Which do you love ?   作:ズケズケ

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Episode.70【カレーで大迷惑!?】

「---んにゃ?」

 

あれ、寝てた?

天井には、白色の壁が。

何というか、ベタな展開で…

でも、私がよく知っているリンの基地じゃない。

これって---

 

「気がつきましたか、先輩?」

 

私を呼ぶ声が聞こえた。

顔だけを動かして、その主を見る。

 

「…観束君?」

 

いつも通りの赤毛の高校生が、そこにいた。

その様子からは、優しさがあるが、悲しみも垣間見えた。

…てか、何で「先輩」?

いつもの私なら「テイルグリーン」のはず。

そう不思議に思いながら、右手首をさする。

だけれど、いつもの感触がそこには無かった。

 

(!?)

「先輩、どうしたんで… うわっ!?」

 

私は勢いよく起き上がり、それを探そうとした。

『いつもの感触』を取り戻しに。

でも、体は上手く言うことを聞いてはくれない。

身体中に激痛が走り、よろけてしまった。

その際、観束君の方へと倒れてしまい、彼を巻き込んじゃった。

 

(いつつ…?)

「~!!」

 

観束君、大丈夫?

そう言おうと思ったけれど、妙な感触があった。

ハッキリ言えば、胸をもまれている…?

視線を下に降ろすと、観束君の顔面が私の胸で圧迫されていた。

 

「あっ、ゴメン!! 大丈夫---」

「何やってんのよ、そーじ!?」

「美味しい展開!? 伊織先輩、どいてくださいな!!」

「状況にツッコミ入れるより、手伝ってよ!?」

 

体を動かそうと四苦八苦してたら、突然ドアがスライドした。

そこにいたのは愛香さんとトゥアールさん。

2人とも私よりも、ラッキースケベな観束君に対して怒ってた。

ある種いつも通りだけれど、怪我人がいること忘れていない…?

 

 

 

 

「反省してる?」

「…ふぁい」

 

思春期の男の子に対して、あれはないよね…

不可抗力だけれど。

それについて、愛香さんからこっぴどく叱られている最中です。

 

「幾らそーじが朴念仁だからって、ああいう色仕掛けは駄目ッ!!」

「おんやぁ~、自分じゃそんな事ができないからって… 八つ当たりですか」

「おんしは黙っとれ-!!」

 

また愛香さんは、トゥアールさんに鉄槌を下している。

恐らく「色仕掛け」辺りに反応したんだろうな…

私はベッドに座った状態で聞いていたけれど、惨劇がまた始まるんだろうな。

あ、愛香さんが卍固めを決めに来た。

病室にトゥアールさんの悲鳴と、彼女の骨が軋む音が響く。

頼むから、それは止めて欲しい。

寿命が縮まりそうだから…

 

「あ~… 大丈夫?」

「うん。あの時はゴメン」

 

愛香さんの代わりに、観束君が応答してくれた。

気付いたときもそうだけれど、今の私は包帯だらけ。

両腕もそうだし、胸元も。

下手すると、ミイラみたい。

こんな私でも、優しくしてくれるんだね。

 

「最初に私を『先輩』って呼んだよね? もしかして…?」

「はい。トゥアールが、テイルギアを強制解除したんです。今ブレスは、研究室にあります」

 

…やっぱり、外されたんだ。

その事実に、項垂れてしまう。

だって、テイルグリーンとなってからは、ずっとあったんだから。

それがない今、テイルグリーンとして否定されたも同じじゃない。

 

「テイルイエロー---慧理那は?」

「桜川先生と、自宅です。その様子だと、俺達の事…」

 

うん、とっくに知ってる。

貴方達が、アルティメギルから守っている『ツインテイルズ』だってことは。

それに、肌で何度も感じたから。

 

「---不思議」

「…?」

「つい最近は、敵なのに。今はこうして笑ってる」

 

私が笑うと、観束君も笑った。

こうして、ゆったりと時間が過ぎるのは久し振り。

今まで連戦だったから、かな?

 

「は~ぃ、そこまで。夕飯ができたから、皆で食べましょ♪」

 

そこに、観束君のお母さん---未春店長が入ってきた。

確かツインテイルズ基地の上は、アドレシェンツァだったっけ。

取り敢えず、お言葉に甘えるしかないか。

あ、誰かに手助けしてもらわないと、無理だわこれ。

 

「大丈夫です、先輩?」

「…ありがと」

 

私が無理をさせないように、観束君は肩を貸してくれた。

ゆっくりとベッドから降りて、足を前へと動かす。

トゥアールさんがまた何か言っているけれど、愛香さんの関節技でほとんど聞こえなかった。

彼女達を横目に、私達は病室を出た。

 

 

 

 

「そうだ、伊織ちゃんは中辛で大丈夫かしら?」

「えぇ、お願いします」

 

アドレシェンツァのテーブル席に、私は座らされた。

別にカウンターでも良かったんだけれど、怪我人に無理はさせたくないそうだ。

そしてこのテーブルは4人がけ。

私以外にも、私の隣には観束君が。

正面にはトゥアールさん、対角線上には愛香さんが座っている。

 

「すっかり馴染んでるわね…」

 

私が言いたい台詞だよ、それ…

でも、これで完全に和解できたとは思えない。

テイルホワイト---リンがいないからかな。

彼女がいない限り、本当にそうなったかは判断できない。

 

「---っと、気を悪くしました?」

「後輩が、そんな心配するんじゃないの」

 

うっすらと気配を察知されてしまったか。

もう少し、顔芸を身に付けるべきね。

 

「未春義母様の料理ができるまでには、時間があります。その間、私達にここまでの成り行きを説明してもらいませんか?」

 

…覚悟はしていた。

忘れるところだったけれど、今の私は『捕虜』に近いんだ。

それに、今まで敵対していた理由を聞く権利がある。

抵抗しようにも、テイルギアはまだ返却されていない。

トゥアールさんの言葉は優しいながらも、うむを言わさぬ圧力がある。

私はテイルブレスを入手するまでの経緯から、テイルホワイトの存在まで明かした。

唯乃がエレメリアンである事は伏せて。

それは私よりも、もっと適任者が話すべきだから。

 

「伊織先輩も、それなりに苦労されたんですね…」

 

トゥアールさんの一言は、皆の考えを集約していた。

まぁ、彼女達も劣らず苦労はしてるかもしれないが。

 

「先の戦闘を推測するに、先輩はあの戦士とは深い関わりがあると思えますが?」

「それは… 彼に任せるわ」

 

トゥアールさんは、核心を突いてきた。

愛香さんも気にしていたのか、体をずいと前へと持って行った。

私はそれから逃れようと、目線を横へずらした。

 

「そーじ…?」

「どういう事ですか、総二様?」

「あうぅ…」

 

そして、彼は戸惑うしかない。

悪いけれど、私でも彼女の全てを知っているわけじゃない。

彼ならではのエピソード集とやらを、私も拝聴させてもらおうかな。

 

「アイツは--- 唯乃なんだ。俺達を襲ったのも、俺が原因なのかもしれない。俺が『別れて』なんで言ったから…」

 

それは、初耳。

観束君と唯乃がラブラブ(?)だったのは、学校中で広がっていた。

何で彼女が?

そう思ったけれど、彼女自身の幸せを考えてスルーする事に決めたんだ。

でも、『別れて』なんて言葉を、唯乃がそう簡単に飲み込める訳ないか。

 

「唯乃さん、でしたか… しかし、何故襲う必要が?」

「彼女のことよ、どうせ力比べしたいんでしょうね」

 

彼女はいつもそうだった。

私とテスト試行する際も、かなり乗り気だったからな。

もしかしたら、戦闘狂(バトルマニア)なのかもしれない。

 

「何かリベンジするみたいな事言ってたわ。先輩も私達も、これから気をつけるべきね」

 

気をつけろ、か…

彼女の正体がエレメリアンである以上、それは覚悟してる。

今度こそ、私が倒されてしまう可能性があるんだから。

…今思えば、どうやって危機的状況を脱したんだ?

 

「深刻な話は一旦中止。私の自信作でも食べて、元気出しなさいな」

 

ナイスタイミング!!

未春店長がようやく完成したメニューを持ってきてくれた。

こんな事態でも変わらない態度が、今はジンとくる。

私達の前に出されたのは、カレーライス。

確か、店長独自のスパイスが入っているんだっけ?

 

「そんな暗い顔したって、何にも変わらない。それよりも、そのカレーを食べて私に笑顔を見せて」

 

そうよね。

私も、体力を回復しなきゃ!

そう思ってスプーンで掬い、口へと運んだ。

でも、次に来たのが強烈なもので---

 

「---!?」

 

辛いカライ~!!

あまりの辛さに、涙が出てきた。

 

「一気にそんなに掬うからよ。総ちゃん、水取って取って」

「わかった」

 

観束君に頼んだ後、店長は私に水を差し出した。

これで辛さを紛らわせ、って事ね。

それに気付き、私はそれを受け取って一気に流し込む。

…少しはマシになったかな。

 

「中辛は… 伊織ちゃんには厳しかったかしら?」

 

みたいです…

多分これ、市販のカレーライスよりも辛いわ。

まだ口の中で、ヒリヒリ感が残っているんだから。

 

「ケホッケホッ…」

「大丈夫ですか、先輩?」

 

何だかさっきから皆に心配をかけてばっかりだな、私…

でも、暖かみも感じられて良いなぁ。

私は最近まで一人だ、って感じていたから。

 

「…っ」

 

辛さが若干引いたところで、もう一度口に運ぶ。

今度は辛さがあまり来ないように、少なめに掬って。

そんな私を、皆は心配そうに見つめた。

 

「ど、どうかしら…?」

 

間違いなく、辛い。

でもその辛さには、少しは慣れた。

そのお蔭で感じられるものもある。

中辛にしては辛すぎるけれど、確かに素材の味が出ている。

普通のカレーライスじゃ、そうはいかない。

私もたまに作るけれど、できないんだ。

 

「…」

 

無我夢中で口に運び続ける。

辛い、だけれど美味い。

それが、私の中にあるものを溶かしているような錯覚を覚える。

 

「ふぅ… お替わりお願いします!!」

「あらあら。元気が出て良かった」

 

自分の口から「お替わり」だなんて…

よっぽど私はお腹がすいていたんだ。

 

「でも、口元は軽く拭いておきなさいよ♪」

「へっ?」

 

そう店長に言われて、私は紙ナプキンを取ろうとした。

でもその前に、観束君が拭いてくれた。

彼が使った紙ナプキンには、少しカレールーが。

掬って入れた時についたのかな…

 

「…ありがと」

 

恥ずかしさを隠す様に、俯きながら感謝の言葉を述べた。

その瞬間、前から凄まじいまでのオーラが…

 

「勝手にいちゃつくんじゃないわよ…」

「この、泥棒猫が---!!」

 

はい、怒られました。

そりゃそうでしょうね。

目の前でいちゃつかれるほど、イラつくことないもの。

 

「気に入ってくれたみたいね」

 

そこに再び店長が。

お替わりのカレーライスを持ってきてくれたらしい。

相変わらず、ナイスタイミングっす!!

私は痛い目線から逃れようと、すかさず掬っていく。

 

「あの… ご迷惑でなければ、私にこのカレーの作り方を教えてください!」

 

カレーライスを少し食べた後、私はそうお願いしていた。

自分でも何でこんな事をしているか、わかっていない。

でもこのカレーライスを、自分で作れたらと思うと、ワクワクするかもしれない。

 

「ふふっ… 伊織ちゃんが将来、総二のお嫁さんになってくれるなら良いわよ」

『ハァ!?』

 

店長が物凄い爆弾発言を---!?

私どころか、彼女以外は皆驚いている。

 

「それならば、私も!!」

「勝手に抜け駆けすんじゃない! あたしだって、そーじのためなら…」

 

そこに、愛香さんとトゥアールさんが参戦!?

でもその理由は、私とは違うみたい…

なんか、観束君が取り合いに持ち出されているような?

横にいる本人は、困惑顔だし。

 

「(頑張って、テイルグリーン♪)」

 

そっと、未春店長が近付いてきた。

そして私に、そう呟いたのだ。

…いつ、私がテイルグリーンだと気付いた?

彼女に振り返ると、そこにはもういなかった。

 

(前途多難、ね…)

 

今なお私の前では、「誰が先に店長のカレーを教わるか」について争っている。

それを観束君が止めようとするも、聞いちゃいない。

未だ収まらぬ喧騒に、私はそう嘆息した。

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