体育祭では、色々と酷い目にあった。
勝手に部を存続の危機に陥れたり、そのために私がリレーに参加せざるを得なかったり…
更には誰かの妨害で、その勝利を得られなかった。
私は、その妨害した犯人と接触した。
けれど、それが誰だったかまではわからなかった。
分かるとしたら、相当な強者だってことかな…
「ん~…」
その体育祭が終わってから、数日が経った。
観束君が勝手に挑んだ部対抗リレーの結果は、審議入りのまま。
その原因として、あの妨害が偶然でないからだ。
私が握っていたバトンが突然横にすっ飛ぶなんて、有り得ないんだから!
しかも、そのバトンが大きくへしゃげていた。
誰かが狙ってやったとしか、思えないもの。
(これ、何だろ…?)
私がさっきから唸っているのは、これにある。
私が掴んでいるのは、硬貨。
でもそれはただの硬貨じゃない。
体育祭当日、私に向かって放たれた物体の正体だ。
加えて、硬貨に刻まれている模様が日本の物じゃない。
「相当古いけれど… どこのだろ?」
私はまだ唸っている。
そんな私を心配してか、クラスメイトが声をかけてくれた。
「大丈夫? ま~たあのツインテール馬鹿がやらかしたって聞いたけど」
「そのせいで、部活動が休止なんだって?」
うっ、痛いところを…
実はツインテール部は、その真偽が判明するまでは活動休止を命じられているのだ。
お蔭で、観束君達とは廊下で擦れ違う程度にしか会えない。
まぁ、別にベッタリいる必要もないけれど。
「心配ないって。その代わり、バイトでがっぽり稼ぐから」
「ほぇ~」
「ポジティブシンキングだね…」
そうでもしなきゃ、やってられないのよ…
たとえツインテール部は廃部になったとしても、それでツインテイルズが無くなるわけじゃないから。
とどのつまり、私の精神的/身体的疲労は、減らないのだ。
「それ、何? コインっぽいよ」
「あぁこれ? 多分、外国のだと思うけれど…」
クラスメイトが私の硬貨を奪い取ってしまった。
幾つか持っているから、別に困りはしない。
全く見た事がない物に興味津々で、裏返したりしてじっくりと見ている。
「滅茶苦茶掠れてるなぁ。もぅ、読めないー!!」
(げっ…?!)
やがて文字の解読ができなかったのか、硬貨を放り投げてしまった。
私は慌ててそれを、スライディングキャッチ!!
そのせいで、制服がかなり汚れちゃった。
「いちち… 何とかセーフみたい」
「---そんなに大切な物だった?」
大切かと言われると、ちょっとねぇ…
でもなんだろう、凄くキーアイテムな感じはある。
取り敢えず、これがどこのなのか調べていくか。
☆☆☆
「---ふむ」
陽月学園とは異なる高等学校。
その屋上には、一体のエレメリアンがいる。
「やはり、テイルグリーンはこの近くに…」
その名は、ワスプギルディ。
先日ふと感じた鼓動の原因を探るため、隠密行動を取っている。
それを感じたのは、あの時のみ。
それ以降は、体に異常は感知しなかった。
「よぉ、ワスプギルディ」
そんな彼に、思わぬ再開があった。
ワスプギルディがその声に振り向くが、同志はいない。
その代わり、彼よりも身長が低い女子高生がいた。
「その
「おぅ」
ワスプギルディは彼女を直接見ず、その
彼女はエレメリアンに軽く手を挙げ、挨拶する。
「テイルグリーンの件、貴様が関与しているのか?」
「あぁ。アイツ、色々とやらかしたな」
彼女はクツクツと厭らしく笑う。
テイルグリーンは生み出したのは自分だが、それがこんな展開を生むとは…
そんな予想外が、彼女に笑みを浮かばせたのだ。
「それでどうする? 彼女に喧嘩を売るのか?」
そんな彼女に対して、ワスプギルディは相談を持ち掛ける。
彼女が態々こんな場所にまで現れた以上、何かがあるに違いない。
「それは、俺様の仕事だ。お前が口出しするもんじゃねぇ」
「ぬ…」
その一言で、彼女が何を考えているのかを大方把握できた。
彼女は、テイルグリーンを倒すのだ。
それができるほど、彼女は強い。
何せアルティメギルの首領直属戦士を圧倒した、最強のエレメリアン。
「だが、どうしても相手したいのならテイルホワイトが適役だな」
彼女から、思わぬ意見が寄せられた。
まさか彼女がリスペクトするツインテイルズがいたとは…
「どういう風の吹き回しだ!? お前がそこまで言うほど、ソイツは強いのか?」
「あぁ。先ずは、彼女で小手調べすると良い…」
その応答に、ワスプギルディは唸ってしまう。
ツインテイルズの抹殺は、アルティメギルの意志。
しかし、テイルグリーンとテイルホワイトも重要人物で間違いない。
「それは無謀な挑戦か、それとも栄光なる試練か」
「お前次第だな」
それだけを残し、彼女はワスプギルディから離れていく。
しかし、彼は彼女を呼び止める。
「お前… 本当に、ツインテイルズの仲間か!?」
「それは、すぐにわかるさ」
今度こそ、彼女は彼から離れた。
背中から不死鳥の翼を展開して、茜色の空へと消えていった。
☆☆☆
「……」
「何か?」
この場には、気まずい空気が流れていた。
楊をただ白い目で睨み続ける劉に、それを何とも思わずに首を軽く傾ける彼女。
仕草だけならば、楊はかなりの美女に入る。
しかし実際は、部下を罵倒しまくるサディストである。
「何で俺が、こんな目に会わなきゃなんないんだよ?!」
「おや、何の事で?」
机を叩きながら、そう怒り散らす劉。
だがそれでも、楊は知らぬ顔である。
「一昨日の学校騒ぎ、何であんな面倒な事をしたんだよ!? お蔭で、折角の休暇がおじゃんになったじゃねぇか!!」
劉の顔は、凄まじいまでに赤い。
もしこれがマンガならば、血管が浮き出ていたであろう。
「あぁ、あれですか。それに関しては申し訳ないと思います。後日改めてお詫びをしましょう」
(お詫び?! とすると、まさか---)
抑揚のない謝罪に劉は落胆はするが、同時に淡い期待も寄せていた。
彼は今彼女はおらず、妄想癖があった。
彼の顔は、その妄想で緩みきっている。
「何を考えているのですか、気色悪い」
だが、楊にはその一言でバッサリと放たれた。
その言霊は、劉をのけ反らせるに足る。
「---ったく。あれなら、お前一人でも十分だったろ? 俺がいる必要があったのか!?」
それは、真っ当な意見である。
あの時、彼は一般人に足止めを喰らい、任務遂行は果たせなかった。
それに対して彼女は、その任務を遂行したのだ。
何故女子高生を引き連れてきたのかは、不明なままではあるが。
「---そうですね。後日とは言いましたが、訂正します」
諦めの表情で嘆息すると、楊は一枚の書類を取り出した。
A4用紙にはびっしりと文字が埋め尽くされ、一度だけで把握できる情報量ではない。
軍の命令書ですら、もっとスタイリッシュである。
その異様さに、劉は呆けている。
「…何じゃこりゃ!?」
「私も、始めは目を疑いました」
驚きの声を隠せない劉に、楊も同意した。
これが指令ならば、まだ流し読みもできたであろう。
だがこれは『命令書』である。
それ故、軍人は流すわけにはいかない。
「しかもこれは、わが軍の幹部からの機密文書。どんだけな命令書なんだよ…」
そう、これはただの命令書ではない。
決して外に漏れてはならず、その上で完遂せねばならなかった物。
今思い返せば、結果オーライだったろう。
「---で、今回はこの文書の最初ってわけか」
「はい。この機密文書は、精密な企画を元に作製されたのでは… それが何故私に手渡されたのかは、未だに不明ではありますが」
苦い顔で文章を手に取る。
あの出来事は、劉にとっては悲惨な休暇だった。
だがそれは、この文書によって絶望の序章に過ぎないと知った。
「その上、幾つもの伏せ字も見受けられます。余程知られたくないのでは?」
2人しか居ない、密室空間。
その言葉だけならば、品は有りそうだ。
だが、実際はその光景からはかけ離れている。
彼らが軍人である以上、その世界とは常にかけ離れているのだ。
「にしても、
そう。
今回陽月学園高等部の体育祭に潜入した様に、範囲が狭すぎる。
それに加え、政府の重要施設でもない、ただの高校。
誰がどう考えていたとしても、デメリットが大きすぎるのだ。
「…これ、まだまだ続くの?」
「この文書を全てこなさなければ、社会的にも抹殺されるそうです。お付き合い願います?」
これは長い航海をしそうだ。
逃げ場のない、逃れられない展開に、劉はぎこちなく笑うしかなかった。
☆☆☆
「もうやりたくないわ…」
テーブルに突っ伏しながら、愛香はそう話した。
まぁ、俺が原因でそうなったんだよな…
「インドア派の私を引っ張り出すとは…」
トゥアールも相当に疲労したのか、パイプ椅子に体を預けている。
(今思い返すと、結構迷惑かけたよな…)
理事長の挑発に乗ってしまった、俺が一番悪い。
愛香やトゥアールだけじゃなく、伊織先輩やリン先輩をも巻き込んだんだから。
…お詫びに、何かできないのか?
「---まぁ、ツインテール部は存続できるわけだし。良かったと思うぜ」
「「黙れ(ってください)!!」」
俺がフォローしたら、これだよ。
こりゃ、しばらくは機嫌が悪いな。
(でも、アピールはできた、よな…?)
あの体育祭の後、ツインテール部を見学させて欲しいと何人も来た。
もちろん、ツインテイルズの証拠とかはカモフラージュしてある。
えっ、何で続いているのかって?
(皆のお蔭で、何とかやれたんだよな)
それは体育祭の後、理事長室で会談した時の事だ。
「婿殿。ツインテール部の活躍、しかと拝見致しました」
「……」
理事長の言葉に、俺は焦っている。
どの様な事を言い渡されるのか、不安だった。
俺のツインテールに対する愛、そしてツインテール部が本当に必要とされるのか。
「先ず、ツインテール部についてですが---」
(頼む、消えないでくれ…!)
俺は祈るしかなかった。
俺が勝手に買ってしまったとはいえ、皆の場所を危うくさせてしまった。
こんな事で、消えてほしくない…!
「今回は、伊織さん達の活躍に免じて、廃部を取り消します」
その言葉を、皆は待っていた。
俺達はハイタッチで喜びを表現した。
「しかし、私は完全に貴方を認めたわけではありません」
「それはどういったわけで…?」
理事長の言葉に、トゥアールは反応する。
確かに部活動対抗リレーでは、俺達は勝利を手にすることはできなかった。
なのに理事長が、そんな結果をスルーするとは思えない。
何かあると踏んでいた彼女は、それを問い詰めたのである
「最終走者である伊織さんは、何者かによる妨害行為によって棄権という扱いになりました。それは本来生徒を守る立場である職員にとって、少なからず影響を与えました」
「そういえば、不自然なまでにバトンが飛んだわよね…」
俺もその光景は目撃した。
ゴールテープまであと数mのところで、突然バトンが横へいったのだ。
長瀬先輩が手を滑らせたにしては、明らかに方向が違いすぎる。
「そこで貴方達に提案があります。ツインテール部を存続させる代わり、その件について調査を願います」
「成程、交換条件ということでしたか…」
俺もようやく腑に落ちた。
そんな簡単に、結果オーライになるわけないよな。
「しかし、ただの妨害行為にそこまで危惧する必要は---」
「本当ならば、スタッフが調べるべきですが。そこまで私も暇ではありません。それに、有耶無耶のまま終わらせるわけにもいきませんよね?」
理事長が言いたいことは、解った。
俺達がその事件を真相究明することで、初めて認めるということか。
「わかりました。俺達が、その事件を明らかにします!!」
今度こそ、俺が皆を守ってみせる---!!