Which do you love ?   作:ズケズケ

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Episode.60【カレー、美味しい】

次の日。

俺は、ある場所へと向かっていた。

 

「(それでさー…)」

「(ウケる!)」

 

俺とは違うクラス。

そこでは、女子が話に花を咲かせていた。

 

『…?』

 

先程まで騒がしかった休み時間の教室が、一瞬で静まり返った。

俺はそんな事を気にも止めず、真っ直ぐに向かう。

 

「…よぉ、総二」

 

こちらに振り向きもせず、ただ言葉を俺に向けた。

そう、俺の目的は唯乃がらみだ。

 

「その様子からするに… 何か覚悟を決めたみてぇだな?」

「---あぁ」

 

俺は、その覚悟を彼女に打ち明けた。

 

「俺と別れてほしい」

 

その告白に、教室は騒然となる。

女子が多いのか、その悲鳴が甲高い。

余りにも声量が大きいので、思わず耳を塞いだ。

 

「ちょっと、本気!?」

「お前、結翼の事気に入っているんじゃなかったのか?!」

 

…外野、うるせぇ。

あと、いっぺんに話しかけないでほしい。

その他の奴の声が、全く聞こえないし。

 

(無駄にテンション高いよなぁ、ここの生徒…)

 

俺は内心、呆れていた。

 

「黙って聞けよ、お前ら」

 

唯乃は椅子から立ち上がると、低い声で命令する。

威圧感を纏ったその言葉に、皆は押し黙った。

これが『言霊(ことだま)』ってやつか…

 

「---理由は?」

 

俺には、キッチリ視線を向けている。

言い逃れはできないし、しない。

ハッキリと示すまでだ!

 

「…俺はお前と付き合って、ポニーテールに触れてきた。だけど、俺の心が疼くんだ。お前はそれで良いのか…? ってな。そう長らく自問自答して、ようやく気付いた」

 

俺は一呼吸置き、唯乃に決意を示した。

 

「俺はやっぱり、ツインテールが好きだ---!!」

 

この告白に、クラスメイトは阿鼻叫喚していた。

やっぱり、お前はお前か!

変態はやっぱりヘンタイね~!!

そんな声が、俺の周りから聞こえてくる。

 

「お前らに、そんな事を言える権利があんのか…!?」

 

喧騒の中、再び唯乃の声が教室に響く。

その剣幕に、沈黙するクラスメイト。

 

「好きな物を好きと言って、何が悪い!! お前らだって好きな物が色々あるが、総二はツインテールだったわけだ。好みを理解しろとは言わねぇが、本人をとやかく批難するな」

 

その言葉には、説得力があった。

俺のツインテール好きは、昔からほとんど認識される事は無かった。

でも、ここに入学して理解してくれる人ができた。

それは本当に有り難いと、今でも感じている。

 

「---兎に角、俺様とは別れるって事だな?」

「あぁ。今までありがとうな」

 

それだけ言って、俺は教室を後にする。

それを止める者は、誰もいない。

 

(…)

 

自分の教室に戻るまでの間、俺は思い返していた。

 

(俺は俺のツインテールを信じる。だからこそ、そのためにはポニーテールを討つ必要がある。まず、俺がすべきは---)

 

自然と手に力が込められる。

昨日、俺は完膚なきまでに倒された。

あの悔しさを何倍にも返す、そのために…!

 

(テイルグリーン、お前をぶっ潰す!!)

 

☆☆☆

 

「クシュン!!」

 

授業中、何故かくしゃみが出た。

特に鼻がムズムズする感じは無かったのに。

かなりのボリュームだったため、先生に気付かれてしまう。

 

「どうかしました、長瀬さん?」

「別に何とも… 八ックシュン!!」

 

何ともあるわ、これ。

2回くしゃみすると、誰かが噂しているというジンクスがある。

 

「…もしかして、風邪ですか?」

 

まさか、先生に心配されるとは。

確かに昨日は、雨の中を走っていた。

体も十分に冷えていたから、こうなったとしても不思議じゃない。

 

「まぁ、若いからとは言えど無理は禁物ですよ」

「ふぁ~い」

 

思わず生返事してしまった。

…先生に向かって。

場が凍りついたって、こういう事を指すのね…

空気が張り詰めた、密閉空間。

誰かさんの息遣いまで聞こえるかのよう。

 

(やっちゃった…?)

 

確か、この先生って性格が表裏一体なのよね。

普段は優しいけれど、怒ると足立先生でも手が付けられないほどに。

で、その予兆がこれ。

それはいつ終わりを告げるかは、誰にも予測できない。

先生の気まぐれ、ってやつ。

 

「---!!」

 

何かが私に振ってきそうだったので、咄嗟に手を出す。

見れば、私に向かってチョークが来てる!?

回避することはできない。

何せよ、『チョークガンマン』ってあだ名があるからね、彼。

向かってくるチョークを、裏拳で横から叩いた。

その衝撃は、互いの威力で粉々になるほどだ。

 

「口調に関しても、同様です」

「…はい」

 

先生は変わらず、仏顔で答える。

内心、貫かれるかと冷や冷やした。

足立先生もそうだけど、怖いよここの先生達。

 

☆☆☆

 

「---さて」

 

アルティメギル基地。

ここでは、侵略活動を再開せんと会議を開いている。

だが…

 

「戦地へ赴く覚悟がある者はいるか!?」

 

ビートルギルディの声に反し、誰も動こうとはしない。

見れば、身体中から汗を流す小心者までいる始末。

アルティメギルの士気が落ちたと思えて、致し方ない。

 

(やはり、ツインテイルズの存在が圧倒的であるか…)

 

ドラグギルディを始め、多くの幹部を葬った戦士。

彼らのツインテールは留まる事を知らず、更に輝きを増す一方である。

 

(仕方あるまい。これでは---)

「のっほほ~、遅れただ~!!」

 

沈黙を打ち破るかのように、ドアをぶち破ったエレメリアンが現れる。

その光景に、会議室のエレメリアンは硬直した。

 

「あら、まだやってる…? なら、セーフなのだ?」

 

何処かあどけなさを残す、そのエレメリアンは悪びれた様子は無い。

彼はビートルギルディの前まで来ると、とんでもな事を言い出す。

 

「---で、何の話だっけ?」

 

その対応に、会議室の皆はズッコケていく。

ビートルギルディは椅子から滑り落ち、スタッグギルディは乾いた笑い声を出すしかなかった。

 

「次の作戦に出撃するは、誰かという議題だ!!」

「あぁ~、思い出したのら」

 

激怒するビートルギルディに対して、遅れてきたエレメリアンは手をポンと叩いた。

彼は本気で、この会議を忘れていたらしい。

 

「ハハハ… ヒポポタスギルディらしい」

「へぇ、ありがとございやす!!」

 

そう、大胆にも会議に遅刻したエレメリアンはヒポポタスギルディ。

見た目はカバそっくりで、性格はかなり腑抜けている。

まぁ手先は器用で、力もライオギルディと同等ではあるが。

それに加えて、ある能力がある。

それを戦闘で活かせられるかといえば、正直微妙。

 

「ったく… ヒポポタスギルディ! どうせなら、お前が行って来い!!」

「アイアイ・サーッ!!」

 

敬礼すると、ヒポポタスギルディはすぐさま会議室を出ていく。

しかし、入った時とは異なる場所に穴を空けて。

 

『(修繕費、幾らすると思ってやがる…!)』

 

彼への怒りで、エレメリアンに結束力は上がる。

彼の乱入は、無駄でなかったという事だ。

 

「良かったのやら、悪かったのやら…」

 

☆☆☆

 

ツインテイルズ基地、その医務室にて。

 

「ったく、用心し過ぎよ。あたしならもう大丈夫だって」

「過信し過ぎです! 貴女も慧理那さんと同等、もしくはそれ以上に損傷しているんですから」

 

ベッドに胡坐をかく愛香に対して、視線をモニターから移さないトゥアール。

彼女達が平行線を辿ってから、30分は過ぎている。

 

「未だに慧理那さんは、昏睡状態から回復しませんし…」

「やっぱり、ハンマーの当たり所が悪かったのかな?」

 

彼女は今もICUにて、横たわっている。

 

「愛香さんも、それなりに気をつけてくださいよ」

「暇なのょ!!」

 

トゥアールが叱りつけるが、愛香は駄々をこねてしまう。

しまいには枕が有り得ないほどに攻撃を受け、中身が出てしまうほどにまで。

 

「アルティメギルだって、まだ活動を休止した訳でもないし」

「そういえば、しばらく出現していませんねぇ…」

 

ここ最近、テイルグリーンの乱入は除いて、エレメリアンが出現することはなかった。

補充部隊が来るまでの休止期間としては、少し長めとも言えるが。

だが、今度来るエレメリアンはまた曲者の可能性は濃厚である。

 

(あの戦闘で、貧乳属性(スモールバスト)被虐属性(マゾヒスティック)が奪われたのは確実。それに、あの新しい属性玉(エレメーラオーブ)は一体…?)

 

いずれにせよ、こちらの戦闘力は激減したと判断した。

もし、このタイミングで警報システムが作動すれば---

トゥアールは激しく頭を振ることで、最悪なケースを追い出す。

 

「兎に角、今不測の事態に対応できるのは総二様しかおりません。早期復帰を目指すなら、ジッとしていてください」

「ちぇ~」

 

トゥアールのめっ、に愛香はふくれっ面だ。

まるで親子の会話のようである。

しばらくして自然と、互いから笑みが零れていた。

 

「そういえば、伊織先輩達はどうしているんですかね?」

「最近、部活動も休みがちだから…」

 

ふと、彼女達の事がよぎった。

ツインテール部員ではあるが、彼女達の事は知らずにここまで来た。

 

「今思えば、伊織先輩の事随分ほったらかしにしてきた気がしますね…」

 

頬を掻きつつ、苦笑いするトゥアール。

正直テイルグリーンやアルティメギルで手一杯だったため、彼女達に気を回す余裕が無かったのだ。

 

((今思えば、ツインテイルズとして戦ってくれたらなぁ…))

 

かなわぬ願いをする2人。

…別の意味で、彼女達は戦死として戦っているが。

それを本人達が知る手段は、今は無い。

 

☆☆☆

 

「ん~…」

 

学校帰り、私は色々と思い返していた。

考えている事は、夕食のメニューだけれど。

だって、唯乃が居なくなったからその分をどうするか考えなきゃいけないから。

 

(まず、所持金よね)

 

カバンから財布を取り出し、所持金を確認していく。

小銭は561円。

そして、札は無し。

つまり『金欠』の状態である。

 

(唯乃が使いまくったせいね…)

 

あの時は、唯乃がつまみ食いばっかりするからだ。

お蔭で、冷蔵庫を補充するスピードが早くなった。

同時に私の財布から消えていくスピードも、恐ろしいほどに早かった。

 

(どうしたもんだか…)

 

腕組みをするが、それで閃くことはない。

私の献立作りは暗礁に乗り上げている。

 

「あら、伊織ちゃんじゃない」

「…へっ!?」

 

下を向いて歩いていたのか、前に通行人がいることに気付かなかった。

声をかけられたので、軽く驚いた。

 

「未春さん!?」

「は~い♪」

 

そこにいたのは、アドレシェンツァの店長であり観束君の母親だった。

あまりの展開に思考が追いつけない。

 

「伊織ちゃん、お金がピンチだって?」

(ギクッ)

 

おまけに、どっから見てたんだか…

神出鬼没で、滅茶苦茶恐ろしい。

いかん、緊張で汗が止まらない。

 

「良かったら、うちで食べてく?」

 

そんな私を見越してか、夕御飯のお誘いが来た。

思えば、お店に寄った事は数あれど、注文した事は1度もない。

一瞬断ろうか、そう考えてみた。

しかし、肩をガッチリ掴まれながらの、この笑顔。

『答えは聞いてない』って感じの、あれだ。

私はただ、彼女の誘いに首肯するしかなかった。

 

 

 

 

「カウンターで待ってて。すぐに支度するから」

「はぁ…」

 

未春さんに促されるままに、私はカウンター席に通された。

店内にはチラホラとお客さんがいる。

だけれど、前と変わらない中二病全開の人ばかり。

私の待ち時間の相手にと声をかける人がいたが、対応に詰まった。

一般人としては、かなり居づらい環境よ。

 

(店内はレトロで、雰囲気は良いけれど…)

 

内装は、少し古さを感じる。

だけれどそれを補って、暖かみすらも感じられる。

珈琲はセルフ式だが、使う豆が良いのか味は格別だ。

ここは『隠れ家』として、優れたお店かもしれない。

 

「おまたせ~ 私特製のカレーよ!!」

 

出てきたのは、2人前はありそうなボリューム満点のカレー。

運動部の男子生徒ならペロリといけそうだが、文化系の女子にはちょっと…

 

「元気がない時こそ、これを食べて気合いを入れるのよ!!」

 

カツ関係のノリだな…

『活を入れる』感じの。

親としては期待を示しているけれど、私達子供は重荷でしかない。

まぁ、こんな事をされる内は花なんだよね。

こうして誰かの手料理を食べるのは、実は懐かしいレベルに入っている。

 

「冷めちゃうから、ほら早く」

「---いただきます」

 

すっかり自分の世界に入ったせいか、数十秒ほど経っていたらしい。

カレーの味が残っている間に食べなければ…!

慌てて合掌して、スプーンで境界部分をすくって口へ運ぶ。

中辛だけど、野菜の甘味もちゃんと引き出している。

あ、これお母さんの味だ…

 

「どうしたの、伊織ちゃん!? 辛かった?」

「---えっ?」

 

店長が慌てていた。

どうしたんだって思ったけれど、ナプキンで私の頬を拭ってくれた。

それで私は、泣いている事を初めて知った。

 

「いえ、何だか昔を思い出して」

「そう…」

 

私がそう返答すると、少し困った感じの顔をされる。

まぁ、受け手次第ではそうなりますよね…

 

「今はマンションに一人暮らしなので、いつも自炊なんです」

「ああ、それで!!」

 

…嘘は言ってない。

ついこないだまで同居者が居たけれど、一人暮らしの期間がずっと長いのだ。

実家に私の居場所はあるかと言えば、微妙なところだけどね。

 

「ング…!?」

「ほら、お水があるから。急がなくても、夕御飯は逃げやしないわ」

 

時折カレーで喉が詰まる事もあったけど、店長は娘のようにやさしく接してくれた。

背中をさするその手は、温かみがあった。

 

「---ごちそう様でした」

 

最初は食べきれるかどうか分からなかったけど、何とかなったね。

皿まで綺麗にさらい、間食できたのだ。

ご馳走になったとはいえ、今の私はお客さん。

すぐさまレジに向かい財布を取りだそうとしたけど、店長がその手を止めた。

 

「今日は私の奢り。だから、出す必要はないの」

「ですが…!?」

 

然り気無くメニューを見たけど、ギリギリ私の手持ちでは払えない。

それに、未春さんの恩情を裏切るわけにもいかない。

どうしよう…

 

「今回はお言葉に甘えます。しかし、給料が入ればすぐに返金致します!!」

「…固いわねぇ」

 

敬礼しつつ、私は妥協案を提出する。

未春さんの感触は、また微妙ではあるが。

 

「ここでは、貴女は私の常連さんなんだから。もっと肩の力は抜かないと」

 

そう言う未春さんは、私の肩を力強く叩いた。

滅茶苦茶痛いんですよね…

 

「今日はご馳走様でした」

 

そう言って、私は足早にアドレシェンツァを出る。

その間際、観束君と津辺さんと擦れ違う。

でも、私がそれに気付く事ができなかった。

 

「今の、伊織先輩?」

「あんなに急いで、どうしたのよ!?」

 

驚く2人だけれど、未春さんはただ笑うだけ。

それは何を思ってかはわからないが、純粋な笑みを浮かべていたと聞いている。

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