私は吹き飛ばされているところである。
急に呼び出されたと思えば、まさかダークグラスパーと戦えだなんて。
無茶でしょ、リン…
『万が一の事もあるから、テイルオンしとき』
基地でそう言われた時、何が何だかわからなかった。
---一応、従ったけれど。
でもそうしなかったら、確実に『テイルグリーン』の正体バレてたわね。
(ガフッ!?)
背中に衝撃が来た。
どうやら、壁に激突したらしい。
だけどそれで勢いが止まるわけもなく、壁ごと吹っ飛ばされる。
落下した先は、観客席があった場所。
そこには椅子は無かったため、受け身を取ることができた。
「しぶといのぅ。これならば、噂は多少は信憑性アリじゃな」
できた穴から顔を出してきたダークグラスパー。
その余裕っぷり、かなり腹立つんだけれど…
「ツインテイルズを葬ったその実力、見せてもらう!!」
(えぇ~…)
勘弁してほしいんだよ。
確かに、私はツインテイルズを一時戦闘不能にはした。
だからと言って、これはないと思う。
ダークグラスパーは大きめの鎌を振り回すも、ある程度は軌道が読める。
あまり大きい回避さえしなければ、何とかできる。
「執拗にツインテイルズを狙っているね?」
「わらわが討つはずの獲物を横取りされたのじゃ。獲物を奪った貴様を倒すことで、わらわの鬱憤は晴らせるはずじゃ!!」
…これ、完全に当て付けじゃない?
私を倒したって、良い事何一つないと思うけれど。
いい加減避けるのも飽きてきたし、反撃に移りますか!!
「迷惑よっ!?」
大鎌を横に振り切った後、逆立ちの応用でダークグラスパーの顔面に蹴りを入れる。
勢いで体を起こし、後ろへ跳ぶ。
その反動で、彼女には更なるダメージが入ったはず。
何しろ、顔面に足跡をつけた上に、更に入れたもの。
「おのれ… 愚弄するか、貴様!?」
ヤバい、やりすぎたかも。
私の跡をつけられたダークグラスパーは怒り心頭、すぐに私との距離を詰めてきた。
今度は大振りではなく、柄を短めに持つことで隙をなくそうとする。
なら、私はこれで十分かな。
グラビティハンマーを取り出し、迎え撃つまで。
「愚弄も何も、私はリンの実験に巻き込まれただけよ!?」
「テイルレッドに並ぶ、強大な
私の持つポニーテール属性は、観束君のツインテール属性と同等。
トゥアールさんやリンから、何度もそう聞かされた。
でも私は、好きで持っているわけじゃない。
確かにポニーテールは、私が幼い頃からしていたよ。
(私は---)
私はいつから、ポニーテールにしていたんだろう?
そんな僅かな疑問に、私は迷う。
無論、ダークグラスパーは見過ごしはしない。
「し、しまった?!」
黒の大鎌が、グラビティハンマーを弾き飛ばした。
それによって私は劣勢へ、いや最初に戻っただけか…
再びダークグラスパーは、私を切り裂かんと振り回す。
「貴女、人間なんでしょ? アルティメギルに味方したって、良いことは---」
「わらわには、遂行せねばならない個人的な使命がある。そのためならば、エレメリアンとて手を組む」
やっぱり説得は無理か。
彼女の確固たる使命、そこまで彼女を引き付ける物って…?
「だったら---」
"
迫り来る、死の大鎌。
それをただ待つほど、私は愚かではない。
「そんな使命、私がぶっ壊す!!」
正確には、裏拳だったか。
私の首を狙おうとした大鎌は、その柄を私の拳によって砕かれる。
慣性の法則により鎌の刃が私の首元を掠めるが、傷をつけるほどまでには至らない。
内心、ひやひやしたけれど。
その現実に、ダークグラスパーは大層驚いている。
今まで折れたことがないのかな…
「それに---」
逆の手は、さり気なくダークグラスパーの腹部に当てる。
手の平に溜めておいた、
呆気に取られていた彼女は、ようやくその事実に気付いた。
でも、もう遅い。
「貴女のそれは、多分
溜められた力は、ダークグラスパーを弾き飛ばす。
それこそ、私が『ホームラン』された時の何倍もの威力で。
彼女は地面を大きく削りながらも、後ろへ引きずり出されていく。
やがてダークグラスパーは、止まる。
(壁にぶつかると思ったけどな)
地面には引きずられたのとは、明らかに異なる跡が。
恐らく、吹き飛ばされながらも踏ん張りを見せたのだろうな。
だからって、それを許すわけはない。
戦場に、ルールなんて無いんだから。
「元・アルティメギル首領直属戦士を舐めるなぁ!!」
ダークグラスパーは再び闇の大鎌を形成、エネルギーの刃を乱舞させる。
狙いが甘いので、
爆発による煙で向こう側が見えにくい。
でも、向こう側で集束している光が見えている。
これ明らかに、必殺技だよね…!?
「堕ちろ、非道が!!」
不味い、いくら私のテイルギアでもこれは防げない!!
慌てた私は、天井を
使用されていない会場では、天井は閉まりきっている。
それを破壊することで、即席の瓦礫を作りだしたのだ。
「ふははは、それしきのことで倒せるわらわではないわ!!」
(面倒くさい…!)
今思ったけれど、彼女無理してキャラ作りしてない?
正直、話すのが面倒と本気で思ったもの。
ダークグラスパーは瓦礫の上を、器用に上っていく。
上空からじゃ、私の姿は丸見えじゃない!?
狙いを絞った彼女は、ついに引き金を引いた。
「ダークネスバニッシャー!!」
あの威力じゃ、
それを上回る威力があるとすれば、これしかない!!
"
私は上空へ飛んだ。
このままじゃ、私どころか周囲10kmは消し炭になっちゃう!?
ここは一か八か、人生はギャンブルぞい!!
「重力爆砕拳」
テイルギアの重力操作能力
そう信じて、最高の威力でダークネスバニッシャーに叩き込む。
押し切られそうになるけれど、返せなくもない、かな…?
「人間は万事、気合いが大事ィ!!」
返すことは諦め、弾くことで何とかできた。
ダークネスバニッシャーのエネルギーは、別方向の空へ飛んでいったけれど。
まぁ、上空に飛行機が飛んでいない限りは大丈夫でしょ。
しかしダークグラスパーは、口元に不適な笑みを浮かべる。
「終いじゃ、カオシックインフィニット!!」
幻術系か!?
そう気付いた時には、既に勝敗は決していた。
技後硬直により、回避もできない私に防ぐ手立てはない。
カオシックインフィニットと呼ばれるそれは、私を機能不能にさせる。
追撃としてダークグラスパーは、私のお腹に蹴りを入れることで地面へ叩き付けた。
(ぃ、意識が---)
蹴られた痛みさえ、感受できない。
この幻術は、相当な厄介物らしい。
やがて、私は視界を失った。
☆☆☆
「---あれ?」
生きてる。
カオシックインフィニットを受けた時、死んだと思った。
でも、今の私は意識があるし、動ける。
視界もあるんだろうけれど、正直真っ暗闇で何も見えはしない。
(夢の中、なのかな…?)
それにしては、ハッキリし過ぎだと思う。
試しに私の頬を思いっきりはたいてみる。
何故か、滅茶苦茶痛かった。
ということは、これは現実!?
「ようやく会えたね」
---誰!?
私の脳内でできた、妖精さんか何かかな?
だとしたら私は、相当な残念な人だわ。
「違うから!!」
じゃあ誰よ。
さっきから姿も見せないで。
薄気味悪いんだけれど…
「もぅ、しょうがないなぁ」
そう誰かが言うと、急に周りが明るくなった。
同時に焼けるような臭いが、私を包んだ。
これって---
「ほら、これでわかるでしょ?」
正面に、私に話しかけてきた奴がいた。
見た目は4~5才ってところか。
でも何で、こんな幼女が私に話しかけてきたんだろ?
「---誰だっけ?」
「いいょ、誰でも」
何それ、対応に困るんだけれど…
それよりも、気になることがある。
「ここは、夢の中。あの根暗魔女のインチキ魔法で、閉じ込められているの。本当なら、ここは楽園のはずなんだよね」
なるほど、夢の中か。
それならこの現実離れした環境も、いささか納得できる。
楽園と言っていたけれど、これはどう見ても地獄絵図では…?
というか、熱過ぎる。
サウナ室じゃないですか、これ。
「それにしても、魔女も酷だよね。お蔭で私が出る破目になるんだもの」
---よく分からん。
それよりも、脱出する方法があれば教えてほしい。
「まぁ、任せてょ。私があの根暗魔女をやっつけてあげる!!」
何だか知らないけれど、勝手に盛り上がっても…
幼女は勝手に向こう側へ走っていく。
私も追いかけようとしたけれど、周りの炎が消えていく。
やがて周りはまた、真っ暗闇へ戻ってしまった。
私は、囚われの身となったのだ。
☆☆☆
「手こずらせおって…」
瓦礫の上では、テイルグリーンが仰向けに倒れている。
ダークグラスパーは肩で息をしながら、何とか地上へ降り立つ。
今頃彼女は、楽園の中であろう。
「わらわを相手に、よくここまで戦った。手向けとして、息の根を完膚なきまでに止めようぞ」
ゆっくりと歩むダークグラスパー。
その手に、死の大鎌・ダークネスグレイブを持って。
笑みが自然と零れる彼女は、すぐに変貌する。
(なんじゃと…?!)
テイルグリーンが起き上がったのだ。
まるで、逆再生したかのように。
その気味悪さは、ダークグラスパーに気配察知として認知される。
しかし彼女はそれだけで、何も仕掛けてこようとはしない。
「もう一度、地獄の深淵に堕ちろ!!」
ダークネスバニッシャーが再びテイルグリーンを狙う。
だが彼女は、それを避けようとはしなかった。
"
テイルグリーンは左手を向ける。
そして、ダークネスバニッシャーを受け止めたのだ。
「なっ…!?」
それだけではない。
ダークネスバニッシャーのエネルギーは集束する。
それはやがて、ハンドボール程にまで縮小する。
そして---握り潰した。
"
瞬間、テイルグリーンの体を黒い放電が纏う。
悶え苦しみながらも、自身の体とダークネスバニッシャーのエネルギーを同調させているのだろう。
やがてそれは、最高潮に達する。
「なんじゃ、この禍々しいオーラは…!?」
放出される、ダークネスバニッシャー以上のエネルギー。
それは会場の天井を貫き、天空へ上る。
テイルグリーンはどうなったか?
「なっ…!?」
全身を黒く染め、ラインが緑に発行する。
彼女はもう人間ではなく、怪物である。
獣の如く咆哮し、狙いをダークグラスパーへと定める。
「面妖な、成敗してくれよう!!」
ダークネスグレイブを取り出し、刃を幾つか放出するも、全て無効化されてしまう。
テイルグリーンであった化け物は、口にエネルギーを集中させる。
もしあれが放たれれば、彼女はひとたまりもない。
「ダークグラスパー!!」
化け物の周囲に、弾丸の雨が降り注ぐ。
その元をたどれば、
そしてその操縦席には、テイルホワイトがいた。
「やれやれ、手助けは必要かいな?」
「---ふん」
テイルホワイトの軽口に、ダークグラスパーは無視した。
しかし内心は、助かったと言っているのだろう。
ホワイトはメガ・ネから降りて、ダークグラスパーの隣に立つ。
「あ~ぁ、情けない」
「お前が招いた結果であろう?」
「兎に角、この化け物を抑えなアカンわ」
メガ・ネは通常形態に戻り、銃口を構える。
化け物は獣の如く、警戒心剥き出しである。
だが、その姿はすぐに消えた。
「!?」
「メガ・ネ!?」
メガ・ネは腕を前に構えることで防御するも、化け物のストレートには敵わない。
瞬時にその巨体は、吹き飛ぶ。
その先を見れば、片肘を失った彼女がいた。
「ウチは大丈夫やから、早よテイルグリーンを抑えや!!」
その指示に、ダークグラスパーとテイルホワイトは互いに頷いた。
そして、化け物へと体を向ける。
「試練は失敗のようじゃな」
「なら、ウチらの手で---」
ダークグラスパーは、ダークネスグレイブを。
テイルホワイトは、ディメンションクローを装備する。
これが、最後になるかもしれない。
それを胸に秘め、立ち向かう。
☆☆☆
『総二様…
抑揚のない、トゥアールの声。
それが逆に、俺達の緊張を高める。
今度は死ぬかもしれない。
そんな予感が、俺の頭をよぎった。
トゥアルフォンを一旦切った後、俺は言った。
「俺1人だけで、行かせてくれ」
愛香と慧理那は驚く。
今まで一緒に戦ってきただけに、俺がこんな事を言うのは珍しいだろう。
「そーじ一人に任せておけない。私も行くわ!!」
「わたくしも、ご一緒します」
2人は急いで支度するも、もう一度俺は止める。
何故か、2人を連れていく気が起こらないんだ。
だから---
「テイルオン!!」
そう叫ぶと、俺は転送装置へと急いだ。
☆☆☆
「うぅ…」
会場は、更に過酷さを増していた。
ダークグラスパーは、既に戦闘不能となっている。
メガ・ネは片腕ながらも、相棒を守り続けている。
テイルホワイトも、片方のディメンションクローが破壊され、劣性である。
それに対してテイルグリーンの化け物は依然ダメージがない。
(こりゃあ、色々と失敗したんとちゃうか…)
内心、後悔している。
テイルグリーン---伊織には、潜在能力がある。
それを無理矢理引き出すための、この作戦であった。
しかし、結果はどうだ?
テイルホワイトは、パンドラの箱を開けてしまった。
「どないしましょう…?」
化け物は三度エネルギーを集束させた。
今度こそ、会場ごと吹き飛ばす算段であろう。
ダメージが蓄積したこの体では、メガ・ネとダークグラスパーを救う事はおろか、満足に動けはしまい。
それは集束し終え、焼き尽くしにかかる。
(もうアカン---!!)
そう思ったテイルホワイトは、顔を伏せた。
死という現実が迫ることから、逃れるために。
だが、その衝撃は来ない。
代わりに、爆風が両側から吹いた。
「危ないなぁ」
テイルホワイトの前には、誰かがいた。
その影はゆっくりと立ち上がる。
彼女には、その影に見覚えがあった。
「ユウ!?」
間違いない。
彼の右手には、蝋燭を模した西洋剣が握られている。
恐らく、それでエネルギーを断ち切ったのだろう。
「お久し振りです、姫様--- と呼ぶには、まだ遠いですね」
ユウはテイルグリーンに向かって、華麗な挨拶をする。
しかし、彼はそれを一部訂正した。
それでもテイルグリーンは、警戒を怠らない。
「ユウ、何で---」
「君はそこで休んでいて」
テイルホワイトが質問するも、ユウはそれを弾いた。
そして剣先を、テイルグリーンへ向ける。
「さぁ、僕達の