を取り出した。
「これは…?」
「資料だ」
ダークグラスパーの質問に、ユウは淡々と答える。
彼の指す『資料』の表紙には、何も書かれてはいない。
彼のミスか、それとも別の何か、か…
兎も角、中身を確認しないことには始まらない。
「では、会議を開いても…?」
「構いませんよ」
それを合図に、空気は緊迫したものへと変貌を遂げる---
☆☆☆
「どう、落ち着いた?」
「うぃ~…」
…だめじゃん、これ。
絶対、回復できてないよね。
「兎に角、じっとしてなさい!!」
「…」
めっ、と注意をすると、リンは頬を膨らませながらも了承はしてくれた。
普段からこう、素直だったら良いのに…
彼女の額に濡れタオルを置き、反応を窺う。
(あれだけ暴れば、当然の結果ね)
ため息をつく。
親に何も連絡をせず、全部一人で片付けようだなんて…
(何で私に相談しなかったのよ…)
すっかりぬるくなったタオルは、風呂桶に戻す。
何やらウニウニ言ってるリンを見てると、心配でたまらない。
どう表現すれば良いか、わからないけれど。
何となく、蚊帳の外に放り出された感じはする。
「(そんなに私、頼りなかったっけ?)」
そりゃあ、元エレメリアンの唯乃に比べれば弱っちいのはわかる。
だけれど、いやだからこそ、死に物狂いで努力した。
リンと唯乃の、地獄の特訓にも何とかついてきた。
エレメリアンだって、少ないけれど倒した実績はある。
戦闘ではズブのド素人だけれど、それなりの覚悟はあったんだよ…?
(あれ? 目が霞んできた…?)
もう視界がぐちゃぐちゃだ。
一体、どうしたんだろう、私!?
(---ッ!!)
もう訳がわからなくなった。
何かに駆られるように、私はリンがいる医務室を飛び出してしまう。
そして、医務室のドアが完全に閉まったことを確認すると、すぐそばの壁に寄り掛かる。
(私はまだまだ頼りないのかな…)
誰も慰めては、くれはしない。
焦燥感と無能感、様々な感情が入り雑じる。
私が私を超えるには、何が必要なのか。
その答えを得られるのは、もっと先なのかもしれない。
☆☆☆
会議も終盤。
彼の計画が全貌となった時、皆は驚愕した。
「正気か、貴様!?」
猛然と抗議するは、ビートルギルディ。
「もし我々がそれを実行に移せば、首領様に何をされるか…」
「わらわ達だけでなく、部下達も重い処罰が下されるぞ」
「…」
ダークグラスパーも、追撃を行う。
皆がその提案は控除すべきだと提案するも、彼はその姿勢を崩す事はない。
「ツインテールの
この発言に、皆の怒りは頂点へと達する。
「言わせておけば… コヤツを牢に入れよ!!」
その指示を皮切りに、エレメリアンが乱入する。
そして目立った抵抗もせずに、彼は捕らえられてしまった。
「フェンリルギルディ以上に、ツインテールを見下しておるな。ツインテイルズの真価を知らぬ者が軽々しい!!」
ダークグラスパーも、彼に落胆した。
頼もしいと感じていた彼が、まさかこの様な事を立案しようとは…
「まぁ、黙って見ておけ」
彼は呟く。
「僕の言った事は事実となる。そしていずれ、僕の力は必要となるのさ」
負け惜しみではなく、高笑い。
それは明らかに、彼らに対する軽蔑、そして挑発。
だがそれしかできなかった彼は、やがて会議室から追放されたのである。