「さぁ、僕達の
ユウは蝋燭の西洋剣をテイルグリーンへ向ける。
対してテイルグリーンは、闇色の爪を立てる。
両者の間に入る事は、
それはたとえ、ダークグラスパーであろうとも。
彼女はようやく意識を取り戻し、片膝を着いている。
テイルホワイトは、観戦モードへと移っている。
メガ・ネは、ダークグラスパーの側で護衛を勤める。
「では、お手を拝借」
それを皮切りに、両者は互いの距離を縮める。
西洋剣は爪とぶつかり、鍔迫り合いへと持ち込んだ。
両者の間に火花が飛び散り、熾烈化する。
一旦距離を離し、剣と爪を何度もぶつけ合う。
ダメージで比較すれば、剣術に長けたユウが優勢である。
だが、暴走したテイルグリーンの力を換算すれば、彼は危ない橋を渡っている事になる。
もし一撃でも喰らえば、彼は一気に劣勢へ持ち越される場合が推定されるからだ。
「なっ…!?」
それはテイルグリーンとダークグラスパー、テイルホワイトとメガ・ネが行った泥臭いものではない。
流麗な動き、無駄のない剣捌き、まさしくそれは紳士。
彼女と互角に渡り合うだけでも凄いが、戦闘スタイルには優美さがある。
対してテイルグリーンは、荒れ狂う獣同然。
会場を跳ね回り、ユウに接近しては切り裂かんとする。
これでは、到底
とは言えど、両者のレベルは相当な物。
故に長い舞踏会となるだろう。
「一体、テイルグリーンに何をしたんや?!」
「奴はわらわのダークネスバニッシャーを、握り潰した。ただそれだけじゃ」
「本当にそうか…?」
ダークグラスパーは、確かに真実を話した。
ただしそれは、彼女が認知できる範囲内での話だが。
彼女は、テイルグリーンがダークネスバニッシャーを『握り潰した』と言った。
しかし、それだけであぁも
テイルホワイトには、そうなった原因はある程度予測できていた。
(
この
それは、テイルブルーが
そして
「---いい加減、出てきたらどうだ!?」
テイルホワイトはある気配を察知していた。
ダークグラスパーも同様に感づいていたが、彼女は敢えて無視したのだろう。
驚きの表現をしたのは、メガ・ネのみ。
隠れている誰かは、その影より現れる。
「テイルレッドちゃん!?」
その正体は、テイルレッド。
戦う意思はないと表現したいのか、ブレイザーブレイドを持ち合わせてはいない。
「いつ気付いた?」
「…最初からや」
テイルレッドの質問に、テイルホワイトは興味なさげに答える。
正直、彼女はテイルレッドが現れたところでどうとならない。
「話は聞いていたな?」
「あぁ。あれがテイルグリーン… 信じられない」
テイルレッドでなくとも、この現実には目を伏せたいところであろう。
それに加えて、彼女には別の事が気になる。
「そんな彼女と、互角に戦っている奴は誰だ!?」
「あ~…」
テイルホワイトは、口ごもった。
あれが人間ではない。
それを説明するには、長い時間を要するだろうから。
「あれは"怨み"。我らアルティメギルのエレメリアンだ」
だが、ダークグラスパーがあっさりネタバレした。
テイルレッドは口をあんぐりと開け、呆然とする。
テイルホワイトは顔に手を当てる。
「え--- だって、人間が… えぇ!?」
「人間に化けるエレメリアンもいる。特段、驚く事ではあるまい」
アルティメギルの情報に疎い彼女ならば、叫喚しても仕方ない。
対してテイルホワイトは、そこまで驚いた様子はない。
「知ってたか…!」
「異世界で、正体を見たんや」
その言葉で、ダークグラスパーは納得する。
「さて、何しに来た。テイルレッド---!!」
ダークグラスパーは、敵意剥き出しで問いかける。
そのせいで、再び険悪なムードが立ち込める。
「そろそろ限界だね…」
遥か上空で、ユウはそんな事を呟く。
しかしその場を放棄し、ライブ会場へと戻ってきた。
それに追従する形で、テイルグリーンも距離を置きつつ降りてきた。
「
「うん。あちら側がね」
見れば、テイルグリーンであった化け物は再び放電を始める。
彼女は悶え苦しみ、そして動かなくなる。
彼女の体から、闇色の煙が蒸発していくのが見える。
「グリーン!?」
煙が蒸発しきった時、元のテイルグリーンが現れた。
だが、彼女の体を防御するアーマーは装備されていない。
意識がないのか、彼女は前のめりに倒れた。
「満足か、"怨み"?」
「こればっかりはねぇ… タイミングをよくなかったか」
問いかけるダークグラスパーに、"怨み"は首元を掻きつつ残念そうにした。
恐らく最初にかけた言葉から、想定外の事態だったらしい。
「テイルレッドだったか」
ユウはテイルレッドに体を向ける。
瞬間、彼を業火の渦が纏った。
それが晴れた時、彼の姿は変わっていた。
「君には知らなくていい世界がある。それをよく考えることだ」
炎をモチーフとした、灼熱の体。
その中には、何万もの怨念が見え隠れする。
右手には、
ダークグラスパーが小さく見えてしまう程に、彼の存在は歪な物である。
彼はテイルレッドにそう言い残すと、陽炎の如く姿を消した。
「さて、わらわ達も行くぞ」
「はいな」
余所見していた隙に、ダークグラスパーとメガ・ネは姿を消そうとした。
だが、そこで思わぬ邪魔が入る。
両者の間に割り込むように、何かが飛んできた。
それは、テイルレッドには見覚えがある。
「ウェイブランス…? まさか!!」
彼女の両脇を挟むように、テイルブルーとテイルイエローが降りてきた。
「あたしの予想以上に、
「わたくしのあられもないを、見てくださいまし!」
あれ程来るなと言ったのに---!!
今のテイルレッドの顔は、相当歪んでいるだろう。
「あんたより、向こう側がヤバそうね」
テイルブルーは、テイルホワイトと倒れているテイルグリーンに目を向ける。
彼女達は、ダークグラスパーとの戦いであぁなったと思っているだろう。
しかしそれは、当たらずも遠からずである。
「---待て!!」
テイルブルーがウェイブランスと取りに前に出ようとするも、テイルレッドに止められる。
「ダークグラスパー、テイルホワイト。今日は見逃すから、早く消えてくれ」
「「ええっ!?」」
テイルレッドの様子がおかしい。
それは出撃前にも感じていたことであるが、これは---
「フン。今ウチらを叩けば、お前が望む結果になるで」
「まぁな。それで俺達は唯一無二の英雄の名を得られるだろう。だが、それは俺の
皮肉交じりにテイルホワイトが、自らを討てと言った。
だがテイルレッドは、それを拒絶する。
「流石、嗜好のツインテールを持つ戦士--- その誇り、しかと受け止めたぞ!!」
ダークグラスパーは、彼女を褒め称えた。
メガ・ネは戦闘機形態《メガネウインガー》へと変形し、彼女はその操縦席に飛び乗る。
よろめきながらもそれは上昇を始め、やがて上空へ消えた。
「どうゆう了見よ?! 折角のチャンスを---」
「天下のテイルブルーが、随分と弱腰になったもんや。まぁ、お望みなら、ウチが相手するけど」
未だ納得していないテイルブルー。
彼女に出番がなかった事に、憤慨しているだろう。
テイルホワイトは、そんな彼女に挑発をかける。
しかし、弱りきっている彼女ではテイルブルーを満足させる事はできない。
更に、相棒たるテイルグリーンはまだ回復しきれていない。
「止めておけ、ブルー。大暴れしたいなら、それは今じゃない。あいつらとは、正々堂々と勝負しろ」
「ぐっ…」
テイルブルーを言葉で制するレッド。
その対応に、テイルホワイトは感謝の言葉は送りはしない。
寧ろ、軽蔑するような眼差しを浮かべる。
テイルホワイトが何かしらの操作を行うと、テイルグリーンと共に消えた。
『そろそろメディアや警察が突入する頃かと。レッド達も戻られては?』
トゥアールが通信で、そう提案した。
テイルギアで強化された聴力では、乱入する大勢の足音を捉えた。
タイミングを逃すと、また面倒だろうな。
もし見られたら、こんな記事が掲載されるからだ。
『テイルブルー、またも大暴れ!!』
これ以上の被害は、俺達にはマイナスイメージにしかならない。
俺達は、彼女の提案に従った。
「こ、これは…?!」
当然マスメディアのカメラが映したものは、惨劇の名に相応しい。
まるで空爆を受け、廃墟と化したライブ会場。
一体何がこのような状態へと変貌させたのか、ワイドショーでは様々な仮説が建てられた。
それに視聴者は踊らされ、混迷を極めるまでに至った。
☆☆☆
「シャキッとせい!!」
「へぬぶぁっ!?」
登校時、後ろからリンに思いっきり叩かれた。
背中が滅茶苦茶痛いんだけれど…
「なんやボケっとしとるなぁ?」
「う~ん…」
確かにそうだ。
昨日の事が全く思い出せない。
必死で頭を捻っても、出る物は全くない。
「昨日、私何してたんだっけ?」
「---は!?」
多分知っているだろうな、と思ってリンに聞いてみた。
けれど、返ってきたのは意外そうな顔だった。
そんなに私って、不思議ちゃんなのかな…
「(覚えとらんのなら、これでええか…)」
リンが小声で何かつぶやいていたけれど、内容まではわからなかった。
何だか、深刻な物だった気がするけれど…
「皆、忘れているだろうけれど。体育祭の種目、決めちゃうから」
---これだ。
これも確かに深刻だわ。
思い返せば、エレメリアン討伐の時も体育祭があったっけ。
自分達の事は、全く念頭になかったし。
「よくわかんないけれど、今回はかなり理事長が気合いを入れているみたい。それで、この体育祭は例年以上に盛り上がるから、俺達も気合い入れろってさ」
そうは言っても、話している体育委員が気合いないんじゃ…
兎に角、体育祭とあらば種目に出場する選手を決めなくちゃ。
でも、私はどれも自信ないんだよねぇ…
「---うし。大体は決まったか」
あれ、もう決まったか…?
私、何にも聞いてないよ?!
「後はスウェーデンリレーか。決まってない奴は、強制的になるな。えっとメンバーは…」
スウェーデンリレー。
順番が遅いほど走る距離が長くなる、恐怖のリレーだ。
ある意味で、男子の400m走よりも苛酷である。
なんでそんな種目が、男女混合なのよ。
そんな事を思っていると、体育委員に肩を掴まれた。
「お前、アンカー頼めるか?」
「---は?」
…何もかもが、急過ぎる。
私はそっと、涙を流したのだった。