「休暇を取りたい、だと!?」
とある場所にて、そのような声が響いた。
「はい。期間としては、2日間ほど」
休暇を申請希望するのは、軍服を纏う女性。
切れ目で、何処か冷たい雰囲気を醸し出すミステリアス・レイディである。
「まったく、この大事な時に…」
「申し訳ありません。しかし、私自身には
「ほぅ…?」
彼女の応答に、男性は興味を感じた。
普段の彼女は、対外の事には興味を示さない。
しかし今の彼女は、冷静さを保ちながらも瞳の奥には湧き出すものが見えた。
「その用事については、今回はとやかく言わん。だが、思い返せばお前から申し出るのは初めてだったな」
「はい」
未だ女性の反応は薄い。
だが、その積極性を彼は後押しした。
「良いだろう。ゆっくりと羽を伸ばしてこい」
「ありがとうございます、長官」
長官と呼ばれた男性に敬礼すると、女性は滑らかなターンを返して去っていく。
その後、彼女に寄ってきた同僚にそっと耳打ちをする。
「(確か、貴方も同じ日に休暇を取っていましたね?)」
「(…それが何か?)」
彼女の質問に、男性は応答した。
だが、その額には冷や汗が流れていた。
この女性とからむと、ろくなことが起きない。
そう経験した彼だからこそ、体が反射してしまうのだ。
「(私の休暇に同行しなさい。これは命令です)」
「(えぇ?!)」
何故か、彼も同行する破目となってしまった。
☆☆☆
「いおりん」
体育祭当日。
私は珍しく、リンからアダ名で呼ばれた。
最近はコードネームか本名で呼ばれていたから、違和感が半端ない。
いや、これが普通だったのよね…?
兎も角、このまま無視ってわけにもいかないか。
「どしたの?」
「あのツインテール馬鹿が、またやらかしおった…」
ツインテール馬鹿って…
まぁ十中八九、観束君だろうな。
しかしそれはいつもの事として、私はスルーしようとした。
けれど、リンは私の肩を掴むと衝撃の事実を口にした。
「あんたも、手伝ってもらわんとアカンのや」
「---ハァ!?」
それは遡ること、2時間前。
陽月学園高等部・理事長室にて。
「貴殿が真にツインテールを愛するものか、見極めたい。もし私の挑戦を拒むのなら、エリナを美容院へ向かわせてツインテールを切らせます」
そんな発言が、神堂エムの口から出た。
この場でそれを聞いたのは、観束総二にトゥアール、津辺愛香、雨宮鈴音。
無論ショックを隠しきれなかったのは、観束君だ。
「それは俺が本当にツインテールを愛しているということを、疑っているんですか?!」
「だからこそ、この舞台で証明してほしいのです」
色々と論点がずれまくるが、要約してみると。
ツインテール部を発足させたものの、今まで活動らしい活動はしていない。
その上、存在自体があまり公表されていない。
その事に、部活連盟が抗議したのだ。
神堂エムとしては、娘がようやく得た場所であり、将来の婿(予定)がいる部活をそう簡単には失わせたくない。
そこで、この体育祭だ。
この舞台で、輝かしい成績を修めると同時に、知名度を向上させようとうって出た。
「この体育祭では、部活動対抗リレーという種目があります。この種目に特別枠として出場し、目立ちなさい」
この学校では人数があまりにも多いために、自薦で出場する。
けれど、まさか強制的に参加させられるとは…
「無論、ツインテール部には女子の部で出場してもらいます。もしそこで最下位にでもなれば--- 廃部しましょう」
こればかりは観束君だけでなく、ツインテール部全員が驚いた。
そんな事になれば、今までの苦労は白紙となる。
なんとしても、阻止せねば---!
ツインテール部に女子は、トゥアールに津辺さん、エリナ、リン、私の5人。
確か部活動対抗リレーでは、4人が出場するはず…
「ただし、エリナは人質とします。そうしなければ、貴方方は本気で取り組まないでしょうから」
これで、出場するメンバーは決まった。
さぁ、後は順番だ…
「---って、何をやっちゃってんの!?」
折角の体育祭で、こんな死に物狂いな競技はしたくない。
いくらツインテールがかかっているからとはいえ、私まで捲き込まないでほしい。
ワタシ、体力に自信無いよ?
「文句なら、あのツインテール馬鹿にでも言ってやり。アイツのせいで、こんな面倒な事になったんやから」
リンもリンで、心底呆れたと言った感じだ。
全く、大したトラブルメーカーだよ。
取り敢えず、ツインテール部に行って作戦会議しますか。
「あたしもいたけれど、とんだツインテール馬鹿ね…」
「ツインテールを人質にしやがって… 何を考えていやがる?!」
最初にそう辟易したのは、津辺さん。
観束君とは長い付き合いだけれど、今回は本気で呆れている。
そしてこの騒動を引き起こした観束君は、両手両足をガムテープで固定され、パイプ椅子に座らされている。
「それはこっちの台詞よ!! アンタのせいで、この部が存続の危機なのよ?!」
それでも観束君は暴れる事を止めない。
津辺さんは彼に詰め寄り、糾弾した。
流石に私も、頭痛がしてきた。
彼のせいで、大嫌いなリレーをするなんて…
ただでさえ、スウェーデンリレーに強制参加させられるのに。
「いつまでもコイツのせいにしても、しゃあない。それよりは、この急場を凌げなアカンのや」
観束君に殴りかかろうとした津辺さんを、リンが押さえ付ける。
確かに、いつまでも彼のせいにはできない。
「---クジで決めよう。こうなったら、やるしかない」
残された道は、1つだけ。
逃げられないなら、戦うんだ…
きっと私の目は、死んでいるはず。
「嫌な運命やな」
リレーの順番は、トゥアールさん、津辺さん、リン、私。
もう後戻りはできない。
まるで赤紙を渡されたかの様な、通夜のテンションだ。
「(それでも---)」
☆☆☆
体育祭当日。
校内は、閑散している。
その廊下に、整然と歩く人物がいる。
「何で僕が、こんな手間をかける必要があるんだ?」
『黙りなさい。怪しまれる危険性が高まります。それに、貴方と話すだけで急速に空気が汚れますので』
文句を言う男性に対し、毒舌をかます小柄な女性。
彼女達は今、警備員に許可なく校内にいる。
つまり、不法侵入の扱いである。
「無茶言うなよ…」
涙目で訴えかけるが、あっさりスルーされてしまう。
彼女は彼を置いて行くつもりで、先を急いだ。
『校内図では、職員室は向こう側にあります。私達の目的地はそこです』
「目的、そろそろ教えてほしいんだけれど…」
淡々と指示を出す彼女と、うろたえる彼。
とんだ凸凹コンビにしか見えまい。
『では、私が貴方を連れてきた理由を、5秒以内で説明しなさい』
「うぇっ、5秒!?」
突如彼女は、謎を問いかける。
しかし与えられた条件があまりにも厳しいために、彼はうろたえてしまう。
そして、無情にも
『貴方はとんだ愚か者ですね』
「それが言いたかっただけだろ!?」
今頃彼女は、自慢げに鼻を鳴らしているであろう。
それを想像するだけでも、腹が立つ。
『貴方は軍の情報科。ならば、貴方の卑猥な脳みそをフルに使いなさい。以上』
「卑猥ってなんだよ!! おぃ---」
一方的に通信が切られてしまった。
頭を乱暴に掻くが、すぐに冷静さを取り戻した。
彼は、情報を管理する部署に所属する。
ならば、この学校で為すべきことは---
彼は誰もいないであろう、職員室へと急いだ。
「待てよ」
だが、その道を塞ぐ者がいた。
「観客席までなら、案内するぜ」
「ちっ…」
足立先生である。
生徒がグラウンドにいる以上、その監視役として教師もいる必要がある。
だが彼は所要があると言い、その場を抜けてきたのだ。
「その雰囲気… 一般人には見えないが?」
「すまない。御手洗いを探してね」
咄嗟に彼は嘘をついた。
無断とはいえ、これが一番真っ当なはず…
「ここは広いからなぁ。まぁ、同情はするぜ」
足立先生は、一見穏やかな態度を示す。
しかし、彼から放出されるオーラは、真逆である。
まるで拒絶反応か、それ以上の何か---
「アハハ… これは手荒い扱いを受けそうだね」
「そっちが大人しくしてくれれば、それはねぇ」
両者の意見は、全く異なる。
それは、始まりの合図でもあった。
「大体なんだ、その馬鹿でかいリュックサックは!? よっぽどでかい重箱でも入れているようだな!!」
「俺だって、好きでこんな物背負ってはいない!」
両者の拳は互いに頬を殴り合う、所謂クロスカウンター状態である。
一旦離した後は、互いの技術を駆使した肉弾戦へともつれ込む。
「良いねぇ、その動き。選手とは違うが、明らかに達人だな」
「これも、嫌々習得したんだっての!」
男性は上段蹴りを繰り出すも、足立先生はしゃがんで回避する。
そこからのアッパーを仕掛けるが、あっさりと外された。
「(あぁもう、さっさと済ませたいのに…)」
☆☆☆
グラウンドにて、会場全体は大盛況だった。
『信じられない!? まさかまさかで、ツインテール部が怒涛の追い掛けを見せる---!!』
バトンが観束から伊織に手渡されると、そこから先は無双状態である。
幾つもの体育系の部員を追い抜き、遂に陸上部員を後ろにまで捉える。
(あと少し。ここで見せなきゃ、ツインテール部は---!!)
伊織は内心、焦りを感じている。
下手すればこの部は、廃部される危険性を孕んでいたからだ。
ここで頑張らずに、いつ頑張るか。
(成程。ただの女子高生にしては、身体能力が異常だな)
その彼女を応援とは程遠い感じで見つめる人物がいた。
彼女はポケットの中を探り、あるものを取り出す。
しかしそれは、カメラではない。
手の中におさめられたそれは、彼女に向け、放った。
『ツインテール部最終走者、陸上部を抑えて1着となるか!?』
伊織は遂に陸上部員を抜き去り、トップに躍り出る。
このまま逃げ切れば、ツインテール部が勝利できる。
だがそれは、思わぬ形でかなわぬ願いへと変化した。
彼女が握っていたバトンが突如弾き飛ばされ、グラウンド中央へと行ってしまう。
『なんとなんと!? バトンがあらぬ方向へ飛んで行った~!?』
それを勝機とみた陸上部は、すぐさま伊織を追い抜いてゴールテープを切った。
これによって、ツインテール部は敗北を喫した。
しかし、伊織はその事は気にも止めてはいない。
「あの痛み… 並の武芸者じゃない!!」
すぐさまバトンが飛ばされた方向へ向かう、伊織。
そのバトンは、同じ競技参加者が持っていた。
それを乱暴に奪うと、彼女は確認する。
「あの、長瀬さん…?」
バトンの中心に、大きくへしゃげた跡が。
恐らく、かなりのスピードと威力で何かをぶつけたのだろうな。
プラスチック製品とはいえ、ここまで破損することはない。
明らかに何者かによる、妨害行為。
「!?」
瞬間、誰かと視線が合った。
見間違いかもしれないが、異様な雰囲気までは誤魔化すことはできない。
曲がったバトンを放り投げ、伊織はその人物を追う。
トラックを横切り、観客席を押し抜ける。
「待ちなさい!!」
「…」
追跡した伊織を待っていたかの様に、彼女はいた。
残暑が残る秋に、ビシッとダークカラーのスーツ姿。
その格好のわりに、汗を流していない。
よほど着こなしているのか…
「貴女、関係者じゃないよね?」
「誰かの代理者、という可能性があります。勝手に部外者扱いされるのは、面妖です」
穏便に済ませたい伊織ではあるが、どうもそれはできない。
相手も、無表情を装いながらも殺す気でいるらしい。
徐に懐を探り出すと、何かを取り出した。
「しかし、貴女がこれ以上追跡するならば、それを払う必要があります」
そして、弾きだした。
それは弾丸の早さで、伊織を狙う。
咄嗟に横にずらした彼女は無事だが、額に巻いていた鉢巻は千切れてしまう。
(何、今の…!?)
刹那の戸惑いを、彼女は見過ごすことはしない。
彼女は再び弾き出し、今度は伊織の逃げ場を奪う。
地面へと弾き飛ばしたそれは、衝突によって生じた砂塵により伊織の視界を奪った。
「ぁ…」
砂塵の中を突っ切って、彼女は伊織に接敵してきた。
鳩尾に強烈なボディーブローを叩き込み、一瞬伊織の意識を奪った。
しかし、伊織も負けてはいない。
頭突きを彼女に与え、腹部を抑えつつも後ろへと後ずさる。
「一瞬の乱れが勝敗を決する。それが殺し合いの節理」
「だけれど、そんなの、気合いで押し切るまで!!」
伊織は真っ向勝負にでる。
でも、彼女は違った。
彼女は伊織に足払いを決めると、彼女を踏みつけた。
伊織は寸前でその足を掴むが、それでも勢いを止めるまでには至らなかった。
「この状態でも、そうと言えますか?」
「この私を、舐めるな!」
伊織はその足を無理矢理押し返し。起き上がる。
しかし、それで容易にバランスは崩さず、女性は冷静さを保っている。
それが伊織の神経を逆撫でするようで、腹立たしさを感じた。
「…私の攻撃を跳ね返すとは、なかなかです」
その時、伊織は妙な力の脈動を感じていた。
全身から湧き上がる、まるでマグマの様に。
しかし、伊織には気が付いていなかった。
「私の、何が気に入らないっての!?」
伊織から放たれた物は、何者も寄せ付けぬ邪悪そのもの。
流石に彼女は、ここで危機感を得る。
「(これは… とんだ藪蛇ですね)」
どう攻め方をすべきか。
彼女はその機会を窺う。
「ぐあっ!?」
突如、1階部分の窓ガラスが砕け散った。
そこから、成人男性が飛び出してきたのだ。
「劉…」
「いてて… 飛んだ邪魔だったかな?」
その男性はすぐに起き上がり、土を払った。
女性と同じスーツ姿、やはりこの場には不恰好過ぎる。
「よっと」
「えっ、足立先生!?」
その割れたガラスから飛び出してきたのは、なんと足立先生。
その服は、酷く破れていた。
一体何があれば、あぁなるのか…
「何をしてたのです?」
「アハハ… ちょーっと、ドジっちゃって」
地面を不恰好に転がった男性に、女性は冷たい視線と態度をぶつける。
男性はそれに慣れているのか、余裕の対応力を披露した。
「何があったんです…?」
「それは、俺が知りてぇよ」
伊織は足立先生に問いかけるも、逆に避けられてしまう。
「さぁ、大人しく生徒の応援に向かうか。それとも叩き出されるか。どっちだ!?」
足立先生の脅しに、部外者達は押し黙ってしまった。
互いに顔を向けて何かを話し合っている辺り、相談をしているのか…?
「これまでの無礼を反省しております。また立ち寄る際には、相応の土産を持ってまいります。では、失礼」
女性は凛とした姿勢で、大人な返答をした。
てっきり攻撃に出ると思った先生の顔には、驚きが見える。
女性が踵を返して歩き出すと、男性もその後を急いで追った。
危険が去ったことに、伊織は安堵した。
緊張を解いたとき、思わずへたり込んでしまった。
「何だったのよ、あいつら…」
「また来るってのか。冗談も程々のしろっての」
☆☆☆
「良かったんですか、先輩?」
「---何が?」
彼の言葉に、彼女は薄い反応。
「あの学校のデータ、全く盗れなかったのに…」
「これのことですか?」
肩をガックリと落とす劉。
そんな彼に、楊は自慢げにメモリを見せる。
「いつの間に…!?」
「貴方なら、絶対こうなると予測できました。なので、予め盗っておきました」
「俺の苦労は何なんだよぉ!?」
一端の教師にボッコボコにされ、それでも何とか耐えきった劉。
だが任務遂行はできなかった。
苦労の末に失敗、加えて他の人に任務遂行される屈辱。
彼のストレスは、精神的にも身体的にも限界を突破していた。
「ドンマイです。横取りしたお詫びとして、手当は致しましょう」
「それじゃあ、スキンシップをば---」
「却下」
楊に手厳しい一撃を与えられてしまった。
劉の儚い願いは虚しく撥ねられたのだった。
☆☆☆
「やはり、テイルグリーンの話は
アルティメギル基地。
その資料室にて、その様な感想が述べられた。
「あのツインテイルズが、そう簡単にやられるわけないと思ってたんだ」
そう答えるは、彼の右腕・スタッグギルディ。
彼もまた、新たなるツインテイルズの実力を認めていながらも、ツインテイルズの活動休止を疑問視していたのだ。
「しかしそれは、些細な事に過ぎぬ。問題は---」
この密会に参加しているダークグラスパーは、実に淡泊なものだ。
彼女は、視線をそっとモニター画面へと映した。
そこにあるのは、怪物と化したテイルグリーンの姿。
彼女は、それに手も足も出すことができなかった。
「彼女の変異、それに"怨み"の脱走、か…」
「彼は、檻を簡単に破壊する程の力を持っていた。それどころか、テイルグリーンの化け物相手に
「わっかんないもんだねぇ~」
三者三様の感想。
それが、この議題を更に混沌へと追い詰めていく。
もしこの場にメガ・ネが居れば、優秀な司会として収めてくれたであろう。
だが彼女は、今---
「何でこないな事、ウチがせなアカンねん!?」
「"怨み"殿が居ない間は、誰かが肩代わりをしなければならないのですぅ~」
「口動かす暇があったら、手ェ動かせ!!」
「いよいよ余裕が無くなったか。面倒事になる前に、テイルグリーンを始末しなければ…」