陽月学園高等部に唯乃が登校しなくなってから、ついに1週間が過ぎた。
外見上は平気な顔をしていても、心配でたまらない。
クラスメイトには、必死で明るいキャラクターを演じた。
でも、それでも限界がある。
『…』
ツインテール部室には、不穏な空気が立ち込めている。
誰もがこの空間に入れば、違和感に襲われる事は、想像に固くはない。
現に、桜川先生が入ると、華麗なズッコケを見せる。
「何だこの空気… まさか、恋患いかっ!?」
彼女なりの最上級のボケをかましたつもりだが、誰も突っ込みはしない。
本来ならば、トゥアールや津辺が対応策するはずだが、彼女達はいない。
代わりに、慧理那がわざわざお茶係をかって出ている。
「お嬢様、私が」
「いえ、わたくしにやらせてくださいまし。これも、修行になりますので」
エリナが自発的になったのは良いが、この状況はマイナスに振りかねない。
誰も説明はしてくれないために、桜川先生は
「(重苦しくてたまらんな。トゥアールと津辺は一体何処へ…?)」
周りの部員は皆、暗い雰囲気を出す。
後でお嬢様に聞くとしよう。
そう結論した桜川先生は、最優先として、部員の介抱に専念する事にした。
☆☆☆
「トゥアール…」
あれから、トゥアールの様子がおかしい。
まるで何かにとりつかれたかの様に、彼女は基地に泊まり込んでいた。
それもあの時から、ずっとだ。
津辺はそんな変わり果てた彼女を遠くから観察していた。
(最近、皆おかしすぎるわよ!?)
観束も伊織先輩もリン先輩も、誰もがおかしい。
観束もあれだけツインテール好きを豪語していながらも、まさかポニーテールの転入生を『彼女』にしてしまうなんて。
それでいて、彼もまんざらではない態度をとるようになった。
リン先輩は伊織先輩も、今まで通りに部活動に参加はしてはいるが、何処かよそよそしい。
伊織先輩は観束の彼女である唯乃の世話もしているから、単なる疲れだろうと思ってた。
でも、明らかにおかしいのは、リン先輩だ。
「(はい。こちらでは、特に問題は… はぁ!? 何故そのような事を!?)」
たまに誰もいない廊下に行くと、リン先輩が電話している光景に出くわした事がある。
だけれど、それは彼女でありながらそうでない、何とも奇妙なものだった。
普段使わない敬語を、電話越しの相手に使っていた。
(もしかしたら、唯乃が消えた事と何か関係があるんじゃ…?)
疑うのは、本来なら良くない。
だが、昔から怪しいところはあったのだ。
(ショートカットのリン先輩から、何故かポニーテールの
現時点ではリン先輩=テイルホワイトの方程式は成り立っていないため、津辺は疑問に感じている。
がしかし、既に異変が起こりまくりなのは感付いていた。
これは、何か不吉な出来事が起こる前触れではないのか?
そんな考えすら、頭をよぎってしまう。
☆☆☆
(唯乃…)
こうも俺の前から姿を消されてしまうと、俺も寂しさは感じる。
不器用ながらも、俺の事を少なからずは思ってくれた彼女。
(何で俺に、話してくれなかったんだよ!?)
勿論、最初は嫌々だった。
彼女の正体を知っていた上で、互いを好きになってくれと言ってきたのだから。
おまけに、そうしなければバラすとまで出てきた。
彼女との交際か、俺の世間体か。
どちらかを捕らなければならないならば、俺の選択は決まっていた。
(そんなに、信用が無かったのか?)
だけれど、彼女の側にいてよくわかった。
直線的で自分の信念は絶対に曲げない。
だからこそ、俺の中にある『ツインテール愛』に気付いてくれた。
そして俺も彼女の『ポニーテール愛』を肌で感じ取れた。
彼女なら、互いに高め合える事ができるかもしれない。
そんな希望さえ、垣間見る事もあった。
(---おかしなもんだな、俺も)
自然と笑みがこぼれた。
初めは、彼女を毛嫌いしていたはずなのに。
今では俺のもっとも信頼できる
(だからこそ---)
だからこそ、彼女は今どうしているのか?
今までにない不安が、俺を襲ってくる。
それに、前に見たあの映像。
「(まさか、な…)」
俺の中の予感が、出来れば外れてほしい。
そう切に願った。
☆☆☆
「ふぁ…」
思わず、欠伸が出ちゃった。
ここ最近、満足に熟睡できなかったからなぁ…
「ねぇリン---」
退屈しのぎに彼女に話しかけるも、無視される。
いや、気付いていないのか。
リンは、モニターに映る
(リン…)
唯乃がいなくなってから、彼女は変わってしまった。
やっぱり、『TYPE-P』との死闘が追い打ちしたのかな?
戦闘の合間の会話でも、激突していたし。
「(私ができる事はないのかな…?)」
そんな事をふと洩らすと、基地全体に
「っしゃあ、キタァ!!」
「何喜んでいるのよ!?」
指を鳴らして喜ぶ彼女に、思いっきりチョップをかます。
あまりにも、不謹慎でしょうが!
「とっとと出撃や、行くで!!」
言うが早いか、リンはテイルブレスを起動させた。
テイルホワイトへと変身した彼女は、テイルブレスの転送機能を発動させた。
モニタールームから彼女の姿は消え、残されたのは私一人。
(私に選択権は無いのね…)
内心泣きながらも、仕方なくテイルブレスを起動させる。
うん、今日も平常運転ね。
そして、転送機能を発動させ、ホワイトの後を追った。
「「なっ…!?」」
「よぉ」
そこにいたのは紛れもない、唯乃だった。
テイルギアに酷似した鎧、『TYPE-P』を装備している。
左手には、彼女の愛用の武器、フェニックスラッシュ―ターが握られている。
(唯乃…)
武器を装備しているって事は、戦う覚悟はあるという裏返しを示す。
それはつまり、戻る意志はない、ってこと?
そんな…
「敢えて言うで。ウチらと戦う気はあるんか?」
「それは、こういう事か?」
リン---テイルホワイトの呼びかけに、唯乃は冷たい反応を示した。
なんと、私達に銃口を向けてきたのだ。
思わず私は、臨戦態勢を取ってしまった。
だけれどホワイトは、頭を掻きつつ弁解を取る。
「ぁ~… スマン。ウチらとアルティメギルを倒さんか、って言う意味や」
あ、そっか。
さっきの言葉じゃ、そんな捉え方もあるよね。
あれじゃ、勘違いされても仕方ないか。
「早とちりってわけか。だが、ここからは俺様一人で戦わせてもらうぜ」
頑として銃口は降ろさない。
でも、彼女の顔には笑みが浮かんでいた。
あれは、戦いを求めている顔に間違いない。
「…ホンマか?」
「俺様に、二言はねぇ!!」
ホワイトが最後に質問するも、彼女の姿勢は変えられない。
ここまでか---
気が付けば、私の手にはグラビティハンマーが握られていた。
「---決裂ね」
私がハンマーを構えると、唯乃は逆にフェニックスラッシュ―ターを戻した。
どういうこと?
「何時でも俺様を倒しに来な。だがそれは、今じゃねぇ。お前らが先に倒すべき相手も、ようやく来たことだしな」
「ちょっ、それって---」
問い直す前に、唯乃から凄まじい熱風が襲ってきた。
サウナ室の熱気が、一気に外に出たような感じだ。
喉が渇きそう…
それに、目が開けられない!?
(…?)
しかし、それも数秒間でしかない。
目を開くと、そこに唯乃の姿は無かった。
逃げられた---
「そこまでよ、エレメリアンども!!」
…はい?
声の聞こえた方を向いてみると幾つかの影が。
それも、絶対どこかで見たような---
「って、あら…?」
「お前ら---!」
「あん時の!?」
よく見れば、お馴染みの信号機野郎・ツインテイルズだったし。
…もしかして、唯乃の言ってた倒すべき相手って、彼女達?
「うゎ~」
「どないせぇって言うんや…?」
これは、『にげる』のコマンドってあるのかな…