Which do you love ?   作:ズケズケ

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Episode.55【ただ待つ、それだけ】

「唯乃、いないの?」

「俺も連絡はしたいんですが、手段が…」

 

やっぱり、彼女はいなかった。

わざわざ1年の階に降りてきたのに…

唯乃のの()()である、観束君に聞いてもわからないんじゃ、しょうがない。

 

「俺が、率先して捜さないといけないのに… すみません!!」

「気にしないで。唯乃は、私の友達でもあるの。一緒に頑張ろ」

 

観束君は、何度も感謝の言葉を述べながら私の手を握ってくれた。

その力の入れ具合から、本気で心配しているんだとわかった。

好きな髪型でなくても、彼女は大切にしているんだね。

 

「(おのれ観束…)」

「(美少女を自分の彼女としながら、また女子を手にかけるか)」

「(異端審査会を開く準備をしろ!!)」

 

彼の後ろで、私怨の炎を燃やしたクラスメイトがたむろしていた。

彼女を捜索する前に、身の危険を感知した方が良いね…

 

「それじゃ」

 

あえてそれを告げず、私は彼の教室を後にする。

その数秒後、凄まじい悲鳴と骨折り音が聞こえた。

けれど、無視無視。

 

(ゴメンね)

 

別に私が招いた事故じゃないけれど。

心の中では、謝っておくね。

 

(しっかし、本当に何処に消えたんだか…)

 

リンがある程度回復した後、基地の索敵システムをフルに活用しても彼女を見つけ出すことができなかった。

ツインテイルズのような認識攪乱装置(イマジンチャフ)を使用している可能性が高い、そうリンは結論づけた。

私達ではどうすることもできない。

ただ待つ、それだけだそうだ。

 

「どうしましょ…」

 

☆☆☆

 

アルティメギル基地。

その廊下にて。

 

「"怨み"は閉じ込めたであろうな?」

 

冷徹な視線を送るダークグラスパー。

上司ではなくなったとはいえ、その凄みは今だ顕在である。

 

「はっ。重罪犯罪者用の特別牢にて、幽閉いたしました。加えて手足に拘束錠を取り付けた故、容易に脱走するのは困難かと」

「十分じゃ。むしろ、この空間に駐在する戦艦の外へは出られまいて」

 

スパロウギルディの手配りに、彼女は感心した。

彼---"怨み"は昔から掴みどころのない奴であった。

用心し過ぎなくらいが、丁度いいのだ。

 

「して、ダークグラスパー様。次の作戦は以下の様に?」

「うむ…」

 

最近出撃したオルトロスギルディは戦死。

猛者であるライオギルディですら、ツインテイルズには苦戦を強いられている。

どのような作戦が、最も望ましい結果を得られるか。

思案を巡らせるも、なかなか思い浮かばない。

 

「待機だ」

「---は?」

 

思わぬ案に、スパロウギルディは面喰いする。

 

美の四心(ビー・テイフル・ハート)には、再び鍛錬を課す必要が生じた」

「ならば、侵攻はまた休止、という事で?」

 

その質問に、ただ首肯する。

 

「では後ほど」

 

スパロウギルディは、ここで席を外した。

廊下に(たたず)むは、ダークグラスパーただ一人。

空虚感を誤魔化すため、彼女は"怨み"から手渡された資料を取る。

 

「何を考えておったのじゃ、あやつは---」

 

今時、紙媒体とは珍しい。

資料の保存を考慮し、現在は一部を除いてほぼデータ化されている。

それに、何といっても手間がかかる。

 

(そこまでの苦労をしてまで、一体何を---)

 

総枚数は15ページ。

所々に画像やグラフが載せられてはいるが、ほぼ文章で埋め尽くされている。

彼女はその資料を、適当にしか目を通していなかった。

だから、彼の本心を捉えてはいない。

改めてその資料を確認する。

 

「---!?」

 

だが、その内容が全て判明すると、血相を変えた。

その様子から、ただ事ではないだろう。

ダークグラスパーは急遽、あの場所へ向かう。

 

☆☆☆

 

「その情報は信じられるのか?」

「出所は今だ不明ですが、裏付けもされてあります。信じても良いかと」

 

ここでも会議が開かれていた。

だが、この場にエレメリアンはいない。

全て人間で構成されている。

その誰もが軍服を纏い、厳格な雰囲気を醸し出す。

 

「ならば、我々もツインテイルズを生み出せるやもしれない、のか…」

「そんな上手い話があるか!?」

 

一角から、抗議の意見が出る。

 

「そんな事ができれば、合衆国や連邦が口を挟むぞ!? これは何かの罠だ!!」

 

その可能性は高い。

もしその情報を行使すれば、世界から逆賊と見なされるだろう。

いかに大国と言えど、それほどの力は持ち合わせてはいない。

 

「しかし、我々の利点を生かせます。それに、ワガママな子供を黙らせるのに調度良いかと」

 

その発言に、参加者は押し黙る。

確かに人口は多いが、この国の軍の練度は下がる一方にあった。

その原因が『ワガママな子供』にある。

親や親戚に甘やかされて育った子供は、非常に扱いが難しい。

軍に入隊を断る者さえ、出る始末となっている。

 

「つまり、これはエサとなるのか」

 

仮にこの情報を使い、ツインテイルズを量産できるのならば、強大なキャッチコピーを得られる。

それは実質的に、軍への入隊希望が増加する事に繋がるのではないのか?

安直な案ではあるが、有効な手段とも言える。

 

「しかし、これだけではどうしようもない」

「いえ、何とかなります」

 

ある軍人の秘書が、手を挙げる。

普段は答えても必要最低限にしか話さない彼女が、だ。

勿論、彼女に視線は集中する。

 

「日本に、この手の情報に詳しい人物がいます。その者を()()しましょう」

『(さらりと怖いことを言ってのけるな、この女…)』

 

軍人達は、身震いする。

我々は腹黒いと思っていたが、彼女の方が何倍も濃かった。

彼女は『招待』の言葉をしようしたが、意味合いは異なる。

 

「こちらには、幾つかの切り札(トランプ)があります。今ここで使わないわけにはいきません」

「むぅ…」

 

議長は、この提案にまだ決断を下そうとはしない。

あと一押しが必要である。

 

「まぁ良い。今すぐに決定する必要はない。この作戦を実行するならば、必ず成功させねばならない」

「では、解散!!」

 

これで道筋はハッキリした。

後は、その時まで入念に準備を進めるまで。

 

☆☆☆

 

(はぁ…)

 

雨宮家の屋根に、リンはいた。

今夜は満月のため、良く見ようと弟の一樹が誘ったのだ。

と言うか、服を引っ張られて無理矢理連れて来られた。

 

「月キレイだよ、姉ちゃん」

「…」

 

弟の呼び掛けにすら応じない姉。

これでは、会話になりはしない。

 

(どないしたんや、唯乃…?)

 

リンの頭の中は、行方不明となった友人の事で一杯である。

たとえ月を眺めようと、それが離れることはない。

なにしろ、あと一歩のところで逃してしまったのだから。

 

「なぁ、悩み事か? らしくねぇな」

「うっさいわ」

 

自身の責任だとわかりきっている。

だからこそ、苛立ちが常に湧きだってくる。

一輝の話にすら、耳を傾けようとはしない。

 

「そういや、前はフラフラの状態で帰ってきたよな? 喧嘩だよな、きっと…」

「…」

 

否定はしない。

人間とエレメリアン、やはり考え方に溝はできていた。

共感できると思えば、僅かなズレから衝突する。

人間同士でさえ、共存の道を歩めない場合も多々あった。

 

 

「なぁ、月って同じ面しか向いてくれないんだっけ」

 

きまずい雰囲気を変えるため、一輝は話を強引に元に戻した。

 

「姉ちゃんさぁ。友達の事、いつも『友人』って言っているよな。それじゃ、いつまでたっても距離は縮まらないぜ」

「何やと…?」

()()()()から帰ってきてから、何となく冷たかった。けれど、伊織さんと出会ってからそれが融けたと思っていたんだ。俺は嬉しかった。あの時の姉ちゃんの笑顔が見れたから」

 

確かにそうだ。

あの時は、自分から壁を作ることで身を守るしかなかった。

そうでしか、自衛する手段がなかった。

でも、伊織と出会った事で変化した。

 

「まだ姉ちゃんは、完全に心を開いていないと思う。だから、喧嘩したんだ」

「黙らんかい!!」

 

一輝の言葉を遮った。

わかりきったことを繰り返し言うな。

そんな風に、彼には見えた。

 

「ウチかて、後悔はしとる。どうもまだ、ウチの中には引っ込み思案な自分がおるようや」

「破ってしまえよ、そんなもん」

 

胸を強く掴み、しわを寄せて真剣に悩む彼女に、一輝はあっさりと答えを出す。

 

「自分の殻を破って、さらけ出せよ。月の様に表面しか出さない奴は八方美人になって、いつか皆人嫌われるのがオチさ」

「---!?」

 

今の自分、そのものではないか。

その事実に、ようやくリンは気付いた。

向こうが強情だと思っていたが、信念は曲げてはいなかった。

だが自分はどうだ?

理屈ばかり先走って、自分の事は後回しにしていた。

 

「…姉ちゃん??」

 

固まってしまった姉を、心配する一輝。

だが彼女の目は、自分の握り拳しか捉えていなかった。

 

「(せやな。いつまでもウジウジしとったらアカンわな)」

 

一輝には聞こえないように、小さな声で話す。

少なからず、答えは出たようだ。

 

「にへへ♪」

「わっ、姉ちゃん!?」

 

本当に一輝が弟で良かった。

そう思うと、頭を撫でずにはいられなかった。

急にそんな事をされた彼は、戸惑いを見せる。

 

「アンタ、もしかしたら将来モテるかもな」

「ええっ!?」

「冗談やて」

 

ナハハ、と軽快に笑い飛ばし、リンは屋根から降りた。

自分はからかわれたのか、とあきれ顔を見せる。

 

「姉ちゃん…」

 

少しは役に立てたのかな…?

そう思いつつ、彼は月を見る。

月は答えず、ただ彼を照らし続けるだけだった。

 

☆☆☆

 

「---少しの間、時間をくれ」

 

監獄の番人を務める戦闘員(アルティロイド)にそう願い下げ、ダークグラスパーは囚人牢に踏み込む。

そこから先は細かく区切られた牢が並ぶ。

そこには、囚人はいない。

以前は、牢にエレメリアンがいた。

だが、ダークグラスパーが処刑したのだ。

 

「静かなものじゃ」

 

空虚な通路を突き抜ける。

彼女の目的地は、この奥にある。

 

「無様じゃな、"怨み"」

 

彼女の呼び掛けにすら、彼は応じようとはしない。

両手足に枷を填められ、牢獄内すら自由には動けない。

生気すら感じられないが、目の妖しい輝きは今だにある。

 

「---何の、用だい?」

「知れた事を」

 

両者を隔てる檻が、鳴いている。

威圧感(プレッシャー)が空気を振るわせ、間接的に影響しているのだ。

 

「ポニーテールのツインテイルズ… 詳しく教えてもらおうか?」

「フ腐父布不ふ」

 

とうとう狂ったか。

今の彼には、回答できる状態ではない

ダークグラスパーは、そう判断した。

 

「ツインテイルズだけでは、首領殿の欲望は満たせない」

「何?」

 

"怨み"が口を開いた。

 

「ツインテールのみ追い掛ければ、それで十分じゃろう?」

「果たして、そうかな? ツインテールとポニーテールは両極の存在。競い会えば、より濃いツインテールを得られるのに…」

「その言い様。よほど首領様の事を知っているようじゃな」

 

"怨み"は立ち上がり、檻の前に近付く。

ダークグラスパーより身長の高い彼は、見下ろす形となる。

 

「自分の目で確かめろ。お前はおろか、テイルレッドすら()()勝てない。ポニーテールを(つかさど)る戦士はそこにいる」

 

柵を掴むその手は、微かに震えていた。

その眼に、嘘はない。

ダークグラスパーは退かず、受け止める。

 

「忠告として、受け取ろう」

 

静かに彼の前から姿を消す。

彼女の闇を作り出す能力で、転移したのだ。

"怨み"は再び、地面に腰を降ろす。

 

(引っ掻き回せ、世界を)

 

ただ座す。

ただ待つ。

 

(そして、運命を---)

 

チャンスを。

 

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