「いい天気…」
蒲団を干しつつ、私はそんな事を言ってみる。
今日は土曜日で学校はない。
バイトも休みを貰ったので、のんびりできるのだ。
ここ最近は戦闘ばかりだから、部屋の大掃除ができなかったし。
「おっと、洗濯機が鳴ったか」
あまりにも放っておくと五月蝿いので、洗濯機へと向かう。
かれこれ4日分はたまっているので、運ぶのも干すのも大変なのだ。
とはいえ、外に出せる数は制限があるので後は部屋の中だけど。
(唯乃、今どうしてるのかな…?)
こうしていると、ふと彼女を思い出す。
一応学校は来ているみたいだけど、私はその姿は見ていない。
私に心配されたくないからか、それとも…
あと、こんな噂を聞いた。
(「観束が結翼を振った」って…)
観束という名字は、そうありふれた物じゃない。
それは、結翼という名字も同様だ。
そして「振った」という台詞---
「そっか、振られたんだ…」
何となく、そんな予感はあった。
彼が真に愛しているのは、ツインテールのみ。
色恋沙汰なんて興味なかった事は、周知の領域にあったんだから。
でも結局分からなかったのは、何故唯乃はそうする必要があったのか。
彼女の目的がツインテールの
いや、彼女の性格上やりかねない。
だからこそ、あの告白に度肝を抜かれた。
(---目立ちたかった、だけ?)
幾ら頭をひねっても、答えは彼女にしか分からない。
まぁ、次に会った時に尋ねるとしますか。
「---ご馳走さまでした」
合掌して、お昼御飯を食べ終えた。
今日はシンプルに、ホットドッグだ。
ロールパンに切り込みを入れて、その中に炒り卵・炒めたキャベツ・ウインナーを入れて、オーブンで3分ほど焼く。
すると、いい感じに焼き色が着いて美味しいの。
たまにオーブンの時間を間違えて、真っ黒くろすけになっちゃうけれど。
…あれは、完全に炭の味ね。
(アドレシェンツァでのカレー、美味しかった…)
ホットドッグを食べた後だけど、ふとあのカレーが思い浮かんだ。
あの辛味が少しくるけれど、仄かに野菜の甘味が引き立つような、不思議な味。
私もたまにカレーは作るけれど、あれは市販のルゥの割合が大きい。
一辺倒と言った方が分かりやすいか。
私が玉ねぎを飴色になるまで炒めるとか、ジャガイモを蒸すとか、色々工夫はした。
それでも、市販のルゥに負けてしまう。
1回だけ、御飯にルゥを加えた『具なしカレー』という物を食した事があった。
一口食べた後、私はこう思った。
『ルゥだけで、イケるじゃん!?』
それほどまでに、私の工夫は市販のルゥに負けたのだ。
だけど、アドレシェンツァの店長---未春さんのカレーは違った。
ルゥは見事に具と調和して、一層味を引き立てている。
ルゥだけでもコクがあって美味しいけれど、決して一人勝ちする事はない。
「いつか、私もあんなカレーを作れたら---」
そう思ってみたけれど、食べるのは私一人。
ただの自己満足でしかなかった。
唯乃がいない今、誰かに食べさせる事もできない。
何故か、私の中は沈んでいた。
「午後は、どうしよう」
そうボヤけるけれど、実際にはすべき事は多い。
食器洗いに加え、干した洗濯物を取り込みして畳む。
お風呂場の洗浄に、買い出し。
後回しはしたいよ、そりゃ。
でも、全部一人でこなす必要があるからね。
「こんな時に、水を刺す奴はいないよね…?」
そんな予感は、少なくもあった。
何となく、のんびりできる時に限って呼び出しをされるのだ。
神様が「休むな、働け」と言っているのでは…!?
そう疑り深くもなるよ…
「---ま、有り得ないか」
そう言ったら、案の定スマフォが震える。
普段からマナーモードにしているから、着信音は鳴らない。
でも、バイブレーションは厄介な物である。
例えマナーモードでも、これが無ければ私が着信に気付く事はない。
その上、バイブレーションの震動で勝手に移動を始めるのだから、たまったものじゃない。
「---って、落ちる!?」
バイブレーションによって移動中だったスマフォは、遂にテーブルの端にまで到達していた。
そして、緩やかに落下していくスマフォ。
その下はゴミ箱(しかも掃除したので、ゴミだらけ)。
「させるかぁ!!」
私がダイビングキャッチすると、上手くスマフォを救出できた。
その代わり、私はテーブルの脚に思い切り頭突きする羽目になったが。
痛む頭を押さえつつ、私はスマフォの画面を確認する。
「ろくな事はないよね…」
相手はリン。
最近はアルティメギル関係でしか、電話しない。
だから私は、警戒していた。
通話したくないけれど、出なきゃそれは不味い。
諦めて私は通話する事にした。
「はぃ、もしもし---」
『エレメリアンが現れおったで!!』
…開口一番がそれかいな。
しかも大声だから、耳に響くっての。
キーンときたよ、これ。
「それは、ツインテイルズの役目なんじゃ…?」
『そのツインテイルズを、機能不能にさしたんは誰やねんて』
それを言われると、私としては何も言えない。
仕掛けてきたのはあちら側とは言えど、コテンパンにやっつけてしまった。
そう言えば、さり気なく観束君を見たら包帯が巻かれていたっけ…
『兎に角、行って来ーい!!』
「えぇ~!?」
そんなわけで、私はエレメリアン討伐の命を受けるのだった。
☆☆☆
とある中学校にて。
「のっほほ~、ここは良いところなんだな~」
そのグラウンド中央に、エレメリアンはいた。
だが、それで避難しようとする一般人は誰もいない。
皆怯えるどころか、期待をしているようにもみえる。
「適度にツインテールがいる。これは、運命どしか言いようがないのら」
そんな呑気なコメントをするのは、ヒポポタスギルディ。
あの時、ビートルギルディに出撃を命じられたエレメリアンである。
彼からは、とても出撃に力を入れているようには思えないが…
「まぁいいか。次いでに、おらの
そう言って彼は、特殊な金属のリングを取り出す。
これは相手から
その標的は、女子中学生の集団に向けられた。
今になって危機を感じた彼女達ではあるが、リングの速さには勝てない。
距離は徐々に詰められ、いよいよ彼女に触れようとした---
「---って、またかい!?」
上空から何かが飛来し、リングを押し潰した。
重みによってリングは2つに砕かれ、飛散した。
「もうちょっと、マシな場所に転送してよ!!」
その何かは、武装した少女である。
地面にできた陥没からかなり高い場所から落下してきたと思われるが、無傷である。
それどころか、誰かに文句を言えるほどの余裕まで見せる。
「貴様、ツインテイルズなりか!!」
「ナリって、変な訛りね…」
煙がまだ彼女付近に充満しているため、姿は確認できない。
しかし、それが晴れていくことで鮮明となっていく。
「何で毎回落っこちるのよ…」
「貴様… テイルグリーン!?」
その姿に、ヒポポタスギルディは驚愕した。
彼が思っていたのは、ツインテイルズだからである。
「ツインテイルズはどうしたナリか!?」
「彼女達なら、しばらくお休みしているわ。今日は私が代わりをしてあげる」
テイルグリーンは、腰に手を当てて面倒な感じで答える。
彼女も彼女で、乗り気ではなさそうだ。
『えぇ~!!??』
そんな時、驚きの声が外野からも聞こえた。
恐らく、避難していない一般人であろう。
「しばらくテイルレッドたんの姿は見られないって事か!?」
「ふざけるな、引っ込めよテイルグリーン!!」
「そうよ、テイルレッドを出しなさいよ!!」
「娘より、テイルレッドが一番なの!?」
色々と不味い方向へ、行ってしまったようだ。
エレメリアン、いやアルティメギルがもたらすのは、何だろうか…
「「やかましい!!」」
テイルグリーンとヒポポタスギルディ、両者から突っ込まれた。
「やれやれ… さて、今度のエレメリアンはカバと来たか」
「カバじゃない! おらは
首を鳴らし、未だ面倒そうに話すテイルグリーン。
それに対して、ヒポポタスギルディは興奮気味に自己紹介する。
「ヒポポタスギルディね… 了解」
訂正を飲み込むと、テイルグリーンは一足に距離を縮める。
見れば、彼女の腕はエネルギーを溜め込んでおり、彼の足元を狙っていた。
危険を察した彼は、咄嗟に後ろへ跳ぶ事で回避する。
瞬間、彼がいた場所は地面が砕かれている。
いやはや、いつもながら凄まじい破壊力で…
「お前は名乗らないのか!?」
「既に知っているみたいだし、名乗っている間に攻撃するでしょ!!」
どうやら彼女には、アメコミ的思考があるようだ。
日本の特撮では、よく敵に対して名乗りを上げてから戦闘に入ることが多い。
これは歌舞伎にある『白波五人男』をモチーフとした説がある。
だが、アメリカではこれは通用しない。
アメリカでは、すぐに変身して戦闘に入る。
これはテイルグリーンが言ったように、敵に対して隙をわざと見せると考えているからだ。
(今の一撃では駄目か… 細かい攻撃で削り取る戦法で行くか)
テイルグリーンは砕いた地面の前に進むと、戦闘姿勢を取る。
見た目は、ボクシングに近い。
先程とは異なり、距離を十分に取り、体を細かくジャンプさせる。
「---何やそれ?」
「私の攻撃手法の1つよ」
「まぁ、ええか」
ヒポポタスギルディは疑問視するも、敢えてそれを無視した。
ゆったりとした足取りで、彼はテイルグリーンへと向かう。
それは、彼女の行動パターンを危惧してのことである。
しかし、距離が互いの攻撃範囲にまで狭めた事で杞憂と判断した。
「何もなしか、おもろないのら」
「どーせ、私は売れないお笑い芸人ですよ(怒)」
ヒポポタスギルディは冷徹に、剛腕を振り下ろす。
人間の3倍はあろうかというその片腕は、余裕でテイルグリーンを押し潰せる程に大きい。
しかし、それが彼女を捉えることはない。
寸前で体を右へずらすと同時にその二の腕を叩く。
それだけで剛腕は大きく外側へ外された。
彼女は僅かに離れ、腹部に連続で正拳を打つ。
「何の真似なのら?」
「さぁて、何の事やら」
彼女は余裕を見せている。
「そろそろ、エンジンがかかってきたのら」
「---へ?」
ヒポポタスギルディはそういうと、体に変化をもたらす。
その変化に、テイルグリーンは狼狽する。
何しろ、彼の体から粘着質の液体が出てきたからだ。
「---何それ…?」
「ぬっふふ♪」
汗がテイルグリーンの頬を伝う。
彼女は、彼の
「テイルグリーン、覚悟なのら!!」
「ひぃ~!?」
ギトギトな液体を纏ったまま、ヒポポタスギルディは突進を仕掛ける。
逃げるテイルグリーンと、追いかけるヒポポタスギルディ。
グラウンドのトラックで走っているため、非常にシュールとも言えた。
『さぁ~て、逃げるテイルグリーンと追いかけるエレメリアン。勝つのはどっちだ!?』
「実況する暇があったら、逃げんかい!!」
劣等な立場へと追いやられるもツッコミを欠かさない辺り、彼女は素で芸人なのかもしれない。
しかし、これでは状況は変化しないと判断したか、ブレーキをかける。
「もういいわよ、受けて立とうじゃない!!」
諦め半分な表情で、テイルグリーンはストレートを仕掛ける。
だが、返ってきたのは気持ち悪い感触と手ごたえのなさであった。
そのおぞましさに、彼女は全身が震えあがる。
「ナニ、コレ…?」
震えながらも、自分の拳を見る。
その周りにはぬめって光る、謎の液体があった。
錆びたロボットの様に、顔をゆっくりと上げていく。
「だから言ったのら。おらは
(マジか…!!)
その正体は、汗。
液体でありながらも、粘着性を持つ奇妙な物質。
人間では、それを体温調節機能の1つとして扱う。
しかしこのエレメリアンは、一癖違うようである。
「だったら---」
"
しかし、削がれる事は無く、全て弾かれてしまう。
「---
しびれを切らしたテイルグリーンは、一撃必殺の技に賭ける。
その重みに加え、彼女の
着地点から半径15mは、完全に破壊され、砂煙が周囲を舞う。
(---駄目か…)
視界が効かなくとも、彼女は分かっていた。
ヒポポタスギルディを討つには、手ごたえを感じていない事を。
砂煙が晴れた後には、無傷の彼がいた。
その体は砂煙によって、少し汚れてはいるが。
(あのズルッとした感触。やっぱり、汗で滑るんだ)
打撃を主とする彼女にとって、彼は最悪な相性とも呼べるであろう。
グラビティハンマーの質量すら武器とならない今、通用する攻撃は限られてくる。
彼女は真上に飛ぶと、遠距離攻撃へとシフトチェンジした。
数弾の
だが…
「キャアアアッ!!」
汗というコーティング剤を纏ったその体は、
それは逸らされ、周りに着弾していく。
そこにはまだ避難していない一般人がいたために、巻き添えをくらってしまう。
「汗も使い様だのん」
「ほんっと、面倒ね?!」
これ以上の被害を生み出すわけにもいかない。
しかし、このエレメリアンを放置するわけにも…
その迷いが、彼女の行動を鈍らせた。
再びヒポポタスギルディは、剛腕をテイルグリーンに振りかざす。
もう彼女は、回避する時間は残されていない。
「(駄目だわ、これ…)」
自身が死の間際に直面しているというのに、呑気である。
だが、何処か余裕があった。
「!?」
途端、ヒポポタスギルディの剛腕が途中で止まる。
いや、何かによって止められたと表現した方が正しいか。
その剛腕の先には、何やら盾の様な物が。
「ウチまで手ぇ出させんといて」
そこには、テイルグリーンよりも身長が低い少女がいた。
彼女もまた、武装している。
全体のカラーは白で統一され、両腕には大型の双爪が。
「お前、誰…!?」
「テイルホワイト、って呼ばれたわ」
最近、オルトロスギルディを葬った戦士である。
しかし、その事をアルティメギルは知らない。
恐らくアルティメギル側ではツインテイルズがそうしたと、報告されているはずだ。
テイルホワイトと名乗った戦士は、剛腕をいともたやすく払った。
同時に、グラウンド周囲の空間に無数の亀裂を生じさせる。
「あ、危ない!」
「キャアアア、飛ばされるぅ~」
『突如グラウンドに無数の穴が出現し、嵐が巻き起こっております!!』
周りでは一般人が、その猛威に振り回されている。
「ぬおぅ、汗が乾く!?」
亀裂から生じる嵐により、ヒポポタスギルディの体を覆う汗の鎧は意味を失う。
そのチャンスを、テイルホワイトが見逃す事はない。
「シュレーディング・ストライク」
無数のテイルホワイトの分身体が、ヒポポタスギルディを襲う。
彼は抵抗もなす事もできぬまま、斬られた。
「無慈悲、なのら…」
亀裂が消滅し、嵐が収まる。
一般人の目に映るは、体に切り傷が無数できたエレメリアンとその後ろにいる戦士。
決着は、既に着いていた。
ヒポポタスギルディは爆散し、この世から消えた。
後に残された
「では、撤収!!」
「えっ!? ちょっ---」
テイルグリーンが何かを言う前に、既に転送装置は起動していた。
後に残されたのは、戦闘による爪跡と、置いてけぼりにされた一般人。
急展開すぎて、誰も理解はできていない。
誰に対してもしこりが残る、そんな戦いとなってしまった。