「調査ァ!?」
私、ま~たまたとんでもな騒動に巻き込まれたみたい。
ツインテール部に顔を見せるとすぐに、津辺さんが袖を引っ張った。
よっぽど聞かれたくない事案なんだろうな、とその時は気楽にしか考えていなかった。
でも、先に集まっている観束君やトゥアールさん、慧理那の顔を見てハッとする。
薄々感づいていながらも、尋ねてみるとこれである。
「そう。そのために、先輩の協力は必須です」
「だからって、これはないと思うけどな~」
私も協力はするけれどさぁ…
いつか観束君がされた様に、私もパイプ椅子に座らされた上で縄で締められている。
これじゃ拷問じゃないの!?
しかも3人とも凄いジト目で見て来るからさぁ、怖いのよ…
「体育祭の日、先輩は部対抗リレーの途中で抜け出しましたよね。何か重要な出来事でもあったんですか?」
ストレートに来たなぁ…
まぁ、遠回しに質問されてもしょうがないよね。
拷問で尋問だし、諦めるしかないか。
「隠してもしょうがないか。ブレザーの右ポケットから、ちょっと取り出して」
「えっと… これかな?」
津辺さんにお願いして、ポケットから取り出してもらった。
彼女の手にあるのは、あの時私を襲った硬貨の1つ。
私だけではわからなかったけれど、もしかしたら---
「何これ、硬貨…?」
「ですが、日本のではないようですわ」
津辺さんと慧理那は持っている効果をじっくりと見るが、首を傾げてばかり。
クラスメイトと同じ反応だね…
やっぱり駄目か。
「これは、中国の1元硬貨ですね」
だけど、トゥアールさんはそれが何か分かったみたい。
というか、中国!?
「ホントなの、トゥアール?」
「大部分が掠れている上に製造年が古いために判別し難いですが… このデザインは、間違いありません」
あっさりと解決しちゃった…
でもあの人が使っていたのが、中国の硬貨。
だとすれば、あのカップルは中国人!?
「な~んか、1人で解決した顔になっているわよ…」
「この硬貨の事も含めて、説明をお願いしますわ」
うゎ~、どえらい事になりましたわ…
動けない私に、威圧感を隠そうともせずに与え続ける2人。
離しますので、その怖い顔を止めてくださいお願いします…
「成程、陽月学園に侵入した輩がいたとは…」
3人は私の話を聞いて、神妙な顔つきになった。
対して私はゲッソリした顔になっちゃった。
だって、私が1の割合で話すと、5で質問が飛んでくるんだもの。
しかもそれをちゃんと答えないと、罵倒や追求までするし。
これが、先輩に対する扱いか---!?
「しかも、足立先生もそれに関わっている。先生にも聞いてみるのが、一番ね」
「はい」
足早に津辺さんと慧理那はドアへと走っていく。
そしてドアノブを回そうとしたら、そのドアが勝手に開いてしまった。
開けようとしていた津辺さんは、ドアに飛ばされる結果となる。
南無…
「足立先生に会おうと思っても、それは無駄や」
鼻頭を押さえてうずくまる津辺さんに、リンは冷徹な言葉を下した。
相変らず容赦ないなぁ…
「…っ、どーゆー事よ!?」
「出張、とでも言えばええんかいな? 兎に角、校内にはおらん」
マジカ!?
それじゃ、あの時の証人がいないじゃないの。
「となれば、監視カメラが---」
「あの場所は、監視カメラが動いてへん。管理室に聞いてみたわ」
ぐむ…
常に先手を打ってくるなぁ。
案を出す度に、皆のテンションが駄々堕ちしているのが目に見える。
「トゥアール… お前がせんで、誰ができるんや?」
「---へ?」
流石にこれでは駄目だと判断したリン。
唯一の存在であるトゥアールに呼びかけるも、彼女はポカンとした表情で顔を上げた。
「ハッキング、クラッキング… お前さんの十八番やろ?」
「私は開発がメインであって、そういうことは…」
リンが学校のサーバーを通しての違法行為を促すも、トゥアールさんは渋っている。
そんな行為、普通は拒むわな…
私は違法行為はおろか、パソコン操作すらままならないんだよね。
あぁ、タイピングとか出来たらなぁ…
「まさか… 私達を襲った相手とは」
「それぐらいの敵や、本気出さな」
その言葉で、緊張が部室を覆った。
理事長が言っていた事もそうだけど、私も一歩間違えれば大変な目に会うところだったんだ。
それ相応の覚悟は、必要だもんな。
「---とはいえ、俺達は役立たずになりそうだな」
電子機器関係は、全く扱えない仲間もいたようだ。
特に私は、機械オンチだもの。
えっ、それじゃ何でテイルギアを扱えるかって?
…知らんがな。
この後私達は、今後の調査について軽く話し合いしたくらいで部活動は終了した。
☆☆☆
「---で、何の用なの?」
今の私は、スッゴク機嫌が悪い。
家に帰ってきてすぐに連絡があったのよ。
「エレメリアンが現れおった」ってね。
精神的に疲れたのに、誰の差し金なのよまったく…
「私は
「それはご苦労様でした」
目の前にいるのは、蜂そのもの。
左手にはかなり大き目の針が、右手には籠手のような物が装備されている。
右手は兎も角、左手のあの針の餌食にはなりたくないなぁ。
「貴女を見て、確信した。やはり貴女は、私の--- 運命の人だ!」
「…?」
私の耳が悪くなったのか?
今ワスプギルディは、私を『運命の人』だって。
…それとも、テイルギアの異常か?
いずれにせよ、何かがおかしい。
「あの映像で感じた、感情。あれは間違いではなかった…!」
一人呟いては、勝手に感動しているし。
どうしよう、もう帰って良いですか?
数学の補修での課題、まだまだあるんだけれど…
「おぃ、そこの変態」
「変態ではない、紳士だ!?」
流石エレメリアン、変態というフレーズには敏感ね。
話が続かないからさっさと終わりたいのよ。
「私にも予定があるんだから、用件は手早くしなさいよ」
「そうか… では、手早く終わらせるとしましょうか?」
右手の装甲が発行すると、ワスプギルディの周囲に無数の光球が発生した。
それは形を纏っていき、普通サイズの蜂となった。
「我がツンデレの極意、是非とも受けてもらいたい!!」
その瞬間、私の周囲に蜂の群衆がいた。
滅茶苦茶速い…!
その蜂は臀部の針にエネルギーを集束させ、ランダムに放った。
私だけを狙うより、遥かに
(空気が冷たい…?)
それに、呼吸がし難い。
あの蜂の攻撃は冷凍光線、それも周囲の熱を吸収するタイプの。
だけど、そう悠長なことは言っていられないな。
足場がドンドン凍って行く。
「これはまだ序の口。これから芸術的にしていきますので」
言い忘れてたけれど、ここはアウトレットモールの中。
出鱈目に冷やされたせいで、お客さんの一部が逃げられないでいる。
もし彼の言う通り芸術にされたら---
(ツインテイルズは頼れない。私一人で片付けるしかないか)
グラビティハンマーを構える。
逃げられない要因の1つとして、この氷にある。
お客さんは体の一部が凍らされ、思うようには動けない。
まだ手だけなら、良い。
不幸にも両足に当たり、その場から動けない人が少なからずいる。
ハンマーを使うのもアリかもしれないが、微妙な力加減がいる。
(そんな時間はないし、何よりめんどくさい)
内心、私はそんな事を思っていた。
細かい作業はできない。
それに、敵の前で無防備を晒すという事でもある。
「動かないのであれば、結構。創作の邪魔になりませんし、プレゼントにも最適です」
ワスプギルディめ…!
凄く余裕そうに嗤って。
だけど、そんな考え事の間に氷海ができていく。
「アンタ、最ッ低ね!」
「ツンデレとは、好きな相手に敢えて冷たくするもの。それを言われたとて、私は動じぬ!!」
もう考えるのは、止めた。
アイツをぶち壊す、それに全力を出そう。
☆☆☆
「…何だって!?」
俺達はエレメリアンが現れたと思われるショッピングモールへ向かおうとしていた。
だがその直前で、トゥアールから連絡が来た。
『その場所には、既にテイルグリーンが居ます。戦いは彼女に任せましょう。それに---』
あっけらかんと戦いをテイルグリーンに押し付けるトゥアールが、一瞬悪女に思えた。
ま~だ、俺の事怒ってんのかな…
『そこよりも強大な
「臨むところよ!」
その言葉に、テイルブルーががっついた。
すげー気合い入っているなぁ、彼女。
☆☆☆
「---っくしゅ!!」
モーレツに寒いです。
ワスプギルディは、思った以上に変態で、強者でした。
彼の周りの蜂を倒しても、すぐに再生するし。
わざと狙いを絞らないせいで、気温はマイナス成長。
体が段々と鈍ってしまう。
(確か昆虫って、冬はいないのよね…)
ワスプギルディはこんな状況でも、全く動じない。
エレメリアンだからなの!?
…羨ましい。
「もう少し何とかなりませんかねぇ? これでは、芸術に魅力が生まれない」
両手を上げ、やれやれと言った感じ。
それが余計に腹立つ…!
反撃に出たいけれど、体のあちこちが凍てついたまま。
まともに動かせるのは、左手くらいか。
「まぁ、これで完全に凍ればいいでしょう。では---」
左腕のぶっとい針にエネルギーを集束させる。
もしあれが当たれば、私は終わり---!?
まぁ、このままより賭けに出るしかないか。
「フィナーレ!!」
その掛け声で、冷凍光線は放たれた。
同時に、私は左手を前に開いた。
「それでも、抵抗のつもりですかねぇ?!」
…うざっ。
それに、ただ
"
そう、何でこれを出したのかは、自分でも分からない。
ただ、この
その効果は、知らないけれど。
でも、使わなきゃ損でしょ、絶対。
「うぐぅ!?」
冷たさを通り越して、痛みが…
でも、負けていられないから。
イメージするんだ。
このエネルギーを、1つの塊にしていくんだ。
「ぬぐぐ…」
「…?」
エネルギーが暴れる。
でも、少しずつ纏まってきたな。
「…何のつもりです?」
「ちょっとした、サプライズよ!」
ワスプギルディは当然、私の狙いなんて分からない。
ハンドボール程になったエネルギーを、美味しく戴くとしよう。
私は、それを握り潰すことで体内に取り込んだ。
"
もう寒くない。
寧ろ、私の中で落ち着きを取り戻した。
私のテイルギアを、凍らせていた氷がドレスの様に纏っている。
グラビティハンマーも、凍りついたことで、鋭さを増した。
「---トレビアン!!」
これなら、ワスプギルディとも対等に戦える。
この姿、表現するならば---
「強化武装--- 『氷界の魔女』」
かっこつけ。
自分でもそう思うよ。
でも、これぐらい良いじゃない!!
ようは、ノリよノリ。
「どれ程の芸術か、試させてもらいましょうか!」
ワスプギルディは護衛に、攻撃の指示を出した。
その護衛は、一斉に冷凍光線を吐き出す。
最初は速かったし、目が慣れていなかった。
でも、今はハッキリ見える。
「てぃ」
その雨を、私は猛然と突っ込んだ。
勿論、光線は私に来るものだけを弾いたけれど。
そしてすぐ、ワスプギルディの懐へと潜り込む。
「何!?」
「飛んでけぇ!」
ハンマーを握っていない左腕で、彼の腹部を叩く。
氷の威力を上乗せしたその拳は、十二分に破壊力がある。
彼は吹き飛ばされ、ショップを何軒も貫いていった。
でも、肝心なこと忘れていた。
「ありゃ?」
キラーンと効果音が付きそうなくらいに、警戒心剥き出しな蜂。
私の全方位から狙える場所に配置していた。
しかも、臀部にエネルギーを集束させたまま。
まともに回避することもできないまま、私はその餌食になった。
「なんてね♪」
冷凍光線は私にダメージが通らず、寧ろテイルギアの装甲へ移った。
その光景に蜂は驚いた(かもしれない)。
私がグラビティハンマーを払うと、周囲に冷気を纏う暴風が生じた。
それによって蜂は瞬く間に凍りつき、地面へと落ちていった。
「よもや、私の
「まだまだ貴方の芸術、見たいんだけれど」
左腕を押さえてこちらに近付いたワスプギルディ。
彼の顔からは、完全に余裕が消えていた。
多分私は、その顔を見て頬が緩んでいる。
今になって、ようやく取り戻した気がする。
「では… 最大の芸術を、披露しましょう!!」
周囲から再び蜂を放出させ、左腕の針にエネルギーを集束させる。
最大火力で、撃とうってわけか。
面白い、ケリをつけようじゃない!
「私もそれに、答えるわ!!」
グラビティハンマーを天上へ、掲げる。
その上では、ワスプギルディ以上のエネルギーが塊として固定されている。
一世一代の大喧嘩、ここで引くもんか…!
「いっけええ!!」
私がグラビティハンマーを振り下ろすのと、ワスプギルディが放つタイミングは同時だった。
彼の冷凍光線と私の氷の竜巻、それがぶつかり合う。
でも、それらが拮抗することが無かったなぁ。
すぐに私の攻撃が冷凍光線を打ち消し、そのまま飛んで行ったんだから。
「な、馬鹿な---」
ワスプギルディは最後まで言えずに、それをまともに喰らった。
後に残るのは、護衛の蜂と共に氷塊と化した彼だけ。
氷の鉄槌で砕かんと、私はゆっくりと近付いた。
「---ゥキャァ!!」
突如フィールド内に響く、猿の鳴き声。
上空から聞えてきたので、上を向いてみた。
「…ハァ!?」
それはまるで、流星群。
燃える無数の弾が、こちらに向かっていた。
しかも猛スピードで。
その流星群が私やワスプギルディごと、ショッピングモールを襲った。
私は咄嗟に重力障壁を張っていたので無事だが、中には怪我を負った人も出たらしい。
私の周囲に蔓延しているのは、氷が蒸発したものか、爆炎によるものか。
その時の私では、明確に判断する事はできない。
「…ぅ」
「ザマぁねぇな。あれだけ粋がっておいて、それかよ!?」
誰かがワスプギルディを助けに来たのか?
多分、出鱈目な破壊力を持った流星群も彼の仕業だろうな。
目を細めて、その姿を一目見ようとしたら。
「…おサル?」
「誰がサルだ?! 俺様はエイプギルディ!! もう一度その言葉を言ってみろ! 挽き肉にしてやっからな!?」
…怖ッ。
見た感じが孫悟空っぽいから、余計にそう見えるのに。
キレキャラなのかしら。
「もう十分だ、ワスプギルディ。撤退しようぜ」
「待ちなさい!」
エイプギルディと名乗ったおサルさんは、ワスプギルディの腕を肩に回す。
私としては第2ラウンドかと思ったけれど、それはないらしい。
でもここで逃がすわけにもいかない。
そう判断した私は、エレメリアン達を呼び止める。
「お前さんも限界だ。これ以上の泥試合は、無意味だぜ」
エイプギルディに指摘されて、改めてテイルギアを見る。
テイルギアは既に『氷界の魔女』としての効果を失っていた。
まさか、あの一撃で全部使い切ったのかな。
「テイルグリーンよ。もう一度会ったら、ツンデレについて語ってやる!!」
キラーンって付きそうなくらいにイケメンオーラで、ワスプギルディは私にそう言い残した。
無意味な宣言、ご苦労様です。
私としては、ご遠慮願いますがね。
精神的にも身体的にも疲労が蓄積した私を後目に、エレメリアン達は何処かへ飛び去ってしまった。
「さて、私も---」
「ちょっと」
私もここから去ろうと思ったら、誰かに呼び止められた。
振り向いた先にいるのは、警備員さん。
「壊された建物やその被害、その他諸々。色々と話がありますので、御同行願いますよ?」
言い方は凄く丁寧だけど、エレメリアン以上の威圧感が…
そのドスに効いた感じに、私の選択肢は残ってはいなかった。
警察官に連行される犯罪者の様に、私は管理室へと向かわされたのであった。