Which do you love ?   作:ズケズケ

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Episode.64【何もかもが急すぎる】

「さぁ、僕達の剣舞(ブレイドダンス)を始めよう」

 

ユウは蝋燭の西洋剣をテイルグリーンへ向ける。

対してテイルグリーンは、闇色の爪を立てる。

両者の間に入る事は、何人(なんびと)たりともできない。

それはたとえ、ダークグラスパーであろうとも。

彼女はようやく意識を取り戻し、片膝を着いている。

テイルホワイトは、観戦モードへと移っている。

メガ・ネは、ダークグラスパーの側で護衛を勤める。

 

「では、お手を拝借」

 

それを皮切りに、両者は互いの距離を縮める。

西洋剣は爪とぶつかり、鍔迫り合いへと持ち込んだ。

両者の間に火花が飛び散り、熾烈化する。

一旦距離を離し、剣と爪を何度もぶつけ合う。

ダメージで比較すれば、剣術に長けたユウが優勢である。

だが、暴走したテイルグリーンの力を換算すれば、彼は危ない橋を渡っている事になる。

もし一撃でも喰らえば、彼は一気に劣勢へ持ち越される場合が推定されるからだ。

 

「なっ…!?」

 

それはテイルグリーンとダークグラスパー、テイルホワイトとメガ・ネが行った泥臭いものではない。

流麗な動き、無駄のない剣捌き、まさしくそれは紳士。

彼女と互角に渡り合うだけでも凄いが、戦闘スタイルには優美さがある。

対してテイルグリーンは、荒れ狂う獣同然。

会場を跳ね回り、ユウに接近しては切り裂かんとする。

これでは、到底剣舞(ブレイドダンス)とは呼べまい。

とは言えど、両者のレベルは相当な物。

故に長い舞踏会となるだろう。

 

「一体、テイルグリーンに何をしたんや?!」

「奴はわらわのダークネスバニッシャーを、握り潰した。ただそれだけじゃ」

「本当にそうか…?」

 

ダークグラスパーは、確かに真実を話した。

ただしそれは、彼女が認知できる範囲内での話だが。

彼女は、テイルグリーンがダークネスバニッシャーを『握り潰した』と言った。

しかし、それだけであぁも暴走(オーバードライブ)する事はあるまい。

テイルホワイトには、そうなった原因はある程度予測できていた。

 

(被虐属性(マゾヒスティック)が、ここまで作用するなんて…)

 

被虐属性(マゾヒスティック)

この属性玉(エレメーラオーブ)の効果は、エネルギーを吸収して自分の力へ転換することを可能とする。

それは、テイルブルーが貧乳属性(スモールバスト)の強化へ転換させたことで、既に実証済みである。

そして属性玉変換機構(エレメリーション)が使用できるテイルグリーン、テイルホワイトも同様である。

 

「---いい加減、出てきたらどうだ!?」

 

テイルホワイトはある気配を察知していた。

ダークグラスパーも同様に感づいていたが、彼女は敢えて無視したのだろう。

驚きの表現をしたのは、メガ・ネのみ。

隠れている誰かは、その影より現れる。

 

「テイルレッドちゃん!?」

 

その正体は、テイルレッド。

戦う意思はないと表現したいのか、ブレイザーブレイドを持ち合わせてはいない。

 

「いつ気付いた?」

「…最初からや」

 

テイルレッドの質問に、テイルホワイトは興味なさげに答える。

正直、彼女はテイルレッドが現れたところでどうとならない。

 

「話は聞いていたな?」

「あぁ。あれがテイルグリーン… 信じられない」

 

テイルレッドでなくとも、この現実には目を伏せたいところであろう。

それに加えて、彼女には別の事が気になる。

 

「そんな彼女と、互角に戦っている奴は誰だ!?」

「あ~…」

 

テイルホワイトは、口ごもった。

あれが人間ではない。

それを説明するには、長い時間を要するだろうから。

 

「あれは"怨み"。我らアルティメギルのエレメリアンだ」

 

だが、ダークグラスパーがあっさりネタバレした。

テイルレッドは口をあんぐりと開け、呆然とする。

テイルホワイトは顔に手を当てる。

 

「え--- だって、人間が… えぇ!?」

「人間に化けるエレメリアンもいる。特段、驚く事ではあるまい」

 

アルティメギルの情報に疎い彼女ならば、叫喚しても仕方ない。

対してテイルホワイトは、そこまで驚いた様子はない。

 

「知ってたか…!」

「異世界で、正体を見たんや」

 

その言葉で、ダークグラスパーは納得する。

 

「さて、何しに来た。テイルレッド---!!」

 

ダークグラスパーは、敵意剥き出しで問いかける。

そのせいで、再び険悪なムードが立ち込める。

 

「そろそろ限界だね…」

 

遥か上空で、ユウはそんな事を呟く。

しかしその場を放棄し、ライブ会場へと戻ってきた。

それに追従する形で、テイルグリーンも距離を置きつつ降りてきた。

 

剣舞(ブレイドダンス)は、もう終幕したか?」

「うん。あちら側がね」

 

見れば、テイルグリーンであった化け物は再び放電を始める。

彼女は悶え苦しみ、そして動かなくなる。

彼女の体から、闇色の煙が蒸発していくのが見える。

 

「グリーン!?」

 

煙が蒸発しきった時、元のテイルグリーンが現れた。

だが、彼女の体を防御するアーマーは装備されていない。

意識がないのか、彼女は前のめりに倒れた。

 

「満足か、"怨み"?」

「こればっかりはねぇ… タイミングをよくなかったか」

 

問いかけるダークグラスパーに、"怨み"は首元を掻きつつ残念そうにした。

恐らく最初にかけた言葉から、想定外の事態だったらしい。

 

「テイルレッドだったか」

 

ユウはテイルレッドに体を向ける。

瞬間、彼を業火の渦が纏った。

それが晴れた時、彼の姿は変わっていた。

 

「君には知らなくていい世界がある。それをよく考えることだ」

 

炎をモチーフとした、灼熱の体。

その中には、何万もの怨念が見え隠れする。

右手には、剣舞(ブレイドダンス)で使用した蝋燭型の西洋剣。

ダークグラスパーが小さく見えてしまう程に、彼の存在は歪な物である。

彼はテイルレッドにそう言い残すと、陽炎の如く姿を消した。

 

「さて、わらわ達も行くぞ」

「はいな」

 

余所見していた隙に、ダークグラスパーとメガ・ネは姿を消そうとした。

だが、そこで思わぬ邪魔が入る。

両者の間に割り込むように、何かが飛んできた。

それは、テイルレッドには見覚えがある。

 

「ウェイブランス…? まさか!!」

 

彼女の両脇を挟むように、テイルブルーとテイルイエローが降りてきた。

 

「あたしの予想以上に、混沌(カオス)ね」

「わたくしのあられもないを、見てくださいまし!」

 

あれ程来るなと言ったのに---!!

今のテイルレッドの顔は、相当歪んでいるだろう。

 

「あんたより、向こう側がヤバそうね」

 

テイルブルーは、テイルホワイトと倒れているテイルグリーンに目を向ける。

彼女達は、ダークグラスパーとの戦いであぁなったと思っているだろう。

しかしそれは、当たらずも遠からずである。

 

「---待て!!」

 

テイルブルーがウェイブランスと取りに前に出ようとするも、テイルレッドに止められる。

 

「ダークグラスパー、テイルホワイト。今日は見逃すから、早く消えてくれ」

「「ええっ!?」」

 

テイルレッドの様子がおかしい。

それは出撃前にも感じていたことであるが、これは---

 

「フン。今ウチらを叩けば、お前が望む結果になるで」

「まぁな。それで俺達は唯一無二の英雄の名を得られるだろう。だが、それは俺のプライド(ツインテール)が許さねぇ!!」

 

皮肉交じりにテイルホワイトが、自らを討てと言った。

だがテイルレッドは、それを拒絶する。

 

「流石、嗜好のツインテールを持つ戦士--- その誇り、しかと受け止めたぞ!!」

 

ダークグラスパーは、彼女を褒め称えた。

メガ・ネは戦闘機形態《メガネウインガー》へと変形し、彼女はその操縦席に飛び乗る。

よろめきながらもそれは上昇を始め、やがて上空へ消えた。

 

「どうゆう了見よ?! 折角のチャンスを---」

「天下のテイルブルーが、随分と弱腰になったもんや。まぁ、お望みなら、ウチが相手するけど」

 

未だ納得していないテイルブルー。

彼女に出番がなかった事に、憤慨しているだろう。

テイルホワイトは、そんな彼女に挑発をかける。

しかし、弱りきっている彼女ではテイルブルーを満足させる事はできない。

更に、相棒たるテイルグリーンはまだ回復しきれていない。

 

「止めておけ、ブルー。大暴れしたいなら、それは今じゃない。あいつらとは、正々堂々と勝負しろ」

「ぐっ…」

 

テイルブルーを言葉で制するレッド。

その対応に、テイルホワイトは感謝の言葉は送りはしない。

寧ろ、軽蔑するような眼差しを浮かべる。

テイルホワイトが何かしらの操作を行うと、テイルグリーンと共に消えた。

 

『そろそろメディアや警察が突入する頃かと。レッド達も戻られては?』

 

トゥアールが通信で、そう提案した。

テイルギアで強化された聴力では、乱入する大勢の足音を捉えた。

タイミングを逃すと、また面倒だろうな。

もし見られたら、こんな記事が掲載されるからだ。

 

『テイルブルー、またも大暴れ!!』

 

これ以上の被害は、俺達にはマイナスイメージにしかならない。

俺達は、彼女の提案に従った。

 

「こ、これは…?!」

 

当然マスメディアのカメラが映したものは、惨劇の名に相応しい。

まるで空爆を受け、廃墟と化したライブ会場。

一体何がこのような状態へと変貌させたのか、ワイドショーでは様々な仮説が建てられた。

それに視聴者は踊らされ、混迷を極めるまでに至った。

 

☆☆☆

 

「シャキッとせい!!」

「へぬぶぁっ!?」

 

登校時、後ろからリンに思いっきり叩かれた。

背中が滅茶苦茶痛いんだけれど…

 

「なんやボケっとしとるなぁ?」

「う~ん…」

 

確かにそうだ。

昨日の事が全く思い出せない。

必死で頭を捻っても、出る物は全くない。

 

「昨日、私何してたんだっけ?」

「---は!?」

 

多分知っているだろうな、と思ってリンに聞いてみた。

けれど、返ってきたのは意外そうな顔だった。

そんなに私って、不思議ちゃんなのかな…

 

「(覚えとらんのなら、これでええか…)」

 

リンが小声で何かつぶやいていたけれど、内容まではわからなかった。

何だか、深刻な物だった気がするけれど…

 

 

 

 

「皆、忘れているだろうけれど。体育祭の種目、決めちゃうから」

 

---これだ。

これも確かに深刻だわ。

思い返せば、エレメリアン討伐の時も体育祭があったっけ。

自分達の事は、全く念頭になかったし。

 

「よくわかんないけれど、今回はかなり理事長が気合いを入れているみたい。それで、この体育祭は例年以上に盛り上がるから、俺達も気合い入れろってさ」

 

そうは言っても、話している体育委員が気合いないんじゃ…

兎に角、体育祭とあらば種目に出場する選手を決めなくちゃ。

でも、私はどれも自信ないんだよねぇ…

 

「---うし。大体は決まったか」

 

あれ、もう決まったか…?

私、何にも聞いてないよ?!

 

「後はスウェーデンリレーか。決まってない奴は、強制的になるな。えっとメンバーは…」

 

スウェーデンリレー。

順番が遅いほど走る距離が長くなる、恐怖のリレーだ。

ある意味で、男子の400m走よりも苛酷である。

なんでそんな種目が、男女混合なのよ。

そんな事を思っていると、体育委員に肩を掴まれた。

 

「お前、アンカー頼めるか?」

「---は?」

 

…何もかもが、急過ぎる。

私はそっと、涙を流したのだった。

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